人間は見た目で判断するイキモノです。
その傾向は人間に対してはもちろん、物に対しても表れます。
そしてその判断は往々にして間違っていることも。
今日のゲスト、ヘルベンダーはまさにそんなルアーのひとつです。
ヘルベンダーとは
ヘルベンダーは今はなきホッパーストッパー社が1958年にリリースしたダイビングクランク。
ホッパーストッパーは、ボーマー社のボーマーベイトが異常とも言える大ヒットを記録したのを見たジョディ・グリッグJodie Grigg が ”あんな物だったらオレにも作れる” と立ち上げた会社です。
創業当初の製品はいわゆるボーマーベイトと同様のバックランナータイプの木製ルアー、その名も ”ホッパーストッパー” のみで、当時星の数ほど存在したボーマー社のフォロワーのひとつに過ぎませんでした。

1950年代中頃のホッパーストッパー広告。ブランド名の横に “A Division of DURABLE PLASTIC Inc.(デュラブルプラスチック社の一部門)” の表記が確認できる。
しかしホッパーストッパー社はボーマーよりも早く、当時最新素材だったテナイト樹脂によりホッパーストッパーのプラスチック化に成功したことで本家を凌ぐヒットとなり、あっという間にメジャーブランドの仲間入りを果たします。
その後、改良によってテナイト樹脂の弱点だった強度の低さを克服し、その成長曲線を更に上向きにすることに成功。
時期を同じくして”ホッパーストッパー”をルアー名からブランド名に格上げし、新たな社名として ”デュラブルプラスチック(強靭なプラスチック)社” を名乗ることに。
このいかにもな社名は、プラスチックへの移行で遅れを取ったボーマーに対するマウント的な意味合いもあるんでしょうねw
そんな資金にも技術にも恵まれたホッパーストッパーが満を持してリリースしたヘルベンダーは前作以上のスマッシュヒットとなり、のちにヘドンに買収されるまでホッパーストッパーの屋台骨を支えていたのは御存知の通り。
そして70年代に数多く生産されたジャパチルアーのネタとしても確固たるポジションを築きました。

ヘルベンダーのサイズ
今回紹介するヘルベンダーは四兄弟の三男にあたるミジェットヘルベンダー。
カタログ上では全長90ミリ、自重1/2ozとなっていますが実際のウェイトは10gしかないというお約束のアメリカンスケールw
しかしこの ”適度な”ウェイトは当時の日本のフィールドにもマッチし、日本でも大ヒットとなりました。
当時はティムコが輸入代理店を担当していたのでお世話になったおっさんアングラーも多いことでしょう。

1986年ティムコカタログより
参考までにヘルベンダー全サイズの仕様も置いておくので、酒の肴にするなりオカズにするなりご自由に。
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特徴
ホッパーストッパーのアイデンティティ、ハート型リップ
ヘルベンダーの特徴はなんといってもこハート型リップ。
ウッド製の頃からホッパーストッパーのアイデンティティでもあったこのシェイプは何が何でも受け継がなきゃならんポイントでした。
のちにクラップシューターへと受け継がれるくびれボディ
そしてこのくびれたウェストを持つボディラインも忘れちゃイケマセン。
このデザインは元々ボーマーのウォータードッグに対抗したデザインでもありますが、後にこれまた大ヒットとなるクラップシューターにも受け継がれることになります。

ヘルベンダーとクラップシューター
クラップシューターが登場する頃(1979年)には本家ボーマーのウォータードッグは消滅していたので、ヘルベンダーは本家を食ってしまった事に。

ボーマーのウォータードッグ。二段くびれボディとラウンド形状リップが特徴
ボーマーがアルファベット戦争に集中しているスキに一気にヘルベンダーのシェアを拡大してウォータードッグを駆逐するなんてなかなかの策士ですよね、ホッパーの社長はw
アングラーをも惑わせるピラピラブレード
そしてテールのブレードもヘルベンダーの大事な要素のひとつ。
いい意味で回転しにくいブレードは小さいながらもちゃんと水を撹拌し、バスの側線はもちろん、アングラーの股間をも刺激します。
当時はまだベアリングスイベルが一般的ではなかったのでブレードとの接続には旧式のヨリモドシを採用していますが、回転しにくい事でアクションの妨げにもならないので、結果的にこれがベストセッティングだったと理解できます。
ちなみにヒートンにかぶせてあるカップはブレードとリアフックの干渉を防ぐものですが、このカップは80年代後半からヘドンに買収されるまでの最後期モデルにのみ採用されているもので、それまではサイズに関わらずカップ無しが標準。
昔読んだヘルベンダーのデザインについての雑誌記事で社長のジョディは ”ヘルベンダーの設計は4回変更されている” と語っていました。
このカップ装着がそのうちの一つなのかどうかは分かりませんが、当時の日本ではなかなか知ることが出来なかったストーリーをこうして拾っていけるのはルアオタ冥利に尽きますね。
アクションはハイピッチなウォブリング
シリーズ中最も釣れ筋のミジェット
気になるアクションはピッチの早いウォブリング。
いわゆるアメリカンクランクの大振りアクションのイメージとは正反対のタイトなピリピリ泳ぎで、見た瞬間、あーコレ釣れちゃうやつじゃん!となるのは必至。
もちろんサイズによってピッチレートは違いますが、四兄弟の中でこのミジェットサイズのアクションが一番釣れちゃう系と言えるでしょう。
そういう意味では、このサイズをメインに日本に輸入したティムコの目利きは正しかったんじゃないかと。
ディープダイバーだと思ったら大間違い
しかしこのルアーには落とし穴があるのです。
そうです、メタルリップを装備している上に、メーカーカタログに ”ディープダイバー” と謳われたことでアングラーに大きな誤解を与えてしまっているのです。
クラップシューターが登場した際に、”シャローランニングヘルベンダー” というサブネームが使われたこともその誤解に拍車をかけてしまいました。
実はこのミジェットサイズが真の威力を発揮するステージはディープではなく、水深1m未満のシャローなのです。
もちろんディープで使っても釣れるのですが、ちょっと視点を変えるだけで爆発的に釣れるようになるんです。
その使い方は、春にネストが出来るような水通しの良いシャローボトムをスローに巻いてくるだけ。たったこれだけ。
先の表にもありますが、このミジェットサイズの潜行深度はカタログ値で15ft(4.5m)となっていますが、実はこれはトローリングでの潜行能力。
キャスティングでの潜行深度はせいぜい2m前後がいいところ。
しかしこの浅めのダイブ性能とやや強めの浮力がシャローフラットとの相性バツグンなのです。
岩が点在する小石混じりのシャローボトムを小突きながらゆっくり巻くと、時々リップの先を支点としてでんぐり返しするような挙動を見せるのですが、この時にバイトが出やすいのです。
もうお気付きの方もいると思いますが、このシャローでのスローリトリーブ&でんぐり返しアクションはマドバグの十八番。

つまりこのウォータードッグはマドバグのスリムバージョンでもあるんです。
ハート型の大型メタルリップだからこそボトムをスローに小突けて、そして障害物に当たっても横に逃げずにでんぐり返しできる。
これはマドバグのメリットそのままなんです。
釣れないワケありませんよね。
このでんぐり返し挙動はラウンド形状リップのウォータードッグでは出来ないので、ヘルベンダーならではのものと言えるでしょう。
実はこれが今回言いたかった ”ディープっぽい見た目に気を取られてると気が付かない” という落とし穴。
先入観に囚われてばかりいると、自らルアーの可能性を殺してしまうという好例なのです。
クラップシューターとの違い
でもシャローでも使えるんだったら、もうクラップシューターなんて要らなくない?というギモンも湧いてきますよね。
しかしヘルベンダーとクラップシューターとでは動きの特性が全く違うので被るポイントはひとつもありません。
両者は障害物に当たったときの挙動が明確に違うのです。
ヘルベンダーがでんぐり返しなのに対し、クラップシューターは典型的なスクエアビルのそれ。
岩などに当たるとするりとヒラを打って躱し、その後すぐに姿勢を戻して泳ぎ続けます。
これはヘルベンダーが遊動ラトル方式なのに対し、クラップシューターは固定チャンバーの低重心設計であることも影響しています。
そしてその泳ぎもヘルベンダーよりもピッチの早いタイトなウォブルロールになっています。
クラップシューターが発売されてからのヘルベンダーの広告には ”クラシック&スタンダード” というワードが頻繁に登場するようになった事から、当のホッパーストッパーも両者の使い分けをどう告知するかに苦慮していた形跡が見られて、それはそれでニヤリなネタだったりw
80年代のお約束ナチュラルプリント
カラーはナチュラルバス。
80年代のお約束カラーです。
このカラーは当時の琵琶湖大浦でめちゃくちゃ釣れた、いわゆる当たりカラー。
当時はナチュラルカラーすげー!としか思ってませんでしたが、今思えばナチュラルだから釣れたんじゃなくて、水に馴染むグリーンバックにでんぐり返しした時に見える腹のパールとの明滅効果で釣れたんだろうなと。
カラーチャートにはナチュラルプリントでザリガニのブラウン系カラーもありましたが、それはマディ水域で強かったのでやっぱりナチュラルプリントの効果というよりも色調が影響していたんでしょう。
しかし上下でボディを張り合わせたパーティングラインの凸凹なんて一切気にすることなくプリントしてあるのはさすがのアメリカンですよねw
アメリカンといえば目のプリントも超テキトー。
わざわざ目の位置が分かるようになってるのに全く違う場所に目を吹いちゃうペインターの自分勝手さよw
エラの位置を考慮したのかと思いきや、先出のティムコカタログにある物のように正しい位置?に目が描かれてるのもあるので、一体どれが正解なんだか😂
フックはクローポイント
フックはクローポイントの#4が標準でヒートン直付け方式。
かつてウィグルワートなどにも採用されていたゲイプが開き気味のクラシックなやつです。
ここで注目したいのは、ボディ側を大きくえぐることでカップの役割を担わせつつも、頭がややフラットになったヒートンを採用することで狭いながらも可動域を確保していること。
根掛りの軽減とバレの軽減、そしてフックアップ向上という3つの要素をどう調和させるか、デザイナーがあれこれと考えた痕跡がこういうところから見えるのでタマりません。
リグはもちろんアレ
そんなルアーを結ぶラインタイは、もちろんあのブランドのアレ。
このパーツについてはホッテントットの記事でノー書きタレてるのでおヒマならそちらもどうぞ。

残念ながらネームはナシ
そんなナイスなルアーですが、残念ながらネームプリントの類いは一切ありません。
そもそもこの形状がホッパーストッパーのトレードマークでありアイデンティティだったのでネームを入れる必要なんてなかったんでしょうね。
このルアーに限らずヘルレイザーやスローバーなどの主力選手にもネーム入ってませんでしたから。

そういう意味では幸せな時代だったのかもしれません。
ちなみにヘルベンダーとはオオサンショウウオのこと。
ボーマーのウォータードッグ(オオサンショウウオ)に対向してオオサンショウウオの別の呼称をぶつけてくるあたり、ホッパーストッパーの社長はボーマーに対して相当なライバル心を燃やしてたのではないかとw
余談ですが、ブランド名のホッパーストッパーは直訳すると ”デカい魚を仕留めるヤツ” となり、大物釣り師を意味します。
米人と釣りしてると What a whopper! と言われる事がありますが、これは日本語で言うところの ”デカっ!!” という感じなので、アメリカで釣りをしててそれを言われたら、すかさず “Get the net!!(ネットよろしく!)”と返してネイティブ気分を味わいましょう😁
おわりに
そんな一世を風靡したヘルベンダーでしたが晩年は時代の波に乗り切れず、権利譲渡先となったヘドンからマグナムサイズがリリースされるも、最終的にはルアーもブランドとしての灯火も消えてしまいました。
よって今となってはこのサイズはヴィンテージ市場でしか手に入りませんが、メタルリップの効能を勉強したいならマドバグとともに押さえておきたいルアーのひとつ。
過去の誤解を解いておくのも自身のテクニックを磨いたり、引き出しを増やす事に繋がりますからね。
今入手できるメタルリップのクランクベイトはT.D.ハイパークランクのようにガチディープ系しかありませんが、このミジェットヘルベンダーのようにシャローでこそ生きるメタルリップクランクがあることを知ってて欲しいのであります。