市場に溢れ返るパチモンルアー。
そのほとんどが中国製で、どうしようもないモノが多いのは皆さん御存知の通り。
しかしそんなゴミの山にも宝石が隠れていることがあるのです。
今日紹介するクランクはまさにそんなお宝系ルアー。
中国のリンユーフィッシングが放つ無名のダイビングクランクです。
リンユーフィッシングとは
さてさて。
ほとんどの人が初めて聞くであろうリンユーフィッシングLingyue Fishingは中国浙江省金華市に拠点を置くメーカー。
リンユーの名の下にキャンプ用品などの製造もしている、典型的な中国のプラスチック工場といったところです。
しかしこの手の工場が侮れないのは、世界中のメジャーブランドの製品をOEM受注しているということ。
会社自体は知られていないけれど、大きなブランドからの受注をこなすなどにより、思ったよりも制作のノウハウを持っていたりする事も。
過去に『同系』のクランクベイトがセリアだったか日本の100円ショップで出回ったことがあるので、もしかしたら知らないうちにリンユーのルアーは日本に広まっているのかもしれません。
余談ですが、カギ括弧つきで『同系』としたのは、中国では他の工場が製造したパチモンを原型として型を取って金型を作るというスキームが割と常態化しているので『パチモンのパチモン』が大量に出回っています。
ゆえに見た目は同じルアーでもウェイトや内部構造が全く違うものが複数存在します。
有名なところではレーベルのクローフィッシュ→プロデューサーズのクローダッド→ブレイズのディッチバグという流れもありましたね。
レーベルクローフィッシュを型取りして作られたのがプロデューサーズのクローダッドで、それを型取りしてブレイズのディッチバグが出来たとの説がある。
並べてみると確かに少しづつモールドが甘くなっている。
同様の流れはグリフター⇨グリップクランクにもみられるのである意味パチの王道なのかも。 pic.twitter.com/m7MVF3m0qI— ルアー千一夜☆公式 (@lure1001) January 8, 2022
なので外見が同じだからといって安心できないのが中華ルアーの恐ろしくも面白いところなのです😁
サイズ・重さ
そんな名無しクランクのスペックは全長100ミリ(ボディのみ65ミリ)、自重は14.5gと、ダイビングクランクとしては標準的なサイズにまとめられています。
そしてサイズバリエーションがないのもいかにも中華パチ的でよろしいw
仕様はあのルアーに酷似
このルアーの特徴のひとつは、クランクベイトとシャッドの中間的フォルムであること。
これは後述する泳ぎにも関係しているっぽいので、パチ臭ムンムンだけれど、実は結構考えて作られたルアーなんじゃないかとちょっと期待してしまいますw
そしてリップはボディ一体成型で、途中で折れ曲がるいわゆるベンドビルシェイプとなっており、根本をキュッと絞った形状からは嫌でもキレのあるアクションへの期待が高まってしまいますw
ここまでですでにお気づきの方も多いと思うんですが、実はこのルアー、ビルノーマンの名作ディープリトルNにそっくりなんですよね。
かつてディープリトルNで爆釣を味わったのんだくれはこのシェイプを見るなりワンキャストワンフィッシュの光景が脳内で再現されてしまって即フォーリンラブ。
そりゃ期待が高まるのも無理はありませんw
そして実際に投げてみたところ、このルアーは期待を大きく上回るパフォーマンスの持ち主だったのです。

ピッチ早めのストロングアクション
このルアーのアクションをひと言で表すと、ピッチ早めのストロングローラー。
ローリングが主体では有るけれどほどよくウォブリングも加味されていて、しかもかなり強めの側線直撃アクションに仕上げられています。
そして特筆すべきは内蔵ラトルサウンドのボリューム。
ガコガコでもガシャガシャでもない強い当たりの衝撃波を撒き散らしながら泳いでくれるのです。
ディープリトルNのアクションを想像していたのんだくれはこの泳ぎを見ていい意味でショックを受けることに。
なぜならディープリトルNを使っていく中で『もう少しこうだったらイイな』という要素がこのルアーに全部詰まっていたから。
ディープリトルNはひとつの完成形なので不満はないけれど、長い間使ってるとどうしても細かいところに目が行ってしまいがち。
特にディープリトルNの泳ぎはタフなフィールドでは生きるけれど、サカナを探さなければならないような場所ではちょっと弱いのです。


ディープリトルN(左)とリンユークランクのリップ比較。 ほぼ同じ形状だが、ディープリトルNはタイトなウォブリングなのに対し、リンユーはピッチ早めのローリングが主体。
さらにディープリトルNにはない浮力の強さもリンユーの売りの一つ。
リトリーブを止めると一瞬ふわっとその場で漂うような挙動を見せるディープリトルNに対し、リンユーはすぐに浮上してくれるのでリップラップなどの障害物周りでの使い勝手がすこぶるイイ。
しかも空力特性がイイのか、キモチいいぐらいのキャスタビリティも備わっており、この手のクランクにありがちな扇風機になって失速ということがほぼ有りません。
ぶっちゃけディープリトルNとリンユーの2つのクランクがあったら2m前後のシャローは完璧なんじゃね?というぐらいのパフォーマンスなのです。
実は過去にもそんなディープリトルNの弱点をカバーするルアーがリリースされた事がありました。
それがマンズとバスプロのハンク・パーカーがタッグを組んだハンクスクランク Hank’s Crank。


ディープリトルNとハンクスクランク(未塗装ブランク)
ディープリトルNの空前のヒットを見たトム・マンが90年代に仕掛けたルアーですが、諸々の事由により各方面で軋轢を生み、短い期間でその生涯を終えました。(トム・マンは80年代始めにマンズベイトカンパニーを売却し、”デザイナー兼レプリゼンタティブ(営業職の一種)”という形でマンズに在籍してハンクスクランクに関わったので厳密にはマンズの製品ではないが)
ハンクスクランクについて説明を始めると一万字あっても足りないのでここでは書きませんが、プロデユーサーズのディープリトルZの例もあるように、良くも悪くもディープリトルN特有の ”弱さ” に気付いていたアングラーは少なくなかったのです。

カラーリングは期待しちゃダメ
しかし動きはサイコーでも元々がパチ系チーピースタッフなのでカラーのショボさは否定できません。
このセクシーシャッド風味のカラーはショボいながらもまだ見られる方で、他の色なんてとりあえずホログラム貼っとけ的なのとか、もうヒドいったらありゃしないw
そういう意味ではリペイント向けのクランクと言えるかもしれませんね。
フックのショボさはやっぱり中華製
前後ともフックサイズは#4ですが、このクオリティがなかなか酷いので吊るしのままじゃ使えません。
最近は100均フックでもそこそこ使えるのが出てきてるだけにちょっと惜しい気がしますね。
それとリアのフックハンガーが華奢なのも気になります。
実はココはディープリトルNにとっても弁慶の泣き所で、エイトリングの細さゆえ橋脚まわりでのキャストでご臨終となるケースが多いのです。
こういったところも改良されているリリースされたハンクスクランクを見ると、トムの市場を見る力は確かだったんだなーと思わざるを得ませんね。
残念ながらネームはナシ
性能で売るようなルアーではないので、ネームプリントはありません。
出来がいいだけにちょっと残念な気もしますが、ネームスタンプを押すだけでコスト増となるのでこれは仕方ないでしょう。
参考までにこの辺のルアーの工場出荷額は発注数にもよりますが一個あたり30円ぐらい。
これに輸送、関税、包装など諸々のコストが加算されて店頭に並ぶ形となります。
これを高いと見るか安いと見るかは人それぞれですが、個人的にはその程度のコストでこれだけ楽しめるならタダみたいなもんだなと😁
入手はどこで?
さてさて、実力があるとなると気になるのは入手方法。
残念ながら今の時点では奇跡の出会いに望みを託すしかありません。
というのも、先述の通りリンユー似のクランクは出回っているので、外見は似ていても同じものだとは限らないのです。
リンユーは一時期アリエクスプレスAliExpressでこのクランクを販売していましたが今は引っ込めてしまったようなので、似たクランクを見つけたらとりあえず買って試すしか方法がありません。
のんだくれもスペア欲しさにいくつか買いましたが、いまのところ勝率は一勝一敗。
探す手間も楽しめる人にとってはちょうどいいお宝探しなのかもしれませんが。
おわりに
サカナが何に反応するのかを探りながらルアーが作られている以上、魚と人間の騙し合いに終わりはありませんが、時々意図せずしてそのキモを射抜いてしまうルアーが存在するのもまた事実です。
バスプロショップスのジ・エッグ然り、そういった ”ショボいけど釣れる” ルアーを見つけるのもルアーの楽しみ方のひとつですよね。