工業製品にもファッションと同じ様に流行り廃りがあります。
車で言えばSUVなんてのは長らく続いているトレンドだし、最近復調を見せているクーペスタイル、いわゆるファストバックは近年まで絶滅しかけていました。
そういう意味ではセダン形状はもうクラシックタイプに分類されるのかも。
そしてそれに似たトレンドはルアーの世界にも存在します。
でもクラシックとか古臭いと言われる分野でもそれが存在する理由がちゃんとある訳で、それらをちゃんと理解すると使わずにいられなくなります。
今日紹介するコーデルのペンシルポッパーはそんなクラシックタイプの代表選手。
しかし舐めてかかると火傷するヤバいルアーです。
ペンシルポッパーC64とは
元々はマグロ用のルアーだった
ペンシルポッパーはソルトの超定番ルアーとして知れられています。
オリジナルはマグロ用のペンシルから進化したと言われており、そっちの世界では1940年代から販売されているギブスGibbsのウッド製ペンシルポッパーが有名。
プラ製ペンシルポッパーとは全く違う独特の水絡みがギブスGibbsの売りなワケでして。 pic.twitter.com/PjBY1tFnsu
— ルアー千一夜☆公式 (@lure1001) April 21, 2023
コットンコーデルがプラスチックで量販

1980年代初期のコットンコーデルカタログ。バスフィッシング用カテゴリーではなくソルト/ストライパー狙いのビッグゲーム用ルアーとしてデビューした。
そんなペンシルポッパーをプラスチックで最初に大量生産したのがコットンコーデルでした。
デビュー当時はソルトウォーターラインの一員としての扱いで、日本でも早い時期から一部の塩釣人の熱い支持を獲得していたので、千一夜読者の中にもその実力を享受していたアングラーもいることでしょう。
そのパフォーマンスについては過去記事もあるのでそちらもどうぞ。

その実力は今でも高く評価され、青物はもちろんバスフィッシングでも多用される定番ルアーとしての地位を守ってきました。
日本ではダイワが認知のキッカケを作った


1986年のダイワカタログに掲載されたトップジャンパー。一般的なペンシルポッパーに対しての ”ウルトラライト” という表現だが当時はまだルアーの大きさに対する抵抗も大きく、11cmもあるのにウルトラライトは有り得んやろ!というツッコミが炸裂したw
そんなペンシルポッパーが日本で広く知れ渡ることになったキッカケは80年代にダイワがリリースしたトップジャンパー/サーフジャンパー。
いくらコーデルのペンシルポッパーが実力者でも当時海外ルアーはまだまだ高嶺の花。
カジュアルに使うには抵抗があったコーデル物に対し、実売800円程度で買えるダイワ物は有り難い存在でした。
そしてこのダイワの功績によりそれまでペンシルポッパーにつきまとっていた【ソルト専用ルアー】というイメージが薄れ、水域を選ばないその実力が広まったのでした。


上からギブス、クレーター、ペンシルポッパーC64。ボディのテーパー角やカップのスラントが違い、それぞれに個性がある。
ダイワのトップジャンパーはのちに上州屋キャンベルのクレーターへと引き継がれ、日本独自の進化を遂げることになるのですが、そっちに脱線すると戻ってこれなくなるので今回は割愛😁
ダウンサイジングの口火を切ったのはエバグリだった?
そんなコーデルのペンシルポッパーはオリジナルの称号とともに長らく王座に着いていましたが、2010年代にその牙城を脅かす存在が登場しました。
それはエバーグリーンがリリースしたシャワーブローズショーティー。
長らくコーデルが150ミリ/175ミリの2サイズで統治出来ていた領土に、105ミリの侵略者が現れたのです。
日本ではあまり知られていませんが、当時の米国、特に西海岸ではローカルトーナメントの上位に常にその名前が上がるなどシャワーブローズショーティーの評判はなかなかのものでした。
事実、当時取引をしていたピカソルアーズの社長ダニエルからはこんなメールが届いたほど。
俺の客にエバーグリーンのシャワーブローズショーティという4インチのトップウォータールアーを探してるヤツがいるんだ。カラーは問わないし有るだけ買うから価格を教えてくれ。
カラー問わず有るだけ買うって大富豪かよwと思いましたが、後で話を聞いたら日本の倍の価格でも見る間に売れていったらしいので105ミリサイズのペンシルポッパーの破壊力は相当なもんだったんだろうなと。
そしてその数年後にコーデルからこのC64サイズがリリースされたのです。
それを聞いたのんだくれは、おそらくそのサイズ需要に対応したんだなとニヤニヤしてしまいました😏
多分コーデルは新参者に領地を荒らされるのを黙って見てられなかったんでしょうね。
そして老舗のプライドというか、我々がプラ製ペンシルポッパーのオリジナルであることを見せつけたかったんでしょう。
そんな経緯もあってあまり期待することも無くC64を購入したのですが、実際に使ってみたところ予想をはるかに上回るパフォーマンスにアゴを落としてしまいました。
とにかくスゴいのです。
C64は単なるダウンサイジングモデルではなく、完全にバス用にアジャストされた高パフォーマンスの新開発モデルだったのです。
ペンシルポッパーC64のサイズ・重さ
C64のサイズは110ミリ、3/4oz(実測20g)
オリジナルザラスプークとほぼ同等のボリュームというだけで使い勝手の良さが分かります。


上から長兄C67、C66,C64。
オリジナルであるC67、C66と比べるとかなりのサイズ差ですが、この差がもたらすメリットは運動性能の面でもアングラーの心理面でも想像以上でした。(詳細は後述)
オタ的には ”C65” というモデルナンバーが抜けているところに将来の展開を期待しちゃいますがw
C64の仕様
サイズ格に収まらないカップ
ペンシルポッパーの特徴はなんと言っても大きくスラントしたカップでしょう。
この斜めカットが水を裂き、飛ばし、バブルを生み、プレデターの闘争本能にスイッチを入れる重要なファクターであることは間違いありません。
通常ルアーはボディを小型化するとそれに伴うパフォーマンスも縮小してしまう傾向がありますが、C64はボディを短くしつつもカップサイズを同じサイズにすることでアピールの低下を抑止。


左からC64、C66。
いや、低下どころかボディのアクション特性に合わせてカップデザインを変えているので、むしろパフォーマンスは向上していると言ってもいいでしょう。
往々にしてアメリカンルアーは大雑把だと言われていますが、実はかなりシビアに作り込まれているのです。
ビッグフィッシュ対応のスイベル式フックハンガー
そしてペンシルポッパーといえばスイベル式のフックハンガーも忘れてはいけません。
これはルアー自身のウェイトでフックアウトするのを抑止するものですが、コーデルに限らずビッグゲーム向けルアーのスタンダードとして知られています。
バス用なのにこんなの要る?と思いがちですが、アメリカはラージマウスとストライプドバスが共棲するフィールドが多いのでこの装備は必要不可欠。
それにペンシルポッパーはストライパー用ルアーの定番でもあるので、小さくなっても気は抜けないのです。
余談ですが初期のペンシルポッパーのスイベルハンガーはベアリングではなくヨリモドシが採用されています。
変更になった時期を明確には覚えてませんが、確か90年代の初め頃ではなかったかと。
大小ラトルが奏でるジキジキラトルサウンド
そしてC64はラトルサウンドも特筆に値します。
画像だとシルエットでしか分かりませんが、ボディ最太部に入れられたパーテーションの前後に大小の遊動ラトルが一個づつ配置されており、これがかなりのラウドサウンドを発します。
音質は強いジキジキ系なのですが、ラトルルームの底面に凸面加工されているようで、軽く転がるだけでボディ全体を共鳴させるかのようなサウンドを発します。
兄貴のC66もなかなかのラウドラトルですが、それをも上回るノイジーっぷり。
もちろんプラスチック素材も吟味した上で調律されていると思いますが、単にプラ素材だけでこの響きを出すのはムリだと思うので、おそらく内部構造にもアンプリファイ効果が織り込まれているのではないかと。
シリーズ中最もアトラクティブなパフォーマンス
移動距離ゼロ!?と錯覚しそうなテーブルターン
気になるアクションは、まるで移動していないかのような錯覚すら起こす一点テーブルターン系。
誇張無しで30cmで10回首振りさせることも楽勝です。
移動距離なしの首振りはファット&ショートボディなら簡単に出来ますが、このスレンダーボディでやってのけるのはなかなかの手練。
この首振りだけでもC64を買う価値はあると断言できます。
そしてそのパフォーマンスはC66の浮き角と比較すると、よーく練り込まれている事が分かります。
兄貴分のC66サイズは速いテンポで表層をトゥイッチリトリーブするのが基本なので、リトリーブ抵抗でヘッドが浮き上がる設計となっています。
つまりある程度のスピードがないとカップが水面上に出ないようになっているのです。
そんなルアーをバスフィッシング的にスローに使おうとすると、常にカップが水面下にある状態となり、クイックで強めの入力でないと首振りよりもスライドする傾向が多くなりがち。
つまりC66サイズをキビキビと動かすには常に強いロッドワークが求められ、これがC66の ”釣れるけど疲れるルアー” の評価に繋がっています。
それに対しC64のカップは静止状態でもカップが水面上にあり浮き角も大きいので、スローでも、弱い入力でもクイックに首振りするなど、レスポンス性能が飛躍的に向上しています。
それはアングラーの疲労を最小に抑えながらも最大のアピールが得られる事を意味します。
つまりC64はペンシルポッパーの特性を持ちながら、終日オーバーハングの奥や倒木の隙間などの小さなスポットへキャストし、首振りし続けられる足軽仕様となっているのです。
ハンパないスプラッシュ
もちろんそれだけではありません。
このC64はスプラッシュもスゴい。
梨汁ブシャー!! どころか先走り液ブシャー!!のレベルです。
一般的にペンシルベイトはカームウォーター(穏やかな水面)で効果を発揮するものとされていますが、C64は水面の荒れ具合なんてお構いなし。
ペンシルベイトの良さが殺されてしまうような風の当たるスポットでも派手に飛沫を飛ばしてアピールしてくれます。
これはラインアイが水面上に来る浮き角と、どっしりと安定したテールヘビーな重心バランスゆえのパフォーマンスと言えるでしょう。
しかしカップが水面上にあるが故、C66が得意とする水面を叩き切るような捕食音が出しづらくなるなどいくつか弱点もあるので、この辺は使い分けが必要。
沖ボイルを直撃できる飛行性能
そして飛距離もスゴいのです。
その飛びっぷりをひと言で表すならば、アブソルートマイル/Absolute Mileという言葉がぴったり。
直訳すると絶対的な飛距離を叩き出すという意味ですが、US16ポンドラインでも50メートルは余裕で飛ばせます。
セッティング次第では70メートル超えだって出来ちゃいます。
小規模なフィールドで50メートルの飛距離が必要とされることはあまりありませんが、琵琶湖など広大なシャローを持つフィールドにおいて飛距離は正義。
特にウェーディングでは他のアングラーが届かないドロップオフが狙えるだけでなく沖で発生するボイルも撃つ事ができるので戦略の幅が格段と広がります。
テールヘビーなバランスである上に空力上有利なティアドロップ形状ときたら飛ばないワケはないですからね😁
タックルを選ばない汎用性
タックルを選ばない汎用性もC64の売りのひとつです。
クランク向けのファーストテーパーアクションでもジャークベイト向けのモデレートアクションでもロッドパワーに関係なく投げられ、もれなく動かせるメリットは地味だけれど心強いポイント。
かつてジャックニクラウスが言った ”出かける時は忘れずに” はこのC64にも通ずるのです。
バスルアーのマイティカラー”ボーン”
水面アングラー必携カラー
カラーはトップウォーターアングラー必携と言ってもいいボーンカラー。
一見くすんだホワイトにしか見えないこの色は、コーデルはだけでなくあらゆるルアーにおいてマストなカラーとして知られています。
特にペンシルベイトとの相性がよく、日が昇る前のローライトかつ静かな水面ではボワンと膨張したように見えるのでプレデターにとってアタックしやすいとされています。
まあその辺の理屈はともかく、大昔から数多のアングラーが ”なんか知らんけど釣れる” と口を揃えるルアーなので使っててどこか安心感があるのは間違いない事実ですね。
個人的にはペンシルベイトにはボーンとヘドンのカラーセレクターでいうところのCCMQカラーがあれば他の色は要らんと言い切れます😁

しかし気になるのはこのボディに刻まれたレプタイルちっくなエンボス模様。
コーデルのペンシルポッパーにはこの模様付きとツルンとしたプレーンなフィニッシュの2通りが存在します。
そして両者の違いと使い分けをずーっと調べてるんですが、未だ分からないんです。
コーデルはこのパターンで特許を取得しているので間違いなく何らかの目的があるはずですが、名称も含めて未だ判明していません。
なのでどなたかご存じの方がいらっしゃいましたら是非ご一報を。
スモーキージョーのヒミツ


王者レッドフィンのスモーキージョーカラー。画像ではわかりにくいが煙をまとっているような模様が表面に浮き出ている。
カラーついでにコーデルの伝統色でもある ”スモーキージョーSmokey Joe” についても少しノー書きをタレておきましょう。
スモーキージョーはビッグオーをはじめとしたコットンコーデルのほとんどのルアーにラインナップされている超定番の膨張系カラー。
もちろんペンシルポッパーにも採用されていました。

スモーキージョーとは米スラングでいつもタバコを吸っている人のこと。
常に身の回りにタバコの煙を漂わせている人を揶揄するワードですが、ボディ表面に浮き出たパール独特の模様を煙に見立てたネーミングセンスには脱帽しかありませんw
性能面でも申し分なく、ボーンにも負けない膨張っぷりでステイン〜マディウォーターでの実績はお墨付き。
日本のコレクターの間ではこのカラーパターンを ”練りパール” と呼んでいてそれはそれで唸らされますがw、こういうワードプレイを見せられるとチンコも膨張しちゃいますね。
しかしそんな超定番にも関わらず、何故か近年は積極的に採用されなくなっているのです。
これについて何人かの米コレクターと意見交換したことがあるのですが、あるコレクターが興味深い事を言っていました。
スモーキージョーという言葉は昔ネイティブアメリカンに対する差別用語として使われていたことがあるんだ。かつて酋長にジョセフ・クローという人物がいて彼はジョーの愛称で呼ばれていた。それにパイプを吸っているインディアンの描写を重ねた差別的表現だったんだが、近年は人種差別に対して世論が厳しくなっているからもしかしたらコーデルもその風潮に対応しているのかも”と。


画像出典:www.pinterest.jp
これはあくまでもコアなコレクター推察でありどこまでいっても想像の域を出ませんが、スモーキージョーという単語が差別用語だったのは紛れもない事実なので、そう言われるとちょっと信じちゃいますよねw
でも差別的だという理由だけで名カラーが消えちゃうのは惜しいのでカラー名を変えるなりしてもうちょっと頑張ってほしいもんです。
とはいえ、スモーキージョーが違うカラー名で登場したらそれはそれでオタどもは黙っちゃいませんが😂
フックを替えてもバランスが崩れにくい懐の深さ
フックは前後とも#2サイズが標準となっていますが、実戦版はリングサイズを上げてショートシャンク化して使用しています。
その理由はもちろんバレ抑止。
ペンシルポッパーはバイトが多いルアーなのですが、その分ミスバイトもバレも多いルアーなので、あ”あ”あ”ーーーーっ😫とならないためにも対処しておきたいなと。
ま、この辺は気休めの要素強めですけどね。
ちなみにフックを#1サイズに変更してもアクションは変わりません。
この辺の許容範囲というか懐の深さはいかにもアメリカンルアーってカンジですね。
絶滅してしまったエンボスネーム😭
しかしそんな高性能なルアーなのに大きな欠点が。
それはネームがどこにもないこと。
これだけのパフォーマンスを持ったルアーならばやっぱりネームは欲しかった。
初期のモデルにはしっかりエンボスモールドがダブルで入ってただけにこれは残念すぎますね。
問題は入手が容易ではないこと
そしてもうひとつ深刻な問題が。
このC64サイズはどこにも売ってないのです。
プロショップを名乗る店ですら未だコレを見たことがありません。
ウェブ販売ではチラホラ見かけますが、このパフォーマンスが現物で感じられないのは大きな障害ですね。
まあ見た目が地味で国産ルアーに見劣りするので仕入れ担当のキモチも分からんでもないんですが、こういうのを仕入れてちゃんと案内するのがプロショップの仕事だと思うんだけどな。
いつだったか某有名小売店の店主に『いまアメリカで売れてるルアーを教えて』と言われてカーリーテールのスイムジグを教えたことがあるんですが、それに対する彼の反応は『カーリーテール!今さら!www』で、それがどんなルアーであるか聞こうともしませんした。
彼との間には『売れてるルアー』と『釣れてるルアー』の齟齬が有ったわけですが、個人的にこいつは話にならんなと思い、以降その店には注文書を送らなくなりましたw
どんな仕事であれ好奇心と探究心を持たない人とは一緒に仕事したくありませんから。
プロショップの仕入れ担当が全てそうだとは思いませんが、”釣れる” よりも ”売れる” に傾く店が増えてきていることを思うと、今まで以上にエンドユーザーが目を鍛える必要性が高まってるんじゃないかと。
おわりに
ペンシルポッパーに限らずですが、ルアーの歴史を紐解いていくと、それぞれのルアーには生まれた背景や必要性が存在し、どんなクラシックルアーであっても今も必ず実力を発揮する機会があります。
もしかしたらそれを知ってたら自分だけのパラダイス銀河が始まる可能性だってあるんですから。
どのルアーも沈黙する中、誰も持ってないようなクラシックルアーでひとり連発したら、サイコーにキモチ良くなっちゃって先走り液じゃ済まなくなり、パンツの中に生暖かい広がりを感じるところまで逝ってしまいそうです。
いちオタとしては、そんな日が来るのを夢見て日々妄想に拍車をかけていきたいもんです。