ルアーデザインの歴史は、同時にパクリの歴史でもあります。
ありとあらゆるルアーがパクりパクられ、それによってブラッシュアップされ進化を遂げてきたと言っても過言ではないでしょう。
しかしパクられた側としては心情穏やかではありません。
今回紹介するホローボディサンフィッシュは、そんな当事者の怒りの声を聞いて買ってみようと思ったルアーです。
ホローボディサンフィッシュとは
ホローボディサンフィッシュ(以下ホローフィッシュ)はカナダに拠点を置くコッパースフィッシングが2015年にリリースした、文字通り中空形状のウィードレスベイト。
超リアルフロッグとして話題となったホローボディフロッグ、フィールドマウスに続く中空ベイトです。
ホローフィッシュは発表の場となったICASTショーでベストソフトベイト賞を受賞し、デイブ・メイサーがホストを務める Facts of Fishing でも大々的に紹介されたことで、大ヒットとなりました。
しかしこの栄光を、はらわたが煮えくり返る思いで見ていた人物がいました。
それはピカソルアーズの社長ダン・ヴェスヴィオ。
同じくサカナ型の中空ウィードレスベイト、シャッドウォーカーをデザインした人物です。

ライブターゲットはシャッドウォーカーのコンセプトを盗んで受賞した!パテントを取得しているのに!本来あの賞は我社が受け取るべきだ!と鼻息フンガー😤状態。
当時シャッドウォーカーを輸入していたこっちにまで、お前はどう思うんだ?と詰め寄られる始末w
その時はよく分からんとテキトーに逃げましたが、逆にそこまで彼をキレさせたルアーが気になったので、ダンにはナイショでポチったというのがこのホローフィッシュとの馴れ初めでした😂
ホローフィッシュのサイズ/重さ
ホローフィッシュは全長88ミリ自重17.8gの、中空ウィードレスベイトとしては平均サイズにまとめられています。
このサイズの他に75ミリ/12gの弟もラインナップしています。
いずれのサイズも魚矢が輸入していたので店頭で見かけた事があると思います。
ホローフィッシュの特徴
ライブターゲットお得意のナチュラルプロファイル
このルアーの最大の特徴はなんといってもこのオサカナちっくなボディシェイプでしょう。
ライブターゲットお得意のナチュラルプロファイルデザインを余すトコロなく発揮したボディはもはやお家芸のレベルです。
各部を大胆にデフォルメしているため、これがブルーギルやパンキンシードなどに代表されるサンフィッシュに見えるかどうかと言われれば、お、おおぅという感じですが、メリケンはこういうの大好きですからねw
しかし単にデフォルメしただけで終わらせないのがライブターゲットの真骨頂。
左右に張り出したヒレをフックガードにしたり、胸ビレの段差でフックポイントをガードしたりと各所に小技を散りばめるニクい演出も忘れていません。
こういう小技は海外製ルアーにはあまり見られないのですが、ライブターゲットのルアー設計には日本人デザイナー、ヒデ・イワサキ氏が絡んでいるので、その影響もあるんだろうなと。
ちなみに氏はかつて谷山商事ことバレーヒルがリリースしたブラッドショットシリーズのデザイナーでもあるので気になった方はこちらの記事もどうぞ。

ウェイトは専用設計のフック一体型
ウェイトはベリーに張り付くような薄さのフック一体型で徹底的に低重心化。
ぱっと見はよくあるウェイトだよねと思いがちですが、実際に使ってみると相当なスグレモノ。(詳細は後述)
このウェイトだけでもライブターゲットのパチモン呼ばわりされたくない意地とプライドが伝わってくるようです。
そして中空ウィードレスベイトならば気になる水漏れですが、この手のルアーにしては少ない方。
それなりに浸水はしますが、ボディが上反りで常に上への力が働くので気になるレベルではありません。
なんてことのないシッポにも秘密が
そしてライブターゲットは尾ビレにも徹底して機能を盛り込んでいます。
一見ただの尾ビレですが、厚みを増したリブを一部に入れることで薄いながらも強いコシを持たせています。
これにより首振り時に中空ウィードレスベイトらしからぬ大きなスプラッシュを作り出すことに成功。
更にテールをフラットではなく波打たせることで、弱い首振りでも複雑な水のヨレを作り出す設計も。
気付いた人だけがニヤリとできるこういう小技は、SEが自分だけのコードをプログラムに埋め込む遊び心に通じるものがありますよね。

ピカソルアーズのシャッドウォーカー(上)とホローボディサンフィッシュのテール比較
ちなみにシャッドウォーカーのテールは水中にエアを引き込むバブル型、ホローフィッシュは飛沫を飛ばすスプラッシュ型なので、これら特性の違いで使い分ける楽しみもありますね。
期待を裏切らないパフォーマンス
そんな徹底的に考え抜かれたルアーなので、アクションも期待通り。
一般的なフロッグのような長いラバースカートがない事も手伝って、小さな入力でクイックに首を振り、ラインテンションを加減すればしっかりとスライドもこなします。
アクション自体は強めのローリング。
上に反り上がった背ビレと腹ビレがターン時にしっかりと水を掴んで支点となるので、クイックでキレのある演出が楽しめます。
そういう意味では見た目こそ中空ウィードレスベイトですが、フロッグなどとは全く異質の存在と言えるでしょう。
しかしその運動性能よりも注目したいのが、このルアーの喫水の高さ。
中空ウィードレスベイトらしからぬ喫水の深さは、単にバイトを弾きにくいだけでなく、ダイビングアクションもこなすという大きなメリットをもたらしてくれます。
連続トゥイッチすると水面直下で踊るような挙動を見せるので、ミスバイトで追い食いさせたい時などにも使えるはず。
このあたりの中空ベイトらしからぬ独特の動きは明らかに超低重心の大型一体ウェイトの恩恵ではないかと。
まだ試してはいませんが、ウェイトを足してスローフローティングで使ったらOSPのベントミノーちっくな使い方も出来るんじゃないかと妄想してみたり。
ただし、キャスタビリティに関しては期待しちゃダメです。
ウェイトがあるのでそれなりに飛びますが、形状ゆえ飛行軌道が安定しません。
よってピンを狙わず、ショート〜ミッドディスタンスであくまでも広範囲に探るルアーだと理解しておく必要があります。
カラーはお約束のリアル系だが…
カラーはまんまブルーギルな “ナチュラルオリーブブルーギル”
これ以外のカラーも全てパンキンシードなどリアル系が占めています。
造形がリアルだけにそっち方面の色が多くなるのも分からんでもないのですが、個人的にはチャート系など目立つビジブルなカラーも欲しかったですね。
性能が際立っているだけに地味なナチュラル系カラーがメインなのはちょっと残念。
これはライブターゲットに限らずですが、ナチュラルプロファイル系のルアーを出すメーカーはナチュラル/リアルに縛られ過ぎてカラーリングの範囲を自ら狭める傾向が見られます。
かつてサベージギアのラインスルーブルーギル開発に携わった際、チャートカラーをラインナップに加えて欲しいという要望に対して大反対された事がありました。
その理由は ”チャートのブルーギルなんて居ないから” という非常にバカげたもの。
結果的には、ウチが全部買い取るんだからと押し切ってチャートギルを作らせましたが、その後のコウモリ型クローラーでも全く同じやり取りとなり、ウンザリした覚えがあります。
レーベルのナチュラライズドカラーにチャートなどデフォルメしたナチュラルプリントが存在しないのは、もしかしたら彼らにもそういうマインドがあったからなのかもしれません。
その点、ベースカラーに関係なくナチュラルパターンをプリントしていたビルノーマンはスゲーなと。

まあノーマンの場合は、何も考えずにとりあえず出してたと言った方がしっくりくるかもしれませんが😂
そうそう今思い出しましたが、ホローフィッシュのボディに刻まれたウロコ模様はバスの口からのスッポ抜け抑止効果もあるそうな。
フックはトローカーを採用
フックは平打ちポイントが特徴のイーグルクロー、トローカーTrokarのものを採用。
このルアーではまだオサカナ釣ってないのでフッキング性能は分かりませんが、トローカーフックはKVDをフィーチャーするなどイーグルクローの戦略ブランドなだけに期待しちゃいますね。
前作ホローボディフロッグにはダイイチフック社製が採用されていましたが、今回トローカーになったということは、ダイイチとの蜜月関係は解消しちゃったんでしょうか。

尚、先述の通りフックはウェイト一体型なので交換は出来ません。
残念ながらネームはナシ
しかしスーパー残念な事も。
そうです、このルアーにはネームがドコにもないのです。
ライブターゲットはハードベイトならルアー名はともかく、少なくともロゴスタンプが入っていますがこれにはロゴすらありません。
ルアーとしての性能が良いだけにこれはちょっともったいないですね。
おわりに
ピカソの社長の怒り💢から買ってみようと思ったこのホローボディサンフィッシュですが、実際に使ってみたら、パチモンどころかシャッドウォーカーとは全くの別物である事がわかりました。
いや、むしろシャッドウォーカーよりもずっと考えられてるかもw
そもそもシャッドウォーカー自体、コンセプトはカルプリットのトップウォーターシャッドに激似なのでダンもあまり人の事言えないんですよね😂

上からトップウォーターシャッド、シャッドウォーカー、ホローボディサンフィッシュ
ということで、ホローボディサンフィッシュは中空ウィードレスベイト好きなら持ってて損はないルアーなので、気になった人は是非どうぞ。
オマケのオハナシ
パテントについて話が出たのでちょっとだけオマケ話を。
アメリカにおいてパクったパクられたの話になると、必ずZ-マンとハドルストンの話が出てきます。
Z-マンのパテントに抵触しそうなチャターベイトを出すと、すぐにZ-マンお抱えの弁護士から確認と言う名の脅迫が来るし、ハドルストンに似たウェッジテールのスイムベイトを出しても同じように恐怖のお手紙が届きます。
実際、D&MカスタムベイツのチャターベイトがZ-マンのお気に召さなかった事で送られてきた警告状を見せてもらいましたが、それはそれは素敵な脅迫文でした😂
ハドルストンに至っては、自社のスイムベイトを卸しているショップでは他社の類似スイムベイトを販売させないという、日本だったら間違いなく公正取引委員会レベルの対応をしていたりと、両社は類似品に対してかなり厳しい対応をすることで有名です。
その対応の厳しさから、ハンドメイドビルダーが似たようなルアーを作ると、I’ll sue you!(訴えてやる!)とからかうジョークもあるほど。
でもこれって、考えようによってはパテントがあることで自らの進化を止めちゃってるとも言えるんですよね。
もちろん法律は守らなきゃならないけど、少なくともZ-manやハドルストンの対応を見てると、権利を守る事に集中するあまり、自社製品の改良とか進化を放棄してるように思えて仕方ないのです。
両社のパテントに引っかからないギリギリのラインを攻めた他社製品、しかも本家よりもイイ物が沢山出てるのがそれを証明してるんじゃないかと。
良いものがマネされるのは世の常。
すでにパテントの有効期限が切れてる名品ルアーのマネをするとパクリだ!と糾弾されるけど、クレイジークローラーやビッグオーをマネても今や誰もパクりだとは言いません。
さらに形をマネると怒られるけど、機能や論理をマネても誰も声を上げません。
これらの違いをちゃんと説明できる人って誰か居ます?
今日市場に存在するルアーのルーツはすべて何かしらのマネやパクりだと考えると、これはアレのパクりだ!とメーカーを糾弾する行為も広義ではルアーの進化を妨げてるような気がしちゃうのです。
個人的には法に則った範囲内でマネるのはセーフだと思うんだけどなぁ
みなさんはどう思います?