エリート家系で育った子供が必ずしもエリートに育つとは限りません。
それはルアーにも当てはまります。
実力があるにも関わらず色々な不幸が重なって消えてしまうものも沢山あるのです。
今日紹介するバイブラトラップはまさにそんなルアー。
バイブラトラップとは
バイブラトラップは2010年にビルルイスルアーズが放ったリップレスクランク。
その名前からお分かりの通り、ラトルトラップの派生モデルとして誕生しました。
しかしビルルイスのお家芸でもある、ガワは変えずにカラーやサウンドを変えただけのなんちゃって派生モデルなどではありません。
当時生き馬の目を抜く勢いのあったブランド、トゥルータングステンTru-Tungstenとの共同開発モデルとして登場したのです。
トゥルータングステンは日本においては、かの西根さんがデザインしたトゥルーライフスイムベイトを世に送り出したブランドという認識ですが、海の向こうでは当時非常に高価だったタングステン素材をうまく活用した商品を開発するブランドとして知られていました。
かつて西根さんがデザインした、ウェイトボールを調節することでシンクレートが変えられる初のスイムベイト、トゥルータングステンのトゥルーライフスイムベイト。
ボールがある事と”キンタマがすわってる(=スゲェの意)”というスラングを掛けたOur swimbaits have BALLS!のコピーにはシビレたなぁw pic.twitter.com/GanJV8xDyM— ルアー千一夜☆公式 (@lure1001) October 10, 2022
そんなブランドとリップレスクランクの名門がタッグを組んだわけですから、それはそれは大きな話題になりました。
ちなみにどこにも属さない独立系ブランドのイメージが強いビルルイスですが、あまり話題にならないだけで実は色々なブランドとコラボレーションしています。
最近ではバスプロ、ボイド・ダケットのブランド、ダケットフィッシングDukett Fishingと共同開発したルアー、ダケットトラップをリリースしているし、過去にはマーケティング業務をあのヘドンに委託していたことも。

ダケットフィッシングがリリースしているダケットトラップ。見た目はまんまラトルトラップだが、本家にはない低周波ラトルサウンドが特徴。 画像引用: dukettfishing.com
ただヘドンとの縁組の場合は、ラトル入りリップレスクランクの波に乗り遅れたヘドンがビルルイスを自社に取り込みたいという思いが先走り過ぎて、非常に短い期間でご破産にw
そんな短い期間に販売された『ヘドンのグリーンカードパケ入りのラトルトラップ』はコレクターアイテムとして人気という皮肉な状況も生み出しています。
バイブラトラップのサイズ・重さ
バイブラトラップのサイズは76ミリ、22.5g。
トラップ使いならもうお気付きだと思いますが、オリジナルラトルトラップ1/2ozのボリュームでワンサイズ上となる3/4ozサイズ以上のウェイトとなっています。

バイブラトラップとオリジナルトラップ3/4ozとのサイズ比較
これはラトルトラップの一番の売れ筋である1/2ozサイズのサイズでワンランク上の飛距離を叩き出すための設計ですが、比重の高いタングステンウェイトでなければ実現しづらい仕様であることから、トゥルータングステンとのコラボはビルルイスにとって何が何でもやりたかったプロジェクトだったのではないかと。
リップレスクランクのようなサーチベイトにとって飛距離は永遠のテーマですからね。
ちなみにバイブラトラップはサイズバリエーションの展開はなく、ワンサイズのみ。
しかしラトルサウンドの特性によってアグレッシブなサウンドのAシリーズと、ラトル音を抑えたサドル(Subtle=繊細)のSシリーズという2種をラインナップしています。
バイブラトラップの特徴
トラップファミリーらしからぬグラマラスな造形
このルアーの特徴はラトルトラップの派生モデルとは思えないほどの立体的でグラマラスなボディ。
特に腹部のメタボ感は、でっかいラトルサウンドを発するんだろうなとワクワクさせてくれます。
事実この造形は大きめのラトルボールが動けるだけの容積を確保するもので、そのサウンドも期待を裏切らない騒々しさ。
タングステン素材特有のソリッドな中音を響かせてくれます。
ボディ下部の大きな膨らみはおそらく水流効果による強いサンピングアクションThumping Actionも狙ったのではないかと。
レーベルのラケットシャッドやティムコのスラッシュペッパーにも見られるあの造形ですね。


ラトルを効果的に鳴らすためのリブ
そしてテールに設置されたこの三本のリブも忘れてはいけません。
このリブは規則正しくアクションすることで安定したラトルサウンドを生み出すための、いわば整流装置。
オリジナルのラトルトラップは内部に複数のBBウェイトが封入されているため、ボディのどんな挙動にも反応して鳴くのですが、このバイブラトラップはいわゆるワンノッカーなので横方向の運動にのみ反応して鳴きます。
その横方向の動きをさらに強化するのがこのリブなのです。
なぜその事実を知っているのかというと、リブを削り取ったことがあるから。
80年代のヤンキー車のような見た目がイマイチ好きになれなかったので、ルーターでこのリブを全部無くしてしまったところ、泳ぎのブリブリ感がトーンダウンしてしまいました。
そこで初めてリブの役割に気付いたというワケです。
意味もなくこんなデコレーションをするわけがないので何らかの役割があるのは当たり前なんですが、ほぇーっとなった出来事でしたw
もちろんリブだけでなく大きく凹ませたヘッド部などの総合的効果によるものですけどね。
ビルルイス家の紋章も
ビルルイス家の血統ですから背ビレも忘れてません。
オリジナルにはない縦縞入りなところがチャームポイント。
バイブラトラップのアクション
真面目なローリング
気になる泳ぎは ”真面目な” ローリングアクション。
ノーズとテールエンドを結んだラインを支点とするキレイなローリングを見せてくれます。
ローリングというよりも左右に腹を振るアクションと言ったほうが分かりやすいかも。
これはローリングアクションでありながらもややテールを振るオリジナルトラップとの明確な違いとなっています。
そしてアクションの立ち上がりも悪くない。
実はそのサイズ&重量ゆえ、立ち上がりまである程度の助走距離を必要とするんじゃ… と不安でしたが、それは全くの杞憂で、巻き始めからしっかりとした振動をアングラーに投げかけてくれます。
鳴り物入りのFPAは疑問符つき
しかしこのルアーがウリとしていたFPAについては首を傾げずにはいられません。
FPAとは Fleeing Prey Actionの頭文字で、要するにプレデターから逃れようとパニック状態となったベイトフィッシュの泳ぎのこと。
バイブラトラップは千鳥アクションでそのFPAコンセプトを実現した、との触れ込みでしたが、実際のところ目に見えるような千鳥アクションはナシ。
一応ゆるやかに蛇行はしているものの、これがG-NET-Xリサーチテクノロジーの結晶と言われるとぶっちゃけ疑問符は拭えません。
なので、変にFPAコンセプトに期待しない方が精神衛生上よろしいかと。
しかし先述の通り、ソリッドなラトル音とタングステンウェイトならではの強い衝撃はバイブラトラップならではのものなので、FPA云々が無くとも十分戦えますのでご安心を。
沈下速度の速さもウリ
そしてバイブラトラップは、沈下スピードが早いルアーとしても大きなアドバンテージを持っています。
日本ではあまり使う機会がありませんが、向こうではドック回りを探る時や、アイスフィッシングでバーチカルジギングを多用します。
いわゆるヨーヨーイングというヤツですね。
サイズの割にウェイトがあるので沈下速度が早く、ルアーを早いテンポで上下させることでリアクションバイトに持ち込みやすいのです。
余談ですが、沈下スピードの速さで定評があるのがラパラのリッピンラップですが、リッピンラップはロッドを大きく煽る動作、つまりリッピングしながらトローリングしてもラインの抵抗に負けずに素早く沈んでくれるのでウォールアイの泳層をキープしやすいと大ヒットしたルアー。


沈下速度が早いことをウリにしたラパラのリッピンラップ。
画像引用: rapara.co.jp
おそらくバイブラトラップはリッピンラップの沈下速度も意識してたんじゃないかと。
まあこれはいつものオタ妄想の域を出ませんけどねw
ちなみにリッピンラップは、高速で水面直下を巻いている最中に一瞬キルを入れて素早く沈めるとめちゃくちゃ反応があるルアー。
叩かれまくったシャローのウィードトップで使うとニヤニヤ出来るので、どうにも使いこなせないリッピンラップを持っている人は来シーズン是非試してみて。
タイプによって違うカラーが
画像のカラーはブルーギル…. と言いたいところですが、カラー名はロックバス。
日本には生息していませんが、ブラックパーチともレッドアイとも呼ばれる種の魚のカラーリングになっています。
バイブラトラップはAシリーズとSシリーズで設定されているカラーが区別されており、ロックバスはSシリーズにのみ設定された色。
正直なところ、そこまでする必要あるのか少々疑問ですが、それだけ開発者がこだわっているというアピールにはなるでしょうからそれはそれでオッケー。
ちなみに大きな3Dアイはなかなかのプニプニ感を持っていて押して楽しめますが、熱に弱いので夏の車内に放置するとすぐに溶けてしまいます。
これがなければ100点満点あげても良いルアーなんだけどな。
フックはオリジナルを採用
フックはフロントが#2、リアが#4サイズを装備。
このモデルのために開発したセットロックSET-LOK フックを採用し、フロントのみX2の太軸仕様となっています。
フロントのみ太軸にしたのはフックの暴れを抑えるのと、おそらく大型ウォールアイに対応する思惑もあると思われ。
ちなみにセットロックフックはまんまマスタッドのトリプルグリップフックです。
ビルルイスとマスタッドは昔から蜜月関係にあるので、OEMという形で供給していたんでしょう。
ちなみに近年のビルルイス製品にはセットロックの表記はありません。
もう面倒臭いからトリプルグリップでいいや!ってなったんでしょうねw

残念ながらネームはナシ
ビルルイス家の家訓に従い、このルアーにもネームはありません。
せっかくのコラボレーションモデルなのにもったいない。
AシリーズとSシリーズを見分ける印すら無いので一度パッケージから出してしまうとラトルを鳴らしてみないと分からないという問題作でもあります。
そしてラトルを鳴らしても普段から使い込んでいないと見分けがつかないというなかなかの猛者っぷりw
こういう詰めの甘さがあるのがアメリカンルアーなんですよねー
生産していないものの入手は意外とカンタン
そんなバイブラトラップは、コラボ相手だったトゥルータングステンの突然の倒産により現在は生産されていません。
が、当時あまり売れなかったので未だに店頭在庫を持ってるショップが多いのもこのルアーの特徴。
売れ残ってる理由は、好き嫌いがはっきり分かれるいかにもな外観と、ラトルトラップとしては高額な価格設定。
当時オリジナルのトラップが1,000円未満で買えたのに、バイブラトラップは1,500円前後と強気の価格だったのでスルーされまくったのです。
トゥルータングステンとのコラボで… というプロモーションが日本国内でちゃんとされていれば、その価格差を埋めることも出来たかもしれませんが、ショップはそこまでしないので単に ”なんかよく分からんけど高いラトルトラップ” で終わってしまったのです。
両親が最高の血筋を持つサラブレッドとして生まれただけに残念ですね。
とはいえ、トゥルータングステンがあの状況ですから遅かれ早かれでしたけど。
おわりに
どんなに素晴らしい商品でもタイミングとプロモーションを間違うと売れなくなるのは皆さん御存知の通り。
でも悲しいことに実力がありながらもタイミングを間違えて死んでいったルアーは山ほどあるんですよね。
そんなルアーの骨を拾うつもりで今後も頑張っていこうと思ひます(何を?w)