古きを笑うものは今に泣く 今のクランクベイトにない挙動が楽しめるレーベルの名品 ハンプバックディープランナー Humpback Deep Runner DR2025R / レーベル Rebel

クランクベイトシャローダイバーミディアム・ディープダイバーレーベル ルアーズ Rebel Lures

”クラシック” と言われているルアーの中には、今でも十分通用する実力派のルアーが沢山存在しています。

水面ルアーの定番であるクレイジークローラーやジタバグは言うに及ばず、メタルビルの雄、ホッテントットやマドバグなどなど、挙げだしたらキリがありません。

今日紹介するハンプバックディープランナーもまさにそのうちのひとつ。

初期レーベルの屋台骨を支えたクランクベイトの祖です。

ハンプバックディープランナーとは

ハンプバックディープランナー(以下ハンプバックDR)はレーベルが1960年代後半にリリースしたクランクベイト。

レーベルミノーとともにプラスチックブラグの可能性を大きく開いたルアーとして知られています。

1940年代後半に登場したボーマーベイトなどのバックランナー系クランクベイトからビッグオーなどのファット系クランクへ移行する過程で生まれたルアーで、全米で大ヒットを記録しました。

現在ではシャローモデルのみ生き残っていますが、当時は金属リップ、ノンラトル、シンキングなど数多くのバリエーションをラインナップするなど、文字通りレーベルの金看板を背負った存在です。

日本でも中禅寺湖のモンスターブラウンや芦ノ湖のランカーバスなど、輝かしい実績を持っているので記憶に残っているアングラーも多いことでしょう。

ハンプバックDRのサイズ・重さ

ハンプバックDRはボディ48ミリ、自重1/4oz(実測10.2g)で、クランクベイトとしては一番扱いやすいサイズにまとめられています。

ハンプバックDR(上)とオリジナルシャロー

シャローモデルを単にダイビング仕様にしただけかと思いきや、それぞれのボディは全く別の設計。

ルアーアクションにとって重要な要素である浮力を担保するために専用設計としたのは明らかです。スーパーR(上)とハンプバックDR。ボディサイズ以外に目の位置とテールカップの有無が判別の目安。

ハンプバックDRよりもひと回り大きなスーパーRというモデルも存在しますが、こちらはサスペンド仕様なので両者は似て非なるもの。

スーパーRは後にサスペンドRへと進化することになるのですが、それに触れるとエンドレスになるので詳細はまた別の機会に。

特徴

ワンアンドオンリーの隆起ボディ

ハンプバックDRの特徴はその名前にもなっているこのボディ形状。

ハンプ(=隆起した)バック(=背中)という ”名は体を表す” を地でいくネーミングが大ヒットの一因になったのは想像に難しくないですね。

ハンプバックが一時期 ”ファーストバック” と呼ばれていた事もありますが、それについては後述します。

伝家宝刀のネジ留めリップ

リップは後付けのネジ止め方式を採用。

これはレーベルがパテントを取得したリップ固定法で、レーベルミノーDRにも採用されているいわば伝家の宝刀。

コレクター達の間でスクリューヘッドと呼ばれている最初期のモデルは、眉間側からネジを指す痛々しい姿が特徴でしたが、見た目的にもよろしくないと判断したのか、早い段階でリップ側からネジ止めする手法に変更されました。

このスクリューヘッドはレーベルの代表作であるダイビングミノーにも採用されていますが、スクリューヘッド期のレーベルはリップ刻印など明確な判断要素が少ないため、俗に言う ”ジャパチ” と認識される率が高いという割と哀しい存在だったりします。

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そしてラインアイもヒートンねじ込み式の堅牢仕様となっています。

このヒートンはなかなかの頑固者なのでトゥルーチューンの際には苦労しますが、一度キメてしまえば多少ラフに扱ってもチューニングが狂わないというメリットも。

良くも悪くも不安定なアクション

強めのウォブリング

アクションはクラシックアメリカンクランクの定石通り、強めのウォブリング。

遠い位置からでも手元にしっかりとブルブルが伝わってくるので、モチベーションも含めて妙な安心感があります。

しかしお世辞にもそのアクションは安定しているとはいえません。

しっかりトゥルーチューンしても早巻きへの追従性が高いとは言えないし、立ち上がりも数回のノッキングから始まるので、ちゃんと泳ぐにはある程度の助走距離が必要であるなど、近年のクランクベイトの挙動を見慣れていると、どうしても不安定な印象を抱きがち。

不安定の原因は”高重心バランス”

その不安定の原因はウェイトバランスにあります。

実はこのハンプバックDR,ラトル兼用のウェイトがリップよりも高い位置に仕込まれているのです。(目のあたりにうっすらウェイトの影が出ている)

ビッグオー以降のファットクランクのほとんどは、ラインタイよりも下側に重心が来るように設計されているので高速巻きにも対応できるスタビリティを持っていますが、ハンプバックDRはラインタイよりも上に重心を配しているので、どうしても不安定な挙動になってしまうのです。

実はメリットでもある”不安定さ”

しかしこのハンプバックDRのスゴさは、アクションの不安定さをポジティブ要素として味方にしてしまったところ。

一定のアクションで泳がないルアーは、一般的には ”安定性が低いルアー” となるかもしれませんが、逆の見方をすれば ”予測できない泳ぎをするルアー” であるとも言えます。

真実はオサカナに聞かない限り分かりませんが、このルアーが先述の通り全米で大ヒットしたり、本国のみならず日本でもビッグフィッシュキラーだった事を鑑みると、ハンプバックDRの不安定な泳ぎは決して悪いものではないはず。

事実、それを裏付けるかのようにビルノーマン他各社がハンプバック形状のルアーをリリースし、軒並みヒットを記録しています。

ノーマンルアーズのスクーパー(上)とビルノーマンのリトルスクーパー。 これ以外にスーパースクーパー、ビッグスクーパー、ドゥーダッドなどノーマンはDRタイプだけでも数種のハンプバック形状クランクをリリースしていた。

これらのヒットはやはりハンプバック形状ならではの不安定なバランスがもたらした結果だったと思うのが自然でしょう。

実戦ではいろいろ気になるところはあるけれど、それをも上回る圧倒的な釣果を叩き出したからこそ各社がマネをしたのであり、カテゴリーのひとつとして残ったのではないかと。

ウィグルワートほどの不安定さを持つクランクではないけれど、障害物に当てたりリトリーブスピードを変化させるだけでイレギュラーな挙動が楽しめるならこれはこれでアリだと思いません?

ちなみにハンプバックDRの潜行深度はカタログ値で8ftとなっていますが、実際のところはその不安定さもあって2mも潜りません。

ゆえにディープランナーという名前に引っ張られることなく、シャローランナーと理解して投げた方が釣果に結びつくのではないかと。

カラーは”伝統”ベース

ハンプバックDRはシャローモデルも含めてほぼ全て伝統のクロスハッチパターンをベースとしたカラーリングが施されています(80年代にリリースされたナチュラルプリントやプレーンクロームモデルを除く)

そしてこのクロスハッチに先出のスーパーRの様なクローダッドカラーを塗るのがこのルアーの特徴となっています。

その事からもハンプバックはザリガニを模したクランクベイトであることが理解できますね。

このクロスハッチパターンは見た目の古さゆえ Grand pa’s Lure(お爺ちゃんのボックスに入っているようなクラシックルアーの総称)と揶揄されていますが、誕生から60年にも渡ってこのパターンを貫いてきた信念は尊敬に値します。

近年のレーベルはジャンピンミノーなどのクラシックラインに今風のペイントを施すなど、Back to Basicの機運が高まっているので、是非ともハンプバックにもクリアやベイトフィッシュなどのイマドキ色を追加して欲しいなと。

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フックは#6ショートシャンク

フックは前後とも#6サイズのショートシャンクを採用。

リアのみカップリグとすることでフック同士の干渉を防止しています。

このリギングに関してレーベル的にはこだわりがあるようで、初期のカタログ商品説明には ”Use #6 short shank bronze treble(6番のショートシャンクブロンズトレブルを使え)”  と明記されています。

ブロンズフックとまで書いているのは、おそらくザリガニの足をイミテートしたかったんじゃないかと。

そう考えるとブラスのスプリットリングを使用している意味が見えてくるような来ないような… 違うかw

ネームはリップ刻印のみ

愛称が刻印された稀有な存在

ネームはリップのみで、ハンピーと刻印されています。

これは言うまでもなくハンプバックの愛称。

ハンプバックの大ヒットにより、アングラーの間ではハンピーの方が認識されるという状況になったことを受けての対応ですが、この事からもどれだけ売れたのかを窺い知ることができます。

正式名称ではなく、ルアーの愛称が刻印されたルアーはおそらく後にも先にもこれが唯一じゃないかと。

ちなみに名詞の最後に”Y”を付けて呼ぶのはアメリカ英語特有の親しみ表現のひとつ。

Dog に Y を付けてDoggy(ダギー)とすれば ”ワンちゃん” になるし、Fishy とすれば ”オサカナちゃん” になるアレです。

だからといってやたらとY付けにするには少々注意が必要。

Fishy には ”怪しい” という意味もあるし、Cranky に至っては気難し屋の意味もあるので、間違ってもクランクベイトアングラーに対して君はクランキーだねとか言わないようにw

そうそう、初期のスクリューヘッドモデルにはネーム刻印がありません。

スクリューヘッド自体結構レアなので見つけたらラッキーですが、見慣れていないと国産パチとの判別がムズカシイので日頃から真贋を見極められる目を養っておきましょう。

ハンプバック?ファストバック?ファーストバック?

ハンプバックは名前が複数あるルアーとしても知られています。

登場した当初はハンプバックだったのに70年代に入ったらファストバックに改名し、その後ハンプバックに戻ったという珍しい経歴があります。

ファストバックという名称になった経緯は調べても分かりませんでしたが、ちょうど60年代終わりから70年代にかけてファストバック形状のスポーツカーがブームになった事にも関係しているのではないかと勝手に妄想してますw

1979年ダイワカタログ。”ファースト”と明記されている

ちなみに日本では当時のディストリビューターだったダイワが ”ファーストバック” として紹介したことでファーストで定着。

意味は分からないながらもその英語の響きから、果てしないカッチョ良さを勝手に感じてハァハァしていたのは何を隠そうのんだくれです。

パチモンが多いのもハンプバック系の特徴

日本で製造された輸出用パチモン”通称ジャパチ”(上)とオリジナルのレーベルハンプバック。DRモデルも沢山つくられ、日本国内でも流通していた。

真贋というワードが出たのでついでにパチモンについても触れておきましょう。

先出のビルノーマンを筆頭に、ハンプバックはコピー品が多いルアーとしても知られています。

特に日本製の粗悪なコピー品が数多く出回りました。

60年代から70年代にかけては米国クライアントの依頼で国内生産したコピー品を米国に輸出するというスキームが確立されており、米国での大ヒットを受けて大量に生産されました。

それらに共通するのは、粗末な作り/塗りで、フックも今では考えられないほどの粗悪品を使っていること。

そしてそれらの多くにはJAPAN、もしくはMade in Japanのスタンプが押されています。

作りが雑ならスタンプもテキトーw

これらはとても実釣で使えるレベルではありませんが(特にDRモデルはまとも泳ぐものがないw)、蛇の道はナントカという通り、内外問わずジャパチ専門のコレクターが存在するなどディープな世界を形成しています。

この辺に首を突っ込むコレクターは、大抵のルアーのコレクションをやり尽くしてしまい、もう集めるものがなくなってしまった、いわば ”極めてしまった” ヒトタチ。

当時の情報が極端に少ないためコレクションが永遠に完成しない、つまりコレクションとして極めようがないというトコに惹かれてしまったヤバいヒトタチなので接触する際には洗脳されないよう注意が必要。

ちょっとでも興味を示そうものなら、下手な新興宗教よりもヤバい世界が待ってます😂

ハンプバックDRはどこで買える?

そんなハンプバックDRの入手は比較的簡単。

キイロなどではあまり遭遇できませんが、メルカリやヤフオク、オールド系中古屋では割と簡単に手に入ります。

さらにeBayで検索すればザクザク湧いて出てきます。

ルアーの性格上、コンディションの悪いものが多いので格安で入手できることもザラ。

ネットでは真贋の見極めが重要となりますが、出目とテールに深く埋め込まれたカップリグを目安にすれば余程でなない限りはパチモンを掴まされることはないでしょう。

まあパチはパチで愛嬌があるからもし掴まされても愛でる対象になるのでヨシw

おわりに

一般的にオールドルアーと呼ばれるクラシックタイプのルアーはコレクション用として捉えられる事が多いので実戦でガチ投入されることはあまりありません。

でもそれらを実際に使ってみると、そのパフォーマンスに驚かされることが多いのも事実。

”古いから” と過去のものにしてるのはニンゲンの勝手な都合であって、その実力やオサカナの生態は変わらないのです。

いや、むしろ今誰も使っていない分、昔よりもよく釣れるかも。

Classicという言葉は ”古典” と訳せるけれど、オールタイムクラシック All Time Classic と言い方を変えれば ”定番” になる事をお忘れなく。

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