ポッパーには大きく分けて3つのタイプが存在します。
ボワン!という音を出すことに長けた『ポッパー』。
ゴフッ!という捕食音に命を賭した『チャガー』。
シュパー!っと細かい飛沫を撒き散らす『スプラッシャー』の3つですが、個人的にはこれ以外にもう一種類あると認識しています。
細かい飛沫ではなく、まとまった水の塊を前に投げる感じのものがそれに当たります。
唾を吐くという感じから勝手に『スピッター』と命名していますが、今日紹介するスピットゥンキングはまさにそんなルアーです。
スピットゥンキングとは
スピットゥンキングは米ルアー界の重鎮、ストライクキングが放ったポッパーです。
プラドコのエクスキャリバーシリーズに対抗したプロモデルシリーズの一味として90年代後半に登場しました。
80年代中頃からやや低迷気味だったストライクキングを復活させたことで知られるプロモデルシリーズは日本市場でこそイマイチなセールスでしたが、今も名作と名高いシリーズ4クランクベイトや、ちっとも泳がねー!と大ブーイングされながらもガチのジャークベイターから熱い支持を受けたワイルドシャイナーなど玄人好みのラインナップによってストライクキングを復活に導いた立役者として知られており、その実力は今も語り継がれています。

スピットゥンキングのサイズ・重さ
スピットゥンキングのサイズは65ミリ、3/8oz。
ポッパーのスタンダードと言われるポップRよりも5ミリ長い設計になっています。
マッスルアップによってウェイトも増量したのかと思いきや、実測ウェイトは7.8gとポップRとほとんど変わらないというなかなかのウソつきw
そもそもアメルアのウェイトなんて最初からアテにしてないので、3g程度の誤差なんてどーでもいいんですが。
実はかなり練られた仕様
ストキン渾身の水平志向カップ
スピットゥンキングの最大の特徴はこの横に大きく広がったカップ。
水の抵抗を最大限に受けとめ、それを前に吐き出すことを主眼に置いた ”Horizontal Oriented Cup(水平志向カップ)” がこのルアーのウリになっています。
ストライクキング曰く、このカップがワイドなスプレー効果を発揮するとの事。
具体的な効果については後述しますが、この手の横に大きく幅を取ったカップは旧ストームのベイビーバグやビルルイスがスピットファイアーをリリースするなど各メーカーが一度はトライするカテゴリーでもあるので、ストライクキングもそれに乗り出したという感じでしょうか。

不格好なほどの急テーパーデザイン
カップありきの開発なのでボディラインは不格好なほどの急テーパーデザイン。
縦扁平カップがほとんどを占める近年のポッパーを見慣れている目にはアグリーにさえ見えてしまいますが、性能重視の割り切りはキライじゃないですね。
いや、むしろ大好物かも😁
しかしこの不格好なシェイプにも秘密が隠されているのです(詳細は後述)
ポッパーらしからぬワンノッカー風ラトルを内蔵
ボディ内にはラトルを擁していますが、そのサウンドも特徴的。
カタログなどではフリーフローティングラトル、つまりボディの空洞にラトルを放り込んだだけの遊動式を謳っているのですが、実際に鳴らしてみるとこれが実によく響いてくれるのです。
ジキジキでもありカチカチでもあり、いわゆる一般的な遊動式ラトルとは明らかに違うサウンド。
クリアボディの設定が無いため内部構造に関しては想像するしかないのですが、前後動でワンノッカー風サウンドも発するなどポッパーとは思えないサウンドシステムを実現しており、ラトルマニアにとっては思わずニヤリな仕上がり具合に。
焼酎ロックのカラコロサウンドと競演させたらシアワセな時間が過ごせるのはマチガイありません😁
飛沫はまさに30代のアレ
45度浮きから繰り出されるアクションは典型的ポッパーのそれ。
しかしアクション云々よりもこのポッパーの最大のウリは冒頭で述べたスピット性能に尽きるでしょう。
つまり大きめの水の塊を前に投げ出す感じの ”ツバ吐き” が得意。
例えがアレですが、その様子はまさに30代の射精。
スピットゥンキングのスプラッシュは梨汁ブシャーで顔まで飛ぶ系の10代20代の頃の射精ではなく、飛距離こそないものの濃い塊が飛び出す感じの、身も心も充実した30代の射精なのです。
小さな飛沫ではなく水の塊を撒き散らすので、それらの着水する際のサウンドでバスを寄せるイメージといえば分かるでしょうか。
ゆえにポップRのような、細かい飛沫を広範囲に撒き散らして虫の落水とそれを捕食するベイトフィッシュを演出するタイプのポッパーが好きな人にはちょっと馴染みにくいかもしれません。

ポップR(左)とスピットゥンキングのカップ形状比較
事実ストライクキング自身もスピットゥンキングはトゥイッチで使うのではなく、スイープ気味に使うことを推奨しているので、ポップRなどこまめなトゥイッチで使う既存のスプラッシュ系ポッパーとは違うコンセプトで開発されたことは明らかでしょう。
だからといってトゥイッチでは使えないかと言うと、意外とそうでもないのが老舗ストライクキングのスゴいところ。
テール側の浮力を殺した不格好シェイプの効果によりアクション後の姿勢回復が早いので、ハイピッチな連続トゥイッチにもしっかりと追従するポテンシャルも見せてくれるなど、アグレッシブな本来のトップウォーターも楽しめちゃいます。
突出した特性に固執することなく実際のフィールドで考えられる状況にもちゃんと対処しているあたりはさすがのプロモデルシリーズだなと。
ザ・90’sなホログラムフィニッシュ
そんなスピットゥンキングが纏っているのがアメリカ人の大好物、ギラギラホログラムフィニッシュ。
ホログラムシールを貼った上からカラーリングを施す手法は90年代初期のアメリカンルアーのド定番でもありました。
ホログラムシールありきなのでボディ表面の凸凹はもはやお約束。
アメリカ人はこの程度のことはなんとも思わないので、スゲー!最新のカラーリングだー!と当時
大ヒットに
しかしその後ホログラム人気は米国でもピークアウトしたためストライクキングも2005年前後から脱ホログラムの動きが出始め、スピットゥンキングもペイントカラーにシフトしてしまいました。

後期に発表されたペイントカラー。
その際、パッケージで微笑んでいたデニーブラウワーもお役御免となり、ペイントカラー版には新たにジョージコクランが採用されたので、カラーリング手法を変更した背景には契約上の問題もあったのかもしれません。
余談ですが、ペイントカラーになってからストライクキングの伝家の宝刀でもあるブリーディングカラーのシリーズも追加されました。
フックは#4がベスト
フックは前後とも#4サイズでリアのみストライプパターンのティンセル仕様になっています。
90年代のアメルアフックはクオリティの面でなかなか厳しいものがあるのでフック交換は必須ですが、その際にはフック重量もシビアにチェックしておく必要があります。
というのも重量バランスの変化で喫水線が変わると、本来の濃い汁が飛ばせなくなってしまうのです。
ゆえに実戦で使っているものはフックが余程酷いものでない限り、オリジナルのまま研いで使っています。
一般的にアメルアはフックを交換したぐらいではビクともしない懐の深さで知られていますが、サウンドにもこだわるアングラーはちょっと注意が必要な場合も。
ちなみにペイントカラーに変わった際にティンセルもフェザー仕様に変わっています。
ネーム
他のストライクキングルアーと同様、このルアーにもネームプリントはありません。
なのでよくチャイニーズチーピーと間違われるという哀しい現実も😭
ネームプリントが無いことによって生まれる二次的なセールスチャンスの損失をもっと理解すべきでしょう。
余談ですがこのルアーの名前、Spit-N-King は本国でも人によって発音が違います。
表題通りスピットゥンキングと発音する人もいれば、スピッティンキングと発音する人もいるなどその人、地方によってさまざま。
というか誰も読み方なんて気にしてないし、そもそも話題にもなりませんw
チャグンスプークやスピッティンイメージの読み方もそうですが、こういう事が気になってしまうのはやっぱり日本人が持って生まれた気質なんでしょうね😁

生産終了しているが意外と遭遇率高し
そんなスピットゥンキングですが、残念ながら既に生産が終わっているため新品での供給はありません。
KVDスプラッシュが発表された後も2015年ぐらいまでは併売されていましたが、知らぬ間にカタログ落ちしてしまいました。
ゆえに捜索は中古市場がメインとなりますが、元々あまり人気がなく知名度が低いことと先述の通りネームプリントがないことから中古市場での扱いは酷く、100円処分は珍しくありません。
また、仕入れはしたもののその見た目ゆえ長い間身請けされず、20年以上陳列ハンガーの奥に掛かったままというケースに何度も遭遇していますので、古い釣具屋ならば新品で見つけられるかもしれません。
なのでワイドカップとチープなフィニッシュを持ちジキジキと良く響くポッパーを見かけたら是非連れ帰ってあげてください。
おわりに
“スピッター” というワードを発しておきながら、スプラッシャーとの違いによる明確な釣果の差を感じたことはありませんが、いつも言っている通りルアーは思い入れしたもん勝ちの世界。
勝手に理屈をこねたルアーで釣って自己満足に浸ったもん勝ちなのです。
アングラーである以上、単にサカナが釣れた釣れないではなく、このアクション、この考え方で釣る/釣りたいという姿勢は持ち続けたいもんです。