”おすすめのラットベイトを教えてください”
かつてラットベイトが脚光を浴びた時にひんぱんに聞かれた質問です。
その際に真っ先に答えていたのがこのラゴラット。
かのラゴベイツがリリースした量産型ラットです。
ラゴラットとは
ラゴベイツはカリフォルニア州ビショップ Bishopに拠点を置く独立系のルアービルダーです。
キャスティークの流れを汲むスイムベイトを得意とし、西海岸を中心とした…. というよりも西海岸のスイムベイトスタイルだけを追い求めているブランドとしても知られています。
デザイナー兼社長のジェリー・ラゴの趣味の延長から1990年代後半に始まったビジネスでしたが、折りからのスイムベイトブームに乗って急成長。
そんなラゴは成長の過程でいくつものラットベイトをリリースしてきたのですが人気と共に生産が追いつかなくなってきた事もあり、インジェクション量産モデルの生産に乗り出します。
その際、ハンドメイドのデルタラットの量産型として生み出されたのがこのラゴラットでした。
ラゴラットのサイズ・重さ
ラゴラットはボディ長105ミリ、自重45グラムのシングルフッカーラットベイトです。
一般的なラットベイトよりも小さくまとめられているので頼りない感じがするのか、デビュー時はイマイチ盛り上がりに欠けましたが、日を追うごとにその実力が認められ、ジワジワと評判が上がって来たという実力者でもあります。
ラゴベイツの他のラットベイトがいかにもな外見をしているので、余計に頼りなく見えちゃったのかもしれませんね。

上はラゴのダーティラット。こうして並べるとやはりチーピースタッフ感は否めませんねw
しかーし!
このラゴラットにはジェリーの執念とも言えるラットベイト愛が込められているので実力があるのは当然のこと。
量産型だからってナメんなよ!というジェリーの意地が詰まっているかのようです。
ラゴラットの特徴
ひと回り大きなテール
このラゴラットのキモはなんと言ってもジョイント部でしょう。
一見なんの変哲もないジョイントに見えるのですが、このジョイントが無ければラゴラットの名声は無かったかもしれません。
ジョイント式ラットベイトは前後のボディがぶつかることによって発するサウンドが重要なアトラクト要素となるルアーですが、このアルファラットはそれを最大化しているのです。
既にお気づきの方もいると思いますが、ラゴラットはテール側の幅がフロントボディよりも大きくなっています。
ほとんどのジョイント式ラットベイトは見た目重視もあって、フロントとテールの太さが同じに揃えられていますが、ラゴラットはあえて大きさを変えているのです。
そしてこれが一体どんな効果を生み出すのかというと…
この画像のようにフロントとリアのコンタクトポイントを一点に集中する事ができるので、ボディがヒットした時のインパクトとサウンドを最大化できるのです。
仮にテール側が小さいとどうなるかというと、明確なヒットポイントが無くなってしまうだけでなく、テール自体がフロントボディのスリップストリームに入ってしまい水の逆流効果により動きも殺されてしまいます。
ラゴラットはテールを大きくすることでそれらの問題を解決。
その効果は明確に表れていて、ちょっとした動きだけでボディ全体を響かせるコツコツサウンドを発してくれます。
おそらくテールの質量が大きくしていることにより、振られた時の慣性モーメントも大きくなっているんじゃないかと。
この辺りのスリップストリームにまで考えを及ばせる設計はスイムベイトビルダーとしてのスキルが生きているんでしょうね。
のんだくれは仕事柄、数多くのスイムベイトやラットベイトを投げてきましたが、このサイズでここまではっきりとしたクラッキングサウンドを発するルアーはなかなか有りませんぞ。
ちょっと話は逸れますが、フロントボディが生み出すスリップストリームはジョイントルアーにネガティブな要素だけをもたらしているわけではありません。
むしろそれを生かしているルアーも存在するぐらい。
そのルアーとは皆さんお馴染みのフレッドアーボガストのジタバグジョインテッド。

ジタバグジョインテッドの接続部。
ジタバグジョインテッドにはフロントボディが生み出したスリップストリームをまるごとがっちり抱え込み、その水流エネルギーをテールを不規則に揺らすパワーに変換することでクラッキングサウンドも発するという非常に優れた機能を持っています。
ジタバグのジョイント機構は、より大きな動きを出すためではなくクラッキングサウンドを発するためのものであることが良くわかると思います。
近年、クラッキング効果を高めるためにジョイントの接触部にメタルパーツを埋め込んだルアーなんかも登場していますが、このジタバグのように60年以上も前にシンプルな構造だけでそれを実現しているなんて先人の創造力にはホント頭が下がりますね。
ジタバグのこの機能はG670と呼ばれる5/8オンスサイズだと非常に分かりやすいので、もし持っている人がいたら今晩にでも一緒に風呂に入ってみてください。
話をラゴラットに戻しましょう。
ジョイントは二対のヒートンによるヒンジ式を採用しています。
近年のジョインテッドベイトには生産効率を高めるためにボディとヒンジを一体成形し、ピン一本で留める方式のものが多いのですが、アルファラットがあえてヒートン接続方式を採用しているのには理由があります。
それはヒートン同士がぶつかったり擦れたりする時に発するサウンド効果が無視できないほど大きいから。
ヒートン接続方式は一体成形ヒンジに比べて可動域が大きくなるので、この部分が発する音が大きいのです。
これはマットルアーズやWSB、モーニングウッドの製作者も口を揃えるサウンド要素のひとつで、どのブランドも必要以上に大きなヒートンを採用してサウンド効果を狙っています。
ジョニーラットに至っては接続するヒートンも自作するほどの熱の入れよう。

海外のハンドメイドルアーは一見アバウトな仕事ぶりに見えますが、こういうところで日本人では理解できないような気合いを込めてたりするので目が離せませんよね。
ちなみにボディの中には小さなラトルが一個だけ封入されています。
しかし小さなラトルと侮るなかれ。
手に持って振ってもイマイチな音量ですが、実際に水に入ると共鳴しやすくなるのかなかなかの響きを聞かせてくれるのです。
その効果が特に実感できるのが首振りをさせた時。
ロッドをチョンとやるとボディ同士がぶつかるクラッキングサウンドとラトルのカタカタ音の協奏になるのですが、ラトルはルアーの動きが止まってもコロコロするので、動き+アルファで演出を組み立てられるという楽しみも。
止めた後ワンテンポ遅れてラトルが鳴るルアーにB.P.ベイトのキールヘッドがありますが、このアルファラットもまさにそれ。

ラットベイトは大きな引き波を出して巻き主体で使うものだというイメージが先行していますが、アルファラットはピンポイントでネチネチ動かしたいアングラーにもたまらん味付けがされているのです。
専用開発の高浮力テール
そしてラットベイトといえばやはりシッポですよね。
多くのラットベイトがリプレイスメントの利便性を考慮してクリーム社のスカンドレルワームを採用しているのですが、このラゴラットは専用開発のテールを装備。
ちぎれたらスペアが手に入らないじゃん!とブー垂れつつキャストしたのんだくれは、一瞬にして専用開発の意味を知ることになりました。
なんとこのテール、めちゃくちゃ浮力が強いのです。
そして表面に刻まれた細かい網目パターンの間にエアをホールドすることでより強い浮力を得ることに成功しています。
これは比重の高いスカンドレルでは決して出来ない芸当ですね。
そして沈まないテールは首振りの度に水面をピシャピシャ叩くことでベイトが水面でモジるサウンドを再現するという算段。
ラットベイトはハード素材のボディとソフト素材のテールによるハイブリッドルアーなのですが、ハイブリッドルアー特有のゴテゴテ感というか、やりすぎ感を感じさせないので、そういう意味では本当に理にかなったルアーだなと。
あらゆるアクションが可能なマルチパーパスリップ
そんな盛りだくさんな機能をさらに上のレベルへと引き上げているのが、ラットベイトにしてはちょっと控えめなラウンドリップ。
初めて使った時は、動き出しがクイックなわけでもないし、派手な泳ぎを見せてくれるわけでもないこのリップに少々がっかりしたんですが、使っていくうちにそれが ”仕様” であることに気づきました。
巻きだけではなく首振りやショートジャークなど、水面ベイトとしてあらゆる演技をこなすためにあえてリップとしての仕事を控えめにしていたのです。
というのも、ラゴベイツには他にもラットベイトが多数あるのですが、それらのほとんどは我々がイメージするような大きなウェイキングアクションの ”典型的なラットベイトの泳ぎ” を持っています。
もちろんこのラゴラットもリトリーブではそれなりのネズミ泳ぎをしてくれますが、他のラットにくらべて大人しめな味付けになっているのには明らかに意図があるでしょ、と。
のんだくれのお得意の妄想な部分も否定はしませんが、テーブルターンも捕食音もウェイキングもそつなくこなすためにあえてこういうセッティングにしてるんだろうなと。
フックは2/0サイズ
フックはボディの横幅に対応したのか#2/0ビッグサイズを採用。
このサイズでディープスロートのラウンドベンドという日本ではなかなか手に入らないフックを採用していますが、その甲斐あってカバーでの引っ掛かりにくさはラットベイトとしてはなかなかのもの。(出荷ロット?によって違うフックが装着されている場合もあり)
いつだったかデルタで倒れて水面に浮いたチュール(アブラガヤの一種)の奥を狙うネチ使いでラゴラットを投入した事がありますが、リップででんぐり返しをする回避アクションと太いボディがフックポイントをカバーしてくれるおかげでイイ釣りができました。

デルタなどでよく見られるチュール(アブラガマ)。葦と違って茎が倒れやすいのでそのシェードに魚が付きやすい。アーボガストのカラーで有名なレッドウィングブラックバードはこのチュールの中で営巣する。
そんなタフなスポットにラットベイトを入れるローカルはさすがにいないらしくバスの反応も良かったのですが、テールフックが無いラゴラットだからこそこういうスポットで使いたいですよね。
量産型ならではのカラーリング
そしてインジェクションならではの造形が楽しめるのもアルファラットのいいところ。
量産の廉価版なのでハンドメイド版のように緻密な造形や塗装はできないけれど、その制約の中でもスプラッシュ塗装をするなど努力が見られるのもいいですね。
余談ですが、ラゴラットがデビューした当時、ジェリーラゴはカスタムペイントを施したアルファラットを親しい友人に配って回っていたそう。
以前アメリカの友人宅に泊まった時、ガレージにクリアピンクとデルタレッドのアルファラットがぶら下がってるのを見つけたのでカスタムしたのかと聞いたところ、”ジェリーが奥さんにとプレゼントしてくれた” と。
なんでもジェリーは自身がマッドラボと呼ぶ、本人以外誰も入れない開発研究部屋であれこれペイントのテストをしているらしく、その過程で出来たものがよく回ってくるんだと。
ジェリーラゴ本人のカスタムが普通に、しかも沢山もらえるなんてなんちゅう幸せ者!
のんだくれもジェリーとオトモダチになりたいですハイ。
ジョイント部には大胆なネーム
そしてお楽しみのネームはジョイントの両側に刻印されています。
ラゴベイツのハンドメイドモデルにはネームが一切ないのでこれは量産型ならではのお楽しみと言えるでしょう。
でもせっかくネームを入れてくれたならブランド名だけでなくルアー名も入れて欲しかったなぁ…
ちなみにラゴベイツは日本だとローマ字読みのラゴが一般的ですが、ネイティブの発音だとレゴベイツとなります。(しかも頭に小さいゥが付くゥレイゴ的な)
いつだったかSNSで ”レゴ” ベイツと表記している人をブロックかよ!と嘲笑していた人がいましたが、それはネイティブ発音に準じた表記なので間違ってはいません。
でもね、ルアーなんて誰がどう読もうと相手がわかりゃイイんです。
そもそも英語表記をそのままカタカナに直すこと自体に無理がありますから。
なにしろ日本にはバイユーブギー Bayou Boogie をベイヨンボギィ、バスアサシンのグラップラー Bass Assasin Grappler を全部繋げてバサッシングラッパーと表記するなど猛者がウジャウジャいますからw
おわりに
とまあこんな感じで延々と解説しましたが、以上の理由でラットベイトのおすすめは何を差し置いてもまずこのラゴラットです。
価格的に手を出しやすいというのもありますしね。
何万円もするハンドメイドのレア系ラットベイトを買うのは、このラゴラットでちゃんと釣ってからでも遅くはないのです。
ラゴラットは既に生産が終わっていますが、このルアーのポテンシャルに気づかない人が多いのか意外と中古屋で見かけるところもポイント高いですね。
日本でラットベイトと聞くとガチャガチャした泳ぎがイマイチ好きになれないと敬遠する人が多いのですが、誰も使ってないからこそ投入して欲しいなと。