まだ海外のルアーが高嶺の花だった頃、まずは国産のパチモンから手にするのが当時の少年アングラーのお約束でした。
そしてそれらの粗悪さに地団駄を踏み、いつかはクラウンならぬいつかはへドン、いつかはボーマーを夢見て股間を熱くするまでのワンセットがバス少年たちに課せられた実習課題。
ちょっと乱暴な言い方ですが、かつてのパチモンは本物の価値をより高め、そしてそれらを憧れのポジションに押し上げる役割も果たしていたのです。
良くも悪くもオトナになった今、そんな事を実感することはもうないだろうと思っていましたが、意外にもこのルアーが懐かしい思いを呼び覚ましてくれました。
それはパチの世界王者だった頃のリバー2シーが出していたV-クランクウェイクです。

リバー2シー / V-クランクウェイク。
コトの発端はリバー2シーから届いた大量のサンプルでした。
“倉庫に眠ってるストックを全部処分したいので、気になるルアーがあったら言ってくれ” と、送られてきた中にあったのがこのクランクベイトでした。
うっわ!アラゴンのモロパクじゃん!wwwと思いつつも面白半分で投げてみたところ、意外や意外、デキが良かったのです。
そして “パチモンでこの出来なら本家はもっとイイんじゃない?” と思ってポチったのがアラゴンとの最初の出会いでした。
アラゴンDRはご覧の通り、シングルジョイントを持つクランクベイトです。
ボディをジョイント化する手法はルアーの歴史と同じくらい長い歴史がありますが、従来のジョインテッドルアーとの違いはクラッキングサウンドをメインコンセプトに据えて開発されているところです。
横方向にだけ振れるダブルヒンジジョイントにより、ルアーがウォブリングアクションをする度にボディ同士がぶつかり、音を発するという仕組みです。
しかし最初このアラゴンを手にした時、あれ?ちゃんと音出るんかな?と思ったのが第一印象でした。
なぜならリバー2シーのV-クランクウェイクにはボディの接触部にメタル製クラッカーが取り付けられていたのに、アラゴンの接触部はプレーンなプラスチックのままだったから。
しかもV-クランクの方はその名の通り、ジョイント部をV字にすることで小さな挙動でもクラッキングサウンドを発する設計なのに対し、このアラゴンはスパッとボディを切っただけ。
これ、もしかしたらパチのパフォーマンスが本家を上回っちゃうんじゃない?と、半ば疑心を持ったのは偽らざるところです。
しかし投げてみたところ… ナニコレ!ヤバくない?? な結果だったのです。
アラゴンはボディ同士がぶつかり合う音がとにかくハンパないのです。
それはカチカチとかのレベルではなく、まるで狂ったキツツキがヘッドバンギングしているかのような、カカカカカカカ… と、とにかくけたたましい音を発するんです。
そしてその音質は、ラトルボールの衝撃が生み出すサウンドとは全く異質のオンリーワンなもの。
もうV-クランクの音量なんて比べ物になりません。
さらに驚いたのは、アクションのピッチがとにかく早いこと。
一般的にロングリップでピッチの早いクランクはウォブリングではなくローリング系のセッティングがされていることが多いのですが、このアラゴンはウォブリングがメインなのにしっかりピリピリ系の細かいアクションになっています。
ジョイント化したことでボディの後ろ半分を振り回すパワーを必要とせず、その身軽になった分をクラッカーのエネルギーに変えているというシンプルな理屈なんですが、それを理解しててもこのピッチの早さはなかなかのもの。
このピッチの早さを見ると、なぜ専用設計の長ーいエイトリングを投入してまでリップを薄くしたのかがよく分かります。
そしてボディの断面がV字ではなく一直線だったのは、ボディの可動域を大きくすることで衝撃を最大化するためだったと。
アラゴンを投げたことにより、V-クランクの接触面に金属製のパーツが組み込まれていたのは、それを装着しないと十分な音量にならないということも判明しました。
うーん、なかなかのスグレモノですぞ、アラゴンは。
そして、パチもんで納得しなくて良かったーと思うのと同時に、冒頭で書いたように、こういう感覚ってはるか昔に味わったことがあるよなー… となったワケでゴザイマス。
しかしこのアラゴン、使えば使うほどよく考えられてるなーと感心してしまいます。
断面を一直線にすることでボディ同士の間隔が広まり、あえてここに水流を巻き込ませることで通常のクランクとは違った乱水流を生み出す設計にもなってるんです。
仮にクランクベイトをベイトフィッシュに見立てるなら、本物の魚とは対極にある乱水流は発生させない方がよりナチュラルですが、超ラウドなクラッカー搭載というノイズメーカーであるならば、ナチュラルに寄せる必要はないどころか、側線を大いに刺激する乱水流はむしろ大歓迎ですからね。
水流を撮影できるカメラでアラゴンが作り出す水流がどんな風になってるのか見てみたいですね。
水面での姿勢はヤル気満々のクラウチングスタイル。
先述の通りボディ後ろ半分の水抵抗を半減できるので、動き出しの良さはピカイチです。
同サイズのダイビングクランクと比べて軽い巻き抵抗でスルスルとディープを目指してくれるところもナイス。
そしてロングリーチリップのおかげでザリガニ巻きしてもスタックしづらいのも◎
そんな調子でヲタマインド満載で巻いてるうちに、のんだくれの脳裏にあるルアーが浮かんできました。
それはアイルランド期のラパラから発売されていたダウンディープファットラップ。

ラパラ/ ダウンディープファットラップ
ダウンディープのアクションをもっとタイトに、もっと早いピッチにして、ラトルではなくクラッキングサウンドに置き換えたらアラゴンになるんです。
これに気づいた時には、自分で作ったわけでもないのにちょっとテンション上がりました。
まあクラッキングサウンドとかいう時点でもうラパラ云々じゃなくなってますけどね😂
ただ、のんだくれ的にはちょっと物足りないところがあるのも事実。
フックがワンサイズ小さいような気がするんです。
特にフロントはもうワンサイズ上げてもイイんじゃないかと。
もひとつ不満なのはこのアラゴンというネーミング。
正直この名前はかなりダサいし、このルアーのパフォーマンスの特異性が全然伝わってこない。
あら?ゴン!と簡単に釣れちゃうからアラゴンになった????
せっかくキツツキのようなスペシャルなクラッカーサウンドという最強の武器があるのに、それをスルーしたかのようなネーミング。もったいなさ過ぎる。
高校の同級生に新井という名前からアラゴンというあだ名の奴がいたから個人的にそう感じるのかもしれませんがw、それにしてもダサすぎる。
ネーミング会議でのブレスト不足がなんとなく見えてしまったような気が。
よってこのネームプリントもマイナス10,000点。 以上!
とまあそんな具合でネーミング以外は最高なルアーなんですが、悲しいことにもう生産していないんですよね。
どちらかというとキワモノ系に分類されるルアーで、そのインパクトゆえ飽きられるのも早いとは思うんですが、このルアーが発するサウンドは唯一無二のものだし、そもそもクランクベイトとしての基本性能はかなり高いので、生産終了というのはもったいなさ過ぎるなぁと。
とはいえ中古市場には大量に出回っているので、もし気になったら入手して試してみてくださいな。