ケンクラフトのルアーの中でも特殊な存在だったハリーズ
ケン、フィッシュオン!
日曜日の夕方、このナレーションにテンションを上げたおっさんは数知れず。
90年代、バスフィッシングブームの波に乗った独自の展開で業界に大きな影響を与えた上州屋のプライベートブランド、ケンクラフトは日本のバスフィッシングの変遷を語る上で外せない存在です。
ケンクラフトは爆発的な売れ行きを記録したバスパーやリニージクワイアットなど数々の名品を残しましたが、その中でも特殊な存在だったのがこのハリーズクランクベイトです。
ランバーファクトリーシリーズの第一弾として発売されたハリーズ
ハリーズは1997年にランバーファクトリーシリーズの切り込み部隊として発売されました。
“製材所” という名が表す通りウッド素材を使ったルアーで展開したこのシリーズは、後にシャッドのシャドウズ、ミノーのブルックなど複数のタイプが投入され、リニージシリーズと並んでケンクラフトを代表する一大シリーズに成長します。
ハリーズHR-3のサイズ・重さ
ハリーにはHR-1からHR-3まで3つのサイズがラインナップ。
画像のものは最大サイズのHR-3。
全長80mm、自重18.5gというサイズは、”当時としては” 比較的大きなルアーでした。
“バグリー製”にまつわる謎

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このルアーを語る時に必ずセットで言われているのが “上州屋がバグリーに作らせたルアー” という有名なキャッチフレーズ?です。
このルアーをバグリーが作ったのは紛れもない事実なんですが、実はこの謳い文句、当時のプロモーションや雑誌広告などでは一切使われていなかったようです。
過去の雑誌をひっくり返してみたりもしましたが、バグリーのバの字も出て来ませんでした。
上州屋としてはOEM(Original Equipment Manufacturer)の関係性まで公表する必要はないのでバグリーの社名を出さなかったんだと思いますが、かつて上州屋のスタッフだった人曰く、バグリーサイドとやり取りしていた現場スタッフからこのエピソードが出てきたらしいので、いわゆる裏エピソード的なものとして一般に拡散されたんでしょうね。
あのバグリーが作った!となるとバスアングラーなら誰でも興味を引かれますもんね。
でもここでギモンが残ります。
なんでケンクラフトはセールスの切り札ともなるバグリーの金看板を積極的に利用しなかったんでしょうか。
バグリー製だがバグリーのクランクとは全く違うアクション特性
その謎を解く鍵はハリーズのアクションにありました。
ハリーズ HR-3に最も近いのがバグリーのダイビンBシリーズの長兄DBIIIですが、実際に比較してみると、この二つのモデルは比較対象にもならないくらいの別物なのです。
ハリーズはDBIIIに比べて圧倒的にスリムで、リップのリーチも長いし、テールエンドの細さも比較にならないぐらい違うのがわかります。
当然ながら泳ぎも全く違うタイプのものとなっており、典型的なブリブリアクションのDBIIIに対してハリーズは、ピッチの早い超タイトなウォブルロール。
その泳ぎを一言で言うならば、”メタボなシャッドラップ”
泳ぎ出しこそもっさりしてちょっとストレスを感じますが、一旦泳ぎ出せば、従来のバグリーのクランクベイトには存在しなかったピリピリとした緊張感のあるエスケープアクションを披露してくれるんです。
さらに、リトリーブを止めた時の浮上速度はバルサ素材ならではのUボート級なので、スリムなボディシェイプと相まって、止めても急速浮上エスケープアクションが演出できるというオマケもついてきます。
こりゃバグリーのクランクベイトと同軸上で比較するのはナンセンスってやつですね。

ケンクラフトのマーケティング戦略がそうさせた?
これはのんだくれの勝手な妄想ですが、おそらくケンクラフトはバグリーのクランクベイトが持つブリブリとした泳ぎのイメージをこのハリーズに持たれたくなかったので、あえてバグリーと言う金看板を掲げなかったのではないかと。
事実、のんだくれの周りでもこのハリーズがバグリーメイドだからと購入したアングラーが複数いたのですが、その誰もが “なんかバグリーとは違う” と評していました。
今思うと、ケンクラフトは端っからバグリーのクランクとは違う路線を狙っていたので、バグリー製クランクベイトという先入観を持たれたくなかったのではないかと。
皆さんはどう思います?
名だたるクランク達に搭載されてきたレキサン樹脂リップ
そんなピリピリエスケープアクションを作り出しているのはこのリップです。
裏側に肉が盛られたリブの構造などからバグリーのものと同じダイメンションに見えますが、実はこのモデル専用に作られたカスタムメイド。
DBIIIのリップは厚みが1.4mmなのに対してハリーズは1.3mmと少しだけ薄くなっています。
リップが薄くなった分、慣性モーメントも小さくなってタイトな振り幅になってるのかなぁ… などと知ったかぶりをしてみたり。
余談ですが、バグリーも採用していたこのレキサン樹脂リップは適度な弾性を持っていて軽くて割れないと定評があり、このリップを製造していた会社はリーシッソンやスタンフォードなど数多くのクランクベイトメーカーからも絶大なる信頼を集めていました。
しかしその会社は2014年ぐらいに操業をやめてしまって、同等のパフォーマンスを持つリップはもう手に入りません。
見た目がほぼ同じの中国製が出回っているようですが、米国のコアなクランクベイトビルダー達は “中国製はゴミだ” と口を揃え、全米の在庫を探し回ったというエピソードがあります。
たかがリップ、されどリップなんですね。
諸刃の剣だった特注3Dアイ
ハリーズはオリジナルの3Dアイを使うことでも独自性をアピールしています。
マンガちっくな寄り目にイエローを入れるという手の込みよう。
当時はバスフィッシングブーム真っ只中で初心者や女性アングラーも急増していたので、可愛さを武器に従来とは違うマーケットを開拓したいという思惑が見え隠れ。
しかしこのポップな3Dアイを装着したことでビギナー向けというイメージが強調されてしまい、ハリーズを敬遠した層が居たことも事実。
いやー、マーケティングはホント難しいですねー
当時は不人気だったベアバルサカラー
下地のバルサが透けて見えるベアバルサ(=剥き出しのバルサの意)仕様のクロウフィッシュカラーはランバーファクトリーのイメージカラー。
当時はシャッド系やファイヤータイガー系のカラーがトレンドだったので、このカラーは不人気の筆頭でしたね。
確かにこの色はザリガニ系ですよと言われても、ピンと来ませんもんね😁
でもバルサ50のタヌキカラーのように、いつかこれも中古価格が高騰するかも… 無いな。ナイナイ。
フックハンガーはバグリーの伝統を継承
リギングはバグリーの定石に従って、フロントがウェイテッドハンガー、リアがヒートンになっています。
装備されたフックは当時のトレンドでもあった化学研磨のライトワイヤー仕様である事を考えると、このシリーズのアッセンブリーは日本で行ってたんでしょうね。
つまりボディだけをバグリーから受け取って、仕上げとパッケージングは日本でやるというアレ。
その方がアメリカからの輸送コストも大きく削減できますからね。
そういえば先ほどからバグリーで作ったと連呼してますが、厳密にいうとこれはバグリーではなく、バグリーの子会社であるクラスタックル社が作ったもの。
クラスタックルはETもどきやスムーもどきを連発していた謎の会社として知られていますが、実はこのランバーファクトリーシリーズのOEMを請け負うにあたり新たに設立された会社なんです。
つい最近、Facebookで当時の社長マイク・ローガン Mike Roganと繋がり、何度かやり取りするうちにこの事実がわかりました。
彼から聞き出したクラスタックルについての話をはじめるとエンドレスになるのでそれは又の機会にしますが、ここで言えることは “ケンクラフトからの注文は新会社を作るほどのビッグオーダーだった” ということ。
当時の上州屋がどれだけの勢いを持っていたのかがわかるエピソードですね。

ハリーズの名前は一体どこから?
肝心のネームプリントは背中に Harry’s、腹側に KEN craft HR3 のダブルスタンプ仕様。
スタンプの位置が個体によってまちまちなのがいかにもアメリカンメイドって感じですね。
しかしこのハリーズの Harry って一体誰なんでしょうか。
もしかしてバグリーの名をパロったとか?
のちにコレクターズアイテムを生み出すことになる刻印入りリップ
ネームといえばリップにもしっかりケンクラフトの刻印が入っています。
このリップは末期のバグリーのプロパー商品にも一部流用されており、流通量は少ないながらボディ側のネームはバグリーなのにリップはケンクラフトというダブルネームを持つ個体も生み出しました。
これについてマイクは、当時のバグリーは80年代のようなクオリティを徹底管理する能力を持ち合わせていなかった、と語っています。
バグリーの黄金時代を知る者にとっては悲しい事実ですが、会社の権利が売買されるのが普通のアメリカでは創業者の理念を貫き通す方が難しいですからね。 ある意味仕方のないことなのかもしれません。
時は流れ、コレクターの間でダブルネームのタマが高価取引されているのも皮肉としか言いようがありませんね。
まとめ
バスフィッシングバブルの真っ只中で登場したバグリーとケンクラフトの共同作品、しかも今となってはバグリーはラパラのDNAを注入され、ケンクラフト自体も消滅しているなど時代も大きく動き、このハリーズは貴重な存在に。
しか出回った数が多かった事もあり、今でも入手は容易なので、気軽に超タイトなピリピリアクション&急浮上エスケープアクションが楽しめます。
気になった方は是非入手して、今はなき90年代のテイストを感じてみてくだいな。