リプロダクション Re-Production という言葉があります。
主に製品の再生産、複製を指し、本来は意匠権の切れたものを正確に再現制作するという意味。
元々はヴィンテージ家具業界で使われていた言葉ですが、近年はありとあらゆる製品にこの言葉が使われるようになり、今では単なるコピー品にまで都合良く使われるようになってしまいました。
しかし今日紹介するバーグは、薄っぺらいリプロ品などではなく、真の意味でのリプロダクションを突き詰めたルアー。
オリジナルの良さを再現しつつ、実釣での使いやすさもしっかりと追求したネオリプロダクションと言っても過言ではないスーパーな存在です。
このバーグの元ネタとなったのはへリンのフィッシュケーキであることは皆さんご存知の通り。
フィッシュケーキは1970年までに累計400万個以上売れたことで有名なフラットフィッシュを世に送り出したへリンタックルカンパニーが1957年にリリースしたルアーで、1961年に取得した特許権が終了しているにも関わらず米国では未だにパテントモンスターと揶揄されるほど数多くの特許を持っていたルアーでした。
その権利武装っぷりは、申請時に提出された構成要素図からもなんとなく伝わってきますね😅
モータウンの名で知られるデトロイトを拠点としていたへリンは、フラットフィッシュの空前のヒットに続いてWW2後の好景気という追い風にも恵まれ(詳しくはラトルバグの記事参照)、満を持してフィッシュケーキをリリースしました。

それまでのルアーには存在しなかった個性的なデザインだけでなく、魚を寄せる力にも長けたフィッシュケーキは、フラットフィッシュに次ぐ親孝行息子として、へリンの屋台骨を支えたのです。
そんなフィッシュケーキの誕生から50年以上が経ち、オマージュの対象としてのリメイクを決意したのはカハラジャパンのトップウォーターブランド、プラスチックイメージでした。
このバーグをはじめ、クリークチャブビートルのリメイクであるスカラブ、ジガーリメイクのクイバーなど、王道トップウォーターから敢えて違うラインを攻めたハズし技はマニアの心を揺さぶりました。
それもそのはず、カハラジャパンの社長はオールドルアーコレクターの間では名の知れた人物で、NFLCC (National Fishing Lure Collectors Club) にも人脈を持つなど、ヴィンテージ/オールドルアーに関してはちょっとうるさい人なのです。
そんな人物が監修したルアーですから、良くも悪くも採算度外視なルアーに仕上がっているのです。
まずなんと言ってもこのペラが気合い入りまくりです。
復刻モデルにありがちな簡素化によるコスト削減なんてどこ吹く風、細部に渡るまで徹底的に再現されています。
特許の構成要素図からも分かる通り金属板を丸めてプロップにするという元々の発想も脱帽モノですが、プラスチックイメージでは改良を加えて回転性能を大幅にアップしているのです。
真横から見るとペラの先端に少しだけヒネリが入っているのがわかると思いますが、実はオリジナルのフィッシュケーキにはこのヒネリがありません。
よって、オリジナルのフィッシュケーキはプロップの立ち上がりにちょっとタイムラグが生まれるのですが、バーグは巻き始めた瞬間にプロップが立ち上がる実釣主義設計。
そして回転が始まるとプロップ全体で強力に水を押し始めるんですが、この水押し具合がスイッシャーとかバズベイトの比じゃないのです。
その水押しパワーを例えるならば、バルサ製ウェイクベイトのそれ。
しかしウェイクベイトとバーグとの決定的な違いは、助走距離なしで瞬時に立ち上がり、ほんの5cm程度、短く引っ張るだけでもしっかり水を攪拌してくれるのです。
その攪拌の複雑さは一般的な一枚ペラの比ではありません。
この丸めた金属板の中を水流が抜ける効果で、水面をゆっくり引くだけでルアーの両サイドに小さな渦巻きの列をこしらえながら、後方ではルアーの下から湧き出るようなヴォルテックスを生み出すという、なんとも表現し難い独特の存在感を放つのです。
そして特筆すべきはそのサウンド。
ロッドティップの位置とリトリーブスピードを調整するだけで、通常のバズベイト系キュルキュル音はもちろん、ジタバグ系のポコポコサウンドから潜水艦スクリューのシャオシャオサウンドまで思い通りに出せてしまうんです。
オリジナルのフィッシュケーキでもさすがにここまでサウンドに変化はないので、これはバーグだけのオリジナル技と言ってもいいでしょう。
その特異なサウンドを文字で説明するのは不可能なので最初は水中動画を撮ろうと思ってましたが、あまりにも音のバリエーションがあるので諦めました😅
ただ、水圧でプロップがボディに強く押し付けられる関係上、ある一定のスピードを超えるとボディが回転を始めてしまいます。
一応それを防ぐためにシャフトをボディの中心線からオフセットしたり、オリジナルにも使われている二段ワッシャーを採用するなどいくつかの策は講じられていますが、強めのジャークで使ったりするとどうしても回転は避けられません。
とはいえ、ジャークや早巻きで使うタイプのルアーではないのでストレスを感じるほどではありませんが。
そうそう、肝心なことを書き忘れてましたが、このバーグは270度のテーブルターンもこなす芸達者なので、モワモワ引きからのピンポイントネチネチも楽しめます。
フックはフラットフィッシュにも採用されていたモバイルハンガーによって吊るされていますが、ここにも狂気が宿っています。
このフックハンガーのサイズ/構造はへリンのものと寸分違わぬ仕様になっていますが、違わないのは見かけだけではなく、ワイヤーの反発力まで同じ。
よって、フック交換の時に苦労するところも見事に再現されています😅
このフックハンガーもそうですが、プロップもボディも、ファイナルプロトに行き着くまでに相当な試作品が闇に葬られて行ったんだなと思うとちょっと恐ろしくなりますね。
ちなみにバーグのフックはオリジナルフィッシュケーキに準じてマスタッド系の#8サイズロングシャンクがぶら下がっていましたが、あまりにも小さくてバランス的にもアレなのでショートシャンクの#6に交換済み。
フッキングの点からも、ボディの回転を抑制する点からもこっちの方がオススメです。
モバイルハンガーの場合、バーブレスにしておかないとエラい目に遭うのはもう言うまでもありませんね。
リアフックはカップを咬ませたヒートン直付けで#2のロングシャンクが装備されています。
ただ、デフォルトのカップは浅過ぎてフロントフックと干渉してしまうので、アルミのディープカップに交換済み。
これによりフック同士の干渉は100%解消されるので、実戦投入している人にはオススメです。
ちなみにこのディープカップ、とある有名ルアーに使われていたカップをそのまま移植しました。
カップを見ただけでそのルアーが分かる人はイっちゃってる級のヲタクか、少年時代に遊んでくれる友達が一人も居なかったかのどちらかでしょう😂
しかし残念なのはネームプリントがどこにもないこと。
他のプラスチックイメージのルアーにはちゃんとネームが入ってるのに残念ですね。
もしかしたらオリジナルのフィッシュケーキにもネームがないのでそれを忠実に再現したのかもしれませんが。
でもこれだけのパフォーマンスを持つルアーにネームがないのはメーカー的にも大きな機会損失になるんじゃないかと。
話は変わりますが、バーグの元ネタとなったフィッシュケーキの名前はイギリスの家庭料理、フィッシュケーク Fish Cake から来ています。
アジア地域でフィッシュケークといえば中華料理のフィッシュボールや日本の薩摩揚げのように魚のすり身を揚げたものを指しますが、西洋におけるフィッシュケークは、鱈などの白身とマッシュポテトを丸めて焼いたものの事。
画像検索するといくつものフィッシュケークが見つかりますが、その形は日本のおにぎりのように家庭によってボール型だったり俵型だったり扁平だったりとさまざま。
おそらくフィッシュケーキのネーミング担当の家では俵型が標準だったんでしょうね😁
ちなみに魚の白身がカニ身になったクラブケークというのもあって、いずれもめちゃくちゃ美味くてビールとのマッチングは最高なので、どこかで見つけたらトライして開口健気分を味わってみてください。
そんな具合にオリジナルパーツをふんだんに投入するなど細部にまでこだわったバーグですが、既に生産は終了しています。
プラスチックイメージというブランド自体が社長の趣味というか熱意で突っ走っていたので、おそらく最初からワンロットのみの制作プランで、利益など考えていなかったと思われ。
そりゃそうですよね、カスタムパーツ投入しまくりなのに定価1,500円程度なんて、どう考えても採算割れです。
でも逆に言えば、そんな金額でオリジナルのフィッシュケーキを上回るパフォーマンスが手に入るんですから、エンドユーザーからしたらこんなスゲーことはないんじゃないかと。
見た目のキテレツさでなかなか手が出ないルアーの筆頭ですが、そのパフォーマンスだけでなく、リプロダクションルアーのお手本としても持ってて損はないルアーのひとつですので、どこかで見かけたら是非ともゲットしてその水押しとサウンドにノックアウトされてみてください。
2021.05.16 追記
某広島カープファンの某ヤバい人からバーグの資料投下頂きました。
画像のバーグは前後ともディープカップになってるので、ここでも中国工場あるあるが発生したと思われ。
生産版最終サンプルにGOサインを出したら、納品されたものは勝手に仕様が変えられてたというあのチャイナマジックです。
これがあるから中国生産は最後まで気が抜けないんですよねー