今や世界的なルアーデザイナーとしてその名を馳せる加藤誠司氏。
ダイワから始まった彼のキャリアには数多くの名作と呼ばれるものがありますが、中には名作が多過ぎるがゆえに埋もれてしまった作品もチラホラ。
その際たるものがこのS8ポッパーではないかと。
バスブームの真っ只中に世に送り出されたトップウォーターです。
のんだくれの記憶が正しければこのルアーが発売されたのは1997年。
サミーやステイシーなど、次々とヒット作を飛ばす中で新しいプロジェクトの一つとしてリリースされました。
そのプロジェクトとは、”8lbラインのスピニングタックルで気軽に投げるのにちょうど良い8g前後のルアー” というコンセプトを元にしたオカッパリに照準を合わせた製品展開。
その第一弾としてリリースされたのがS8(スーパーエイト)ポッパーでした。
S8ポッパーは全長73mm、8.5gのトップウォータープラグです。
ポッパーとしては特に目新しいデザインでもなくオーソドックスなごく普通の外見ですが、不思議とよく釣れるルアーとして人気がありました。
釣れる秘密はこの浅いカップ。
一般的なポッパーよりも凹みが浅いカップは水を掴まなさそうでちょっと頼りなく見えますが、実はこのカップがS8の最大のキモなんです。
S8ポッパーはカップを水面から上に掲げた状態で浮き、小さくロッドアクションを加えると軽くダイブをしながら素直にスライドを始めます。
一般的な首振りポッパーはテーブルターンがメインの一点首振り系ですが、このS8ポッパーが見せてくれるのはペンシルベイトと見紛うほどのスライド。
スッと気持ちよく水面を滑ってくれるんです。
それでいてポッパーとしての仕事も忘れておらず、ここぞというところで甘いポップサウンドとバブルを出すのもお手の物。
これは深すぎず浅すぎないカップがうまく水を受け流すからこそ出来る芸当なんですが、このサジ加減が絶妙なんです。
立ち杭やカバー周りをタイトに狙う時にトップウォータープラグを投げることは多いと思いますが、ハーフステップで寄せた後に思い通りダイブさせたりツバ吐き出来るルアーはなかなかありません。
この世にポッパープラグは星の数ほどあれど、それらの技が難なくこなせるポッパーはのんだくれの知る限り、このS8ポッパーだけ。
“気軽に投げられる”というコンセプトから初心者向けのモデルかと思いきや、加藤さんの考える気軽は、”ガチな使い方でもストレスを感じないカジュアルさ”だったんです。
ウウウ… セイジ恐るべし。
スライドやポップだけでなく、スライド時にフラットな側面がフラッシングするのもS8ポッパーのイイところ。
のんだくれはこのフロッグカラーかパールホワイトが主力兵器だったのでクロームやゴースト系のカラーを使ったことはありませんが、おそらく光という視覚的要素も突き詰められてたんでしょうね。
しかもボディの中にはサミー譲りのグラスラトル(ラッキークラフトは”ガラスラトル”と言ってましたが)入りですから、サウンド面でも抜かりはありません。
そしてボディサイズから見るとちょっとアンバランスなほど大きな黒目アイもS8ポッパーの特徴です。
一見なんてことのない3Dアイで、のんだくれも当時は何も考えずに投げてましたが、今あらためて見てみると、もしかしたら人間から見てリアルなアイよりもこの黒目の大きなアイの方がプレデターの闘争欲を掻き立てるんじゃないかと。
こればっかりは憶測の域を出ませんが、サミー然り、ポインター然り、ラッキークラフトのルアーの釣れ方は当時から突出していたように思います。
ルアーとしての基本性能が高いのは当然として、それらに共通している”目”という要素もあると思うんです。
皆さんはどう思います?
ケツにはフェザードフックが標準装備されていますが、フェザーが有るのと無いのとでは動きが全く違うのでこれもS8ポッパーのキモの一つでしょうね。
使ってるとギルの猛攻で毛量が減ってくるので、こまめにフェザーのボリュームをチェックしてあげるのは釣るための必須項目。
しかしゲーリーのスゴイスプラッシュのような多毛フェザーだとスライドアクションを殺してしまうので加減が必要です。
人間同様、毛は多すぎても少なすぎてもよろしくないのです。
ネームプリントは腹にしっかりプリントされててこれはこれでオッケーだと思いますが、せっかくスーパーエイトというフルネームがあるのにエスハチだけになってるのはちょっともったいない気がしますね。
ここは是非とも Super Eight Popper とフルスペル入れて欲しかった。
ラッキークラフトにはこのS8ポッパーの他にベビーポッパーという、これまたおそろしく釣れるポッパーがありました。
似たような商品を同時期にリリースするのは、商品の選択肢が増えるというメリットをもたらす反面、客が迷うことで購買意欲を鈍らせてしまうことにもなりかねず、マーケティング的には諸刃の剣とされています。
それでも両者がベストセラーになったということは、しっかりとしたコンセプトの棲み分けとそれぞれに高い基本性能があったんだろうなと今更ながらに感心してしまいます。
でもね、考えようによってはそれがマイナスに作用することもあるんですよ。
あまりにも加藤さんが高性能なルアーを連発するもんだから、このS8ポッパーのようにめちゃくちゃ釣れるのに記憶に残りにくいヤツも出てきちゃうんです。
その結果、他のルアーと比べてセールスが伸び悩んでいるように見えてしまって、ひいては生産終了… と😭
もしかしたらここにもパレートの法則が生きているのかもしれませんが、仮にもしそうだとしたら、才能があるがゆえに自身の作品を殺している事もあり得るなとヲタは思ったりするワケでございます。