日本には独自の進化を遂げたトップウォーターフィッシングスタイルがあります。
それは山田周治氏や則広祐氏らが70年代に提唱したスロー&ステディと呼ばれるコンセプトを源流とし、幾多の変遷や枝分かれを経ながらも現在のインディーズまで脈々と受け継がれている水面フィッシングスタイルのこと。
”ジャパニーズトップウォータースタイル” というワードだけでそれを理解してくれるアメリカ人が数多くいる事や、デッドスロー使いの国産デカハネルアーが米国内で販売されているという事実は、それが単なる極東の島国のローカルメソッドなどではなく、ひとつのムーブメントとして認知されている証と言ってもいいでしょう。
しかし同じようなコンセプトがアメリカ国内に全く存在していなかった訳ではありません。
それを明確に表現する言葉がなかっただけで、その概念を具現化しているルアーは昔から数多く存在していました
今日のゲスト、トップウォーターRRPもそのうちの一つ。
”ダメおやじ” の愛称で呼ばれるラブルルーザールアーズが放った、最狂にして最強の水面オモチャです。
トップウォーターRRPとは
ラブルルーザールアーズは退役軍人であり弁護士だったダグラス・パーカーが晩年に立ち上げたルアーブランドです。
数多くの公的機関の長を歴任し、テキサス州フォートワースの盟主として知られる彼がリタイア後の趣味の延長で始めたビジネスだったようですが、持ち前のビジネスセンスを発揮してラブルルーザーをメジャーブランドに育て上げます。
ラブルルーザーはアイデンティティでもあるバグアイ Bug-Eye など10以上もの特許を取得していたことは有名な話です。
そんなラブルルーザールアーズはクランクベイトやテールスピンジグなどあらゆるルアーをリリースしていましたが、その中でもトップウォータールアーはバリエーションも多く、ダグラスの思い入れが感じられるラインナップでした。
そしてその中でもヤル気が漲っていたのがこのトップウォーターRRPでした。
トップウォーターRRPのサイズ
トップウォーターRRPは全長80ミリ、自重12gの中型トップウォーター。
今でこそ ”中型” ですが、70年代当時このルアーを見た時は大きく見えたもんです。
このトップウォーターRRPにはテールのプロップが無いルーザートップウォーターという親戚がいて、両者の違いはプロップの有無だけかと思われがちですが、実は全くの別物。

同じボディに全く違う性格を宿らせるあたりに、ダグラスの水面フリークっぷりが見え隠れしていて、思わずニヤリとしてしまいますね。
キモは特異な形状のカップ
このルアーのキモはなんと言っても個性的なカップ形状です。
当時取得されたパテントがすでにイクスパイアしているので、上顎部を大きくえぐり取ったカップにどんな意図を託したのかは分かりませんが、前につんのめる様なダイブアクションとそれに伴う独特のチャグサウンドを見る限りこのカップはちゃんと役目を果たしているようです。
そんなカップに負けてたまるかとしっかり仕事をこなすのが、テールに装備されたこのプロップ。
どこにでもある汎用プロップなのですが、ボディとの相性バッチリで実にいい仕事をしてくれます。
このプロップをひとことで表すと、”良くも悪くも回転しないプロップ”。
しかしその回らないという特性が、このルアーの良さを引き出してくれているのです。
回らないプロップは働き者

目の中心線にぴったり喫水線が合ってるのは意図したもの?それとも単なる偶然?w
約45度の浮き姿勢からチョンとやるとRRPは素早く頭を下げてダイブするのですが、この際テールを跳ね上げるような挙動を見せるので、プロップが水面から飛び出てスプラッシュを生み出します。
しかしそのスプラッシュはプロップの回転によるものではなく、回らないプロップの水抵抗によるポッパー的なもの。
そしてそのプロップが生み出す水押しのパワーがハンパないのです。
さらにプロップの重みですぐに元の姿勢に戻るので移動距離を短く抑えてくれるのです。
かつて道楽の山根氏が雑誌インタビューで回らないプロップの有効性を説いていました。
詳しい文言は忘れましたが要約すると、プロップは回ればいいというものではない。回りにくいプロップは逆の見方をすればそれだけ強く水を押しているんだ、と。
それが生み出す効果が実際どのくらいのものかは魚に聞かないとわかりませんが、”水を押す” という事実だけであればこのRRPのプロップは間違いなくイイ仕事をしています。
トップウォーターRRPの使い方
このルアーの使い方は超カンタン。
着水後ポーズのあとゆっくり巻くだけでオッケー。
水面に引き波が出るぐらいのスピードでフラフラ巻いていれば結果が出ます。
もちろんここぞというところでポーズを入れたりガボンとやったり動かし方は自由ですが、このルアーの強みは最新の水面ルアーにはないもっさり泳ぎだと思っているので、あまりガチャガチャ動かさないのがのんだくれ流。
巻いてるだけでオートマチックに釣れちゃうという意味ではとてもアメリカンだけど、日式スロー&ステディにもしっかり対応できるという器用さではジャポネちっくなルアーだなと。
バグアイ無くしてラブルにあらず
そしてラブルルーザーといえばこの目ですよ。
他のルアーにはない独特の圧を感じる目ですが、専用のパーツを作るなどコストも手間もかけているあたりにダグラスの並ならぬパッションを感じます。
そしてこのクロスハッチパターン。
レーベルやビルノーマンのそれと比べるとちょっと雑な感じがしますが、それもまたヨシ。
このクロスハッチはソリッドブラックのボディに黄色の目という超シンプルな色の組み合わせの中のアクセントになってくれてますね。
フックは旧式クローポイント
フックは多くの80年代ルアーに採用されていた、ややゲイプが開いたクローポイントの#4サイズを使用。
70年代のストームはこれのシルバークローム版を採用していましたね。
今風のフックに交換するとルアーの雰囲気がガラッと変わってしまうのが難点といえば難点ですが。
のんだくれは何がなんでもオリジナル派ではありませんが、この手の釣りは雰囲気も含めて楽しむものなので、スペアが手に入らないのは寂しいですね。
フロントのフックハンガーにはエイトリングを使用していますが、リアはプロップ装着の関係でヒートン方式に。
ルーザートップウォーターはリアもエイトリングになっているあたりを見ると、もしかしたら両者は内部構造とかも違うのかもしれません。
残念ながらネームはなし
残念ながらラブルルーザーのルアーにはネームプリントはありません。
ご覧の通りハラにはこれでもかと言わんばかりに盛大なパーティングラインがあるのみです。
強烈なインパクトを持つその目がブランドのアイデンティティでもあったので、名前なんか要らんということでしょうw
その意思の表れなのか、このブランドのルアーはそれぞれ名前こそあるもののパッケージによって表記にゆれがあるなどイマイチ一貫性に欠けるところもあったりします。
まあそういうところがあるから長きにわたって愛されているんでしょうけどね。
ちなみに名前のRRPはRouble Rouser Propの頭文字。
このブランドのルアーは名前にこだわりがないせいか、力が入っていないのが多いイメージですね。
まとめ
生産が終わってかなりの年月が立っていることや、B級ルアーファンにはたまらない造形などもあって、入手するにはそれなりの対価を覚悟しなければならないルアーですが、スロー&ステディスタイルが好きなアングラーならば持っておいて損はないでしょう。
こういうオモチャ感のあるルアーで釣るのは別格の楽しみがありますから、仕事中に思い出してニヤニヤできる回数が倍増すると思えば安いもんではないかと。
気になった人は是非探してみてください。
ということで最後にこのルアーの水中動画を置いておきます。
このもっさり泳ぎで何かを感じてくださいな😁