クランクベイトデザインの巨匠が生み出した伝説のネズミ捕り スピードトラップ Speed Trap 6595-014 / ルーハージェンセン Luhr Jensen

クランクベイトクランクベイトコーポレーション Crankbait Corp.シャローダイバールーハージェンセン Luhr Jensen

不人気から這い上がってきた不屈のクランク

本国ではとてつもなく評価されているのに、日本ではイマイチ盛り上がらないルアーってありますよね。

言語やフィールド環境、供給体制などの違いもあるのでなかなか本来の実力が理解されにくく、盛り上がらないのはある意味仕方ない部分もありますけど。

しかーし!

そんな逆境にもめげず、ジワジワと日本での評価を上げてくる猛者もいます。

それが今日のゲスト、ルーハージェンセンのスピードトラップ。

今やガチクランカー達の必携アイテムと言われるまでになった釣れ釣れのクランクベイトです。

スピードトラップはあのレジェンドが設計

このルアーはかのトム・スィワード Tom Seward によって生み出されました。

ルアーデザイナーであるだけでなくアウトドアライターとしても名を馳せ、そして海洋生物剥製師としても活躍していたトムは70年代で既にアメリカンスポーツフィッシング界のリビングレジェンドと言われていた男。

そのマスターによって世に放たれたのがこのスピードトラップでした。

この辺りのストーリーはのんだくれがノー書きを垂れるよりも、かつて ”碑文谷の店” という代名詞で知られた The Tacklebox (現在は東京都小平市に移転) の店主の方が数万倍詳しいので是非そちらのお店にどうぞ。

のんだくれも昔は良く東横線で途中下車したもんです😁

本当の使い方を日本国内に広めた伝道師がいた

さてさて。

そんなスピードトラップですが、本国アメリカでデビューしたのは80年代の初めにも関わらず日本市場で市民権を得たのは90年代中盤以降になってからと、長い下積み生活を強いられていました。

見かけによらず、なかなかの苦労人なのです。

その性能が認知されるまでに時間がかかった最大の理由は、効果的な使い方がイマイチ理解されていなかったから。

スピードトラップという名前からなんとなく早巻きで使うんだろうなという事は分かっても、”クランクベイトのハイスピードリトリーブ” という概念があまり浸透していなかった80年代の日本では、どう使えばいいのかが分からなかったのです。

当時、早巻きで威力を発揮するスピードシャッドという存在は知られていたものの、少し特殊なケースとして見られていたこともあり、それがスピードトラップにも応用できると考えたアングラーは、のんだくれも含めてほとんど居なかったようです。

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しかしそんな状況を打破する救世主が登場したのです。

それが先述の The Tacklebox の店主でした。

彼はデザイナーのトムと個人的に親交があったことから、トム本人からスピードトラップのコンセプトと使い方を享受され、そしてショップオーナーの立場でそれを発信する活動を続けていたのです。

折しも90年代バスフィッシングブームの真っ只中。

当時のタックルショップはどの店も、令和の今では考えられないほどの個性と発信力を持っていました。

そんな中で The Tacklebox は独自のプリーチャー (説法師)スタイルで、このスピードトラップをはじめとしたトムデザインのクランクベイト達がいかに完成されたルアーであるかを説き続けたのです。

その説法にハマってしまった人は数知れず😁

そしてその説法を聞いたアングラーが説法通りに実績を上げるにつれ、このスピードトラップの本当の実力も認知されるようになったのです。

スピードトラップの特徴

スピードトラップの特徴は典型的なタイトウォブリングとファーストリトリーブへの追従性の高さ。

ほんのわずかにロールが入るものの、ほぼウォブリングのみのアクション特性でピリピリと緊張感のある泳ぎを見せてくれます。

そしてどんなに早くリトリーブしてもその泳ぎが破綻しないのがウリ。

最新の超ハイギアベイトリールの全力巻きをもってしても余裕で泳ぎ切るリトリーブ追従性を持っているのです。

もちろんその状態になるまで根気よくトゥルーチューンする必要があるのは言うまでもありませんが、このスピードトラップにはその手間を掛けるだけの価値はあるでしょう。

必要以上に水流を乱さないスピードトラップ

そんな名馬のように躾けられたタイトバイブレーションを生み出しているのがこのリップからボディへのスムースなライン。

角の張ったシェイプを大きくスラントさせることで不要な水流抵抗を後方へと逃し、エッジを利かせたボディが必要以上にストリームを乱さないよう設計されていることがわかります。

このボディシェイプからも、一般的なクランクベイトとは全くの別物であることがわかりますよね。

ブレーキの役割も果たすリップ

しかしこのリップは単にボディを揺らすだけがその役目ではありません。

ルアーを潜らせるのと同時にブレーキの役割も果たしているのです。

これは実際に動きを見ないと分かりにくいのですが、スピードトラップは巻いている途中で急にリトリーブをやめると、まるで慣性の法則などこの世には存在しないかのように制動距離ゼロでピタリと止まります。

実はこの時、ボディが前のめり姿勢になることでリップが立ち上がり、ルアーの動きにブレーキをかけているのです。

飛行機の着陸時にフラップが立ち上がって制動板となるのと同じ理屈ですね。

これによりスピードトラップは、超ハイスピードからの急制動という、まるで映画トロンに登場するバイクのようなアクションが実現できるのです…  というよりも、この挙動こそがスピードトラップが狙っていたことでした。

つまりルアーのカラーが明滅するかのような切り替わりの速さでファーストリトリーブ&ストップを繰り返すことで無理矢理バスのスイッチを入れてしまおうというのがこのルアーの狙いだったのです。

アクションの秘密はネーミングにも隠されていた

文字にしたらたった一行で終わるシンプルな事なのに、これが日本国内ではなかなか伝わりませんでした。

しかし、実はそのノウハウはパッケージにはちゃんと記載されていたんです。

確かデビュー当初のパッケージには、ハイピッチのバイブレーションとキル(止める)アクションの繰り返しで誘う云々の文言があったはず。

それだけではありません。

その使い方はネーミングにも及んでいます。

スピードトラップとはスピード違反を取り締まる、いわゆる ”ネズミ捕り” の事。

スピード出して気持ちよく飛ばしてたら急に止められてしまう、速度取り締まりのあの動きをルアーの挙動に重ねているんです。

こういうネーミングセンスは日本のルアーにはなかなか見られないので(ラッキークラフトのステイシーぐらいしかないのでは?)意味がわかった時は大きな納得感というか、ヤラレタ感がありますよね😁

エッジを立てたボディラインはトムの十八番だった?

しっかりとエッジを立てたボディシェイプもこのルアーの特徴です。

おそらくこれには水を切り裂いて安定した泳ぎを生み出す効果があると思われ。

このボディ形状のコンセプトはホットリップスエクスプレスやパワーダイブミノーなど、後にパワープラグシリーズ The Power Plug Series を構成することになる面々にも採用されているので、トムとしても相当な自信作だったんでしょうね。

ちなみに、このボディに行き着く前の、スピードトラップの前身であるクランクベイトにはこのエッジラインはありませんでした。

スピードトラップの前身は丸みを帯びたボディ

画像クリックで拡大します

これはトムスィワードがQ&Aという形でクランクベイトデザインについて語った雑誌記事ですが、中央下段の画像でスピードトラップの形状の変遷を見る事ができます。

本文を読むとフムフムと頷かされることが書いてあるので、興味のある方は拡大してみてください。

たとえ全文を読まなくても、見出しにある “Seward’s first homemade crankbait still runs true today (スィワードが最初に自作したクランクベイトは現在でも核心を捉えている)” という一文で、米国内でのトムの扱われ方がレジェンド級である事が伺えますよね。

ちなみにこれはキャッチングコンセプトの工房に貼られていたもので、手前に見えるカセットテープは全てハーマンのもの。

CDじゃなくて未だにカセットが現役だというところにシビれますよね。

彼は70年代ハードロックフリーク(しかもイッちゃってる級のw)なので、製作中の工房ではこれらの曲がガンガン鳴り響いています。

初めて会った時も、挨拶もそこそこにのんだくれのビジネス屋号の由来について、アレはブラックサバスの曲名から取ったんだろ?と聞いてきたぐらいw

のんだくれは中学時代からそっち方面には明るいので初対面から仕事そっちのけで音楽談義に花が咲き、一気に距離を縮める事ができました。

そういえばラッキールアーズのデザイナーもAC/DCの大ファンで、タイのリザーバーで意気投合してガイドもドン引きするほど For Those About To Rock を合唱してたなんてこともありました。

ガキの頃は母親にさんざん煙たがられた音楽趣味が、何十年か経ってこんな形で役に立つとは、ジンセイってホントに何が吉と出るか分かりませんねw

スナップは高速リトリーブの必須アイテム?

箱出しの状態ではこのようにスナップが装備されているのもスピードトラップの特徴です(初期のものはスプリットリングが標準)

ボーマーのスピードシャッドにもスナップが装備されていることを思うと、早巻きルアーにはラインタイ部分のフレキシビリティが不可欠なんでしょうね。

そうそう、さっきリップのところで書くのを忘れましたが、いつだったかアクションのキレを強化しようとリップの側面エッジを薄く削ったことがありましたが、それをやった途端にルアーの高速安定性が失われました。

おそらくキレが良くなり過ぎた事で全体のバランスが崩れてしまったのではないかと。

こういうところを見せられると、なんてことのない造形でも実はかなり繊細に作り込まれているんだなというのが分かりますよね。

謎のスリットもアイデンティティのひとつ

しかし唯一不可解なのはこの背中に入ったスリットの役割。

これも整流効果に一役買っているのかと思いましたが、真の理由は分からずじまい。

もしかしたらかの説法師wが教えてくれてたかも知れませんが、まったく記憶にありません。

なのでこのスリットの効果役割についてご存知の方がいらっしゃったら是非ともお教えくださいませ。

スピードトラップのフックサイズ

フックは前後とも#4のラウンドベンドを採用。

このフックは、先のパワープラグシリーズはもちろんブラッシュベイビーなどにも採用されているルーハーの伝統フックですねw

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ルーハーが販売権利を譲渡したことにより今はラパラの扱いになっていますが、フックもVMCフックに変わったんでしょうか。

スピードトラップのネーム

しかしルーハーであるが故に悲しいことも。

ご覧の通りネームプリントが全くないのです。

これだけ白いキャンバスがあるのに、何もネームがないのは悲しすぎます。

でもね、実は90年代初め頃まではドットプリントでネームが入ってたんですよ。

例の製造年月日まで入ってるドットプリントで。

その過去があるだけに今ノーネームなのはちょっと寂しいですよね。

2022/03/30追記:
ネームが入っているモデルの画像を見つけたので貼っておきます。
これ以外に日付が入っていないバージョンも有ります。

画像出典:facebook.com

近年登場したブラディサムルアーズのスピーディ Speedy がまんまスピードトラップのクローンであることを思うと、ネームを入れてオリジナルであることを主張して欲しかったなと改めて思いますね。

ちなみにボディ内部にはカラカラと甲高い音で暴れ回る遊動ラトルが入っています。

もしかしたらこのラトルは先述の制動時に前のめり姿勢を演出する手助けも果たしているのかななどとヲタなことを思ってみたり。

まとめ

そんなスピードトラップ君ですが、ありがたいことに未だに現役で生産してくれています。

クランクベイトはロスト率が高いだけにこれは非常に嬉しいですよね。

ラパラジャパンのサイトにもしっかり掲載されているので、比較的入手しやすい商品です。

なので秋の巻き物シーズンになったら、是非スピード取り締まりの警官になったつもりで高速リトリーブからの急制動を楽しんでくださいな。

 

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