仕事柄、のんだくれは海外ルアーブランドのデザイン担当と話をすることがよくあります。
ご存知の通り海外のルアーは、国産ルアーのように開発コンセプトや設計上の意図をプロモーション材料にすることがほとんど無いので、日本国内で販売するにあたり、なぜこのカタチなのか、なぜそうなっているのかなど、聞いておかなければならないことが山ほどあるのです。
仕事とは関係ないヲタ的マインドで聞いている事も少なからずあるのは否定しませんけどw
そしてそんなやりとりの中で目ウロコになるルアーも数多くあります。
今日紹介するシャッドウォーカーもそのひとつ。
このルアーに込められたデザイナーの意図を聞かなければ、永遠に取り扱う事はなかったであろうルアーの一つです。
このシャッドウォーカーとの出会いは2011年か12年。
アイロッドの社長、マットニューマンの家に遊びに行った時でした。
マットとあれこれ話をしていたら彼がピカソルアーズからサポートを受けていると知り、え?ピカソのルアーならウチで扱ってるよというイッツアスモールワールド状態から、急遽ピカソの社長であるダニエルと三人で食事をする事となり(彼はマットの家から30分ぐらいの距離にある高級別荘地マリブビーチ在住)、その場で見せられた試作品の中に入っていたルアーのひとつだったのです。
ただ、のんだくれのシャッドウォーカーに対しての第一印象は、ふーん…. 程度の割と冷めたものでした。
なぜならこのルアーよりも前に同様のシャッド型中空ウィードレスプラグ、トップウォーターシャッドを扱っていたので特に目新しさを感じず、あーこれね程度にしか思えなかったのです。
トップウォーターシャッドは中空ベイトとしてはなかなか良く出来たルアーでしたが、動きの軽快さを重視したために喫水が非常に浅くて吹き飛ばされやすく、バイトは多いのなかなか乗らないというもどかしいルアー。
釣れたら未来永劫ネタに出来るぐらいサイコーに楽しいのですが、それ以前にイライラさせられるルアーでもありましたw
のんだくれの頭にはそのイメージがあったので、シャッドウォーカーを見せられてもイマイチな反応だったのです。
しかしそんなのんだくれをキモチなど知らないダニエルは、このルアーについてアツく語ります。
正直半分以上聞いてませんでしたwが、とにかく使ってみろ、スゲーんだから!と猛プッシュしまくられたのです。
シャッドウォーカーは全長105ミリ、自重16.5gの中空ベイトです。
一般的なフロッグのようなラバースカートがないので大きく見えますが(特にこの画像だとそう見える)、実際に手にしてみると使い頃サイズのファットペンシルといったところです。
ダニエルによるとこのルアーの開発コンセプトは、”バスのアタックから逃れるも傷ついてしまい、水面でもがくシャッド” だそう。
そして従来の中空シャッドとの違いは、ウィードレスベイトでありながらメインステージはオープンウォーターだ!と。
実はこの手のアツい語りは良くも悪くもアメリカ人特有のもので、のんだくれはいつも話半分… いや、6割引ぐらいでしか聞いていません。
自分から開発ストーリーを聞いておきながら話半分というのも矛盾した話ですが、この手の話は内容を盛られることも多いのでちょっと注意が必要なのです。
そのストーリー自体は興味深くて非常に面白いのですが、その商品を取り扱うかどうかビジネス的判断をする際、アツい語りが必要以上にオタマインドを刺激してしまうのです。
100個ぐらいだったらコレ売れなかったなーと笑って済ますことも出来ますが、1,000個単位になるとそうはいきません。
利益が出せるラインを見極めなければならないのに、オタ心をくすぐるような開発ウラ話を額面通りに受け止めてしまうと、後で顔面蒼白になりかねませんから。
実際それで何度泣きをみたことか😭
しかし後日フィールドでこのシャッドウォーカーを投げてみたところ、なにコレ!めっちゃイイじゃん!なルアーだったのです。
まず回頭性能がズバ抜けて高い上に、スライド幅がハンパないのです。
一般的なフロッグのようにラバースカートを履いていない分、抵抗になるものがないというのもありますが、通常のフロッグでは考えられないぐらいのロングスライドが簡単に出来るのです。
特にPEラインを使った時のスライド幅が素晴らしく、ロッドをチョンとやるだけで余裕の4〜50センチロングスライドを見せてくれます。
そして首振り時に飛ばすスプラッシュが大量なのです。
その量たるや、まるでブッカケ系AVを観ているかのようw
そんなブッカケ技の秘密はこのヘッド形状。
このフロッグらしからぬ高さのヘッドがしっかりと水を掴んでブシャー!するのです。
一般的なフロッグはウィードなどのベジテーションの抜けを考慮してノーズを細くしたり高さを抑えるのですが、オープンウォーターでの使用を前提にしているシャッドウォーカーはそれをする必要がありません。
首振りの性能を殺さない最大の高さ/太さに設定されたヘッドにより、一般的なフロッグではできないツバ吐きを実現しているのです。
さらに驚いたのはこのテールの機能でした。
一番最初にこのシッポ… まるでたい焼きのような厚みのシッポを見た時は、もうちょっとヒレっぽく薄く作ることも出来たでしょ!と思ったのですが、実際に動かしてみたらこれがスゴかったのです。
実はこのシッポの厚みはしっかりと空気を咬んでバブルを水中に引き込むためのもので、首を振る度にちょうどポッパーのカップのようにバブルを水中に撒き散らすのです。
これにより、ダーターが発するような捕食音に近いサウンドを出せるので、水面でもがくシャッドを捕食するバスを演じることも可能になっています。
オープンウォーターで使用するにあたり、ちゃんとバスの注意を惹きつける要素も盛り込まれていたのでした。
そしてテールに厚みがあることでキャスト時に飛行軌道が逸れることもなくまっすぐに飛ぶという効果も。
薄いヒレがキャスト時の空力に大きく影響してキャスト軌道が侍ジャイアンツになる事象はカルプリットのトップウォーターシャッドで閉口していたので、これには思わずニンマリしてしまいました。
そういえばダニエルも真っ直ぐ飛ぶって言ってたなぁ、と。
そしてダニエルの一番のプッシュポイントはこのヒレのフックガード。
厚みのあるヒレをそのままフックガードにしてしまうことでスナッグレス性を高めているんだ、と。
そしてこのガードによりフックポイントがボディにぴったりと密着していなくてもウィードが引っかからないので、浅いバイトでもしっかり取ることができる!と。
うーん… 確かにフックポイントは浮いているのでバイトは取りやすいかもしれませんが、実際はどうなんでしょ。
のんだくれはこの設計の凄さを実感したことが未だ無いので何とも言えませんが、皆さんはどう思います?
ちなみにウェイトシステムは最近の主流でもあるボタン型低重心ウェイトを採用。
特別な浸水防止策は施されていませんが、目に余るようなリークもなく普通にストレスなく使えるので、及第点といったところでしょうか。
しかしそんなこだわりの機能を盛り込んだ割に外観がシンプルなところがアメリカンルアー。
シャッドのイメージが伝わる最小限の意匠に抑えている….. のかと思いきや、実際はちょっと違っていました。
”日本のルアーのようにもっとリアルに作りたかったんだが、緻密な原形を作れるデザイナーがいなかった” んだそう。
そして ”誰かそういうデザインや彫塑が出来る人を紹介してくれないか” ともw
以前からダニエルは日本のルアーの造形センスを自社製品にも取り入れたいと言っていたので、だったらいい機会だとばかりにのんだくれの知人を紹介することに。
その知人も米国デビューできる!とその話に乗り気だったのですが諸般の理由によりご破算になってしまい、ブラックビスケッツの歌の歌詞を噛み締めることに。
ジンセイってほんとにタイミングだなーと😩
ネームはプリントではなくモールドでブランド名だけが入っています。
せっかくだから名前も入れれば良いのにと思いましたが、中空ベイトにまでネームを入れてるブランドがほぼ無いことを考えると、ここまでしてくれたことにむしろ感謝しないといけませんねw
余談ですがピカソルアーズはカリフォルニアの会社ではなく、東海岸のペンシルバニア州に拠点を置く会社。
社長だけが4000キロ離れたマリブビーチで優雅な生活を送りながら仕事をしているのです。
こういう働き方が社員にも普通に受け入れられているのはやっぱりアメリカだなーと。
そんな具合で米国内でもそれなりに売れていたシャッドウォーカーですが、終わりは突然やって来ました。
あのライブターゲットがブルーギルなどのサンフィッシュをモチーフにした横向き中空ベイト、その名もサンフィッシュホローボディをリリースし、それがICASTショーの新製品アワードを受賞したことで、シャッドウォーカーの売れ行きがピタリと止まってしまったのです。
ダニエルはこの状況に、ヒレでフックをガードする意匠がパクられた!と大激怒してコンプレインを挙げるも、ライブターゲットの方はピカソに比べて外見が圧倒的にサカナっぽい上に、デイブメイサーなどの契約プロを使った大々的なプロモーションが功を奏し、シャッドウォーカーは完全に息の根を止められることに。
まあ言われてみればライブターゲットもヒレがフックガードになっているんですが、シャッドウォーカーはそれなりにヒットしてたので目をつけられてたし、そもそもの造形が真似されやすいカタチだからこうなることは想像できてたよね、と。
かくして練りに練られたシャッドウォーカーのコンセプトと設計はあっけなく終わってしまったのでした。
ルアーの良さがを実感していただけにちょっと残念な気もしますが、これは国内外を問わずフィッシングインダストリーあるあるのひとつ。
こういう事って表に出てこないだけで世界中で起きてるんですよね。
このルアーはたまたま開発話が聞けたからその良さが分かったけれど、現場の声がエンドユーザーまで届かないルアーの方が圧倒的に多いことを考えると、過去には本質が理解されないまま消えていった秀作、もしかしたら時代を変えてしまうほどの作品もあったんだろうなと。
なんかルアーって人生に似てるかもしれませんね。