どの世界でもそうですが、一世を風靡した先人の名を受け継ぐのは並大抵の事ではありません。
その最たる物が歌舞伎の襲名。
先人の芸と同等、もしくは秀でているのは当然、足りないところがあれば即批判に晒されるという立ち位置は相当な覚悟がないと務まりません。
しかしルアーの世界にも同様の襲名があるんですよね。
今日のゲスト、バスハンターRはそんな襲名によってデビューしたクランクベイトです。
バスハンターが80年代に大ヒットした少年ルアーの代表作であることはみなさんご存知の通り。
アメリカにおけるGGY達のジェリーワーム話と同じぐらい、おっさんの昔話に高確率で登場するルアーの筆頭です。
そんな名実ともに名品と呼ばれるルアーが90年代バスフィッシングブームの波に乗ってリニューアルされたのです。

90年代バスフィッシングブームといえば、毎週のように新製品が発表されていた黄金の時代であり、ルアーであれば、いや、トレブルフックさえ付いていれば飛ぶように売れていた時期でもありました。
そんなバスフィッシングブームはメガバスのルアーに代表されるリアル系ルアーがリードしていたのです。
ウロコやエラの細かな彫塑にはじまり、立体的な3Dアイ、細部にまでこだわった塗装など従来のルアーにはなかったスキームを採用し、その斬新さにアングラーが踊らされていました。
グアニウムフィニッシュと聞いて、何がどう魚に効くのかも理解しきれていないのにテンションを上げていた経験は誰にも有りますよね(自戒)

初代バスハンターDRと三代目となるバスハンターR DR
そんな中でダイワがぶち上げたのはバスハンターのリアル化でした。
二代目はほぼ先代の意匠を引き継いだ形でのリリースでしたが、三代目では大きくイメージを変えて ”最新の” ルアーへと変身を遂げたのでした。
これが登場した時の衝撃は良くも悪くもなかなかのものでした。
なんというかめちゃくちゃ安っぽく見えたのです。
【バスハンターの価格帯】という制限があるので仕方がないのですが、百花繚乱で新製品が渦巻く中においてはどうしてもチープなイメージが先行してしまいました。
そして自身の名前からくるギャップもそのイメージを強調してしまうことに。
のんだくれも含めた、かつてバスハンターを溺愛していたおっさんたちから強烈なブーイングを浴びてしまうのです。
あんなもんバスハンターじゃない!メガバスのパクリだ!などなど罵詈雑言のオンパレード。
初代バスハンター、バスハンター2共に決して高級イメージだったわけではないのですが、思い出補正によって神格化されていたこともあり、三代目であるRへの目は非常に厳しいものになっていました。
かくしてバスハンターRは80年代を知るおっさんたちにとっては微妙な立ち位置のルアーになってしまったのでした。
バスハンターR DRはボディ長50ミリ、自重9gのダイビングクランクベイトです。
マグナムクランクをデカイと思わなくなってきている今のサイズ主観で見るとタイニークランクにしか見えませんが、当時のクランクベイトはこれが標準サイズでした。
そもそもバスハンターには小中学生がお小遣いで買えて野池のオカッパリで使えるルアーという商品コンセプトがあったはずなので、いろんな意味でのお手頃サイズ感を外す事は考えられませんが。
DRと同時にショートリップのSRモデルも発売されたのはみなさんご存知の通りですね。
そしてそれらはダイワの強大な販売チャネルを通して日本全国へデリバリーされ、バス少年達の元へ届けられたのでした。
しかし先述のおっさんたちと少年たちの間にはバスハンターRの受け止め方に大きな差がありました。
初代バスハンターを知らない少年たちはこのRに対する先入観がなく、普通に投げて普通に釣っていたのです。
彼らの感覚的ではバスハンターRは ”どこでも買えてよく釣れるルアー” のひとつ。
おっさん達が思っていたような、安っぽいとかメガバスのパクリだという感覚を抱いていなかったのです。
もちろんメガバスやエバーグリーンなど当時人気のルアーは喉から手が出るほど欲しかったけど、自分のお小遣いで買えてしっかり仕事をしてくれるこのルアーは大切なバディだったんです。
その点においては、当時の少年たちの方がおっさん達よりもルアーの本質を見る目を持っていたと思うんですよね。
小金を持ったオトナたちだけがメガラキエバに踊らされて本質を見抜く力を奪われてしまったけれど、逆に予算の限られていた少年たちはちゃんとモノを見ていた、いや見ざるを得なかったんじゃないかと。
そんな視点で改めてバスハンターRを見てみると、かなり気合の入ったルアーであることがわかります。(バスハンターを襲名するのに気合が入ってなかったら終わってますけどw)
その最たる物がこのリップ。
エッジを薄くしてアクションのキレを強化するだけでなく、リップ付け根に水流を整えるアングルをつけて巻き心地を軽くするなど実戦向けにバージョンアップ。
新旧モデルを巻き比べてみるとRの方が圧倒的にブルブル感が強くなっているので、アングラーのモチベーションをキープするという意味でも大きな効果を発揮します。
そして基本に忠実なところもバスハンターRの特徴です。
強過ぎず弱過ぎない浮力は、クランクベイトの基本中の基本である【当たったら止める】の動作がやりやすいのです。
バス少年たちがオカッパリで使うための絶妙な深度設定と浮上スピードが実現されているのです。
しかもシャローでザリガニ巻きをすれば、いい感じで左右に軌道が振れるなどなかなかの手練れっぷり。
こういう設計の裏には、”バスハンターでクランクベイトの基本を覚えて欲しい” という担当者の思いも盛り込まれているんでしょう。
こういう作り手の熱意が伝わってくるルアーをみるとちょっと胸熱になりますね。
そして当時最新だった重心移動ウェイトを搭載して大幅な飛距離アップを実現。
3種類のサウンドを奏でるノイズメーカーとしても先代を大きく超えてきています。
しかも重心移動システムを搭載したクランクにありがちな姿勢回復の鈍さを感じさせないクイックな挙動も実現するなど、実売価格600円程度のルアーとしてはかなり頑張っていました。
それを実現した裏にはおそらくバスディの協力があったんじゃないかとのんだくれは睨んでいますが。
だって、ガワこそ違えどリップの作りや重心移動はまんまバスディのモーグルクランクですよコレ。
かつてダイワは数多の少年ルアーをバスディの前身だった会社に発注していた経緯があったことを考えると、この襲名にはバスディが一役買っていたんじゃないかと。知らんけど。
先代にはない細部の作り込みもRの特徴のひとつ。
当時はグリフォンのパクリだ!などと言われたい放題でしたが、今見るとどこがグリフォン???www
この外見を毛嫌いする層もいますが(のんだくれも昔は好きじゃなかった)、今改めて見てみるとこれはこれで90’s満載でイイですよね。
古き良きというテイストとは全く別の、当時ならではの背伸び感というか、B’zでいうところのEasy Come, Easy Go みたいな。知らんけどw
フックは当時のトレンドワードでもあった ”化学研磨フック” が標準装備です。
当時は化学研磨じゃないとダメみたいな風潮もあったりしてなんか懐かしくなりますね。
あ!ダメで思い出しましたが、当時は釣り場であれこれと講釈を垂れる人が出没したりしてなかなか面白い時期でもありました。
今でいうところの ”教えたがりおじさん” があちこちで確認されてましたね。
かくいうのんだくれも何回かそんなおじさんの被害に遭ったことがあります。
まだ水が冷たいスポーニング時期にチャグバグをチャプチャプさせていると後ろからいきなり ”今はポッパーなんかじゃ釣れないよ” とおっさんが声をかけてきたのです。
あーそーなの?と軽くいなすものの、この時期はこのルアーじゃないと釣れないとか聞いてもいないことを延々しゃべり倒すので、じゃ目の前で釣ってお手本見せてよ、とおっさんの後ろに付き纏ってそっちの角に投げた方がいいとか早く巻き過ぎとか言い続けてたら、変なやつに絡まれたとばかりに逃げて行きましたが。
最近はそんなお節介なおじさんに絡まれる事もなくなってしまったのでちょっと寂しい気もします。
ネームは腹にこの通り。
同系色でプリントされてい見難いのはネームヲタとしてはちょっと寂しいですが、価格帯が価格帯なので文句言っちゃイケマセン。
しかしこのRは一体何の頭文字なんでしょうね。
レボリューションのR? リベンジのR? それともリディキュラスのR?😂
80年代バス少年からは酷評されてたのに、90年代バス少年からは熱い評価をされるなど世代によって見方が大きく変わるルアーですが、冷静に見ればこの価格としてはかなり優秀なクランクベイトだったのではないかと。
いつの間にか生産が終わっていたので入手できるのは中古市場のみですが、当時出回った数が多いだけに今でも買える優等生だったりします。
普通に釣れるクランクであるだけでなく、90年代バスフィッシングを振り返ることができるタイムトリップツールでもあるので、もしどこかで安く出逢えたらおひとつどうぞ。