2021年8月12日、ひとりの男があの世へ旅立ちました。
男の名はサミュエル・アスバリー・グリフィン。
サムグリフィンルアーズのファウンダーとして知られた彼は生涯を通してウッド製トップウォータープラグにこだわり、ルアービルディングのレジェンドとしてはもちろん、King of Topwater としても一目置かれる存在でした。
数多くの水面プラグを世に送り出したサムでしたが、その中でも特にお気に入りだったと言われているのがリルクリスと今日のゲストであるニッピンサム。
ということで、今回の千一夜はサムグリフィンへの追悼ポストとしてお届けします。
ニッピンサムとは
ニッピンサムはサムグリフィンルアーズが70年代終盤にリリースしたウッド製ダブルスイッシャーです。
レイクオキチョビのフィッシングガイドだったサムはガイド業の傍ら、1970年代中頃にリッジランナールアーズ Ridge Runner Lures のハードルアーディビジョンを買収し、サムグリフィンルアーズを立ち上げます。

出典:FTR Magazine 2017年9月号
デビュー作リルクリス Lil’ Chris に代表されるような、小ぶりなトップウォータープラグがもたらす効果の伝道師として名を馳せ、その流れでこのニッピンサムをリリース。
その後、次々とヒット作を出し、80年代中頃にはメジャーフロリダベイトブランドのひとつにその名を連ねるようになります。
しかし最新の技術(ギミックw)を売りに攻勢をかけてきた勢力の影響もあって、サムは1988年に一部のモデルの販売権をルーハージェンセンに譲渡。
それをきっかけにサムはルーハーの拠点である西海岸オレゴン州に移住するも、90年代中頃にルーハージェンセンが生産拠点をメキシコに移すのを機にフロリダに戻り、Custom Lures by Sam Griffin の新ブランド名と共にハンドメイド界に戻って来ます。
リルクリス/サミーシャッド/バスバフラー/ウォブルポップ/ジャーキンサム/ニッピンサムの6モデルの権利をルーハーに譲渡するも、Custom Luresブランドの下でもニッピンサムを作り続けていたという事からもサムのニッピンに対する思い入れの強さが窺い知れますね。

ニッピンサムのサイズ・重さ
ニッピンサムのサイズは全長58ミリ、自重3/8ozです。
兄貴サイズもラインナップしているので、スローテーパーロッドでゆるゆるポトンな釣りを楽しみたい場合はそっちをバディに選ぶという手もあります。


上がルーハージェンセン移籍前で下が移籍後。移籍後はノーズ形状がわずかに細くなってテール側がぼってりした印象。しかし首振り性能は移籍後の方が上。
ルーハージェンセン移籍後はノーズの形状がややシャープになっているなど、寿命の長いルアーのお約束でもある製造時期による違いも楽しめるのがセールスポイントのひとつだったりします。
ニッピンサムの特徴
ニッピンサムの特徴はこの寸詰りショートボディとその前後に配されたプロップです。
今やこのサイズのウッド製Wプロップベイトは希少種になりつつあるので、今でも一軍ボックスから外せません。
画像のものはプロップを交換してありますが、オリジナルはもっとショボいw打ち抜きペラでした。

真ん中がオリジナルのプロップ。ルーハー期のものとはサイズ、厚み、回転方向が違う。
前後ペラとも回転方向が同じなので連続ジャークするとボディが回転して糸ヨレが出易いのですが、これはジャークの度にボディがロールすることで生まれるカラー明滅効果を狙った ”敢えての” セッティング。
米国では巨大なシャッドボールに遭遇したらダブルスイッシャーを連続ジャークする “定石” めいたものがあるので、それに対応したルアーでもあるんでしょうね。
のんだくれはニッピンサムを日本流のネチネチ使いでしか投げないので、プロップは前後逆回転のカウンターワイズ設定で使っていますが、本来は同じ回転方向で使うべきルアー。
オリジナル至上主義アングラーに見つかったら怒られちゃいますねwww
アクションは小動物系の水絡み
アクションは典型的なショートボディWスイッシャーのそれ。
ロッドアクションに機敏に反応してちょこまかと首を振り、ショートジャークでジュブジュブ鳴いてくれる、W水車イメージのまんまの動きです。
しかし先述の通りのんだくれはネチネチ系でしか使わないので、回頭性能を上げるべく前後プロップをノーマルよりも重量のあるオーバル型に変え、喫水ラインを上げることでより水に絡むように手を加えています。
ノーマルプロップの場合、ちょっと軽めのジョワッ!というサウンドでスプラッシュを吐き、オーバルにすると低く籠ったジョブッ!という感じに。
この辺は好みの世界なのでどっちが良いかはアングラー次第でしょう。
ニッピンサムの使い方
シャッドのいない日本では連続ショートジャークで使うケースはあまりないので、短く刻む感じで動かすことの方が多いかも。
護岸ギリギリやオーバーハング下に放り込んだらロングポーズののちにワンアクション。
そこで出なければ20センチづつ刻むようなイメージで小さくジュブッ!と鳴かせて首振りを入れるなどスローに落水した小動物を演じさせることが多いです。
というかほぼそれでしか使いません。
なぜなら連続したジャークアクションで食わせたいなら、デビルスホースに代表されるような細身ボディのスイッシャーの方が波の影響を受けにくくフッキングも良いので、ニッピンサムには落水小動物のマネに徹してもらいます。
…..と書くとなんかそれっぽく聞こえますが、ぶっちゃけこの使い方でかなりイイ思いをしているので、その成功体験の呪縛から逃れられないだけなんですが😭
独自のテイストを持つ”グリフィン”カラー

Ol’ Bassカラーのニッピンサムとバスバフラー
このカラーはサムグリフィンの人気カラーだったオールドバス Ol’ Bass。
初期サムグリフィンのどのモデルにも必ず設定のある、定番中の定番カラーです。
幾何学的なバスパターンと愛らしい大きな黒目はいかにもサムグリフィンですね。
サムは制作の全工程を自身で行なっていたため、晩年になるとシンプルなカラーリングしかできなくなってしまいましたが、それを補うかのようにヘビ皮のモデルを追加するなど、カラーリングに対するハングリー精神は衰えていませんでした。
いつだったかサムとメールでやり取りしたことがありましたが、カスタムカラーにも積極的に対応する姿勢を見せていたことから、レジェンドとしての誇りもあったんでしょうね。
その誇りの表れなのか、サムグリフィンのルアーはサイン入りが大量に出回っていることでも知られています。
フックは防錆#4サイズ
フックはロングシャンクの防錆カドミウム#4サイズを採用。
デフォルトのままでも特に不満を感じないのでこのまま使っています。
でもバーブを潰しておくのとしっかりホーニングしておくのは必須事項なのでお忘れなきよう。
ニッピンサムのネーム
残念ながらこのニッピンサムにはネームは入っていません。
しかしルーハージェンセンに移籍してからは画像のようなスタンプネームが入るようになったので、ここが新旧の見分け方の一つにもなっています。
でもサムグリフィンのルアーはどれも独特の個性があるのでネームがなくても物足りなさを感じさせない ”何か” が備わっているような気がします。
実際のところは一人家内工業でやってるんだからいちいちネームなんて入れてられるか!といったところでしょうけどw
ちなみにニッピン Nipping とは 何かを強くつまむ動作を表す言葉なので、この場合は水を強く絡め取るようなニュアンスでしょうね。
おそらくサウスベンド/エバンス/ルーハーのニップアイディディ Nip-I-Diddie のニップと同じ意味合いでしょう。

おわりに
先に述べた通り、このサイズのウッド製ダブルスイッシャーは日本の水面系ブランドもやらなくなったので、貴重な存在になりつつあります。
さらにサムの逝去により中古市場での流通量も減る一方なのでこの先は入手も困難になってくることでしょう。
このルアーでなければダメ!という状況があるわけではありませんが、キングオブトップウォーターのDNAが息づいているルアーなので、水面フィッシングの楽しさを再認識するにはこれ以上ない教材ではないかと。
特にSNSにデカバスの写真を挙げることに疲れ果ててしまった系のアングラーには使って欲しいなと。
最後に生前サムが遺した文句に深いのがあったので置いておきます。
” If you want to get a bite, just look away for a sec. (バイトが欲しいなら、ちょっとだけルアーから目をそらしてごらん)”
この言葉って、釣りだけじゃなくてジンセイにも当てはまると思いません?