ルアーの”循環サークル”から外れてしまった存在
発売されたばかりの最新ルアーでも、その元を辿っていくとそのアイデアや形状は1950年代までに出ていたと言われています。
つまり我々が毎日ハァハァしてるルアーは、例えそれが “最新” を謳っていても既存のアイデアの焼き直しである、ということ。
アイデアの焼き直し自体はフィッシングインダストリーの中で無数に繰り返されてきたことで、それがあるからこそ釣りの楽しみが増えているので決して悪いことではありません。
流行ファッションが時代とともに巡っているのと同様に、ルアーの流行りも100年以上前から何度も何度も循環しているのです。
しかし中には、その循環から弾かれてしまったかのように、ほとんどの人からそっぽを向かれている形状も存在します。
今日紹介するシェクスピアのスイミングマウスは、そんな循環サークルから外れてしまったものの一つです。
デビューから100年経つも未だ衰えないその威力
スイミングマウスのデビューは1920年代の中頃だと言われています。
このスイミングマウスの売れ行きは相当なものだったようで、ルアーブランドとしてもシェクスピアの名を世に轟かせることになった立役者です。
そんな大ヒットの理由は一言、”釣れるから” 。
はっきり言ってこのルアー、今でもめちゃくちゃ釣れます。
しかし、ちょっと間の抜けたルックスが災いしているのか、先述の循環サークルに乗せられることもなく、ただただヴィンテージのカテゴリーに収まり続けているという、ちょっともったいない、いや、ある意味稀有な存在なのです。
スイミングマウスのサイズ、バリエーション
スイミングマウスのサイズは 80mm、26g。
これは#6578と呼ばれているモデルですが、個体や製造時期によって大きさに微妙な差があって、それぞれに個性があるのがイイところ。
これがアンティーク系ルアーのヤバいところですけどね😁
ちなみにスイミングマウスには#6580という弟サイズも存在しました。
1930年頃の販売価格は85セントだったようで、今の価値に換算すると大体1000円弱ぐらいでしょうか。
よってこの価格帯のルアーを気兼ねなく使えたのは、それなりに余裕のあるアングラーだった事が分かります。
計算され尽くしたスイミングマウスのボディ形状
このルアーの最大の特徴は斜めにスパンと切り落とされたヘッドと、その下に誂えられた小さなカップ。
そして先端に近いところに設置されたラインアイです。
ダーターのフォルムなのにクランクベイトの要素を持っていたりと中途半端な上に、全く釣れるオーラを感じないお間抜けな表情ですが、実はこの形状は計算され尽くされていて、トンでもない代物なのです。
スイムベイト的な艶かしさを持ったクランクベイト
ほぼ水平浮の状態からリトリーブを始めると、スラントしたヘッドに水を受けて水面直下で艶かしくボディを揺らします。
強い浮力を持て余しながら大きな引き波を出してねっとりと泳いでくれるんです。
そして水の抵抗を捌ききれなくなったカップが時折不器用に空気を噛むので、不規則でなんとも生き物っぽいんです。
それはまさに泳ぐネズミ。
そのまんまネズミです。
その動きはリップの水抵抗で泳ぐ一般的なクランクベイトとは違い、ヘッドも含めたボディ全体で動きを作り出すというバスオレノ系の泳ぎなんですが、バスオレノとの決定的な違いはテールを大きく振る事。

ラインアイが先の方についているので動きにキビキビ感はなく、どちらかというとスイムベイト的なヌメッとした動きで、不規則ながらもちゃんとテールを振ってくれるのがこのスイミングマウスの最大の特徴なのです。
ここまで読んでもうお気づきの方もいると思いますが、実はコレ、ビッグバドの泳ぎなんですよね。
つまりブレードの付いていない木製のビッグバド。
ビッグバドはリップが生み出すパワーによって大きくウォブリングするので、アクションの特性はちょっと違いますが、魚を寄せる要素では同類だと思います。
バド使いの間で共通する意見として、”ビッグバドはブレードが無くても普通に釣れる” というのがありますが、このスイミングマウスはビッグバドをウッド製にして、さらにヌルッとしたスイムベイト的挙動を足した感じ。
そりゃ釣れて当たり前ですよね。
リップだけでなくボディシェイプにも秘密が
そしてこの流麗なボディラインもルアーの泳ぎのキモとなっています。
ボディの中間を一旦絞ってケツにボリュームを出す=浮力を持たせることで、潜りたくても潜れない挙動と同時に強い水押しアピールを実現しているんです。
実はこの手法は、形状こそ違えど気づかないところでいろんなルアーに使われていたりしますので、自分のボックスの中でも探してみてください。
このコンセプトを割と分かりやすい感じで取り入れてるのはかつてイマカツからリリースされていたカズラでしょうか。
のんだくれはカズラのテールに付いてるブレードとプロップがあんまり好きになれないので実釣版では取っ払っちゃってますが、ラインアイの位置といい、くびれたボディといい、スイミングマウスと同じ系統だとニラんでます。
カズラはあのギミック満載の外見からキワモノ認定を受けてしまっていますが、あれは色々ヤバいルアーですぞ。
シッポにもひと手間かける念の入れよう
テールには申し訳け程度のシッポがついてます。
一見ただのヒモにしか見えませんが、実はかなりしっかり編み込まれた木綿?を使ったヘビーデューティな仕様。
コレはお飾りなので、有っても無くてもどっちでもイイと思うんですが、マウスという名前だけにこのシッポがないのはちょっと寂しいですね。
そういえば昔、シッポを引っこ抜いてヒートンを打ち込み、ブレードやスカートを試した事がありますが、どれもスイミングマウス本来の動きを殺しただけに終わってしまったので、ここはイジらない方がよろしいかと。
ちなみにシェクスピアはのちに権利を買い取ったパウパウ Paw Paw ブランドからもスイミングマウスをリリースしていますが、パウパウマウスのテールはヒモではなくフェザーになってるので判断の目安になります。
もちろん手作りのグラスアイを装着
お飾りといえば、スイミングマウスのアイには手作り感満載のグラスアイが装着されています。
この時期のルアーは個体によって黒目のサイズが違ったりするので、そこも重要な萌えポイントの一つ。
アイ自体はしっかり深いところまでピンが刺さってるのでよっぽどの事がない限りは抜けることはありませんが、修復パーツがないので万が一抜け落ちたりすると悲鳴をあげることになります。
フックサイズを変えることで使い分けも
フックは前後ともにイーグルクローでフロントが#2、リアには#4を装着していますが、デフォルトの状態では前後とも#4が装備されています。
フロントをサイズアップしたのはやや前傾の浮き姿勢が欲しかったからで、リトリーブメインで使うのでなければデフォルトのままの方が捕食音も出しやすいと思います。
ただこの年代のルアーはヒートンが錆びて腐ってる事が多いので、フック交換の際には細心の注意が必要。
のんだくれは過去に何度もヴィンテージルアーのヒートンをポリッとやらかして涙で枕を濡らしたことがあります😂
まとめ
外見がマウスに見えるのかどうかはさておき、今後この形状のルアーがリリースされることはセールスの観点から言ってもないでしょう。
しかしこれらの何世代にも渡って売れ続けたルアー達には、見た目を超越した “何か” が隠されているのは紛れもない事実。
ミタメニフリマワサレズ
ルアーノホンシツヲミキワメラレル
サウイフモノニワタシハナリタイ (自戒😭)
オマケ:かつてスイミングマウスを復刻させたメーカーが日本にあった
この形状のルアーはない!と先ほど断言しましたが、実はマイナーながらもちゃんと出してくれた会社がかつて存在しました。
その会社の名はホッツ。
バスフィッシングブームの際に ” わがままPUUちゃん ” なるルアーを発売していた、あのホッツです。

ホッツが販売していたわがままPUUちゃん
今は完全にソルトブランドに転身してしまいましたが、ホッツは当時シェクスピアの承認を取ってまでこのスイミングマウスを復刻していたんです。
“GENUINE (正規の)” というステンシルが誇らしげですが、おそらくこのルアーの企画担当者はこのスイミングマウスの形状の威力を知っていたんでしょうね。
そしてどうにかしてこの形状にオリジナリティを加えて出したかったんだろうなと。
でもルアーの形状を突き詰めて行くと、最終的にどうしてもこの形になってしまうので、だったらいっそのこと許可取って復刻したれ!となったのではないかと。
じゃなかったら、わざわざ許可まで取って復刻なんてしませんよね。 コストも時間もかかるんだし。
どーです?のんだくれの相変わらずの勝手な妄想😂