今やフィッシングルアーには不可欠となったサスペンドという考え方。
その概念がバスルアーの進化にも大きな影響をもたらしたのはみなさんご存知の通りですね。
サスペンドという考え方が一般的になるより前から ”結果的に” サスペンドになったものはあったにせよ、浮きも沈みもしない中立浮力 Neutral Buoyancyを積極的にアピールしたのはサスペンド-Rが最初と言われています。
ということで今日はサスペンド-Rのノー書きをタレてみたいと思います。
サスペンドRとは
”その場で静止する” という新概念ルアー
サスペンド-Rは1978年(77年?)にレーベルがリリースしたクランクベイトです。
フローティングでもなくシンキングでもないサスペンド-Rは ”宙吊り”というその名前の通り、リトリーブを止めるとその位置で静止できることをセールスポイントとして肝入りで発売されました。
ルアーをその場で止めることができれば、魚の捕食圏内により長い時間置いておけるという理屈ですね。
サスペンドRのルーツはスーパーR

オリジナルサスペンドRとスーパーR。
注)本来のスーパーRのリアフックのリギングはカップリグ&ヒートン直結
実はサスペンドRには生まれるキッカケとなったルアーが存在します。
それは同じくレーベルからリリースされていたスーパーR。
スーパーRは浮力を殺したハンプバックDRをシークレットとしていたプロの依頼によって開発された初のサスペンドをコンセプトとしたルアー。

インビテーショナルプロバストーナメントに於いて、スーパーRのプロトタイプを使ったアングラーに ”ウィニングストリンガー” をもたらしたとして鳴り物入りでデビューしました。
デビューの際の謳い文句は ”デリケートな浮力とバランス Delicate bouyancy and balance” で、この時点ではまだサスペンドというワードは使われておりませんが、リトリーブを止めるとその場で静止するという表記があることから、サスペンドコンセプトが盛り込まれていたのは明らか。(とはいえサスペンド精度はイマイチで、今の感覚だとほぼフローティングw)
しかし当時はまだハンプバック全盛の時代。
ルアーとしては優れていてもセールス的には厳しい状況だったようです。
そこでハンプバック形状から脱却した”最新のルアー”として売り出されたのがサスペンドRでした。
当初はあまり売れなかった?
しかし形状を一新すれば… というレーベルの目論見とは裏腹に、当初のセールスはあまり芳しくなかったようです。
というのも、今ならば抵抗なく受け入れられるサスペンドも当時はまだ耳慣れないこともあり ”なにそれおいしいの?” のレベルでマーケットの反応は冷ややかだったとのこと。
サスペンド-Rのデビュー当時にバストーナメントに参戦していたのんだくれの米友人も ”どうやって使うのか分からなかった” と当時の状況を振り返っています。
そして実際に、この証言を裏付けるかのように当時のプロモーションにも変化が見られるのです。
デビュー当初は静止できる事を前面に押し出したアピールだったのですが、80年代に入るとカタログや雑誌アドには
” The Suspend-R offers fishermen the opportunity of more varied retrieves than any other lure(サスペンドRは他のどんなルアーよりも多様なリトリーブが可能に)”
と、サスペンド機能よりもリトリーブスピードに重きを置いたコピーが並ぶようになります。
国土の大きさゆえこのコピーや少数の情報だけで売れなかったと推察するのは少々乱暴ですが、どんな分野でも革新的なアイデアにはネガティブな反応がつきまとうもの。
サスペンド-Rも当初はアゲインストからのスタートだったと理解する方が自然ではないかと。
しかしそこはさすがのレーベル、地道?なサスペンド布教活動により勢力をじわじわと拡大し概念を市場に定着させることに成功。
80年代半ばにはそのポテンシャルに気づいた他社からもサスペンドタイプのルアーがリリースされるようになりました。
その後の勢力拡大の勢いはもう説明の必要はありませんよね。
サスペンド-Rのサイズ・重さ・潜行深度
オリジナルサスペンド-Rのサイズは65ミリ、18.5g。
ボディシェイプはスリムですが、同じくレーベルから発売されていたミニ-Rとほぼ同じスペックですね。
当時のカタログには9.5ftまで潜るとされていますが、実際に使った感覚ではもうちょっと潜っているような気がします。
当時日本のディストリビューターであったダイワは弟サイズのD97モデルのみ国内販売していたので、この兄貴モデルの存在はあまり知られていませんでした。
ダイワが同じボディサイズのミニ-Rを入れておきながらサスペンド-Rを入れないことを当時疑問に思っていましたが、市場にサスペンドという概念が浸透していない中での2サイズ同時販売には大きなリスクがあったんでしょうね。



下がD97モデル
のんだくれがこの兄貴の存在を知ったのは高校生の時。
釣具屋のオヤジから ”本国にはサスペンド-Rのでかいバージョンがあるらしいぞ” という話を聞かされて鼻血吹き出しそうになってましたw
サスペンド-Rのリップがもたらす2つの効果
このルアーの特徴はなんといっても ”その場で止まる” 事。
これに尽きます。
80年代のルアーにしては珍しくサスペンド精度が高いので、体操選手の着地のようにキレイにピタッと止まるのがウリ。
その動きは動画を見てもらうのが一番早いと思うのでこちらをどうぞ。
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他のRシリーズのクランクベイトよりも強い前傾姿勢なので、止めた時に自身のリップが水を受け止めるブレーキとなり、ほぼ制動距離なしでピタッと止まります。


ディープミニ-Rとのリップ角度比較
その動きから察するに、サスペンド-Rのリップがディープミニ-Rよりもスラントしているのは、潜行性能よりもブレーキとしての役目を持たせた結果なんでしょうね。
そしてその ”急制動アクション” はこのリップが生み出す強めのウォブリングによってより効果的に。
つまり強いアクションで泳ぐルアーがほぼ制動距離なしでストップという、動から静への急な動きの変化がバスに強くアピールするのです。
レーベルが最初からこの動きの変化を狙って設計したのかどうかは知る由もありませんが、巻いて止めるという簡単な操作だけでそれまで反応しなかった魚が釣れるようになったという事実はアングラーはもちろん、釣具業界にも大きな変革をもたらしました。
サスペンドRの”水中で静止する” というコンセプトはその後あらゆるルアーに採用され、今日のカテゴリー/ジャンルのひとつになった事を思うと、サスペンドRはルアー界の革命家と言ってもいいのではないかと。
そして静から動への急な動きの変化で誘うという考え方は、スピードトラップにも通ずるなど、サスペンドとされるルアー以外にも間違いなく影響しています。

サスペンド-Rの使い方
サスペンド-Rの使い方は超簡単。
先述の通り、リトリーブ中に何かに当たったら止める。
そして反応がなかったら次に当たるまで巻く。
これだけです。
そして必ずしも何かに当てる必要はなく、ガーッと巻いてここぞというスポットでピタッと止める動きでもオッケー。
のんだくれはこの方法で何度もいい思いをさせてもらいました。
故にサスペンド-Rの強みはクランク本来のサーチベイト要素とソフトベイト的な食わせ要素を併せ持っているルアーだと解釈することができます。
つまりグリグリ巻いて障害物を見つけたら、見せて食わせるルアーに切り替えて使えるところがキモ。
そういう意味では非常にアメリカらしい、効率を重視したルアーといえるでしょう。
日本ではサスペンド-RがMr.プロンソンなどと一緒にウィンターバッシング(死語w)の切り札的な紹介をされた経緯もあってラバージグのようにデッドスローで使うアングラーも多いと思いますが、せっかちなアメリカ人がその目的のためにサスペンド化したとは思えないので、やはり【巻き倒して止める】が本来の使い方ではないかと。
”古き良きレーベル”を纏った外観
クロスハッチが生み出す独特の質感
そんな先進的な概念を盛り込まれたサスペンド-Rですが、発売から既に40余年が過ぎて見た目はすっかりオールドタイマーに。
往年のクロスハッチパターンの上に雑に吹かれたドットは今のルアーでは考えられないほどの荒さwですが、レーベルコレクターにとっては最大の萌えポイントだったりします。
このパターンがあるのとないのとではルアーの表情が大きく違いますからね、レーベルのアイデンティティのひとつと言ってもいいでしょう。
エンピツで紙に転写してそれを肴に焼酎をカラコロ鳴らすというスーパーキモい楽しみ方もできちゃいますしね😁
一般的にクロスハッチはウロコのパターンを表現していると言われていますが、絵画技法のひとつとして使われているクロスハッチは線を入れる事で陰影を表すテクニックなので、レーベル的にはそういった陰影効果も狙ってたんじゃないかと。
ウロコの表現だけが目的だったら、こんなマット系の地味カラーにクロスハッチボディを使わないのではないかと思うワケです。
余談ですが、このクロスハッチパターンの凸凹が水の剥離効果を生み出す云々の話が時々聞こえてきますが、のんだくれが思うにアレはログの凸凹フィニッシュが持つ剥離効果の勝手な拡大解釈ではないかと。
ヲタ的にはそういうネタは有った方が楽しいけど、何でもかんでもこじつけちゃうと本来の目的が見えなくなっちゃうのがヤなのでその意見には否定的。
ちなみにのんだくれはログの凹凸フィニッシュの水剥離効果についても懐疑派です😁
レーベルのお家芸・ネジ留めリップ
そしてもうひとつのアイデンティティはこのネジ留めされたリップ。
80年代のバスフィッシングシーンを飾った多くの名作にこのネジネジ式が採用されていましたが、製造工程の見直しで見られなくなってしまいました。
確かレーベルはこのネジ留めリップの工法でパテントを取得していたはず。
60年代は頭の方からネジを刺すスタイル(コレクターの間ではトップスクリュー Top Screwと呼ばれている)でしたが70年代に入ってアゴ側から刺す形となりました。

フックは#4クローポイント
サスペンド-Rのフックは#4サイズが標準。
元々装着されていたフックは先に挙げた小サイズD97と同じレギュラーシャンクのクローポイントでした。
しかし当たったら止めるというルアーの性質上、レギュラーシャンクだと根掛かりが多いので実戦ではショートシャンクに交換済み。
とはいえもう何年も投げてませんけどね😅
残念ながらどこにもネームはナシ
しかしこのサスペンド-Rにも大きな欠点があるのです。
それはレーベルお得意のリップのエンボスモールドが無いこと。
せっかくサスペンドという新概念を開発したのに、名前がどこにもないのは寂しすぎます😭
小さい方のD97モデルにはしっかりモールドがあるのに、なぜオリジナルサイズにはないのか。
このモデルにだけモールドが無い事実は、未だレーベル七不思議のひとつとして議論が交わされて?いますが、これだけのスペースがあったら立派な ”R” が見られたのに… と残念な気持ちにならざるを得ません。
ちなみに小さいサイズのモールドには ”Little” の文字が入っていることから、オリジナルサイズはビッグサスペンド-Rと呼ばれる事もあります。
サスペンド-Rの入手
そんなサスペンド-Rですが、実は入手がかなり難しいルアーのひとつ。
既に生産が終わっているのはもちろんなのですが、オリジナルサイズは初期の数年間しか生産されなかったこともあり小サイズに比べて圧倒的にタマ数が少ないんです。
実力があるルアーにも関わらず生産を数年で止めてしまったのは、もしかしたら先述の “最初はあまり売れなかった” ことも原因なのかもしれません。
よってサスペンド-Rの入手方法はいわゆるコレクター市場のみ。
ルアーにネームが入ってないので稀に名称不明ルアーとして格安で出ている事もありますが、元々マニアの間では競争率の高いルアーだけに早い者勝ちであることには変わりありません。
出会えたら超ラッキー!なルアーなので、今度中古屋でガサゴソするときはクロスハッチとスラントしたリップに注意してみては?😁
おわりに
ルアーの性能だけ見れば新しい要素は見られませんが、サスペンドプラグの原点という視点では最新のルアーにも負けない要素が詰まっているサスペンド-R。
もう手に入らないルアーゆえ実釣で巻き倒すには勇気が要りますが、こういうクラシックラインを知った上で改めて最新のクランクを使ってみると新しい発見があるかもしれないので、持ってる人は是非投げてみてくださいな。