初めて使ったルアーやタックルで魚が釣れると嬉しいですよね。
買って良かった!と思える瞬間です。
初めてのタックルで魚が釣れた事を “入魂する” なんて言いますが、一匹釣れただけで次へのモチベーションに繋がるので、魂が入ると言う表現は言い得て妙というか、八百万(やおよろず)の神の精神を表している最も的確な言葉ではないかと。
しかし長年釣りをやってると、どんなに頑張っても魂が入れられないものもあります。
アングラーの技量なのか、はたまた相性なのかは置いといて、とにかく魚を連れてきてくれない “鬼門” と言えるモノです。
今日のゲスト、フレッドアーボガストのアービーはのんだくれにとっての鬼門ルアーです。
アービーは1980年代(81年?)にリリースされたダイビングミノー。
おそらくハスラーの後継となるモデルだと思われますが、ディープエリアでシャイナーやミノーを捕食しているプレデターを攻略すべく開発されました。
アービーは画像の3/8ozモデルの他に、1/4oz, 5/8oz, 1-1/2ozの計4サイズを最初からラインナップするなど、かなり気合の入ったモデルでした。
その気合の入りようは、アーボガストの愛称?から取った名前からもわかる通りなかなかのもので(Arbogastの頭を取って Arby。アメリカ人が良くやる親近感を込めた短縮形です。日本で山から始まる名前の人を山ちゃんと呼ぶアレと同じ)、その熱量はアーボガストのカタログはもちろん、当時の雑誌広告からも伺えます。
のんだくれは最大サイズである1-1/2ozのストライパーモデルの現物を見たことがないんですが、3/8ozですらこのインパクトですから、1-1/2ozは相当な破壊力を持っていたんだろうなと。
アービーの事を良く知らなくても一目でアーボガストのルアーだとわかる雰囲気はさすがの Bait of Champions ですよね。
このルアーの最大の特徴はなんといってもこのリップでしょう。
ボディとの整合感を全く無視した、まるで出来そこないの合体ロボのような造形には畏怖の念すら抱きます。
しかしこれがアーボガストの魅力であり、最大の武器なんですよね😁
力の作用する方向に抗うかのように真っ直ぐに刺さっているヒートンに凛々しさを纏わせてしまうのもアーボガストマジックの成せる技。
ここまで不恰好なリップだとその取り付け方法も気になるんですが、そこはさすがのアーボガスト、リップを穴にはめ込んだらフックハンガーであるヒートンで固定するという独特な接合方法で我々のヲタマインドを満たしてくれています。
リップの固定をフックハンガーの仕事にしてしまう設計の柔軟性には、フラダンサーのDNAが息づいてますね。

しかーし!
そこまで考えられた設計にも関わらず、このアービーったらビックリするぐらいのもっさり泳ぎ。
しかもアクションの立ち上がりがサイアクで、泳ぎが安定するまでは、まるでMT車がノッキングするように前につんのめるような挙動が続きます。
それは、もし自動車学校の教習生だったら、絶対教官にチッと舌打ちされてるだろうなというぐらいの動き。
釣れるとか釣れないとかとは全く別次元の、アングラーのやる気を阻害する動きなんです。
よって、投げ続けるのはそれなりの忍耐が求められます。
だって釣れるオーラがないので、モチベーションのキープが大変なんですもん。
そしてこれこそがアービーがのんだくれの鬼門ルアーである最大の理由なんです😭
余談ですが、ラインアイのヒートンを打ち込む角度によって、アイ位置は変わらないのにアクションが変わるのは知ってました?
その典型的な例がザラII。
オールドと呼ばれているモデルはボディに対して斜めにヒートンが刺さっていますが、90年代に生産されたザラIIは真上に向かってヒートンが刺してあります。
プラスチック素材の違いなどがあるので新旧を同じ土俵で比較する事はできませんが、新しい方のザラIIのヒートンを斜めに刺し替えると、ややスライド幅が大きくなります。
このヒートン角度による微調整はハンドメイドビルダーの間では割と常識なので、試してみる価値はありますぞ。
本体は上下のパーツを貼り合わせた横割れと言われるタイプ。
リップの固定穴精度の関係上、横割れボディになったんでしょうね。
しかしこの頃のアーボガストは深みがあってイイ色出してますよね。
これでカビが生えなかったら100点なんですけど😂
画像のフックはヒートン直付けになっていますが、デフォルトではスプリットリングを介したマスタッド系のロングシャンクが装備されています。
実はこのデフォルトのセッティングもヤル気を削ぐ一因。
この時期のアーボガストはフラポッパーなどと同型のロングシャンクフックが使われており、それらにリングを介しているのでフックポイントが大きく下がり、やたらと根がかりするんです。
なので実釣用はこのようにヒートン直付けのワイドゲイプに交換していつでも来やがれ仕様に。
が、それでも釣れないんです。
ホント何をやっても釣れない😭
もうね、ボウズの神様が宿ってるとしか思えません。
そんな調子だったので、鳴り物入りで登場した割には泣かず飛ばずとなってしまい、あとは消えゆくのみ… という状況に。
しかし、そんな青色吐息のアービーにも起死回生のチャンスが訪れます。
サスペンドロングビルミノーのブームが到来したのです。
スミスウィックのダイビングログやレーベルのスプーンビルミノーなどが次々とサスペンド機能を搭載していくのを見たアーボガストも、このチャンスを逃してなるものか!と、アービーにもサスペンドモデルを投入します。
その名もアービーハンガー Arby Hanger。
水中で静止する様子と、ハング、つまり何かで吊るされている様子を掛けたナイスなネーミングでのんだくれの期待も高まる一方。
が、現実はそんなに甘くありません。
一発逆転を狙ったモデルなのに、残念ながら泳ぎの特性は全く変わらず😭😭😭
しかもサスペンドを謳っているものの、今でいうところのスローフローティングなので、浮力はノーマルとほとんど変わらないというビミョーなセッティング。
さらに話をややこしくしてるのは、ルアー本体にハンガーモデルであることを示す表記が何もなく、判別する唯一の方法はパッケージに貼られたシールのみ。
よって単体ではノーマルなのかハンガーなのか全く識別できないという親切設計になっており、起死回生どころかかえってアービーの寿命を縮める結果に。
しかしここで諦めたらアーボガストの名が廃ります。
アーボガストは当時蜜月関係だったリーシッソンにウッド製のアービーもどきを作らせたのです!
でも今度は選んだパートナーが良くなかった。
この時期のシッソンは品質が最低と言われていた時期で、今度こそ起死回生となるはずだったウッド製アービーはプラスチックモデル以上にヒドい出来となり、その結果プラ製もろとも静かに消えて行きました。
栄光の影には無数の敗北がある、と誰かが言ってましたが、このアービーを見るとホントその通りだなと。
フレッドアーボガストという米ルアー界の名門ですら、どうしようもなかったルアーがあるのかと思うと、我々も日々の小さな失敗で落ち込んでる場合じゃないなと勇気づけられるような気がしますね …って飛躍し過ぎ?