いつかの記事でも書きましたが、人は見た目で物事を判断するイキモノです。
それ自体は何ら悪いことではないのですが、判断を見た目に頼ってばかりいると、物事の本質を見過ごしてしまいがち。
今日紹介するフリーターはそんな人間の浅はかさを嘲笑うかのように登場したクランクベイト。
内面を見る力を持つアングラーだけに勝利の美酒をもたらす、究極のルアーなのです。
いまさら話ですが、ルアーの本質を見極めるのは難しいですよね。
世の中には星の数ほどのルアーが溢れかえっていますが、設計者の意図通りにちゃんと本質が理解されているルアーなんてほんのひと握りでしょう。
次から次へと登場する新作や流行に目を奪われてしまい、使いこなす前にボックスの奥へと追いやられるルアーのなんと多いことか(自戒😭)
中にはミロルアーの5Mのように、設計した本人ですら真の実力を知らなかったというルアーもあるぐらいですから。

しかしルアーには、アングラーに使いこなしてもらうよりも前に乗り越えなければならない大きなハードルがあります。
そうです。 ショップで手に取ってもらい、買ってもらわなければオハナシは始まりません。
つまりアングラーに ”なんかコレ釣れそう” と思わせるだけの外見、マーケティング用語でいうところの”刺さる要素”が必要になってきます。
そのために各メーカーはアングラーの目を引くデザインを実現するべく日々努力しているわけですが、中にはこのフリーターの様に開き直って、分かるやつだけついてこい的な態度で挑んでくるモノもいるのです。
フリーターは今はなきヴァイパーデザインがリリースした、ボディ長40ミリ自重8gというご覧の通りのタイニークランク。
確かパッケージにはコンパクトサイズのカバークランク云々という表記がされていた記憶があります。
画像の1.5mダイバーの他に、同じボディを持つ0.3m、2.2m、2.5mダイバーがラインナップしており、釣具屋で他のルアーを威圧するようなただならぬオーラを発していましたね。
事実、ほとんどのアングラーはその特異な外見にドン引きしてしまい、気にはなるけど買う勇気はないといった感じでした。
かくいうのんだくれもその一人。
いくらキテレツ系のルアーが好きだとはいえ、これを率先して買う気にはなりませんでした。
しかしその疑心暗鬼は友人のひと言で吹き飛ぶことに。
フリーターはヤバい。めちゃくちゃ釣れる!というのです。
なんでもワゴンで投げ売りされてたのを試しに買ってみたら思いのほか動きが良く、しかもコンスタントにバスを連れてきてくれたんですと。
それを聞いたのんだくれ、それは買わねば!と走り回って数個ゲット、実戦投入してみたところ….
なにコレ!めちゃくちゃイイじゃん!
フリーターは見た目とは裏腹にアクションがスバラシかったのです。
アクションは典型的な暴れ系ウォブリングアクション。
小さなボディにも関わらず、これでもかとリップをブンブン振り回して強く水を攪拌するウィグルワート系の泳ぎです。
いや、その暴れっぷりはウィグルワートというよりもむしろウィワートの泳ぎに近く、ちょっと巻くだけで ”あ!コレ釣れちゃうヤツだわ” と思わずニンマリしてしまう系の泳ぎです。
でもウィーワートの泳ぎともちょっと違うんですよね。
うーん… この動きってなんだっけなーと思ったらピッタリなのがありました。
フリーターのスイミングアクションは、タドポリーやフラットフィッシュ、ホットショットのようなへの字型プラグの泳ぎだったのです。

上: ルーハージェンセン ホットショット35、下: へドン タドポリー
だったら間違いなく釣れちゃいますよね😁
しかしこのフリーター1.5にはそれらのへの字型プラグとは決定的な違いがあります。
それはカバークランクとして障害物回避性能が備わっている事。
特異な外見にばかり目を奪われがちですが、実はこのルアーのカバー抜け性能はかなりのものなのです。
いかにもなスクエア形状ではなく、どこにでもあるラウンドシェイプのリップなのに、ボディとのバランスが最高でタフなカバーでもスルスルと抜けてくれます。
ここでのんだくれは初めて気がついたのです。
への字型に折れ曲がったボディ、決してスマートとは言えないスクエアでアグリーなボディシェイプはすべて障害物を回避するために必要なデザインだったんだ、と。
ルアーが前傾姿勢になる事でリップが完全にフロントフックをガードし、ヘッドからテールにかけての極端なハンプバックラインはリアフックをガードする役目を担っていたのです。
そして角ばったヘッドにはラパラBXブラットのエッジラインと同様のスクエアビル効果があったのです。

オトコはこういう隠された機能にホント弱いですからね。
それまではブサイクだの釣れる気がしないだの散々ディスってたのに、ルアーとしてのポテンシャルがわかった途端、このデザインなかなかイケてるんじゃない?と見事に手のひらを返してしまう軽薄さですから😂
しかしそんなルアーの性能以上に凄いのは、こんなにも攻めた外見のルアーをリリースしたヴァイパーデザインの決断。
どう考えても一般受けしない見た目のルアーを、しかもその性能はある程度使わないと理解できないという高いハードルにあえて挑んだそのチャレンジ精神を思うとちょっとクラクラしてしまいます。
今でこそルアーの金型制作コストは安くなりましたが当時の金型コストは相当なモノだったので、シリーズとしての展開、しかも試作品の分も含めてGOサインを出すには清水の舞台どころの騒ぎじゃなかったはず。
情熱がないと絶対にできない事ですよコレ。
そこには ”やらない後悔よりもやった後悔” 精神があったのは想像に難くありませんね。
結果的にこのフリーターシリーズは大量にワゴンに流れて破格の値段で投げ売りされるという状況になってしまいましたが、そのチャレンジ精神があったからこそ、のちにスタッガーなどの大ヒットを生んだんだろうなと。
ちなみにこのルアー、空力性能が良いのかウェイトの割にめちゃくちゃ飛びます。
のんだくれは通常のクランキングでは US15lbナイロン(国産規格だと約18lb)、カバークランキングではUS20lb(同約25lb)を使いますが、7.5ftのロッドで20mぐらいは楽に飛ばせます。
飛距離でストレスを感じないというのは長所として挙げるにはちょっと地味ですが、長時間投げることが多いクランクベイトだけに嬉しい “機能” ですよね。
40ミリサイズのクランクには珍しく、フックは前後とも#4サイズを採用。
フロントフックハンガーを極力前方に設置し、リアフックハンガーの取り付けを背中側にずらして設置する事で小さなボディでも前後のフックが干渉しない様に配慮されています。
リアフックの取り付け位置を背中側に持ってくる手法はラブルルーザーのルーターなど昔から存在していましたが、見た目がちょっとブサイクになりがちでした。

しかしこのフリーターの様に機能を感じさせないほどスッキリとデザインをまとめてくれると見過ごしてしまいそうですね。
ネームはフラットな腹にデザインロゴと潜行深度の表記のみ。
これはこれで悪くないと思うんですが、気になるのはそのネーミング。
フリーターって一体どういう意味なんでしょ?
調べても出てこないし、まさかアルバイトのフリーターではないだろうし。
仮にフリーターというワードに何らかの意味があったとしても、ルアーの特性を想像させるわけでもなく、特異なボディデザインを補足する何かがあるとかでもなさそうなのでこのネーミングはちょっと理解に苦しみます。
商売にたられば話を持ち込むのはタブーだけれど、もしこのルアーが違う名前だったら違う展開になってたんじゃないかと思わざるを得ませんね。
さすがにこの1.5mを含めたフリーターシリーズはライズバッカーの様にハイドアップが復活させる事はないと思うので入手は中古市場を探すしかありませんが、もし見つけたら是非ともゲットして欲しいアイテムのひとつ。
そして実際に投げてみて、外見と実力は比例するわけではないという事をよーく噛み締めてくださいな。