ルアーデザインの巨匠ジェームズ・ゴーウィングが生み出した傑作
どの世界、どの分野にも名作を立て続けに生み出すクリエイターがいます。
小説家ならアガサ・クリスティやスティーブン・キング、映画監督なら黒澤明やフランシス・コッポラ、カーデザインならジョルジェット・ジウジアーロなど枚挙にいとまがありませんが、ルアーデザインの世界にも巨匠と呼ばれる人物がいます。
その名はジェームズ・ゴーウィング James Gowing。
表舞台にはあまり出てきませんが、レーベルのバズンフロッグ、リブンエンドシャッド、トーキンスプーン、コーデルのウォーキンスティックなどなど、数々の名作を世に送り出した名デザイナーとして知られており、今も多数のメジャーブランドをクライアントに持つゴーウィングルアーズという会社の代表でもあります。
そんな巨匠の名を不動のものにしたのが今日のゲスト、ヘドンのスピッティンイメージです。
メーカーにとってもマネーベイトだったスピッティンイメージ
スピッティンイメージは1997年、プラドコの新ブランド、エクスキャリバーからリリースされたトップウォータールアー。
バスなどのプレデターに追われて逃げ惑うシャッドをコンセプトに開発され、その後ポップンイメージ、スウィミンイメージなどの “イメージ”シリーズへと続く事になる稼ぎ頭として、プラドコにとっても重要なマネーベイトです。

ソルトウォーターモデルも同時発売
当時のショップでは、この黒いカードブリスターパッケージで作られた巨大な”黒い壁”が存在感をアピールしていましたね。
画像のビルダンスモデルだけでなくソルトウォーター用のマークソーシンモデルもあったりして、当時のんだくれはフレッシュウォーター用よりもギラギラなシャッドカラーがラインナップしていたマークソーシンモデルを求めてあちこち都内のショップを走り回ってました。
あれからもう23年も経つんだなーと思うとイロイロ寂しくなりますが😭
スピッティンイメージのサイズ・重さ
スピッティンイメージのナイスなところは、この大きすぎず小さすぎない手頃なサイズ感です。
逃げ惑うシャッドのイミテーションという位置付けなので当たり前といえば当たり前ですが、オリジナルザラスプークとポップRのちょうど中間のサイズは非常に使いやすく仕上がっています。
この画像のものはオリジナルサイズですが、当初は弟サイズのスピッティンイメージJr.もラインナップされていましたね。
Model | Size | Weight | Hook# |
---|---|---|---|
X9270 | 3 1/4"(84mm) | 7/16oz(12.5g) | #4 |
X9250 | 3 5/16"(74mm) | 5/16oz(9g) | #6 |
ジュニアは一見、単なるダウンサイジング版にしか見えませんが、実は全く性格が違うルアー。
ジュニアはジュニアでとてつもなく使えるルアーなんですが、ここで説明しだすとキリがないのでジュニアの詳細はまた別の機会という事で。
スピッティンイメージのアクション
基本のアクションは典型的なウォークザドッグ。
オリジナルザラスプークのようにタイミングを見ながらロッドを操作する必要はなく、ロッドさえチョンチョンしてればよそ見をしててもオートマティックに首を振ってくれるエキスパートダンサー。
しかしこのルアーの真骨頂はリズミカルなドッグウォークではなく、その名前が表す通りスピット、つまり唾を吐くスプラッシュアクション。
素早くトゥイッチしながらシュパシュパと巻くことによって、イエローマジック顔負けの派手なスプラッシュを作り出す事ができるんです。
アメリカではシャッドのスクールに遭遇したら、コーデルのクレイジーシャッドやスミスウィックのデビルスホース、レーベルのポップRなどスプラッシュが出せるルアーを早いテンポでシュパシュパ引いてバスの注意を引くという定番メソッドがあるんですが、このスピッティンイメージはそんな状況で使えるように設計されているんです。

効率よくスプラッシュを出すために生まれたスピッティンイメージ
派手で大きなスプラッシュが出せるキモはこのフラット化されたボディサイド。
オリジナルザラスプークのようなラウンド形状とは違って限りなくフラットにデザインされた側面は、首振りに連動してペンシルベイトとは思えない力強いスプラッシュを生み出します。
でもスプラッシュを出すだけだったら、ポップRをはじめとして数多くの優秀なポッパーがあるのに、なぜジェームスはスプラッシュを出すためにわざわざペンシルベイトでデザインしたのか?というギモンが湧いてきますよね。
それを解くカギは、先述のドッグウォークアクションにあります。
実はこのスピッティンイメージは、ポッパーやスイッシャーでは出せないスプラッシュを作り出すために生まれてきたのです。
スピッティンイメージでしか出せないものとは、スプリンクラーのような”撒き散らし形” のスプラッシュ。
基本的にポッパーやプロップベイトはその性格から、前方向にしかスプラッシュを出せません。
横方向へスプラッシュを出そうと思っても出来ないんです。
もちろん一部の例外はありますが、それでも加速度の高いクイックな首振りをしない限りは、ルアーの周囲に飛沫を撒き散らすようなパフォーマンスは得られません。
しかしこのスピッティンイメージの得意技はロッドティップをチョンとやるだけで簡単に出来る270度オーバーのクイックターン。
そのダイナミックな首振りは、先述のフラットなボディサイドと相まって前方向はもちろん両サイドにも大量のスプラッシュを出す事が可能なのです。
この撒き散らし型のスプラッシュを効率よく出せるルアーこそが、ジェームズゴーウィングが実現したかったものなのです。
最小にして最強のウェイト構成
スプラッシュ性能の事ばかりに目が行ってしまいますが、スピッティンイメージはウェイトバランスも非常によく考えられています。
画像は以前ロッドアンドリールの記事で使ったカットモデルですが、ご覧の通りスチールの固定ウェイトとブラスのテールウェイト、サウンド担当のラトルボールは中抜きされた小さなステンレスビーズが1個だけとシンプルな構成になっています。
このウェイト構成には、スプラッシュを出すための高速トゥイッチでもバランスが崩れないように出来る限りウェイトは固定し、ボディ内を縦横無尽に跳ね回るラトルボールを中抜きビーズにする事でバランスを崩す要素になりかねない慣性モーメントを最小限に抑えようという意図が込められているんです。
このウェイトセッティングがもたらす効果は絶妙で、強風下のチョッピーウォーターでもトビウオになる事なく、しっかりとスプラッシュを撒き散らす事が出来るなど、名実ともにトーナメントクオリティに仕上がっています。
余談ですが、このスピッティンイメージの使用感を “軽過ぎる” と評しているレビューをどこかで読んだ事がありますが、その”軽いセッティング”は一日中トゥイッチし続けるバスプロのため。
日本のトップウォータースタイルのようにスロー&スティディで使うならともかく、アメリカのバスプロのようにスピッティンイメージだけを長時間トゥイッチし続けるにはこの軽さがないと手首が逝ってしまうからなんです。
ホログラムの効果を引き出すナチュラルプリント
カラーはエクスキャリバーシリーズお得意のホログラムを上手く活かしたナチュラルプリントのDBB Baby Bass。
このホログラムをベースにしたカラーリングはハイパーリフレクティブフィニッシュ Hyper Refective Finish と名付けられていて、プラドコ的には定番化したかったようですが、その後のプラドコのラインナップを見る限り定着はしなかったようですね。
のんだくれ的にはギラついたホログラムフィニッシュは大好物なので、定番にならなかったのは残念な気もしますが。
ところでこのDBB Baby Bassカラーですが、実は初期のスピッティンイメージのカラーチャートには含まれておらず、後に登場したポップンイメージ用に作られたカラーでした。
しかしエクスキャリバーチームが解散となり、ヘドンブランドになってからスピッティンイメージにも採用されたという経緯があります。
グリーンバックとナチュラルパターンがホログラムのギラギラを抑えてくれるので派手過ぎず地味過ぎずのイイ感じに仕上がってますね。
同時期にリリースされたホログラムベースのDBF Bull Frog というフロッグパターンもありましたが、それもシビれるカラーなので見つけたら買いですぞ。
スピッティンイメージのライトチューン
フックは前後とも#4がパーフェクトバランスです。
元々このルアーには例のエクスキャリバーロテートフックが装備されていましたが、のんだくれはやや太軸のスティンガーフックに交換しています。
これによりアクション時の安定性が向上するだけでなく、わずかにネムったクローポイントにより高速連続トゥイッチでもラインを拾いにくくなるのでエビになりません。
フックを交換するだけでパフォーマンスが飛躍的に向上するルアーなんてなかなかありませんからオススメですぞ。
そうそう、大事なことをいうのを忘れてました。
このスピッティンイメージは軽快なスプラッシュアクションのためなのか、他のプラドコルアーに比べてプラスチック素材の厚みが薄いので、岩盤直撃はもちろんキャストミスで護岸に当てただけで割れます。
よって、他のアメリカンルアーのようなラフな扱いは厳禁ですのでご注意を。
スピッティンイメージのネーミングに隠された意味
このスピッティン君はヘドンブランドの下でリリースされたものなので、ネームはあっさりとブロックフォントのみ。
エクスキャリバー時代のスピッティンイメージは、左側にExcalibur Spit’N Image、右側にはビルダンスのサインと、なんとも豪華なネームプリントでした。
プロのサインが入ってるルアーは、契約期間が切れた途端にショボいネームになったり、ルアーの名前自体が変わったりするのでネームヲタとしてはちょっとツラいですね。
ところで話は変わりますが、スピッティンイメージには、文面通りの “唾を吐く” という意味以外に、面白い話があるのを見つけちゃったのでついでに紹介しちゃいましょう。
実はイギリスの慣用句に “Spit and Image” として旧約聖書の話があったんです。
それは神が自身のツバと土をこねて粘土を作り、それを使ってあのアダムを創造したという話から、イギリスの古い慣用句には “原点” とか “絶対的なもの” という意味があるとのこと。
実際にこのルアーのネーミングに旧約聖書の意味を盛り込んだかどうかは分かりませんが、スピット以外にも原点という意味が含まれてる方が楽しいので、ここはヲタ的にも「神が創りたもうたルアー」ということにしておきましょう😁
まとめ
発売からすでに20年以上が経ち、反射板入りのエクスキャリバーアドバンテージシリーズや、従姉妹であるワンノッカーのバドンカドンクなど幾多の派生モデルを生みながらもいまだにカタログ落ちしていないのは実力の証ですね。

日本ではスピッティングベイトという本来の使い方が理解周知されず、イマイチなペンシルベイトとして破格で投げ売りされてる事が多いので、この記事を読んで気になった方は是非ともゲットして、ジェームスの開発コンセプト通り、連続高速トゥイッチでシュパシュパとツバ吐かせながら動かしてみてくださいな。