仕事柄のんだくれの元には世界中のルアーメーカーから売り込みが来ます。
メーカー側から売り込みがあるルアーは総じて大したモノじゃないという不文律があるのですが、まぁそれは置いといて、今日はそんな売り込みチームの中から紹介してみましょう。
”世界初の動力付きルアー” を謳い文句に華々しく?登場したのは、カナダに拠点を置く新興ブランドeミノーからの先鋒ファットボバーです。
このファットボバーを知ったのは2017年、業界向けの機関紙の広告でした。
Devastatingly Effective(壊滅的に効く)というなんとも仰々しいコピーに引き寄せられたのが最初の出会いでした。
当時この広告を見て、壊滅的な効果って一体どんな効果やねん!と大爆笑したのを覚えています。
元々のんだくれは向こうの雑誌広告のありえないコピー表現にツッコミを入れるのが大好きなのですが、ここまで壊滅的な表現wを使った広告は見たことがなかったので、良くも悪くも記憶に刷り込まれたのです。
さてさて。
そんな広告も忘れかけていたある日、事務所の電話に海外からの着信が入ります。
詳しい内容は忘れましたが、ざっくり書くとこんな感じ。
世界初のルアーを開発した。
革命的な発明だ。
そして今日本のパートナーを探している。
俺と手を組めばビッグマネーは間違いない 的な。
もうこれらのワードが出てくる時点で取引してはいけない相手だと分かりますが(海外のセールスはこの手の文句を躊躇なく使うw)、興味本位でどんなルアーなのかを聞いてみると、
”eミノーだ” と。
ん? eミノー? もしかして電動で泳ぐやつ? と、以前見た広告の記憶を辿りながら聞くと、
”なに!我々の事を知っているのか!?”
とテンション爆上げに。
実はこのやり取りがのちに悲劇を招く事になるのですが、まずはサンプルを送るとのことでその場は終わったのでした。
そして届いたルアーがコレ。
全長95ミリ自重22g、スローシンキングのこのルアーの正式名称はファットボバー Fat Bobba。
浮きを意味する Bobber を向こうの人間が好きそうな文字遊びでそれっぽくしたやつです。
騒々しいを意味する Bobbery も掛けたダブルミーニングになってる気がしないでもありません。
それともスターウォーズに出てくるボバフェットを絡めた???w
アクションは既に動画で見せてもらったけれど、やっぱり水に入れて動きを確かめたくなるのがルアヲタの性、さっそくチャポンしてみました。
動きは動画で見た通りの細かいピリピリ振動系。
水に入れるだけで内臓電池が通電して自動的に動き出す仕組みです。
しかしよくある風呂のおもちゃのようなバッタンバッタンとしたものではなく、5秒ほど細かくジジジジジ… と動いては止まり、しばらくすると今度はジッ…ジッ…ジッ…ジッ…と違うパターンで動き出します。
こういう変則的な動きをするルアーとしては確かに世界初かもしれませんが、でもどう頑張ってもそれ以上の展開にはなりません😂
クランクベイトのように水流抵抗で動くわけではないので、はっきり言ってつまらんのです。
興味のある人は eminnow lure action で動画検索してみてください。
検索したことを後悔するぐらいつまらん動きですから😂
でもそれが動力系ルアーの実態であり限界なんですよね。
しかもこのルアーはアイスフィッシング用に開発されたモノなので、アングラーの仕事は氷の穴から下に垂らすだけ。
キャストもリトリーブもせずにただ垂らして待つだけ。
ウキを付けてキャストする使い方も解説されてましたが、これもかったるい。
もしやと思い、一縷の望みを託してリトリーブしてみましたが、リップレスクランクの様にブルブルすることもなく、ただただ横倒しで引っ張られるだけなのです。
バーチカルジギングも試してみましたが、スローシンキングなのでテンポ良くシャクれない上に、すぐにフックがラインを拾ってエビになってしまうという役立たずっぷり。
そしてトドメは、このルアーが最も効果を発揮する魚は【パイク】であるということwww
まぁ最初から分かってはいましたけど、どう考えても日本では売れないルアーですよね。
なので取引の対象となることもなく、そのままサンプルストック用のボックスに放り込まれてしまいました。
しかし各部を見ていくと、それなりに頑張った形跡を見ることができます。
シリコン製のテールをヒンジ式ではなくワイヤー1本で繋ぐ事によって機械的なパタパタとは違った微細な振動を演出しようとしているあたり、パワーパックなどのゼンマイ仕掛けルアーを研究したんだろうなとニンマリさせてくれるのです。
しかし動力ありきのルアーゆえデザインがどうしようもなく電化製品で、ラインに結ぼうという気が起こらないという時点でルアーとしては致命的ですね。
かつて日本にもパナソニックなどが電池式の目が光るルアーなどを出していましたが、あれはまだルアー自体が謎に包まれていて夢があった頃の製品ですからね。
今の時代にこんなのを出されてもヲイヲイとしか言いようがありません。
電源はLR44電池を2個必要とします。
パワー的には1個で十分なんじゃないの?と思いましたが、おそらくこの電池はウェイトの役目も果たしてるんでしょう。
ボディ内部には基盤マニアが見たら思わず反応してしまいそうな緑色が鎮座しています。
しかしこの電池収納部分にも動力ありき感があふれていて、電池が真っ直ぐに挿入できないという問題が。
しかもフタの精度がイマイチなのかゴムパッキンが合っていないのか、個体によっては浸水してしまうものもw
このクオリティでビッグマネーとか言い放てるヤツらの心臓は一体どーなっとんねん。
そんなお間抜けな仕様なのに、フックだけはガチなトリプルグリップが標準装備。
垂らして待つだけのルアーに、巻き物ショートバイト対策用であるトリプルグリップを装着するセンスに咽び泣いたのはいうまでもありません。
てなわけでこのファットボバーは笑い話のひとつとして終わったのです。
… となるはずだったのですが、そうは問屋がおろしてくれませんでした。
なんとその後にセールスの嵐が待っていたのです。
届いたか?使ったか?どうだった?すげーだろ?今ならスペシャルプライスをオファーするぞ!この機会を逃したらもうチャンスはないぞ!他の日本人からも問い合わせが殺到してるぞ!ビッグマネーを掴むビッグチャンスだぞ!といった具合に電話にメールにと物凄いセールスの嵐が吹き荒れたのです。
しかも取引するつもりはないとはっきり断ってもしつこく連絡してくる強引さ。
海外セールス慣れしているのんだくれもさすがにこれには閉口しました。
後で分かった事ですが、相手はのんだくれがたまたまeミノーを知っていた事で、こいつは絶対契約してくれる奴だと勝手に、しかも超ポジティブに解釈していたようなのです😱
うーん恐るべし超ポジティブマインド。
最終的にのんだくれが一切のレスポンドをしなくなったので向こうが諦めてくれたのですが、それでも話はまだ終わってませんでした。
なんと今度はeミノーと販売契約を結んだという日本の会社?からセールス電話が掛かってきたのです😱
その会社はのんだくれとeミノーとのやりとりを知らずにたまたま電話してしてきたようなのですが、ここまでくるともうストーキングされている気分です。
ソッコーで電話を迷惑登録したのは言うまでもありませんw
その後eミノーからも連絡はなく今に至るわけですが、この記事を書くにあたり久しぶりにeミノーを検索したところ会社URLは404エラーになっていました😭
でもこれがキテレツ系ルアーの宿命なんですよね。
キテレツルアーでブランドを立ち上げると95%以上はこのパターンで消えていくというのがある意味業界の定石になっているんです。
我々日本人のマインドだとピンときませんが、向こうの連中はビジネスの可能性を見出すと100%イケる!と思い込み、こんなにイイものなんだから相手が買うのは当然!と暴走してしまうのです。
ビジネス系セミナーの常套句でもある根拠のない自信というやつですね。
そして事業計画もなく自信のみで突っ走っているので資金が底を突いたら終了というパターン。
特に近年は中国の工場が企画制作した製品をミドルマンと呼ばれる中間業者を介して、いつかは釣りで食っていきたい!と夢見るアングラーに口八丁でビジネスを持ちかけるので、心を射抜かれて暴走機関車と化してしまうケースが目立ちます。
事実のんだくれの元にアプローチしてくる会社/ブランドの半分はそれ系です。
詳しくは分かりませんがこのファットボバーもそんなニホヒがするのです。
ポジティブなのはイイことですが、ネガティブな要素が見えないブラインド状態になったらどんな事でも上手くいきませんからね。
かくしてこのファットボバーはeミノーの遺品となってしまったのでした🙏 チーン
でもこのブランドでひとつだけ惜しいと思ったことがあるんです。
それはファットボバーの次に出す予定だったルアーが、トップウォーターだったこと。
とてつもない既視感を伴うルアーwですが、もしこっちをファットボバーよりも先に販売してたらeミノーの運命も大きく変わってたかもしれません。
だってポップMAXが水面でジジジジジジジ…. って動くと思ったらそれだけで釣れそうな気がしません?😁
そう考えると、ビジネスってのはホントにタイミングなんだなーと。(BGM:ブラックビスケッツ)