限定商法と呼ばれるマーケティング手法があります。
数が少ないことをひとつのウリにして希少感や物欲を煽る販売方法のことですが、釣具に限らずあらゆる業種、商材で使われているのはみなさんご存知の通り。
かく言うのんだくれもその昔は限定という言葉の魔力に抗えず、なんでも連れ帰ってた時期がありました。
数量限定、今季限定、ミレニアム限定などはもちろんのこと、釣り具屋の ”お一人様一個のみ” という張り紙にも無駄に惑わされ、要らんと思いつつ買ってたことも😭
今日はそんなアングラーの心を惑わす限定チームの中からデプスのスペルトリガーを紹介しましょう。
スペルトリガーは2010年にデプス会員向けに発売された “限定品”。
会員になって予約さえすれば手に入るので厳密に言えば限定ではないけれど、メンバーになった人だけというクローズドマーケット向けですからこれも限定品と見て問題はないでしょう。
当時のんだくれはネットか何かでこのルアーの事を知り、欲しいと思ったもののメンバーシップ登録するのが面倒でスルー。
そのうち中古市場に出てくるよね、と思ってたらソッコーで出回ったのでそれを入手したという次第です。
スペルトリガーは全長95ミリ、自重20gのスペックを持つトップウォータールアー。
へドンのバサーを彷彿とさせる突き出た下顎を持つ、ご覧の通りのダータープラグです。
この手のルアーはありとあらゆるブランドから発売されており、既に相当数持っているので新たに買わなくても…. という気もしましたが、最新理論を駆使したデカバスハンティングに軸足を置くデプスがわざわざ古典的なルアーに着手したという点が気になったので買ってみました。
どんなルアーを出してきたのかオタ視点で見てみたかった、というワケです。
結論を先に言ってしまうと、ルアーとしての性能は100点満点中90点。でもそれ以外の要素は35点です。
ということでそれらのポイントを説明していきましょう。
まずスペルトリガーの最大の特徴でもありウリでもあるカップですが、これは非常によくできています。
ダーターの十八番、捕食音をアングラーの意のままに操ることが可能です。
ギルが水面の虫をついばんでいるようなペチペチという小さな破裂音から周囲の魚を蹴散らすような爆発音まで、ロッドのテンション次第で思い通りの演出が可能。
ダーターに限らずトップウォーターのアクションはその人の癖や動かし方のパターンがはっきりと出るものなので実際にはそれほど多くの演目は必要ありませんが、これだけ幅広い音のバリエーションがあるということは逆の見方をすればダーターで釣ったことがない、もしくは苦手な人でも好みの使い方ができるという懐の広さを持っているということになります。
デカいのを水面まで引っ張り上げるパワーはピカイチなんだけれど、使いこなすのが大変と言うか小難しいイメージがつきまとうダーダーにおいて、ハードルの低さというのはとてつもないアドバンテージなんです。
だって水面派を名乗っているのにダーターでは釣ったことがないアングラーってめちゃくちゃいますからね。
そしてその間口をさらに広くしているのがこの首を絞ったボディラインです。
一見どってことのない造形に見えますが、ここはスペルトリガーのキモが集約されている非常に重要なポイント。
実はこのルアー、リトリーブで使うと上顎付きのダーターとしては珍しくウォブリングするのです。
一般的なダーターはリトリーブしてもフラフラと引かれるがままというものが多いのですが、スペルトリガーはミノーのようにちゃんとウォブリングしてくれるのがミソ。
さらにロッドを立てて引けばダーターでありながらウェイクベイトとしても使えちゃう万能っぷりで、そんなアクションを生み出しているのがこのくびれなのです。
厳密には、水流を受けてウォブリングさせるためにはある程度の大きさのリップ(この場合はカップ)が必要ですが、他のダーターのようにカップからのラインをそのままボディにつなげてしまうとぼってりしたイメージになる上にちゃんと泳がないので、アクションを生み出す効果も兼ねて絞ってあるといった感じだと思いますが。
ぶっちゃけウォブリングアクションにはキレはありませんが、引いてくるだけちゃんと泳いでくれるというのは他のダーターにはあまり見られないので、ダーター初心者も使いやすく、そして上級者でも回収中バイトがもっと取れるようになるので、これはこれで大きなアドバンテージと言えるでしょう。
そんなアクションを視覚面でしっかりとサポートするのがこのプリズムインサートです。
ビックリマンチョコでいうところの扇プリズムパターンではなく、パターンが大きめの幾何学模様プリズムシートを使うことで、ベイトフィッシュが反転した時の一瞬のフラッシュを再現しようとしているデプスのヤル気が感じられますね。
そしてその輝きを抑えるかの如く、薄く塗装されているところも絶妙です。
更に大きなラトルボールを2つ内蔵しているところもこのルアーのキモです。
その構造を見ると、クランクベイトのように横方向への動きでサウンドを発するように思われますが、実はこれらのボールは縦方向、つまり前後への動きしか許されていません。
しかし仕切りのないラトルチャンバーの中でボール同士がぶつかるので、通常のラトル音に加えて金属同士のワンノッカーサウンドも生み出せるというなかなかのスグレモノ。
へドンのスーパースプークのようなカツーン!と響く音ではありませんが、こういう機構を持ったダーターが他には見られないので、カップが生み出す多彩な捕食音とともに大きなウリのひとつになっています。
そしてなによりもダーター特有のクセがほとんどないアクションは高ポイントですね。
ロッドを軽くチョンとやるだけでコポッ!と鳴きながらケツをピコン!と上げるかと思えば、静かにスィープすれば口から二本のヒゲを伸ばしながら気持ちよくダイブしたりと、ダーターを操る楽しさを知るには最高のパートナー。
キックバックの時にラインテンションを保ってないとフックがラインを拾いやすいという欠点はありますが、まあこれは許容範囲内でしょう。
そんなスペックに合わせたフックにもヤル気が漲ってます。
このサイズならば3フッカー仕様にしても不自然じゃないのにあえて2フッカー仕様とし、さらにオーナーの防錆フック(ST-46?)を採用しているあたりにバス以外のサカナも視野に入っているという思惑が見えますね。
実際このルアーのスペックだったらバス以外の用途の方が広いような気がします。
ただ、テールのフェザーフックは好みが分かれるところでしょう。
これはこれでギルを集めるパワーがあるのですが、いかんせんフェザーフックは耐久性に問題がありますからね。
とまあこんな具合に、このスペルトリガーはかなり使える… いや、むしろ是非とも持ってて欲しいルアーに仕上がっているのです。
しかーし!
そんな最強の性能を持ったルアーなのですが、性能以外の部分がダメダメなのです。
元マーケティングコンサルの目で見ると、なんでこんな事をわざわざやるかな?というぐらい。
まずその筆頭が目です。
これだけ見ると黒目の大きな普通の3Dアイなのですが、この目とその位置から生まれるルアーの表情が中途半端なのです。
ガチのデカバスハンター的なデプスファンが好きそうな3Dアイでもなく、そしてダーターを好みそうなトップウォーターアングラーが好きそうな感じでもない。
どちらにもウケるように双方に日和ったのかどうかはわかりませんが、とにかく中途半端。
外見の受け止め方は人それぞれだと思いますが、少なくともこのスペルトリガーを ”カッコいい” と表現した人は周りにはひとりもいません。
ダーターは他のルアーに比べてバスルアー的要素が強く、カッコいいと言われることが多いタイプなのですが、ハッキリ言ってダサいのです。
そしてこれの最悪なところは、表情があまりにも中途半端なために ”これで釣りたい” という気持ちが湧いてこないところ。
のんだくれはルアーの表情ひとつでアングラーのモチベーションも変わると思っている派なので、このスペルトリガーはわざとそれをハズしにいったの?というぐらいに思えてしまうのです。
のんだくれの友人にデカバス狙いのアングラーがいて、スペルトリガーのヘビーユーザーなんですが、彼は唯一この中途半端な目が嫌いで、目だけ他の3Dアイに張り替えていますw
そして水面派アングラーからも不評の嵐で、ネット検索すれば目を埋めてリペイントしたものが多数ヒットします。
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— PAINT JUNKIE (@Paint_Junkie) April 26, 2017
つまりガチ派も水面派も関係なく、多くのアングラーがこの目にNo!を突き付けているのです。
確かにこのへドンちっくなカラーだったら欲しいし、これで釣ってみたいと思いますもんね 。
さらにスペルトリガーはネーミングが超ダメダメなのです。
デプスといえばスライドスイマーにハイサイダー、ブルシューターなどなど名前を聞くだけでルアーのパフォーマンスがイメージできるネーミングが多く、のんだくれの中ではネーミングセンスの高いブランドのイメージがありました。
がしかし! スペルトリガーって何?
この名前からはルアーのパフォーマンスなり特性が全然イメージできないのです。
直訳するとスペル Spell は呪文とか妖術、Trigger は引き金とか動機、要因という意味ですが、あれこれ意味を盛り込もうと思った挙句、収拾つかなくなった感がテンコ盛り。
もしかしたらMagic: The Gathering 的なものからの引用なのかもしれませんが、そもそもこのワードが一般に知られていないので結局アングラーには?マークしか残らないというデプス史上最悪のネーミング。
余剰在庫が出ない予約販売だからネーミングはどうでもよくなっちゃったんでしょうか? それとも長引くネーミング会議に疲れて妥協しまくった?😂
背中にリミテッドのモンモンを入れるなら、デプス本来のセンスを発揮して欲しかったなぁ。
そういった部分を見ると、ネーミングも含めてターゲットである購買者層が絞り切れてなかったんじゃないかと思うんですよね。
ガチのデカバスアングラー狙いなのか、それともトップウォーターアングラー狙いなのかが曖昧なまま出しちゃった感が強いのです。
メンバーのみの限定販売には、ブルシューターのように反応が良ければレギュラーラインナップに加えるという観測気球としての側面もあるので曖昧な状態で出すのもマーケティングデータ取りとしてはアリなんですが、ここまでハイパフォーマンスなルアーを作っておきながら最後の詰めが甘いと、なんだかルアーが可哀想に思えてきちゃいます😭
だから ”それ以外の要素” には35点しかあげられないのです。
とまあこんな感じで上げたり下げたり好き勝手に書いてきましたが、それでもこのルアーのパフォーマンスは唯一無二のもの。
諸手を挙げておすすめできるルアーであることは間違いありません。
しかし発売されたのが10年以上前ですから、入手は中古市場で探すしか方法はありません。
一時期リペイント物が流行ったこともあって出回っているタマは多くはありませんが、今でもたまに遭遇することがあるので気になった人は根気よく探してみては?
しかしこれもう再販しないんですかね?
目とネーミングさえ変えたら絶対売れると思うんだけどな。