かつてバスフィッシングを口実に女の子をデートに誘うのがトレンド?だった時期があります。
あのキムタクがTVでキャスティングスキルを披露したりして、なんかよく分かんないけどバスフィッシングっておしゃれだよね的なイメージが広がり始めた頃のオハナシ。
その際にお世話になったのがこのアライくん。
色んな意味でよく釣れたルアーでした。
キムタクがTVでバス釣りが好きとカミングアウトする以前のバスフィッシングのイメージは、少なくとも女性にはあまりウケの良いものではありませんでした。
今でこそ釣りはインスタ映えだのフィッシングアパレルだのカジュアルに楽しめるものとして定着していますが、当時は朝早い、トイレが無い、虫が出る、ミミズに触れないwwwなどのネガティブイメージが先行していて、水辺に引っ張り出すまでにそれなりの労力を要したのです。
一匹でも釣れば面白さも分かってもらえるんですが、それまでのハードルがなかなか高かったのです。
しかしキムタクの布教活動?と電通のプッシュにより、バスフィッシングをやってみたい!という女の子がじわじわと増え始め、そこにこのアライくんが登場してくれたおかげで、高かったハードルが一気にリンボーダンス並みに下がってくれました。
ブームというのは恐ろしいもので、それまでは女の子のいる店で釣りの話をしても、ふーん、そうなんだ…レベルで終わっていたものが、ブームとなると、えー!バス釣りやるの?今度連れてってよー!となる。
しかもそれが営業トークではなく、具体的に話が進むという威力を持っているから恐ろしい。
そこへ、溢れ返る下心を隠すかのようにアライくんを見せて、こんなルアーで釣るんだぜ(ドヤ顔)と言えば、何これー!こんなので釣れるのー?絶対行くー!となったのです。
ああ… 過去とはいえ書いてて恥ずかしくなってきた😭
アライくんの詳細についてはもう説明する必要はないでしょう。
”可愛いのに釣れる” という奇跡のコピーを生み出したルアーとしても知られていて、90年代にはメガバスのポップ-Xと並んで入手困難ルアーの筆頭でした。
それまで個人売買のメインストリームだったQuant (クアント=個人間トレードや売買の仲介雑誌)からネット告知による販売へシフトしていく時期と重なってアライくんの価格が高騰し、一万円以上での取引も珍しくなかったというのはご存知の通り。
当時は外見や話題先行で人気になった感は否めなかったけれど、実際に使い込んでいくとアライくんには釣れる要素がこれでもかと詰まっていることが分かります。
アライくんはアライグマの皮を被った殺人鬼(色んな意味でのw)なのです。
数ある釣れる要素のなかで最も重要だと思われるのがこのダルマボディ。
大きなケツを支点としてせわしなく頭を振るアクションが強い水押しを生み出し、魚を寄せます。
一般的なクランクベイトはテール側が細いシェイプになっており、その構造上、水の流れをある程度整えてしまうのですが、このアライくんに至っては水流を乱しっぱなしw
水の中を丸い形状のボディが進むことにより、より強いヴォルテックスを生み出す構造になっているのです。
今でこそ球体の乱水流理論を売りにしたルアーが沢山出ていますが、そんな理論のリの字も無かった頃に、たとえ偶然とはいえこれを出したズイールはスゲーなと。
そしてそのボディの球体効果を最大限に引き出しているのがこのリップ。
当時ズイールの柏木氏はこのアライくんのアクションを ”潜りたくても潜れない” と表現しており、まさに言い得て妙だなと感心してましたが、このリップの凄いところは単に潜る潜らないではなく、ケツは動かさずに頭だけを振るアクションを実現しているところ。
これにより球体による乱水流効果を殺す事なく、アングラーから見ても”ちゃんと泳ぐ”ルアーに仕上がっているんです。
おそらく目の部分がスパッとカットされていることもクイックに頭だけを振る動きに好影響を与えてるんでしょうね。
このケツを支点としたスイミングアクションが安定して出せるクランクベイトが未だ現れていない事からも、このアライくんが唯一無二の存在だと分かります。
そんなオンリーワンなルアーですから、初心者が投げても普通に釣れちゃうワケですよ。
さらにスピニングやスピンキャストでもちゃんと飛ばせるウェイト、根掛かりとは無縁の潜らないボディ、シッポをフリフリ愛嬌を振りまいて泳ぐその姿からは、釣れない時も飽きずに投げ続けられるというメリットも生まれ、その結果、”え?なんか釣れてるよ?!”というWin-Win な結果に。(一体誰が勝つんだ?w)
そりゃヒットしないワケがありません。
しかしそんな釣れ釣れのアライくんですが、中には疑問符が付いてしまうトコロも。
それがこのヒゲ。
柏木氏は当時あらゆるメディアでこのヒゲが大事なんだと説いていましたが、正直これの効果を感じたことは一度もありません。
使ってるうちにヒゲが取れて情けない顔になったアライくんでも変わらず釣れるし、むしろラインを結ぶ時にヒゲを巻き込んでメンド臭いことになったりするので、のんだくれはこのヒゲには ”可愛く見せる以上の効果はない” と解釈してます。
もし本当にこのヒゲに効果があるなら、同じ柏木氏がプロデュースしたバモノスのねずみーマウスとかにも付いてないとおかしくない?と思っちゃうワケです。
しかしルアーはアイキャッチというかまずニンゲンを釣らないことには結果が出せないので、そういう意味ではこのヒゲは重要な役割を持っていました。
“こんなところにもこだわってるんだぞ” なイメージは遊び心の演出には欠かせない要素なので、ルアーの性能とは全く関係ないけどマーケティング上、欠かせない無駄だったのです。
そんな必要悪ならぬ必要無駄だからこそ、ヒゲが大事だと言って欲しくはなかったなと。
例のカシワギ口調で、ヒゲ?全然意味なんかないでしょ!と潔く言い放ってくれた方がズイールらしくて共感できるのにな、と。
効果という点ではこのシッポにも懐疑の念が拭えません。
最初はリトリーブするとシッポがボディに当たってクラッキングサウンドを発するのかと思ってたけど、実際リトリーブしてもボディとシッポは接触しません。
首振りした時にクネクネとよく動くなど水面使いでは重要な存在ではあるんだけど、シッポが吹っ飛んでったアライくんでも十分釣れるし、むしろシッポがない方が首振りのレスポンスが上がって使い易かったり。
ビッグバドを倣ってブレードに換えても普通に釣れちゃうことを考えると、このシッポもヒゲ同様にアライグマ擬装のひとつなのかなと。
とはいえシッポが有るのと無いのとでは可愛さが全然違うので、女性アングラーに対するアピール度には大きく影響しますけどね。
ビジュアルという点ではこの耳も忘れちゃいけません。
この耳が有るのとないのとでは見た目のイメージも大きく変わります。
当時の柏木氏はカリスマ的存在でもあったので、この耳にもなんらかの水流効果があると言われればそうかなと思ったんでしょうが、冷静に見られるようになった今ではただのギミックだと思いたいw
ボディの中には中低音を発するラトルが一個入っています。
このラトルサウンドを聞くと、ケツを振らないアクション特性に合わせてラトルピッチも調整したんだろうなという苦労の跡が見え隠れ。
当時はまだボーンマテリアルだの高音ラトルが効くだのという声は今ほど聞こえなかったので、中低音がバスに効くというのが定説みたいになってました。
個人的には中低音ラトル派なのでこのサウンドはアリアリのアリ。
フックは太軸のクローポイントが標準装備。
太軸を採用したのはスタビライザーウェイト的な意味もあったんでしょうか。
ネームはマレオなどと同様にブランド名と年号だけの簡素仕様。
アライくんはヒット作だっただけにここはフルネーム欲しかったですね。
ちなみにこれは渋谷サンスイで買ったもの。
当時勤めていた会社が青山にあり、転勤前の最後の出勤日にサンスイに寄ったらガラスショーケースの上にひとつだけ残っていて、神様からの転勤祝いだ!とゲットした事から今でもはっきりと覚えてます。
それを思うとネットショッピングの進化は、指先だけでタックルが購入できるようになったのと引き換えに、購入にまつわる思い出を奪い去ってしまったなと。
ガキの頃に買ったルアーのほとんどは買った時の状況まで覚えてるけど、大人になってから買ったルアーはどの店から来たものかすら分からないもんなぁ😭 …ってただ単にGGYになっただけ?
そうそう、まだ肝心なことを書いてませんでした。
アライくんをネタにして誘った女の子たちは難なくバスをキャッチしてました。
投げたらこのぐらいのスピードで巻いて、と教えただけなのに。
この事実がアライくんの全てを物語ってますよね。
専用タックルも要らず、特別なスキルも必要としないのに初心者にちゃんとバスを連れてきてくれるんですから。
そんなアライくんには派生モデルが沢山追加され、今ではどんなモデルがあるのかすら把握できてませんが、ひとつの時代を作ったルアーでもあるのでオリジナルモデルとなるこれだけは未来永劫作り続けて欲しいなぁと。
そうじゃないと、え?持ってないの?って言えなくなっちゃいますからね😁