世の中にあふれる ”名作” と呼ばれる物には名作であるが故の苦悩も付きまといます。
それはその名作を生み出したメーカー自身がそれを超えられないというジレンマ。
万年筆ではモンブランのマイスターシュテュック149がそれに当たるし、スピーカーではタンノイのアーデン、椅子ではハーマンミラーのイームスシェルなどなど枚挙に暇がありません。
そしてこれはもちろんルアーにも当てはまります。
今日紹介するドッグXはそんな苦悩を抱えた名作のひとつです。
ドッグXとは
ドッグXは1991年?にデビュー。
”?”がつくのは、ちょうどこの時期はバス離れして毎日飲み歩いてた時期でデビュー時の詳細はほとんど知らないから。
当時の釣り仲間から新興メーカーからよく釣れるペンシルベイトが出たとは聞いてはいたものの、現物を見るのはそれよりもずっと後になってからでした。
米バスプロ、ランディ・ブロウキャットのウィニングベイトになったとかでその人気に火が付き、その後に発売されたポップXの爆発的ブレイクに引っ張られる形でドッグXも入手困難ルアーに。
時期を同じくして始まった”リアル戦争” も追い風となり、あまりの過熱ぶりに似ても似つかないパチモンも出たりして、ポップXと共に、良くも悪くも90年代を象徴するルアーとなりました。

上からドッグX、ジャイアントドッグX、パップフィッシュ
いきなり話が脱線しますが、数多のパチモンの中で最も出来が良かったのは米STIルアーズがリリースしたパップフィッシュPup Fish。
米国内によくある、魚を探して走り回らなければならないフィールド向けにドッグXを3Dスキャンしてまんま大型化したパチモンですが、これがなかなか使えます。
Pup とは子犬を表す Puppy の略であると同時に『パパ』の口語表現でもあるので小さいけど頼りになる犬というワードプレイも含めたんでしょうね。
そしてパップフィッシュには常軌を逸したマグナムサイズもあって楽しませてくれました。

ちなみにマグナムサイズは形だけのゴミルアーなので迂闊に手を出さない方が身のためですw
ドッグXのサイズ・重さ
さてさて話を元に戻しましょう。
ドッグXのサイズは全長85ミリ、自重1/4ozですが、ウェイトは実測では8.9gあります。
今の基準で見ると小型ペンシルベイトになりますが、発売された当時はこれが国産ルアーの標準サイズ。
しかしアピールが劣ると感じることは一切無く、むしろ扱いやすいボディにいろいろな可能性をギュッと濃縮したという感じでしょうか。
それは飛距離においても同様で、スムースなボディシェイプと安定した飛行姿勢でUS20ポンドをものともせず浪漫飛行をキメてくれます。
ドッグXの仕様
従来のペンシルベイトにはなかった造形美
ドッグXといえばやはり造形に触れない訳にはいきません。
今のメガバスと比較するとまだまだ大人しい造形ですが、当時としては画期的なものでした。
いわゆるリアル系ルアーのはしりですね。
しかしメガバスのリアルは本当の魚に寄せたものではなく、他社が出していないもので、かつアングラーの嗜好を見極めつつマーケティングで盛り上げる『狡猾なリアルさ』なので実際にはかなりデフォルメされたものであるのは皆さん御存知の通り。
ぶっちゃけのんだくれも一番最初に見た時は『犬の勃起チンコみてぇなルアーだな』が正直な印象でしたからw
サイズに見合わないラトルサウンド
ドッグXはラトルサウンドにおいても抜きん出ています。
メガバスお得意の慣性バランサー云々はあちこちで語り尽くされてるので一旦置いといて、注目すべきはどの方向への挙動でもしっかりとラトルを鳴らすサウンド特性にあります。
意外にもこれに気付いているアングラーは多くないのですが、実はスゴいことなのです。
同サイズのペンシルベイトと比較するとよく分かるのですが、他社ペンシルはある一定の運動方向でしかラトルが鳴らない、もしくは特定の動きではサウンドが小さくなりがちなのですが、ドッグXはあらゆる運動方向にもしっかり反応してラトルサウンドを響かせます。
更にサウンドだけでなくラトルボールがチャンバーの壁に当たって発する衝撃波もなかなかのもので、増幅というワードがピッタリの共鳴っぷりを楽しませてくれます。
メガバスがそれを狙って設計したのか、はたまた偶然なのかは分かりませんが、当時このサイズのペンシルベイトでそういった特性を見せるものはほとんど無かったので最初に投げた時は衝撃すら受けました。
今でこそラトル音の調律はルアー設計の基本となっていますが30年前にこれをやっていたというのはシビれますね。
あらゆる要望に応える応用力の高さ
クイックなターンを生み出す姿勢回復性能
このルアーのアクションを語る上でまず押さえておかなければならないのは、ドッグXには運動特性によって2種類ラインナップしているということ。
タイプWと呼ばれるウォーキングと、タイプSと呼ばれているスライディングです。
両方の特性について語るとエンドレスになるので、今回はスライディングについてのみノー書きを垂れてみようかと。
まずその名前にもなっているスライド特性ですが、その浮き姿勢からもある程度予想できる通り、それほど大きなものではありません。
ペンシルベイトの中にはズイールのテラーのようにロングスケーティングをこなすものがいくつかありますが、それに比べるとかなり大人しめ。

しかし一般的なペンシルベイトのスライド幅は余裕で超える能力を持っているので、物足らなさを感じることはありません。
そして特筆すべきは姿勢回復の早さ。
ペンシルベイトのドッグウォークはローリングと姿勢回復の連続なのですが、ドッグXはロール後に姿勢を立て直すのが早いので高速トゥイッチでの連続ドッグウォークも難なくこなすスラッシャーに仕上がっているのです。
食わせのキモ ”ダイビングアクション”
そして重要なのがダイブアクション。
軽い入力で水面下10cmぐらいまで頭を突っ込んだ後、すぐに頭から水面へ戻ります。
文字にするとなんて事のない挙動ですが、実はダイブする際に不規則に身を翻し、その際に小さなバブルを水中に引き込むのです。
ドッグXが食わせのペンシルといわれる所以はコレ。
実はこの動き、ティムコのレッドペッパーの動きに良く似ています。
レッドペッパーが得意とする『きりもみアクション』はさすがに無理ですが、一旦ダイブさせた後に軽くトゥイッチするだけでそれに近い演出が楽しめます。
ポップX顔負けのポップ音
意外と注目されていないのがダイブ時のポップ音。
弱めのタグでポチュッ!という、ギルが落水昆虫を捕食する音も出せるのです。
もう既にお分かりだと思いますが、実はタイプSはスライディングという範疇には収まりきらない多彩な芸の持ち主。
そしてその千両役者ぶりによってメチャクチャおいしい経験ももたらしてくれたのです。
満員状態の河口湖でひとり爆釣
それは90年代、バスフィッシングブームど真ん中の河口湖の通称ロイヤル前ワンドでの出来事。
当時の河口湖を知ってる人ならば、ロイヤルワンドが5mおきにアングラーが並ぶ釣り堀状態だったのはご存知でしょう。
ここで真っ昼間に誰も釣れていない中、ドッグXがどハマりしたのです。
その時のアクションがまさにダイブと弱いポップ音でした。
ドッグウォークさせることなくダイブ&ポーズを繰り返すだけでサイズは小さいながらもほぼワンキャストワンヒットの状態となり、周りから一斉に羨望と嫉妬の眼差しの集中砲火を浴びることに。
当時はブームということもあってバス釣りを始めたばかりのカップルも多く、その連発ぶりをすごーい!と驚く彼女に対して彼が小さい小さいと貶す様を横目に、根性が歪んでいるのんだくれはニヤニヤw
今思えば彼らのほとんどはワームでボトム付近を釣ってたので、それとは対局にあるドッグXがたまたまハマっただけなのですが、この経験はのんだくれの記憶に強烈に焼き付きました。
そしてそのインパクトゆえドッグX偏愛者に。
こういった衝撃的な経験はドッグXでなくとも誰しも一度はあるはずですが、そのインパクトによって書き換えられたマインドセットはその後の嗜好や思考にトラウマ級の影響を残すことになってしまいます。
『オリジナルのドッグXを超えるドッグXは無い』はのんだくれの持論ですが、実はこの河口湖での経験がその考えに大きく影響しているのです。
カラーにおけるメガバスの功績
カラーリングにおいてもドッグXは先進的でした。
画像のカラーは01B2マットタイガーですが、無光沢のマットカラーMatte-Colorはこのメガバスによって市民権を得たと言っても過言ではないでしょう。
もちろんメガバス以前にも光沢を抑えたカラーの存在はありましたが、かつては『ルアーは光ってナンボ』の考えが根強く、光を吸収するマットカラーは知る人ぞ知るカラーだったのです。
マット処理は目にもしっかり施されており、ニヤニヤ度は嫌でも上がりますw
ちなみに当時メガバスのマットカラーはトップクラスの人気を誇っており、ドッグX、ポップXのマットタイガーはプレミア値で10,000円を超えるものも珍しくありませんでした。
メガバスのルアーは釣具屋のスタンプやポイントカードが無いと買えませんでしたが、マットカラーは購入には更にプラスアルファを求めてくるショップもあるなど、今では考えられないほどの扱い。
ちなみに画像のモノは横浜マイクスで普通に購入。
仕事帰りに寄ったマイクスのレジ横にちょこんと一個だけ座っていたんですが、あまりにも普通に売られているので店員に『これって売り物ですか?』と聞いたほどw
実釣ではマットタイガーよりもネオンコアカラーの方を多用していたのでコレでは釣った記憶はないけれど、ゲット出来た時のコーフンという意味で思ひ出深い一品です。
久々にネオンコアという名を見て、当時付き合ってた子が画像のライムとプロブルーをプレゼントしてくれたのを思い出した。
売っちゃったからもう手元には無いんだけどまた欲しくなったw pic.twitter.com/GHRg3envae— ルアー千一夜☆公式 (@lure1001) June 2, 2023
フックにもメガバスお得意の講釈が
フックは前後とも#6サイズのブラックニッケルを採用。
当時のメガバスルアーにはほぼ全部にコレが装備されてましたね。
ちなみにコレの正式名称は”バナジウムステルスフック”。
魚がフックに感じる違和感を軽減するとかなんとかで、このフックにも例のメガバス節が炸裂してました。
そしてその刷り込みによって、他社フックを付けるとめちゃくちゃ違和感を感じるようにw
メガバスのマインドコントロール マーケティングは単にアングラーの心を打ち抜くだけじゃなくて集団催眠レベルにまで持ち込むからホント恐ろしい😱
GGYは用無し!と言わんばかりのネーム
ネームスタンプは背中に極小文字で入れるのがメガバス家の掟。
老眼になると読めなくなるのがツラいところ。
実はこれが読めなくなったらメガバスからは卒業して下さい、GGYのカスタマーは要りませんというヒドゥンメッセージでもあるので、読めなくなったら変に抗うことなく素直に引き下がりましょう😂
入手は超カンタン
そんなドッグXですが、入手は超簡単。
タマ数が多いルアーなので中古市場にわんさか生息しています。
さらに嬉しいのは近年相場がガクンと下がったこと。
マン超えで取引されてたのに今は500円とかで普通に買えます。
Oh gosh, times have changed😩 pic.twitter.com/QMJDVd9Zb8
— ルアー千一夜☆公式 (@lure1001) May 22, 2023
当時徹夜で並んだ身としてはザラパピーよりも安く手に入るのはフクザツでしかありませんが、まだドッグXを使ったことがない人にとっては超絶ラッキーといえるでしょう。
この相場ゆえ、最近になって集め始めたなんて話もチラホラ。
年号無しシール目の初期モデルもこの価格で出てるので気になった人はチェックしてみては?
おわりに
先述の爆釣体験という刷り込みによって個人的にはメガバスでこれを超えるペンシルベイトは無いと思ってます。
もちろんコアユもジャイアントもディアマンテも使ったことあるし釣ったこともあるけど、なんというかこのオリジナル以上のアドレナリンが湧いてこないのです。
のんだくれが勝手にそう思い込んでるだけで世間は違うと分かっていても、はやり爆釣したというコンフィデンスの点ではどんな言葉も空虚になってしまうのです。
しかしそんなドッグXも残念ながらレギュラーラインナップからは落ちてしまった模様。
商売上手なメガバスの事なので時々Itoマジックで復活することになるだろうけど、一時代を彩ったルアーが一線から退くのはちょっとさみしい気もしますね。