日本のバスフィッシングが始まって50年余、当初は完全に本国アメリカの真似っこでしたが、今ではネコリグなど日本発祥のテクニックが数多く”輸出” されるようになりました。
しかしテクニックなどのソフト面ばかりがクロースアップされがちで、ルアーの新機能などハード面での貢献が意外と知られていないのが現状です。
K-tenから始まった重心移動システムなどのメジャーなものもあれば、トリプルトラウトをデザインしたのは日本のアマチュアビルダーだったなど、表に出てこないマイナーなものまで数限りなくあるのに。
ということで今日は日本が誇るシミーフォールの元祖、アームズバイブの紹介です。
アームズバイブとは
アームズバイブは90年代、バスフィッシングブームの初期に現在のデュエル/ヨーヅリがリリースしたリップレスクランクです。
“Arms” の名を冠したシリーズの一味で、他にミノー、ポッパー、クランク、スイッシャーなどバスフィッシングにフォーカスしたラインナップが揃っていました。
特筆すべきはその価格帯。
定価600円、実売価格が500円前後というカジュアルさで小中学生を中心に爆発的人気を博しました。

当時上州屋では常時480円で売られていたのでお世話になった人もいることでしょう。
当初はその価格帯ゆえビキナー向けというイメージが付きまとっていましたが、海外向けに生産された同モデル”ラトリンバイブ” が米国で認められたことで日本国内での評価が急上昇し、玄人アングラーも実戦配備し始めたという武勇伝を持っています。
いわば凱旋帰国ですね。
この米国でのブレイクのキーとなったのが、冒頭で述べたシミーフォールだったのです。
アームズバイブのサイズ・重さ
アームズバイブのスペックは全長65ミリ、自重17gとなっていますが、実重は16gしかないというアメリカ人向けの愛嬌も忘れてませんw
確かワンサイズ小さいモデル(マイクロ?)も在ったような覚えがありますが、当時マイクロサイズのリップレスクランクと言えばラッキークラフトのベビーバイブかデュオのスラヴァーバイブ55ばっかり使ってたので詳細は不明。
仕様
当時は革新的だった専用設計ウェイト
このルアーの特徴はシミーフォールアクションのキーとなる超低重心バランス。
専用設計ウェイトによる低重心化が図られているのは画像を見れば一目瞭然ですが、ウェイトをオリジナル設計していたルアーは90年代当時それほど多くはありませんでした。
更に導入していたメーカーはまるで鬼の首でも取ったかのように【専用設計】を全面アピールしていた時代。
そんな大ネタを強くアピールすることもなく、そして専用設計ウェイトを搭載していた他社ルアーの半額近い値段で売るところにヨーヅリらしさがにじみ出ていますが😁
海外名に恥じぬラトルサウンド
そしてラトルボールの存在もアームズバイブの特徴。
海外名ラトリンバイブの名の通り、スペースに許される限りのステンレスボールを詰め込んだアグレッシブな仕様になっています。
アームズバイブが登場する以前のリップレスラトルベイトの多くはサイズの違うボールを封入することで高低複数のトーンを発するものが多かったのですが、アームズバイブはワンサイズのみにすることで中音域を強調する仕様に。
そのラトルが十分に暴れられる内部スペースが確保されているのは言うまでもありません。
これはのんだくれの勝手な想像ですが、音域の違うラトルを同居させることによりお互いの周波数が打ち消し合うマイナス要因を減らすという二次的効果もあったんじゃないかと。
ちなみにテール側のルームにはボールが2つ入っていますが、1つだけの個体も存在します。
それが仕様変更なのか、たまたまそうなったのかは不明。
アクションの立ち上がりはトップクラス
気になる泳ぎは、リトリーブスピードが増すにつれウォブリングも入ってくるピリピリ系エスケープアクション。
立ち上がりも非常にクイックで、スローに巻き始めてもちゃんと反応してくれます。
手元に伝わるブルブル感もクリスプなので、グラスのクランキンロッドでも追い食いバイトが取りやすいなど玄人もうなる仕上がりになっています。
沈下速度は一秒で約30cmと標準的な範囲に収まっているのでオカッパリアングラーでも使いやすく、この辺りは少年アングラーを想定してるんだろうなぁと微笑ましくなります。
着底姿勢は横ベッタリ。
ボトムピンコ立ちがトレンドのイマドキリップレスとは違いますが、その分ノイズを発する仕様なので巻きメインだと割り切るべきでしょう。
そして肝心のシミーフォールは使用するラインにもよりますが30〜40cmの助走距離でユラユラし始める感じ。
最新のリップレスに比べるとやや色あせ感はあるものの、物足りなさを感じることはないので及第点は十分クリアしているかと。
しかし当時はその性能をあまり強調しておらず、広告やパッケージの説明書きでもウォブリングというワードでサラッと流している程度。
シミーShimmyという単語は元々1920年代に米国で流行った、バストをアピールするダンススタイルを指すもので、90年代のヨーヅリがこのワードを使っていないのは当たり前なんですが(本国アメリカでも使われ始めたのはレッドアイシャッド登場以降)、この沈下アクションをあまり強くアピールしていないあたり、この動きは開発の途中でたまたま出来たもので、実はヨーヅリ自体もこの効果に気付いていなかったんじゃないかと😁
とはいえ、仮にそれが偶然の産物だったとしても数多のテストを経たからこそ出来たものなので、それもヨーヅリの開発力あっての賜物。
ぶっちゃけアームズバイブ以前にもシミーっぽい挙動を見せるルアーは複数存在していましたが、それに気付いてアピールし始めたという事が重要なんですから。
とまあこんな具合に令和の今、特徴だけを見ていくと、別に騒ぐほどのスペックじゃなくね?と思ってしまいますが、これが発売されたのが約25年前、しかも500円前後でこのパフォーマンスが手に入ったと思うと、実は凄い事だったとお分かりいただけるかと。
データこそありませんが、TDバイブにとって小中学生層攻略においてこのアームズバイブが大きな脅威だったのは想像に難しくありません。
ストライクキングが追随

KVDレッドアイシャッドとアームズバイブ
そしてそのフォールパフォーマンスにいち早く目をつけたのが王者ストライクキングでした。
彼らはKVDという金看板の元、シミーフォール性能を強化したレッドアイシャッドをリリースし、クラシックのウィニングベイトに仕立て上げるという偉業を成し遂げます。
レッドアイシャッドは徹底的にアームズバイブ/ラトリンバイブを研究したらしく、シミーフォールの立ち上がりが驚くほどクイックに。
15cmほどの沈下で早くもボディを揺らし始め、その振り幅も当時シミーダンスの女王と呼ばれたジルダ・グレイ並みw
日本は海外から入って来たものを独自に進化させるのが得意だと言われていますが、この時ばかりはお株を奪われた形になってしまいました。
しかし日本のルアーフィッシング黎明期はアメリカに追いつけ追い越せで頑張ってきた国内メーカーが真似される立場になったという点では嬉しい傾向。
ちなみに日本ではシミーフォールアクションがあまりフォーカスされていませんが、米国ではボートドック周辺に付いたバスを狙うことが多いため、リフト&フォールが非常に有効なメソッドとして浸透しています。
漁港が釣り禁止になっている日本では出しどころが少ないと思われているメソッドですが、表層を巻いている最中にフッとフォールさせるだけでもめちゃくちゃ効果があるのでぜひお試しを。
ウェイクベイトが効果的なタイミングには特にハマりやすいので ”急沈下” の威力が堪能できます。

エクスキャリバーハイテックタックルのラトルベイトXr25
余談ですがレッドアイシャッドの大躍進を見せつけられた他メーカーも黙ってはおらず、プラドコ帝国もフォロワーを投入。
スクエアビル戦争のようなワールドワイドではないながらもシミーフォールウォーズが勃発しました。
ラトルベイトXr25は既に生産が終了していますが、現在は置屋をブーヤに変え、源氏名もハードノッカーとして今も活躍しているので気になる人は是非。
ブーヤのハードノッカーは現在入手出来るリップレスクランクでは一番好きです。ただ最大ウエイトが3/4ozまでなのですが。
— TexasBankFisherman🇨🇱 (@texasbankfishe1) January 25, 2023
カラーはベーシックな物が中心
アームズシリーズはベーシックな商品なのでカラーリングも基本を抑えたものが中心。
画像のクリアの他にクロームをベースとしたバスやオイカワ、ホットタイガーなどがラインナップしていました。
現在は日本国内もラトリンバイブだけになり、クロー系などカラーバリエーションも増えているので使い勝手という点でも現行モデルに軍配が上がります。
でもヨーヅリのカラーリングは実用的過ぎて遊び心という点でまだまだなのがもったいない。
レギュラーカラーにしなくともポップな色やナチュラルプリントなどがあったら一生ついていくのにw
せめてカラーだけでも”洋釣漁具” だったころのキワモノ感を取り入れて欲しいもんです😁
フックはVMC
フックはフロントが#4、リアが#6サイズのVMC製コーンカットフックを採用。
化学研磨をウリにしたフックでもあったので、自分で砥げる砥げないでプチ論争になってたのは懐かしい思い出。
残念ながらネームは無し
残念ながらアームズバイブにはネームスタンプはナシ。
ぶっちゃけ見分ける方法は形状とカラーリングぐらいしかなく、これはアームズシリーズ共通です。
コスト削減の意味合いもあったと思いますが、バイブに限らず実力のあるルアーが多いシリーズだけに是非ともネームは欲しかったですね。
特に最近は中古屋でそのルアーの良さを知って新品を買い足すケースが多いので、ルアー本体だけでアイデンティファイできるネームスタンプの重要性は以前とは比べ物にならないぐらい高まっています。
近年のヨーヅリルアーにはネームが入っていますが、一撃必殺のアームズポッパーマイクロなどは目利きで探すしか無いので、ヨーヅリの実力が知られにくくてもったいないなぁと。
当時仲間内で禁じ手とされていたアームズポッパーマイクロ。
45ミリというミニマムサイズながらちゃんと首を振りしてしっかりツバを吐きポップ音も出せる。
バランス的にフックサイズを上げられないので、デカいのが来ると簡単にフックを伸ばされるのが唯一にして最大の難点。 pic.twitter.com/aSJuW6bKhv— ルアー千一夜☆公式 (@lure1001) September 8, 2021
おわりに
若いアングラーの増加と共に、日本がオリジナルであることを知らない世代が増えているのは紛れもない事実。
別に知らなくても釣りは楽しめるけど、日本が海外マーケットに対して胸を張り、釣りという文化を根付かせるという意味では重要な事だと思うんですよね。
ヨーヅリがアメリカの会社だと思いこんでるアメリカ人は日本人が想像してる以上に多いのです。
これスゲーから使ってみろよ、とドヤ顔でラトリンバイブを差し出すアメリカ人の多いこと。
トランプが提唱したストロングアメリカではないけれど、日本人プロが本場で大躍進している今こそ、実は日本も凄いんだせというアピールをしなければならないんじゃないかと思っとるワケです。