80年代を象徴するアメリカンクランク
過去に爆釣した場所に行くと思い出すルアーってありますよね。
あーあの時ここでアレが炸裂したなー(ニヤニヤ&遠い目) 的な、側から見るとちょっとキモいやつです。
その傾向はGGYになればなるほど顕著になりますが、常に過去に生きているのんだくれのような人間はそれが常態化しているので、琵琶湖の湖岸道路なんか走ろうもんなら次々と現れるかつての爆釣ポイントに、走馬灯大会になりかねません。
で、そんな走馬灯ページェントの登場頻度ランキングで上位につけているのが今日のゲスト、レーベルのラケットシャッド。
80年代らしい前衛的デザインのリップレスクランクですが、ただ単にのんだくれの思ひ出話に止まらず、80年代のアメリカンルアーヒストリーを語る上でも欠かせない存在でもあります。
数多くのビッグバスをもたらしてくれた実力者
ラケットシャッドの登場はのんだくれの記憶が正しければエビスコ期の1983年。
スクーリングシャッドの画像がプリントされたインパクトのあるカードブリスターパッケージで販売されていたのを覚えている方も多いと思います。
お察しの通りのんだくれはそのインパクトにヤラれて入手したんですが、実際に使ってみて実力にもノックアウトされました。
琵琶湖が爆釣期だったということもありますが、このラケットシャッドはとにかく釣れて釣れて釣れまくったのです。
中でも衝撃的だったのは、琵琶湖国民休暇村の東、漁港との中間点にある岬。
オカッパリからのフルキャストで届くあたりの水深が6m前後で、そこから岸に向かって大きな岩の間を縫ってかけあがりをリトリーブしてくるだけで良型バスが文字通り “切れ目なく” 釣れ続いたのです。
当時の琵琶湖や90年代の霞ヶ浦を体験した事がある人はわかると思いますが、膨大な量のバスを供給する(釣れる)時期の水域は大型の個体がまだ少なくて爆釣してもひたすらマメという事が多いんですが、この時は短時間に15本以上の45upという、チンコ勃つヒマもないほどの状況。
しかもこのラケットシャッドへの反応がどのルアーよりも多かったのです。
そんな衝撃的な体験をしてしまったので、国民休暇村の前を走ると条件反射のようにこのルアーを思い出すのです。
ラケットシャッドの使命はラトルトラップへの復讐だった
ラケットシャッドはラトルトラップ1/2ozとほぼ同寸の75ミリのリップレスクランクです。
しかしそのウェイトは5/8oz(実測19.5g)と、そのサイズに似合わずなかなかの重量級。
これは当時のリップレスクランク市場の覇者でもあったラトルトラップに対する宣戦布告の意味もあったんでしょうね。
実は1960年代終盤、リップレスクランク市場の制空権を取る勢いで急成長していたラトルトラップに対し、レーベルは同じラケットシャッドという名前のリップレスクランクをリリースしていたことがあるのです。

初代ラケットシャッド
しかしレーベルのラケットシャッドがイマイチな仕上がりだった事と、ラトルトラップ防衛ラインが思いのほか強固だった事、さらにコットンコーデルからはスポットという第三のライバルの出現により、思い叶わず撤退したという屈辱の過去があったのです。
その後レーベルのリップレスクランクポジションは長らく空席となっていましたが、70年代中盤からラトルトラップがメジャートーナメントを連覇するなど看過できない状況が続いたこともあって、レーベルはリベンジを決意します。
そして出来上がったのがこの新生ラケットシャッドだったのです。
徹底的に計算された前衛的ボディデザイン
ラケットシャッドの最大の特徴は、直線と曲線のラインを無理なく融合させた、”これぞまさしく80’s” な前衛的デザイン。
しかしこのボディシェイプは見た目優先のデザインなどではなく、リップレスクランクの機能を最大化するために考えられた、実に理に適ったものになっています。
フラットヘッドが生み出した強い振動をティアドロップ型に大きく膨らんだベリー部分がさらに増幅して水流を乱し、ボディとは対照的に薄く作られたテール(レーベルはこれをラダー(方向舵)テール Rudder Tailと命名していた) がへドンソナーのようなメタルバイブ効果も生み出すなど、バイブレーションの名品たちの “いいトコ取り” を実現。
同サイズのラトルトラップと比べて1.5倍もの幅(トラップ1/2ozの最大幅が10.2mmに対しラケットシャッドは15.5mm)となった大きなベリー部には大小3種類のBBショットが詰められるようになり、その結果他社の追随を許さないノイズメーカーに。
そして水中だけでなくキャスト時の飛行姿勢まで考慮した重心バランスは、その自重もあって Cast Like A Bullet 仕様。
その結果、良く飛び良く震え、そして良く鳴くという三拍子揃った当時としては画期的なリップレスクランクになったのです。
レーベルはその大音量サウンドに復讐の念を込めた
しかしリベンジに燃えているレーベルはその程度で執念の手綱を緩めることはありません。
そのラトルサウンドにまでトラップ追撃の念を込めていたのです。
実はレーベルはこのラケットシャッドのラトルサウンドを最大限増幅することでバスの注意を引くのと同時に、シャッドのスクールを “散らす” 任務を与えていたのでした。
スクーリングシャッドの中にルアー通すことで群れをパニックに陥れ、スクールの下にポジショニングしているバスのスイッチを強制的に入れてしまう ブレイキングフィッシュ Breaking Fish と呼ばれるテクニックがあるのですが、レーベルはそれを大音量ラトルで実現すべく、ラケットシャッドを超ノイズメーカーに仕立てたのです。
このレーベルのラトルサウンドへの執着は、当時のパッケージにわざわざ “Shake Card. Hear Tuned Sound Chamber Noisemaker (パッケージを振ってサウンドを聞いてくれ)”と明記していたことからも汲み取る事ができます。
かつてのライバルにも援軍要請していた
その大音量ラトルサウンドをアピールするかのようにエラのパターンがピクトグラム(情報や注意を表すために表示される視覚記号)になっているところがアメリカンルアーらしいですよね。
ラトルサウンドの強さはバリ3(死語)ですから😁
ちなみにこの細かいポツポツが並ぶフィニッシュはコットンコーデルが特許を持つフォイライズドフィニッシュ Foilized Finish。
ボディ全面に配した凸パターンの上にクローム塗装を施す事でホイル張りと同様の視覚効果が得られるというもので、ビッグオーやレッドフィンにも採用されている塗装技術です。
ちょうどこのラケットシャッドを発売した頃からレーベルとコットンコーデルはエビスコの下で積極的に相互技術提供し始めており、同時期に発売されたコットンコーデルのエクストラディープビッグオーなど多数の商品から両社の蜜月ぶりを伺い知る事ができます。

85年にデビューしたコットンコーデルのエクストラディープビッグオー。レーベルの特許であるウェイトボール付きリップとネジによるリップ接合手法を採用している… というよりもボディサイドのエンボスネームとフィニッシュ以外の仕様はまんまレーベルのダブルディープウィR。
コットンコーデルによって生産されていた?
ここからはのんだくれの勝手な推察ですが、ラケットシャッドはスポットで培われたラトル音を効果的に鳴らす技術を持つコットンコーデルと共同で開発し、生産自体もおそらくコーデルの工場で行われていたのではないかと。
なぜなら、その事実を匂わせる痕跡がフォイライズドではないノーマルペイントのラケットシャッドに残っているんです。
それがこれ。
このペイントスティックホールです。
その名の通りルアーを塗装する際の固定棒を刺した名残りの穴で、80年代前半のコットンコーデルのルアーによく見られるもの。
レーベルのルアーには基本的にこのペイントスティックホールはないので、相互技術提供ついでにコーデルの工場(もしくはこの時点で既に同じ工場だった?)で生産していたのではないかとのんだくれはニラんでいるんです。
そう思ってる理由がもうひとつあります。
それがこのカラー。
コットンコーデルのあの名カラー(へドンでいうところのキャスパーカラーですが、肝心のコーデルのカラー名は忘れちゃった汗)がラケットシャッドにもラインナップしているんです。
ピクトグラフのレッドを消したらまんまコーデルカラーになるなんて、コーデルの工場で作ってると思う方が自然だと思いません???
ヘビーウェイトゆえ注意しなければならない点も
気になるアクションは、ずっしりと手応えのあるトルクフルなバイブレーション。
大量のラトルが詰まったファットな腹を水中でブンブン振っている感じがよく伝わってきます。
サイズバランス的にMaxなウェイトなので沈下速度もハンパなく、まるでジグスプーンのようにボトムを目指します。
そして今のリップレスクランクならば標準であるボトムで立つ芸もできないので、着底と同時にボトムにべったり。
なのでエリアを考えて使わないと、ロスト連発という悲惨な状況に。
事実のんだくれも当時は相当数をロストしました😭
打倒ラトルトラップのために飛距離とラトル音を優先した結果がコレなワケですが、その辺の潔さは良くも悪くもアメリカンルアーだなと。
ちゃんと80年代ルアーのお約束も
しかし良いところばかりではないのです。
それがこのダブルラインタイ。
当時のカタログによると、前のアイに結ぶと6〜8フィートのレンジを、後ろのアイは0〜6フィートレンジを引けるとなっていますが、トレースできるレンジはともかく、後ろのアイは超ファーストリトリーブでないと安定したバイブレーションにならないので実戦では使い物になりません。
あの性能が引き出せるのは近年のハイスピードギアのベイトリールぐらいで、当時のベイトリールのギア比では無理だったと思われ。
このルアーに限った話ではないのですが、80年代のアメリカンルアーはちゃんと機能するかどうかはともかく、新しい要素をどれだけ盛り込めるかで競い合うのがある意味トレンドだったので、おそらくこのダブルラインタイもそれ系じゃないかと。
まあそんなおバカな感じがヲタにはタマらんのですけどね。
意外とデリケートなフックバランス
フックは80年代レーベルのお約束でもあるクローポイントトレブルが装備されています。
ラケットシャッドは意外とデリケートなバランスで成り立っているので、フック交換の際はサイズに注意が必要です。
ワイドゲイプの防錆カドミウムフックが装備されているラケットシャッドもありますが、それは米北西部で販売されたサーモン用モデル。
レーベルは今でいうところのご当地モデルやご当地カラーが多数存在するので、コレクターにとっては攻め甲斐がありますね。
とはいえ、どのモデルがどの地域で販売されていたのかなどの情報が全くないので、ほとんどのコレクターは苦難の道を辿ることになりますが。
レーベルなのにコーデル流のネームという貴重な存在
ネームは筆記体のルアー名とロゴを向かい合わせた、レッドフィンなどで見られるスタイル。
ここでもコーデルの匂いがしますよね。

今ふと気付きましたが、1984年に発売されたレーベルのトーキンスプーン Talkin’ Spoon (プラスチック製のラトル入りフローティングウィードレススプーン)もフォイライズドフィニッシュ&エンボスネームなので、もしかしたらアレもコーデルで作ってたのかもしれませんね。
ちなみにラケットシャッドのラケットは、どんちゃん騒ぎとか、せわしないという意味。
もうそのまんまですねw
余談ですが、バンディットルアーズに ラキット Rack-It というスクエアビルクランクがあります。
ラキットはあえてオールドスタイルの樹脂を使う事によってラウドサウンドを実現しているクランクですが、名前の意味はこのラケットと同じく “騒々しい” を表しています。
しかしそこは言葉遊びの好きな米人、違う意味も含めてあるんですよね。
実は Rack には豊富に取り揃えるという意味があり、キーパーサイズのバス( = It )を大量にキャッチするというダブルミーニングにもなっているんです。
こういった具合に、ネーミングの秘密がわかるとルアーにも愛着が湧きますよね。
言葉遊びによって製品機能を表現するというネーミング手法はアメリカ人の得意とするところ。
スラングや比喩表現なども多用されるので我々日本人が理解するにはちょっとハードルが高いこともありますが、その意味を知るとメーカーの狙いや製品コンセプトが見えてくることもあります。
なので本来の単語スペルとは違うとか、ー(ダッシュマーク)が入ってるなど、ちょっとでも引っかかる事があったら、まずGGってみることをオススメします。
もしかしたら、誰も気づいていない爆釣メソッドを見つけるカギになるかもしれませんよ😁
まとめ
リップレスクランクの覇者ビルルイスのラトルトラップを撃破すべく、コットンコーデルと手を組んでまで送り出した秘密兵器でしたが、今市場に出回っていないことからもお分かりの通り80年代の終わりには生産が終了となり、ラケットシャッドの長きに渡った復讐ストーリーは幕を下ろし、後継のスーパースポットにその命を委ねることに。
この一連の流れを見てみると、ラトルトラップがいかに偉大な存在なのかがよく分かりますね。
ラトルトラップの考案者であるウィリアム ルイスは、第二次世界大戦中、B29の爆撃手として欧州ミッションを30回以上完遂したヴェテラン(退役軍人)でしたが、レーベルとコーデルの強大な連合戦線をもってしてもラトルトラップを撃墜できなかったことを思うと、彼には生まれながらにして勝利の女神がついていたんでしょうね。
オマケ
ラケットシャッドの水中動画があったので置いておきます。
動きの単調さゆえ、動画を見ても面白味に欠けるのがバイブレーション系のプラグ。
しかしよく見ると最初の4本のリトリーブでルアーがカメラの横を通り過ぎた時、ハウジング内のカメラを揺さぶるノイズが入っているのが分かります。
これがいわゆるルアーが出す波動というやつですね。
🔈はONで! pic.twitter.com/7NYxD1Jq9Q— のんだくれ@ルアー千一夜 (@lure1001) May 16, 2021