業界大激震だったラパラへの移籍
ストーム創業者のリタイアメントによるラパラへの売却を目の当たりにした旧ストームファンの落胆ぶりは、それはそれはタイヘンなものでした。
今はラパラも積極的にブランドン・パラニュークなどのプロと契約して新製品を連射し、新たなファンと取り込むなどかなり気合いを入れてストームブランドを復興しようと努めてくれていますが、ウィグルワートやホッテントットなど旧ストームの製品が衝撃的とも言えるエポックメイカーだった事から、ラパラ買収前 Pre-Rapala と ラパラ買収後 Post-Rapala というワードで区別される状況はしばらく続きそうな予感です。
ルアーブランド/メーカーが会社の売却、買収、組織変更etcによって、Pre と Post で区別されるようになったのはこのストームが始まりだと言われています。
それだけアングラーにとってはもちろん、フィッシングインダストリーにとっても大きなイベントだったという証ですね。
ラパラへの不審感を加速させたエストニア生産
そんな中でリリースされたミッドワートは、旧ストームファンをがっかりさせた一因… いや、一員でした。
“そんな事言われたって、僕の責任じゃないし…” と言ってるような涙目にも哀愁が漂ってます。
ラパラの奮闘が裏目に出てしまったというか、あのウィグルワートに手を加え過ぎた上に、さらにこんな派生商品までリリースしたことで、ラパラへの失望が確定的になった商品でもありました。
しかもエストニア工場での製造という事実が、更に従来のストームファンを戸惑わせてしまいました。
フィンランド湾を挟んでフィンランドの対岸にあるエストニアは、物流、生産コスト等の面でラパラに大きなメリットがあるだけでなく、この地域の住人文化ならではの手先の器用さが特徴で、ラパラにとってルアー生産にはこれ以上ないといえるロケーションでした。
しかし、遠く離れた北米の人間にとってエストニアという国は、未知どころか、何それ美味しいの?レベルで、かつてのストームが生産拠点をオクラホマ工場からメキシコ工場に移管した時以上の違和感を与えてしまったのです。
実際日本人でもエストニアの場所をすぐに言える人は少ないですよね?
つまりはそういう事です。
まあ我々の日本だってどこにあるのか知らんアメリカ人がゴマンといますからね、そりゃ無理もない。
裏目に出てしまったラパラの頑張り
ウィグルワートのシャローランニング版という触れ込みでリリースされたこのルアーですが、当時はご多分に漏れずのんだくれも “ケッ!余計な事しやがって!” な扱いでした。
でもまあラパラの気持ちも分からなくはないんですよね。
なにしろ数多くのコアなファンを持つ一大バスルアーブランドを傘下に迎え入れたんですから、従来のファンを失望させるワケにはいかない。
だったらウィグルワートの良さを残しつつ、新しいことにも取り組んでラパラのすごさも同時に見せてあげようじゃないか!的なプライドというか意気込みがあったはずですから。
でもこういう意気込みは往々にして空振りするのが世の常というもの。
ご多分に漏れずこのミッドワート君も、結婚式で良いところを見せようと、得意のカラオケを披露して会場をドン引きさせてしまう新婦の父のような扱いを受けたのは皆さんご存知の通りです。
しかし近年ICASTショーなどでラパラのスタッフと話をして、ラパラのストームブランドへの取り組みや当時の苦労を聞いたりするうちに、のんだくれの中で少しづつラパラストームへの考え方が変わってきたんです。
そんな経緯もあり、昔買った新生ストームのショボいシリーズwを引っ張り出して、ひと通り投げてみたところ、このミッドワートが実にイイ感じだったんです。
このルアーが発売された当時は、こんなお茶を濁したような派生商品出すよりも、ホッテントットをメタルビルに戻すとか先にやる事あるだろ!というラパラへの不信感ばかりが先走ってしまい、ルアーの本質を見ようとしていなかったんですね。
あ”ー なんて浅いニンゲンなんザマしょ 反省。
しかしアングラー側にも非はあった
ルアーの泳ぎを掌るリップは、ご覧の通り一旦まっすぐ前に伸びたのち、約45度下にスラントする後付けの差し込み方式を採用しています。
これによりオリジナルのウィグルワートよりも浅いレンジをトレースできるようになった… と考えがちなんですが、実はココに大きな落とし穴があったんです。
“ワート”とネーミングされているだけに我々アングラーは【あのウィグルワートのアクションをシャローでも楽しめるんだ!】と勝手に勘違いしてしまっていたのです。
オリジナルのウィグルワートはボディから真っ直ぐ斜め30度に伸びたリップに水を受け、その水圧を逃がしながら不安定に蛇行して泳ぐのが特徴ですが、このミッドワートはどちらかというと一般的なシャロークランクの味付けになっています。
リップの角度も形状も違うので、当然の事ながらアクションの特性が全く違います。
ちょっと考えればわかる事なんですが、オリジナルモデルがあまりにも偉大であるがゆえ盲目になってしまい、無意識のうちにこのミッドワートにもウィグルワートの動きを求めてしまっていたんです。
アレですよ、新しい彼女にも元カノの良かったところを求めてしまうという、恋愛において一番やってはいけないアレ。アレと全くおんなじです。
その結果どうなったかは言うまでもありませんね。
奇跡のクランクとまで呼ばれたワートアクションをこの新参者が超えられるはずもなく、ありゃダメだ!の嵐。
もうね、当時の酷評っぷりったらそれは酷いもんでした。
あの時もしAmazonがあったら間違いなく出品アカウント停止になってただろうなぐらいのw
ワートファミリーだと思うから文句も出る
しかしワート兄弟の一員としてではなく、全くの別物シャロークランクと理解すると実はかなり使えるヤツなんです。
微妙にアールづけられたリップがしっかりと水を掴んで、アメリカンクランクらしいブリブリ泳ぎを披露してくれます。
巻き抵抗が大きかったウィグルワートとは違い、こっちは巻き心地が非常に軽いので、シャローをひたすらランガン爆撃するには圧倒的に使いやすく仕上がってます。
ちなみにこの湾曲したリップはスナップをなかなか受け入れてくれないので、実戦ではライン直結か、予めスプリットリングを咬ませておいた方がベター。
実はかなり秀逸なシャロークランク
実測で10gを切る自重にも関わらず、この空力ボディのおかげでキャスタビリティは申し分なし。
16lbラインを引っ張って軽く25mは飛んで行ってくれるところは嬉しいですね。
いかにも印刷しました的なナチュラルフィニッシュはやや迎合しがたいところもありますが、これもおっきなオサカナ釣った暁にはアングラーの中で、このカラーめっちゃ釣れる!ヤベーよ!になるので問題ないでしょう。
大きく響き渡る乾いたラトルサウンドは、並みのシャロクラの鳴き声を圧倒します。
ボディの素材が違うので一概に旧ワートと比較することは出来ませんが、シャロークランクでは大音量の部類に入るでしょう。
このミッドワートが出た当時は完全に見下してましたが、今こうして改めて見つめなおしてみると、かなりイイですよコレ。
ラトルと飛距離のパフォーマンスを最大化するウェイト位置
ウェイトも兼ねたラトルボールは、ボディのやや後方に設けられたラトルチャンバーに収まっています。
一般的なクランクベイトは動き出しのスムーズさ、つまり初動でリップがうまく水を掴む事を考慮してボディ前方に重心を置くのですが、このミッドワートはややボディ後方、スイム時にボディが最も大きく振られる部分にラトルチャンバーを構える事でラトルが内壁にぶつかった時のインパクトを最大限にする設計が成されています。
ここからはのんだくれの邪推ですが、ミッドワートはこの場所に重心を置く事で、ラトルのインパクトと共に、キャスト時の飛行姿勢の安定も狙ったのではないかと。
そしてこのウェイトポジションだと水面での姿勢が前傾にならないので、それをカバーするためにリップを45度スラントさせたのではないかと考えています。
そう考えると、なんでこんな仕様にしたんだよ!と思ってた数多くの要素がジグソーパズルのように全てカチッとハマるんです。
皆さんはどう思います?
「オメーもっともらしくテキトーな事言ってんじゃねーぞ」的な疑心の薄目で睨まれてるようでアレですが笑
今となっては貴重なノンVMCフック
フックは前後ともラウンドベンドのショートシャンクです。
旧ストームのウィグルワートにはイーグルクローが似合いますが、コイツにはこっちの方が似合ってる気がします。
確かこの時期のラパラはまだVMCが傘下ではなかったはずなので、フックのクオリティはイマイチでした。
ブロンズのスプリットリングなんてもう絶滅危惧種どころか、完全にレッドリストでいうところのEXですもんね。
ネームはリップ裏にエンボスモールド
ネームはリップ裏にブランド名だけを入れたエンボスモールドになっています。
何度も言いますが、ブランド名だけでルアーの名前が入ってないのは大きなマイナスポイントです。
後世に名を残すルアーにはかならずネームが入ってるか、もしくは強烈に目を引くアイデンティティを持ってるという事をメーカーは意外とわかってないのよねー… と上から目線の発言をしてみる。
ちなみにこの時期のリップ差し込み式のウィグルワートは、ワートヘッド(ガチのワートフリーク)達の間ではリップが45度曲がっている事から、ベンドビルワート(Bend Bill=曲がったリップ)と呼ばれてラパラ後のオリジナルシリーズのウィグルワートと区別されています。
近年の異常ともいえる旧ワート価格高騰の影響で、当時はゴミとまで言われたこのベンドビルワートの価格も上昇してきているので、既に実釣で投入しているアングラーは今のうちにスペアを確保しておいた方がいいかもしれません。
とはいえ今のウィグルワートの高騰も限りなく投機色が強いので、あと一年もしたらピークアウトして落ち着くと思いますけどね。
復縁するかどうかはあなた次第
このミッドワートも、性能の高さに気付いた時には既に生産が終わっていたという、名作にありがちな悲運をたどってしまいました。
しかしタックルベリーのハンガーの一番奥でひっそりと余生を送っていたりするので、もし自分の身勝手で別れてしまった彼女に対して謝罪の気持ちがあるなら、空白の時間を埋め合わせるつもりで連れ帰ってあげてくださいな。
コメント
*2012年投稿時に頂いたコメントをそのまま転載しています。
1. Shin in VA March 04, 2012 03:06
あー、これ持っています!しかも同じカラーのを。私の行くフィールドでは、ミッドワート、活躍します。結構釣れます!こいつで1M程の、ガーフィッシュを釣ったときはビビリました。$3.99でDick’sで購入したような記憶があります。もっと買っておけばよかったなぁー。
2. のんだくれ March 04, 2012 11:12
Shinさん
おひさです!
やっぱり使ってる人は釣ってるんですねー。
アメリカでは一時期オーバーストック物が格安で大量に出回りましたよね。
のんだくれもあの時がっつり買っとけば良かったなー ⇦また同じ事を…
しかしこれにメータークラスのガーが来たらビビりますよね(笑)
3. 他色々 March 04, 2012 17:59
釣れる物しか売らないが信条のソルト専門のルアーショップで見たことがあります。
曰くクロダイにはオリジナルより新生ワートシリーズの方が効くんだそうで。
4. のんだくれ March 05, 2012 05:53
他色々さん
うーん… やっぱり早くから気付いてる人は釣ってるんですねー。
しかしコイツで黒鯛釣ったらめっちゃカッチョいいなー。
今シーズンは浜名湖でちょっと試してみようかな