うんざりするほどルアーを囲っていても、ルアー同志の熾烈な戦いを勝ち抜いて一軍ボックスに指定席を確保しているものはほんのひと握りです。
今日のゲスト、アユチュピペンシルはのんだくれボックスで永年指定席をキープし続けている数少ないペンシルベイト。
ペンシルベイト好きならハマる要素テンコ盛りの和製オリジナルザラスプークなのです。
アユチュピペンシルとは
アユチュピペンシルはノリーズブランドを擁していたティファが販売していた中型のペンシルベイトです。
まだ日本のバスフィッシングがアメリカを追っかけていた90年代初めにデビューしました。
アメリカのトーナメントで戦ってきた田辺哲男プロが、より実戦で使えるペンシルベイトをということで開発したと当時の雑誌に載っていたような記憶があります。
今でこそ日本人アングラーの米国ツアー参戦は珍しくなくなりましたが、当時は日本人にとって米国トーナメントはまだまだ未知の世界。
そんな本場のトーナメント経験を持つ田辺プロのスキルが集約されたペンシルベイトというだけでテンションがアガったもんですw
アユチュピペンシルのサイズ
アユチュピペンシルは全長95ミリ、自重は11g弱のミディアムサイズペンシル。
当時のカタログでは自重14gとなっていましたが、実測では10.7〜10.9gの3/8ozサイズですね。
一見どこにでもありそうな大きさのペンシルベイトっですが、実は絶妙としか言いようがないサイズにまとめられているのです。
緻密に計算された”日本人サイズ”

上からオリジナルザラスプーク、アユチュピペンシル、ザラパピー
当時はペンシルベイトといえば、何はなくともとりあえずオリジナルザラスプーク、な時代でした。
琵琶湖や霞水系の水面大爆発の影響で日を追うごとにその実力が広まり、トップウォーターならオリザラとポップR持っときゃオッケーでしょ!みたいな風潮だったのです。(今思うと笑っちゃうぐらい雑ですけどw)
その反面、オリザラの威力を知らないアングラー、つまりオリザラで釣ったことのないアングラーにとってこのサイズ感を克服するのはちょっとハードルが高いという一面も。
なぜならその頃はまだ【バスの口の大きさとの対比でルアーを選ぶ概念】が支配していた時代で、ビッグフィッシュはともかく、バスが飲み込めないような大きさのルアーを投げるということに大きな抵抗があったのです。
要するにオリザラの評判を聞いて買ったけど、その大きさゆえ信じて投げ続けられないアングラーが大勢いたのです。
そんなタイミングでオリザラよりも一回り小さなアユチュピペンシルがリリースされたんですから、売れないわけがありません。
それだけではありません。
このアユチュピペンシルの絶妙なサイズ感はザラパピーのサイズに不満を持っていたオリザラ使い達の心にも強く刺さったのです。
当時、オリジナルザラスプークの派生モデルとして既にザラパピーが発売されていましたが、オリザラ使いにとってパピーのサイズは ”小さ過ぎ” でした。
オリザラを使っていると誰もが思う、ひと回り小さいザラが欲しい!という欲望を満たすには小さ過ぎたのです。
パピーにはパピーの開発コンセプトがあって、めちゃくちゃ釣れるルアーだけれども、派手なスプラッシュを飛ばすオリザラのドッグウォークを求めているアングラーの性癖を満たすには役不足でした。
そこにこのアユチュピペンシルの登場です。
オリザラ初心者はもちろん、オリザラの手練れ達からも高評価となったアユチュピペンシルは大ヒットとなったのです。
当時の日本のバスのアベレージサイズや先述の【概念】にもジャストミートしたことも大きかったんでしょうね。
そして当時のアメモノにはなかった、ベイトフィッシュを強く意識した造形。
つまりアユチュピペンシルには当時の日本のアングラーがペンシルベイトに求めていた要素が凝縮されているのです。
これぞマーケティング力の勝利ですよね。
しかも開発に携わったのがオリザラの有効性を強く説いていた田辺プロときたら、もう期待しない方がおかしいw
かくしてのんだくれはアユチュピペンシルの前にひれ伏したのでした。
アユチュピペンシルの特徴
アユチュピペンシルの外見上の特徴はボディ断面がデルタ型になっていることです。
両サイドのエッジがちょうど船底のキールの役目を果たし、ターンした時のキレとスライドの直進性を向上し、連続して大きなスプラッシュを生み出すのに必要なルアーの ”踏ん張り” も実現しています。
この形状が生み出す効果は絶大で、初心者でもちゃんと動かせるというルアーの必須条件をクリアするだけでなく、ハーフサイドステップなどを多用する技巧派にも納得のパフォーマンスを見せつけてくれます。
実はこのデルタ形状断面を持つペンシルベイトはバグリーのラトリントゥイッチャーなど数多く存在するのですが、それらはどれも帯に短し襷にナントカで総合ポイントで見ると首振り以外の要素がイマイチなものばかり。
しかしこのアユチュピペンシルは総合点においても高ポイントをマークしているのです。
そしてアユチュピペンシルの最大の特徴でもありウリでもあるのが、”荒れた水面でもダイブしない” ということ。
このダイブしないという性能は当時なかなかのインパクトがありました。
今でこそ潜らないペンシルベイトは多数存在しますが、当時このサイズでそれを実現したものはほぼ皆無。
ペンシルベイトは風が吹いて水面が荒れ始めた時に爆発することが多いルアーなのですが、アユチュピペンシルはそんなチョッピーウォーターでもダイブすることなく確実に首を振ってスプラッシュを出してくれるのです。
それはノーズ形状と浮力とラインアイの位置角度がベストなバランスゆえのパフォーマンスだと思われますが、これだけの実力を持つペンシルベイトは令和の今でも数えるほどしかないことを思うと、30年近く前にそれを実現した設計者はスゲーなと。
もちろん本場のトレイルで経験を積んだ田辺プロの実戦感覚も生かされているのは言うまでもありません。
アユチュピペンシルの使い方
そんなアユチュピペンシルですが、基本性能レベルが高いのでどんな使い方にも対応します。
左右へしっかりとスライドさせるノンストップドッグウォークはもちろん、ツバ吐き性能を生かしたポッパー使いなどなど、ダイブ以外のほとんどのアングラーの要望に応えられる懐の広さを持っています。
なので使い方はアングラーの好みでオッケー。
ただ、潜らないこのサイズのペンシルならではの使い方として超高速ドッグウォークとの相性がバッチリなのでひとつ紹介しておきましょう。
使い方は超カンタン、ノンストップで超高速ドッグウォークするだけ。
キモはとにかく早いピッチで首振りをさせてスプラッシュを飛ばしながらリトリーブすること。
長時間やり続けるにはちょっと根性が必要なメソッドなのですが、これが意外なほどニュートラル状態のバスにスイッチを入れてくれるのです。
90年代バスフィッシングブーム真っ盛りの頃、のんだくれのホームグラウンドは激タフで有名な相模湖だったのですが、この方法で幾度となく助けられました。
係留してある浚渫船や土砂運搬船など、ストレッチが長く確保できる大型構造物の脇を高速で通すだけで下からバコン!を何度も経験しているのです。
超高速巻きならば他のペンシルでも対応できそうに思えますが、このサイズで飛行軌道が曲がらずにロングキャストが出来、しかも安定してスプラッシュを飛ばすことができるアユチュピペンシルは、当時超高速ドッグウォークに対応できる唯一の存在と言っても過言ではなかったのです。
もちろんその方法がいつも効いたわけではありませんでしたが、そんな時はアユチュピミノーとのローテーションでキャッチできる魚もあったりして、両者は当時から絶対に外せないバッテリーとなっています。

アユチュピミノーとアユチュピペンシル。同じサイズでアトラクター要素が変えられるという優秀かつ貴重なタッグ。
アユチュピミノーについて語り出すとこれまたエンドレスになるので、それはまた別の機会にゆっくりと😁
クイックなドッグウォークを助けるリグ構成
超高速ドッグウォークといえばテールのフックハンガーにも注目しなければなりません。
一見どうという事のないエイトリングですが、テールエンドではなくテールの下側にリグられているのがキモなのです。
この位置にリグを設置する事でルアーの下側(腹側)に重心を集中させることができるので、リグがテールエンドにあるものよりも姿勢回復が早くなります。
つまり体を大きく傾けて大きなスライドをした後、すぐに姿勢を立て直して次のアクションに備えてくれるので、連続トゥイッチのような断続的な入力にもバランスを崩すことなくしっかりと首振りが刻めるのです。
剥き出しのテールは岩盤や護岸に直撃すると割れちゃうという弱点は否めませんが、安定した首振りを考えたら屁のようなもの。
そもそも100%完璧なルアーなんてのは存在しないワケですからそこは目をつぶってあげましょう😁
ラトル入りだがその効果は…
テール部分にウェイトを配置した固定重心となっているのもこのルアーの特徴です。
定義上はラトルとなっていますが、ウェイトルームの僅かな隙間でカタカタ動くという程度の鳴りなのでアトラクターとしての要素は低めですね。
というよりも軽量のグラスラトルなどを封入すればいくらでもうるさいセッティングに出来たはずなのに、あえてそれをやらなかったということはナチュラルアピールのノンラトルモデルとして見てあげた方がいいのではないかと。
”やり過ぎ感”のない、ちょうどいいナチュラル感
性能面ばかりを見てきましたが、アングラーに訴えかける視覚面でもアユチュピペンシルは絶妙なポジションに立っていました。
メガバス一派による超リアル系の侵攻が始まる前だったというのもありますが、オリジナルザラスプークの無機質なイメージと比べたら当時はこれでも十分リアルな造形だったのでアングラーの心をいともカンタンに貫いてくれましたねw
ネーミングだけでなくアユのアイデンティティでもある体側の”く”の字模様(これの正式名称は何?)を塗装ではなく彫塑として表しているあたりに製作者の気合が見て取れますね。
アユチュピ使いなら押さえておきたい必携カラー

上からトランスルーセント落ちアユ、トランスルーセントチャートアユ、ゴールドオレンジアユ
そんなアユチュピの性能をさらに増幅してくれるのがカラーチョイスです。
アユチュピペンシルには世代によって色々なカラーがありましたが、のんだくれが外せないのは画像の3色。
一番上のトランスルーセント落ちアユはあらゆる天候、時間帯でも釣れるアユチュピペンシルの中でも最強のカラーと言っても間違いではないでしょう。
ブラウンバックからパープル、そしてパールベリーへと変わるカラースキームはズイールの最強色MPに通じるものがあります。
オリザラの釣れ釣れカラーセレクターカラーであるCCMQも似たトーンなのでこの色調には魚を狂わせる何かがあるんじゃないかと。

そういえばこのルアーの開発にはベルズインターナショナルが関わっていたと聞いたことがありますが、もしそれが本当ならMPの威力を確信してこのカラーを採用したのかもしれませんね。
なぜならベルズの鈴木氏と元ズイールの柏木氏は旧知の釣り仲間だったらしいですから。
釣友同士だったらMPヤベーよという話をしてたとしても何ら不思議じゃありませんし😁
二段目のチャートアユはローライト時の視認性優先なのでバスの反応に関してはよくわかりませんが、コウモリが飛び始める時間にはめちゃくちゃ重宝するカラーなので持っておいて損はない色。
そして下段のゴールドオレンジはトランスルーセント落ちアユとのローテーションで使うと反応が出やすい色。
のんだくれは元々バズベイトやスピナーベイトでもオレンジカラーを選ぶ橙色信者なのでサミーなどオレンジカラーのルアーはとりあえず買うのですが、その中でもよく釣れた色なので外せません。
クロームベースだけれどもギラギラしすぎないカラーリングがスレたフィールドにマッチしてるのかもしれません。
アユチュピペンシルのフックサイズ
フックは#4のラウンドベンドが標準装備となっています。
フックに関してはあれこれトライしてみましたが、どれもしっくり来るものがなかったのでデフォルトが一番ではないかというのが現時点での見解。
アユチュピペンシルの威力に打ちのめされて未だに見つけたら買ってることもあって、フック交換するよりもルアー自体を変えてしまった方が早いのもあるんですが😁
アユチュピペンシルのネーム
ただね、そんな最強のパフォーマンスを誇るアユチュピペンシルにも弱点はあるんです。
それがこのネームプリント。
まずフォントがダサい。
そして読みにくい。
さらにフックのスクラッチですぐに消えてしまうという、悪い三拍子が揃ったショボショボネームなのです。
ノリーズのルアーは個性を追求するあまりちょっと違うトコにいっちゃう傾向があるのでこれもその一環だと思えばガマンできなくはないんですが、過去の釣果を思い出してニヤニヤしながら焼酎をカラコロ鳴らしてる時にこのフォントが目に入ると、いきなり現実に引き戻されるような気がしてどうも感情移入できないんですよね。
賛否あるとは思いますが、これだったら普通のゴシック体とかでも良かったような気がしないでもありません😅
ヲタの大好物でもある製造期による違いも
そしてアユチュピペンシルはヲタの大好物でもある製造時期による仕様の違いという点でも満たしてくれています。
画像だとちょっと分かりづらいのですが、初期はシール目で後期は3Dのポップアイとなっています。
この画像にはありませんが、3Dアイに変わった直後は手直しをしたのか、目の周りをペンか何かで丸く囲むように黒く塗られていたものも散見されました。
個人的には3Dアイよりもシンプルなシール目の方が好みなので、中古屋でシール目と出会うと未だにニヤリとしてしまいます😂
アユチュピペンシルの入手方法
既に生産が終わっているアユチュピペンシルですが、入手はそれほど難しくありません。
中古屋で2〜300円でぶら下がっていることはザラだし、メルカリやヤフオクでも低価格スタート設定されている物ばかりなのでその気になればすぐにしかも安く入手できます。
これは逆に言えば当時大量に出回っていてタマ数が多いという証でもありますが、同時に今は誰も使わなくなったということも意味します。
だったら一人爆釣を妄想しながらポチらなきゃダメですよねw
まとめ
このルアーに限った話ではないのですが、過去に大ブレイクしたのに今はもう誰も使っていないというルアーは他にも山ほどあります。
懐古主義ではないけれど、そういったルアーを引っ張り出してきてもう一度ちゃんと使ってみると、当時は気づかなかった事が見えたりすることもよくあります。
そもそもルアーの流行り廃りはおサカナには全く関係のない要素であって、そんな人間側の満足のために釣れる性能をスルーしちゃうなんて超もったいないですよね。
特に近年はペンシルベイトはバスルアー業界では売れないルアーの筆頭と言われているほど不人気なので、だれも使っていないこのタイミングにペンシルベイトを投入しないのは大きな機会損失と言ってもいいでしょう。
だからこそ未だ最強のパフォーマンスを誇るこのアユチュピペンシルを投入して欲しいのです。
風が吹いてベイトの気配を感じたらアユチュピ。
この秋はこのキラーワードをキモに命じてフィールドに立って欲しいなと。