”時代を象徴するルアー” というものがあります。
その時代のフィッシングシーンを代表するルアーの事で、古いところではジェリーワームやゲーリーグラブ4インチ、S字系スイムベイトなどなど、誰もが一度は試した事のあるものです。
そして90年代バスフィッシングシーンを語る上で外せないのが今日のゲスト、バスパーJr.です。
バスパーJr.とは
バスパーJr.はリニージクワイアットと並ぶケンクラフトの一大傑作、バスパーの弟分として1996年?に誕生しました。

上州屋のいちディビジョンであるケンクラフトはその強大な販売チャネルと”ケン、フィッシュオン!”のフレーズでお馴染みのTV番組、千夜釣行によるプロモーションにより爆発的なセールスを記録した、日本のルアーフィッシング史上に名を残すルアーブランド。
ある程度のスキルを持ったアングラーはケンクラフトを避ける傾向にありましたが、逆にこれからバスフィッシングを始めるエントリー購買層をガッチリと掴んだのはご存知の通りですね。
その中でも特にバスパーは、いかにもバスルアーらしいコミカルな外見で人気を博しました。
初めて買ってもらったルアーがバスパーだった、もしくはバスパーで水面の快楽を知ってしまったというアングラーも多いのではないでしょうか。
バスパーJr.のサイズ・重さ
バスパーJr.は全長55ミリ、自重6.8gのタイニーポッパーです。
セールス的にはオリジナルサイズの方が人気でしたが、Jr.は兄貴を凌ぐ釣れっぷりでした。
そりゃそうですよね、こんなチビポッパーが水面でペチぺチしてたらバスじゃなくても思わずパクっとしちゃいますってw
バスパーの特徴
バスパーのアイデンティティでもある古典的フォルム
バスパーJr.の特徴はなんといってもその造形です。
古くはバグンバスやスローバーが採用した、バスが口を開けた姿をそのままポッパーにするという古典的な手法を採用しつつ、現代風にアレンジしたフォルムは当時メガバスのポップXのコピーだと叩かれたりしました。

今見るとどこがコピーなの?というほど似てませんけどね😂
しかしこのフォルムはそれまでのポッパーにはない要素がテンコ盛りなのです。
ルアーサイズの割に大きく深いカップ

レーベルポップR P60との比較
その最たるものがこのカップ。
ルアーの大きさではレーベルポップRよりも小さいにも関わらず、カップが大きく深くなっていてしっかりと水を掴みます。
ポップRのようなスプラッシュ系パフォーマーではありませんが、上顎が突き出ている分、水面にお椀をかぶせたような挙動が得意で、ギルの捕食を彷彿とさせるポムッ!という音が簡単に出せるのです。
サイズ以上のラトルサウンド
そしてそのポップ音を内蔵ラトルで援護します。
実はこのラトルシステムがなかなか秀逸なのです。
一見ボディ内の空洞にボールが放り込まれているだけのように見えますが、前後のフックハンガーを繋ぐワイヤーがラトルルームの下にちょうど敷居のような感じで出ており、ある程度ボディが傾斜しないとボールが転がらないようになっています。
そして敷居がボールを抑えきれなくなって、勢いよく転がり落ちることによって、より強い衝撃(=大きなラトルサウンド)が生まれるという仕組みです。
文字にすると全然ピンと来ませんが、実際に水面でゆっくりと首振りさせると違いが明確に分かります。
おそらくこのサイズのポッパーで同等のラトルサウンドを発するものはないでしょう。
ぶっちゃけこのワイヤーシステムが狙って設計されたものなのか、偶然の産物だったのかは分かりませんが、サウンド面に大きく寄与していることは間違いありません。
ちなみにラトルボールの後ろに内蔵されている固定ウェイトは円盤型のウェイト。
おそらくこのルアーのために専用開発したものと思われます。
同じような円盤ウェイトを採用したルアーにザウルスのビッグラッシュセラフがありますが、重心ポイントを可能な限りボディの端に置きたい場合には有効な手法ですね。

もしケンクラフトが専用設計のウェイト、貫通フレームのフックハンガー、そしてその”敷居”を利用したラトルチャンバーの3つを狙って設計していたとしたら、ちょっと恐ろしくなりますね😅
背ビレにもちゃんと役割が
そして単なるお飾りにしか見えない背ビレにもちゃんと役割が与えられているのがバスパーのスゴいところ。
実はこの背ビレ、首振り時にはちゃんと水を飛ばしているのです。
肉眼ではほとんど分かりませんが、動画をスロー再生するとわずかですがスプラッシュを出しています。
それに効果があるかと言われれば、ぶっちゃけ疑問符は拭えませんがw、そういうしょーもないところにワクワクするのがオタの性分なんですから、ここはあえて乗っかるのが正解かと。
どうでもイイ事ですが、この背ビレを見てノーマンのリップレスクランク、Nタイサーを思い出した人はなかなかのヲタですぞ😁
どうでもイイついでに、Nタイサーは ”エヌタイサー” ではなく、誘惑者を意味する エンタイサー Enticer の頭の発音が ”エヌ” に近い事から無理矢理 N をねじ込んだワードプレイなんだよ、というマメも置いときますね。
バスパーJr.のアクション
バスパーは画像のようにケツ下がりで浮く典型的なウォーキングポッパー。
ロッドをチョンチョンするだけで誰でも簡単に細かいドッグウォークが楽しめますが、先述の通りスプラッシュ系のポッパーではないのでツバ吐きはあまり得意ではありません。
しかしバスパーJr.はドッグウォークやスプラッシュで誘うよりも、頭を突っ込むダイブアクションとそれに伴うペチペチポップ音とカチカチラトル音が得意なのでそっち系を中心に演出を組み立てるべきでしょう。
オーバーハングやブッシュの脇など、虫が落ちてきそうなスポットにバスパーJr.を落としたら、ロングポーズの後でポムッ!ガバッ!がのんだくれのオキニです。
兄貴サイズはドッグウォークと大きな捕食音で使い、Jr.は虫系のモゾモゾアクションで使い分けることができますね。
そういう意味では、バスパーはフレッドアーボガストのフラポッパーと似ているかもしれません。
というのも、フレッドアーボガストの社長だったディックコーティス Dick Kotis はフラポッパー各サイズの使い分けについて、5/8ozはプレデターの捕食音を出すことが出来、ルアーのサイズが小さくなるにつれギルなどが虫を捕食する音に変わっていくと著書の中で語っています。
バスパーがその理論に当てはまるかどうかは分かりませんが、そのイメージでバスパーを使うと、割とハマるというか、なるほどねーと納得することが多いのです。
余談ですがディックはその著書の中でフラポッパーの使い方として、”Let the Hula Popper sit motionless for 2 full minutes then twitch it ever so slightly. Takes patience, but lands the lunkers(フラポッパーを動かさずにたっぷり2分間待ってからそっとトゥイッチしなさい。辛抱が必要だがデカいのが釣れるよ)” と語っています。

おそらくこのメソッドは小さいサイズを虫ちっくに使った場合の事だと思いますが、2分間もの長い間ポーズができる辛抱強いアングラーは試してみては?😁
バスパーJr.の使い方・タックル
動かし方は先述の通りですが、動かすにあたってはちょっと注意が必要です。
まずラインは12lb以下でないと本来のアクションが出せません。
そしてスナップを使用しない直結びか、もしくは極小スナップでの接続が必須です。
というのもバスパーJr.はそのサイズゆえパワーがないので、ライン自体が持つテンションによってパフォーマンスがスポイルされてしまうのです。
そしてラインアイが横アイを採用しているのでスナップを使うと変なアングルで引っ張られる事象が多発する上に、スナップの重量で喫水線が上がるのでいい音が出にくくなってしまうのです。
この辺りのセッティングの違いは、気にする人は気にするし、そうでない人は全くという世界ですが、ガチでバスパーを使い込んでいる友人曰く ”その差は歴然” とのことなので、バスパーマスターを目指すなら心のどこかに置いておくべきかも。
バスパーのカラー
女性ウケを狙ったキレ系のカラーも
バスパーはカラーが多い事でも知られています。
ルアーを出せば売れたというバスフィッシングブームならではの背景があったとはいえ、限定カラーやクリスマスカラーなどなど、怒涛のカラーバリエーションを誇る数少ない存在でした。
逆に言えば新カラーを出せば売れたということであり、ケンクラフトにとってバスパーはまさに金のなる木だったのです。
女性アングラーが親しみやすい可愛い系やキレイ系のカラーも数多くリリースされていましたし。
そう言われてみれば、この画像だけならサン宝石のカタログに載ってても違和感を感じない…… ワケないかw
初心者向けとは思えない本気素材も
このカラーには光の入射角によって色が変わるインサートフィルムが挿入されていました。
これはプラドコ/エビスコでいうところのGフィルムに相当しますが、初心者向けのルアーにここまでコストを掛けてたかと思うと、ケンクラフトはホント恐ろしいブランドだったなと。
Gフィルムを知らない方はロングビルスポットの記事で解説していますので是非どうぞ。

しかし欠点も
しかしそんなバスパーにも弱点がありました。
それはトップコートがかなり弱い事。
ちょっと使うだけで画像のようにフック傷からペリペリと剥がれてきてしまうのです。
それゆえ中古市場で見かけるバスパーはコンディションの悪いものばかり。
経年劣化を差し引いてもこの弱さはナイですね。
リニージクワイアットの塗装には耐久性があることを思うと、この事象はバスパーが持つ先天的欠陥と言わざるを得ませんね。
バスパーJr.のフック
バスパーJr.のフックは前後とも#8サイズが標準となっていますが、実はココにも問題が。
デフォルトのままだと高確率で前後のフック同士が絡むのです。
フックサイズを変えたりショートシャンクやダブルフックにしても、これだ!という解決策は見つからず。
何よりもフックを交換すると重量が変わるので、先述のポップ音が変わってしまうなど、かなりデリケートな検証作業を強いられるのです。
なのでノーマルのまま、フックが絡むようなトリッキーなアクションをさせないというのが妥協策かと。
バスパーJr.のネーム
バスパーのネームは兄弟とも頭に手書き風ネームが入っています。
もしかしたらこのネームがポップXのパチモンと言われる所以だったのかもしれませんね。
しかしこのネームも使っているうちに薄くなってしまうという欠陥が。
ところでバスパーの”パー” って一体何なんでしょうね。
パーフェクトのパー? パフォーマンスのパー? パースペクティブのパー?
このパーの秘密について知ってる方がいたら是非ご一報を。
おわりに
近年バスパー縛りの大会が開催されるなど、このJr.も含めなぜかバスパー人気が再燃しています。
ポップXのパチモン疑惑など、話題性にも事欠かないという意味でも90年代を象徴するルアーであることに間違いはないでしょう。
バスフィッシングがお洒落で、カッコ良くて、気軽に楽しめたあの時代を偲ひつつ、令和のフィールドでペチペチさせるのも悪くないかもよ?