特性と使い方さえ理解すればトリトン以上の英雄になれる秘密兵器 ラトルスポットミノー Ratt’l Spot Minnow C31 / コットンコーデル Cotton Cordell

コットンコーデル Cotton Cordellリップレスクランク

星の数ほどあるルアーの中には、イマイチ使い方が分からないものも沢山存在します。

それゆえワゴン落ちしたり、三軍ボックスに幽閉されることもしばしば。

しかしそんなやつらほどリーサルウェポンだったりするのです。

そんなルアーの筆頭が今日紹介するラトルスポットミノーです。

ラトルスポットミノーとは

ラトルスポットミノーは1989年にコットンコーデルがリリースしたリップレスクランクです。

当時はまだリップレスクランクという呼び方が一般化していなかったこともあり、”ミノー型バイブレーション” という、今思うとよくワカラン呼び方をされていた事もありました。

そう呼ばれていたのは、おそらく70年代にリリースしたスィンスポットの影響もあったんでしょうね。

スィンスポット Thin Spot / コットンコーデル Cotton Codell
最近ではリップレスクランクといった方が通りが良いバイブレーションプラグですが、このタイプのルアーほどシンプルで、かつ釣果に差が出るルアーも珍しいんじゃないでしょうか。 ということで今日のお題は、コーデルがその昔...

80年代は洋楽シーンがそうであったように、バスルアーにとっても百花繚乱の時代。

数多のブランドからありとあらゆるルアーが発射され、そして大量消費された時代でした。

コットンコーデルもエビスコEbisco傘下入りで勢いづいていた事もあり、この時期に数多くの新製品を発表しています。

しかしその多くがこのラトルスポットミノーのように本当の実力を理解されないまま消えてしまったのでした。

ラトルスポットミノーのサイズ・重さ

ラトルスポットミノーのサイズは105ミリ、21g。

オリジナルザラスプークと同等の大きさですが、本来は2インチのC29、3インチのC30と共にシリーズ展開していた3モデル構成でした。

今でこそ普通のサイズ感ですが、当時は ”オリザラは日本のバスには大き過ぎるから釣れん” と真顔で話す釣具屋のオヤジも居た時代だったので、随分大きく感じたものです。

そのサイズ感ゆえ、パッケージに貼られた ”ラリーニクソン推薦” というステッカーにもあまり説得力が感じられず、スルーされてしまったという哀しい経歴の持ち主でもあります。

パッケージに貼られていた推薦ステッカー

当時コットンコーデルは(というかエビスコは)米メジャー釣り雑誌にカラー1ページで広告を出稿するなど、このシリーズの販促にかなり気合を入れていましたが、先述の通りイマイチ使い方が理解されなかったのか、長兄と次兄は早い段階で生産が終了してしまいます。

しかし末弟のC29だけはトラウトアングラーに好評だったようでその後も生産され続け、90年代後半には、あのビルダンスがホストを努めるTV番組 ”Bill Dance Outdoors” とタッグを組んで、エクスキャリバーフック装備のダンセズスポットミノー Dance’s Spot Minnowとして再デビューを果たしています。

でも今思うと、不良在庫化していたエクスキャリバーフックの#10と#14サイズを使い切りたかっただけなんじゃ…..   あ、いやなんでもありません。

ラトルスポットミノーの特徴

ボディは ”あのデザイナー” が設計

ラトルスポットミノーの特徴は、なんと言ってもリップレスクランクらしからぬぼってりと太いボディシェイプです。

その太さは同じコーデル家のスポットと比較すると一目瞭然。

ラトルスポットとラトルスポットミノー

このシェイプの違いを見るだけでスィンスポットとは全く別のルアーとして開発されたことが理解できます。

それもそのはず。

実はラトルスポットミノーは、ワフーベイトWahoo Baitの定番バイブレーションの形状をプラスチックインジェクションで再現したものだから。

ワフーベイトの超定番として知られるヨーヅリのボニータ。この形状のオリジナルはボニータではないが、大西洋岸やメキシコ湾岸のマリーナ店頭には必ずと言っていいほど並んでいる必携中の必携ベイト。

ワフーは日本で言うところのオニカマスに当たり、食べても美味しいことから米国では沿岸トローリングの対象魚として非常に人気がある魚。

ラトルスポットミノーは単なるリップレスクランクではなく、そのワフー狙いの定番バイブレーションの動きを再現したものなのです。

しかしただ単に形状を倣っただけではないのがこのルアーのスゴいところ。

実はこのルアーを設計したのは、のちにスピッティンイメージでその名を馳せることになるジム・ゴーウィングJames Gowingなのです。

ラトルスポットミノーはこの形状で特許を取得している(画像内の日付は特許認可取得日)

ルアーデザインの巨匠ジェームズ・ゴーウィングが生み出した傑作 スピッティンイメージ X9270 Spit'n Image X9270 / ヘドン Heddon
ルアーデザインの巨匠ジェームズ・ゴーウィングが生み出した傑作 どの世界、どの分野にも名作を立て続けに生み出すクリエイターがいます。 小説家ならアガサ・クリスティやスティーブン・キング、映画監督なら黒澤明やフランシス・コッポラ...

スポットの比ではない大量のラトル

現在はこの特許案件の詳細まで確認できなくなっているので、形状以外の特許要件は確認できませんが、おそらくジェームズはファットボディの内部にラトルを封入することで、それまで存在しなかったワフーベイトを作りたかったのではないかと。(当時のワフーベイトはボニータを含め、ノンラトルの樹脂ソリッド構造がほとんどだった)

それゆえにラトルスポットミノーのラトルサウンドはハンパじゃありません。

内部に仕切りがない構造もあって、赤ちゃんのガラガラをゆうに上回るジャラジャラサウンド。

そんな大音量を撒き散らしながら水中を疾走するんですから、そりゃヤル気のある魚だったらソッコーバイトしちゃいますって。

超絶ハイピッチなタイトウォブリング

海洋仕込みアクション

そしてサウンドだけでなくアクションにも気合いが入っています。

気になる泳ぎはラインアイのやや後ろを支点としたタイトなウォブリング。

しかもかなりピッチが早いピリピリ系のエスケープアクションです。

その泳ぎが先述のワフーベイト譲りなのは、両者のヘッド形状を見れば分かりますね。

しかし単なるアクションの再現で終わらせないのがジェームズのスゴいところ。

なんとこのルアー、ある一定のリトリーブスピードを超えると途端に軌道が蛇行し始めます。

それはいわゆる ”千鳥るアクション” とは違う、もっと必死さが感じられる緊迫したもの。

ベイトフィッシュがプレデターに喰われまいと必死になって逃げ惑う、まさにRun for Their Livesな動きなのです。

ラトルスポットミノーのこの動きに似たルアーは何かなーとずっと考えてたら、ラパラのカウントダウンマグナムのアクションとソックリでした。

トローリング用だなんて一体誰が決めた?固定観念を越えた向こうにある桃源郷を堪能せよ ラパラ CD-11 マグナム Rapala CD-11 Magnum / ラパラ Rapala
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カウントダウンマグナムも元々トローリング用のルアーなので、似たコンセプトで開発されてたんでしょうね。

そう考えると、ボニータのヘッド形状がラパラやジョーブレイカーのリップ形状に似てるのは同じ着地点を狙ったからなんだと理解できます。

もちろんバスフィッシング向けの設定も

しかし海洋ルアーのメリットをそのまま淡水ルアーに移植してもすぐに使えるわけではありません。

そこでラトルスポットミノーでは浮力設定をスローシンキングとし、ボトムではしっかりピンコ立ちするセッティングに。

これにより21gという重量級でありながらオカッパリアングラーにも使いやすいシャロー仕様になっています。

しかもこの浮力がなかなかのもので、水流変化にも敏感に反応し、ご覧のようなユラユラアピールも出来ちゃうスグレモノに。

こういう芸の細かい仕込みはさすがのジェームズゴーウィング&コットンコーデル。

もうラトルスポットミノーは海洋ルアーをルーツとした、米国流オリハルコンの剣と言ってもいいぐらいの仕上がり具合なのです。

しかし欠点も

しかし良いところがあれば悪いところもあるのがルアーの宿命。

このルアーにもちゃんと問題が。

それは飛行姿勢が不安定で重さの割に飛距離が伸びないこと。

飛ばないだけならまだしも、キャスト時に回転することが多いのでなかなかストレスフルなのです。

ルーツがトローリング用ルアーなので、構造的にもバランス的にもキャスト向きではないのは仕方ないのかもしれませんが、広範囲に探れるのがリップレスクランクのメリットなのにそれを享受しきれないのはちょっと勿体ないなと。

とはいえルアーの回転はサミングである程度抑えられるし、25mぐらいは飛ばせるので人によっては不自由を感じる事はないかもしれません。

カラーは伝家の宝刀Gフィニッシュ

カラーはエビスコの代表パターンとも言えるGフィニッシュ。

この大味なソルト風カラーも不人気の要因のひとつでしたw

ちなみにGフィニッシュのGはグアニウムのGを意味します。

90年代にメガバスがフィーチャーして一躍トレンドワードとなったグアニウムですが、エビスコでは既に80年代にグアニウム色素に着目していたのです。

しかしこの塗装は塗膜が弱い上に劣化も早いという先天性疾患を抱えていました。

今回この記事を書くにあたりラトルスポットミノーの新品をおろしましたが、数回ボトムに接触しただけでこの有様。

更に、トップコートは全く問題ないのに、使っていくうちにまるで腐海に侵されたかのように輝きが消えいくという事象がほぼ全ての個体で発生します。

劣化したレーベルミノーのGフィニッシュ。

エビスコもこの状況は把握していたようで、90年代始めには改良されて劣化の発生度合いは ”幾分かマシに” なりましたがw

ちなみにカラーはこれ以外にホットタイガーやスモーキージョーなどの定番色もありましたが、コーデルの他のルアーに比べると圧倒的にカラー数が少なかったので、それも不人気で終わった理由のひとつでしょう。

フックは80年代エビスコの定番

フックは前後ともショートシャンクの#2サイズを採用。

80年代のエビスコルアーに多く使われていたラウンドベンド形状で、ジャンピンミノーは現行モデルでもこのタイプを採用しています。

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ラトルスポットミノーにはカドミウムフックを装着したモデルもありましたが、果たしてそれがソルト用モデルだったのかどうか詳細は不明。

レーベルやコーデルはルアー毎の仕様がまちまちで調べれば調べるほど迷宮にハマるので、実態が掴み切れないのです。

ちなみにリアフックを取って使うと、先述の蛇行アクションがより強くなります。

しかし高速リトリーブへの追従性は落ちるので、この辺はお好みでどうぞ。

プリントとモールドのダブルネーム

ネームはボディの両側に入っているコーデル流。

筆記体で書かれているのもコーデルらしくてイイですね。

アメリカでは筆記体がカリグラフィーという習字の世界だけのものになりつつあるので、今や貴重なネームと言えるでしょう。

てか今のメリケンキッズの中にはもうこれが読めない人もいるかもしれません。

一応ボディにはエンボスモールドでネームが入っていますが、Gフィニッシュのコートが厚いのでほとんど識別不能。

プリントと同様に、片側にRatt’l Spot MINNOW、もう片方にCordellと入っています。

入手はちょっと大変かも

そんなラトルスポットミノーですが、既に生産が終わっているため入手出来るのは中古市場のみ。

元々不人気だった上にロストしやすい性格もあって、タマ数が非常に少ないのが現状です。

更にGフィニッシュ特有の劣化の早さも相まって、程度の良いものを探すのはなかなかタイヘンな作業となります。

10年ぐらい前だったらキイロでも時々見かけましたが、今ではオールド系のショップじゃないと出会えない絶滅危惧種になってますので探すならそれなりの覚悟が必要です。

おわりに

SNSの普及により、使い方が分からないルアーはずいぶん少なくなりました。

しかしインターネット誕生以前のルアーの中には、謎のルアーがまだまだ沢山存在しています。

そんな迷える化石たちをボックスの奥から掘り出して、正解を探してみるのも楽しいですぞ。

 

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