のんだくれがまだハナタレのクソガキだった頃、なかなか手が出せないルアーがありました。
それはシンキングのルアー。
ほぼオカッパリしかしていなかったガキには、沈むルアーなんて根がかりが怖くて使えなかったんです。
いや、使えなかったというよりも、そんなリスキーなルアーに限られた資金を投入する勇気は持ち合わせていませんでした。
お年玉で買おうと思えば買えないことはない。
でもリスクテイクする勇気はない。
違う意味で高嶺の花だったんです。
いつかはシンキングプラグを心置きなく投げられるようになりたい!というアツい思いを抱きつつも、良くも悪くもシンカーの威力を知らないハナタレは平穏な?日々を過ごしていました。
しかしある日、友達のクマガイくんが釣ったバスで状況は一変します。
なんとクマガイくんがレーベルミノーのシンカーで当時のガキには大物とされる36cmのバスを釣ったのです!
実はクマガイくんは地元では有名な金持ちの息子で、中学2年にしてアンバサダーとフェンウィックを操る、いけ好かないクソガキwでした。
当然ルアーも山盛り持っていて、自転車の後ろにアムコの両開きを縛り付けて走り回るような “お子様” だったのです。
皆さんの周りにもそういうヤツいましたよね?
そんな彼ですから根がかりなんて恐れるわけもなく、シンキングだろうとお構いなしにガンガン投げちゃうわけです。
そしてクマガイくんがシンキングミノーで釣ったそのバスは、我々の和を乱すのに十分な破壊力を持っていました。
沈むルアーは釣れる!なんとしてでもレーベルのシンカーを買わねば!アレさえあれば大物(当時はランカーなんて言葉すら知らなかったw)が釣れる!とwww
おっさんになった今なら、そのバスは “たまたま釣れただけ” と分かりますが、ネットはもちろん、ルアーについて書かれた書籍もほとんどない時代のハナタレにそれを理解するのは到底無理なオハナシ。
シンカーは釣れる!という強烈なインプリント作用が起きるのは当たり前で、そのたった一尾のバスは、それまで頭の中を占めていたホッテントットやウィRの存在を一瞬でかき消すほどの衝撃だったのです。
その時クマガイくんが釣ったルアーがこのS10と呼ばれる9cmのモデルでした。
カラーは確かブラックバックだった覚えが。
あ、レーベルミノーについて今さらノー書きを垂れなくても大丈夫ですよね?
トラウトの世界では未だ第一線のルアーですし、アメリカのソルトウォーター系ガイドの中にはこれがないと仕事にならないという人も。
歴史はもちろん、その実績は定番を超えた殿堂レベルに達しているのは誰もが認めるところです。
しかし外見のクラシカルさが災いして、近年ではグランパズルアー Grandpa’s Lure(おじいちゃんのボックスに入っているような古いルアーの総称)と揶揄されることも。
そんな市場の声はレーベル側も理解していて、It’s Still Swimming Strong (まだまだ現役だぜ)と半ば自虐とも取れるプロモーションを展開するなど、ある意味微笑ましい存在になってたりします。
シンカーの特徴はフローターと比べてがっちりした体格に仕上げられているところ。
フローターの最大幅12ミリに対し、シンカーは13.5ミリと12%以上も存在感をアップ。
そしてその増えた体積をウェイト兼ラトルボールのスペースに充てて、重量は70%増しに。
フローターモデルのちょっと頼りなさげなルックスとは一線を画した、マッスルボディに仕上げられています。
そんなガチムチボディをキビキビ動かすためにはリップもサイズアップしなければなりません。
リップの真ん中が絞られたデザインのフローターに対して、ボディ幅よりも大きいリップを採用するなど、ボディの重量増への対応もバッチリです。
さらにリップの前面にほんのわずかなアールをつけることで水掴みを良くしています。
この辺りはラパラカウントダウンへのライバル心も見え隠れしてますね。
レーベルミノーといえばこのクロスハッチを忘れちゃいけません。
横と斜めのラインを等間隔で入れるのではなく、4本づつのラインを間隔を開けて配置することで、これぞレーベル!というアイデンティティを確立するあたりはさすがと言わざるをえませんね。
でも使ってるうちにボロボロになっちゃうのもクロスハッチパターンの特徴。
しかしコアなレーベルマニアにかかると、そのボロボロ具合ですら “あれは弱った小魚のウロコが取れた様子を表しているんだ云々” と、超ポジティブな解釈になってしまうところもレーベルマジックの恐ろしいところ。
最初期と80年代のモデルは目玉の部分が盛り上げてあって、さらに丁寧にペイントされているのが特徴。
手作業でひとつひとつ黒目を入れたんだろうなー… と職人の手間に思いが馳せられるところがイイですね。
70年代のミノーはリップよりも前のクロスハッチがなく、つるるんフェイスにスタンプを押したようなアイになっています。
80年代初期?のジャンピンミノーも同様のアイになっているので、ご隠居レーベルがあるなら一度検診してみてください。
フックは前後とも#6のショートシャンクが装備されています。
画像のものは交換してありますが、元々はイーグルクローのカドミウムフックが装着されていました。
パッケージに “SALTWATER” のステッカーが貼ってあるものには必然的にカドミウムフックが装着されているもんだと思い込んでましたが、どうやらそうではないみたいなんだ、と向こうのコレクターが話してました。
レーベルのこういった仕様のブレはフックに限らず、検証しようがないケースが多すぎるのでホントにヲタ泣かせです。
レーベルのコレクションを極めるのは、”目的地も分からずに暗闇の中を有視界飛行するようなもん” とどっかの記事で書いたことがありましたが、まさにその通り。
この辺りをしっかり検証して上梓すれば、売れるかどうかはともかく、そっち界隈では伝説になれると思います😂
リップには誇らしげな SINKER の文字が鎮座しています。
1980年のカタログに One inch longer and an eighth-ounce heavier, This sinking REBEL is a versatile choice for all game fish (この1インチ長く、1/8oz重くなった沈むレーベルはあらゆるゲームフィッシュに対応します)とある通り、対象魚を絞っていないのがこのモデルの特徴。
日本ではフローターの陰に隠れてしまっていましたが、淡水海水を問わずあらゆる地域で販売できる事からレーベルとしては重要な戦略商品だったことが伺えます。
さてさて、クマガイくんが巻き起こしたミノーシンカーの一件がその後どうなったかと言うと、皆さんの予想通り、シンカー熱が一気に冷めて終わってしまいました。
なぜならその後、別の友達がシンカー以外で大きなバスを釣ったからwww
要するに、バスが釣れさえすればシンカーとか全く関係なかったということ。
まあ股間がやっと草原になり始めたぐらいの中学生ですからね、目先の結果に引っ張られるのは仕方ありません😂
そんな青い思ひ出をもたらしてくれたこのS10シンカーですが、久しぶりにレーベルのサイトを見に行ったらいつの間にか消えていました。
え?うそ?とカタログをめくるも、手元のデータでは1998年を最後にS10モデルは姿を消していました。
レーベルミノーは永遠に生き続けるものと勝手に思い込んでましたが、おそらくトラックダウンミノーと入れ替えられちゃったんでしょうね。
よくよく考えてみたら徹底合理主義のプラドコですからね、これも時代の流れかと。
時代の流れといえば、クマガイくんが釣ったあの池も造成されてなくなっちゃったし、ルアーと、それにまつわる思い出もこうしてひとつづつ消えていくんだなーと。(遠ひ目)