ルアーの世界には昔から語り継がれている一つのジンクスが存在します。
それは「オリジナルモデルは越えられない」というもの。
これはヒット作の後に続くサイズ違いや派生モデルはオリジナルの性能を越えられない事を顕した言葉。
ルアーは初期インパクトや使い手の主観が大きく影響するので必ずしも当たっているとはいえない部分もありますが、世界のセイジ•カトウもかつて雑誌インタビューで同様の事を語っていたのでその傾向が100%無いとは言い切れない部分も。
そして数多のルアーデザイナーはオリジナルモデル越えを果たすべく日夜開発に汗を流すわけですが、残念ながらジンクスに当てはまってしまうものが多いのも事実。
しかし中には ”コレってもしかしてオリジナルを越えてるかも?” とニンマリしてしまうものも。
今日紹介するピーナッツII SSRはまさにそんな ”親分殺し” を果たした数少ない存在です。
ピーナッツII SSRとは
ピーナッツII SSRはダイワが誇るロングセラークランク、ピーナッツII SRの派生モデルとして登場した、スーパーシャローランニングモデル。
高い汎用性を誇るSRモデルですが、超シャローを効率良く攻めるとなると潜りすぎてしまうケースもあるため、そのスキマを埋めるために登場しました。
派生モデルってオリジナルにちょっと手を加えただけなんでしょ?と思ってる人が意外と多いのですが、このSSRはピーナッツの冠を被っていながらも、全てをゼロから開発した完全オリジナルモデルに仕上がっています。
ピーナッツII SSRのサイズ•重さ
ピーナッツII SSR(以下SSR)のスペックは50mm、8.9g。
オリジナルモデルとほぼ同じサイズにまとめることで使い勝手の良さを継承しています。
そしてこのサイズでありながらストレス無く飛ぶのでオカッパリアングラーはもちろん、ボートからショートレンジを終日マシンガンしても疲労を最小限に抑える配慮がされてるのがニクイですね。
ちなみにデカピー、タイニーサイズにもSSRモデルは設定されていますが、それぞれ全く別の顔を持っているので詳細はまた別の機会に。
仕様
まるで素人カスタムのような屹立リップ
まずなんといってもこの垂直リップを忘れちゃいけません。
オリジナルSSRとの違いは比べるまでもありませんね。
まるで素人がライターで炙って曲げたんじゃないかというような根元の造形wですが、このわずかなアールが水流を受け流してくれるのか、超高速リトリーブでも泳ぎが破綻しません。
通常のSRモデルならばそこそこ潜るのである程度泳ぎが乱れても大きな影響はありませんが、SSRモデルは潜行深度が浅いので泳ぎの乱れ=トビウオになってしまうためこの性能は地味ながら非常に重要なポイント。
一昔前は潜らないSSRが凄いというようなミスリードがありましたが、SSRはウェイクベイトでは無いのであくまでも勝負ステージは水面直下30〜50cm。
求められるレンジで最大のパフィーマンスを発揮するという意味ではこのルアーはかなり突き詰めていると言えるでしょう。
リップ形状の違い
もちろん違いは付け根だけじゃありません。
水の抵抗をしっかり受けつつも余分な水流を流すためリップ形状はより正方形に近い形に。
オリジナルSRのリップを曲げてカスタマイズしたことあるアングラーなら分かると思いますが、SRのリップは言うまでもなくベストセッティングが施されているので、イジった途端に泳がなくなります。
こういうところを見てしまうと、こんな解決法があったのねとニヤリとせざるを得ません😁
専用ボディならではのファットヘッド
そしてアピールを強める水押しを最大限に引き出すファットヘッドもSSRの特徴。
リップで受け流した分はこのヘッドが補ってやるぜと言わんばかりのデカアタマぶりです。
このヘッドの効果は水面でモワモワ泳ぎをさせれば一目瞭然。
オリジナルSRと引き波比較すると分かり易いので釣れない時の息抜きに是非w
ちなみに内部にはウェイト兼用のラトルボールが2個入っていてサウンドはうるさ過ぎず静か過ぎないコトコト系。
後述するアクションとの相性もよく、なかなかのノイズメーカーに仕上がっています。
むやみにボーン系素材採用による高音サウンドをアピールせず基本に忠実なスタイルを貫き通すのはさすがロングセラーといったところでしょうか。
ちょっと話は逸れますが、昔は低音ゴトゴトサウンドが良いとか、ジャラジャラのマルチラトルでしょとか、いやノンラトルがベストだのあれこれ意見が飛び交ってた時期がありました。
今振り返るとホントにどーでもいい論争ですが、どーでもいいことに熱くなれるのがバスフィッシングの楽しみでもありますからそういうキモチだけは持ち続けていたいもんです。
ロール強めのウォブリング
ルアー界の”ホットハッチ”
気になる泳ぎはローリング強めのウォブリングアクション。
立ち上がりの鈍さはあるものの、一旦泳ぎ出すとボディを激しく揺さぶって本性を表します。
見た目はコンパクトだけど泳ぎ出したらやんちゃなクランク、それがこのSSRじゃないかと。
車に例えるならば、アバルト500やプジョー106のS16に代表されるホットハッチってトコでしょうか。
ホットハッチといえば大昔のんだくれはオペルアストラGSi16Vに乗ってたことがあります。
故障が多くてしょっちゅう悲鳴を上げてましたが、クロスレシオのミッションならではのトルクは低速から高速まで走りを思う存分楽しめる車でした。
ピアッツァネロと共に死ぬまでにもう一度乗りたい車ですが、こういう感覚って巻き物系ルアーにも通ずるものがありますよね…. って分かります?😅
蛇行するリトリーブ軌道
そしてこのSSRはリトリーブ軌道が蛇行する、つまり千鳥るのも特徴のひとつ。
ある一定のスピードまで加速すると軌道が左右に不規則に振れていい意味での不安定さを発揮します。
これは真っ直ぐにしか泳がないデカピーSSRとの大きな違いですね。
ぶっちゃけルアーが千鳥れば釣れるといった単純なものではありませんが、千鳥るSSRクランクは数少ない上に、全国どこでも ”ピーナッツ価格” で手に入るのは大きなアドバンテージと言ってもいいでしょう。
これらのアクションが最大限に効果を発揮するのはやはり水面近くまでウィードが伸びているスポットやフィーディングモードのバスが超シャローを意識してる時。
ウェイクベイトでも良いけれど、あえて潜らせたい時にぴったりハマります。
ロッド位置によっては水面下10cmを高速で疾走させる事もできるので重宝します。
カラー数は一体いくつあるんだ?
カラーはクラシックなマットファイヤータイガー。
90年代にクランクベイトを投げていたアングラーならば誰もが一度はお世話になったことがある ”かつての” 定番カラーです。
ピーナッツシリーズはカラー数があまりに多いため追っかける気すら起きませんが、このマットファイヤータイガーは復刻版バスハンターにも採用されていたこともあり個人的イチオシの色。
しかしあの頃マットタイガーは絶対に外せないと言ってた某プロたちは一体どこへ行ってしまったのかw
レッドヘッドも含めて復権して欲しいんですが。
フックは “例の” 細軸#6
フックは前後とも#6を装備。
根掛かりしてもフックを伸ばせば回収できるという謳い文句の細軸仕様です。
しかしどっかの記事でも書きましたが、のんだくれはこのフックがどうしても好きになれません。
理由はカンタン、何度もバスに伸ばされているから。
少年アングラーがなけなしの小遣いをためて買ったルアーが根掛かりしても回収し易いようにという配慮だとは思いますが、何度も良いサイズにフックを伸ばされるとファーック!と叫びたくなります。
故に実戦版ではショートシャンクの#4にサイズアップしています。
そもそもクランクでもUS20lbライン(国内規格だと25lb弱)を使ってるので強引に引っ張れるしね😁
トリッキーな動きを演出するには
フックサイズの話が出たのでちょっと寄り道してみましょう。
このSSRに限らずですが、多くのシャロー系クランクはワンフッカーにすると化けることがあります。
以前ジ•エッグの記事でも書きましたが、リアフックを取ることによってテールが大きく揺さぶられるのでその分アピールが強くなるというのがその理由。

しかしリアフックはスタビライザーの役目も担っているので、取るだけではダメなルアーがあるのも事実。
そんな時は画像のようにブレードをぶら下げると暴れアクションがほどよくマイルド化されて良い感じに。
この際注意したいのは、ブレードの接続にはスイベルではなくスプリットリングを使うこと。
スイベルだと回転してしまうのでクランクの泳ぎ自体を殺してしまいます。
そしてこのブレードにはもう一つの効果があります。
リトリーブ中、不規則にはためいて時折泳ぎに干渉するので、意図的には出せない一瞬のふらつきを演出することが出来るのです。
巻いてる最中に千鳥アクションとは全く異質のフラッとした挙動が出せるようになり、これがバイトスイッチになるのです。
もっと面白いのはこのふらつき具合はブレードのサイズ、形状、カップの深さ、スプリットリング形状で大きく変わってきます。
つまりボディを加工することなく自身のリトリーブスピードに合わせた無限大のカスタマイズが出来るのです。
これに手を出すと妄想も手伝ってエンドレスワークになるのは間違いありませんが、SSRクランクは泳層が浅くサカナのバイトを見られる機会が多いので、このカスタマイズで釣った日にゃ未来永劫ニヤニヤしてもいい許可証が発行されます。
是非お試しを。
詰めの甘いネームプリント
話を元に戻しましょう。
ネームは新生ダイワロゴとともに腹にプリントされています… が!この詰めの甘さには泣けてきます。
だって “Pea nut” ですよ。
なんでaの後にスペースを開けるかね?
こんなバランスの悪いネームプリントは見た事がありません。
しかもスペースが開いたことによって、おかしな意味になってしまってるんです。
Peaとは豆という意味なんですが、Nutは米スラングではキンタマのことを指します。(厳密には複数形のNuts)
つまりスペースが開いたことにより【豆のようなキンタマ】という意味になってしまってるんです。
そしてPeaの発音はそのままPee(小便の幼児表現)になるので、しょんべんキンタマII というルアーとしてはあり得ない名前に。
この事実を米友人に話したら腹抱えて笑ってましたwww
かつて元中日の福留がメジャーリーグに挑戦した時、Fukudomeというスペリングを Fuck Do Me(激しくヤッて!)と読まれて笑い者になった事がありましたがこの Pea nut はそれに匹敵する破壊力。
もちろんダイワの担当者はそんなつもりはなく、製造過程でたまたまこうなっただけだとは思いますが、これぞまさに【画竜点睛を欠く】
奇しくもこのSSRはネームプリントがルアーの出来栄えをスポイルしかねないという好例になってしまっているのです。
あ、ダイワの名誉のためにデカピーSSRのネームは至極まともだということも一応併記しておきます。
どーでもいいんですが、英語表記上はピーナッツではなく”ピーナット”なのでお間違いなきやう。
どこでも手に入る安心感
ピーナッツシリーズは日本全国どこでも手に入るのもウリですね。
今やルアーは2,000円超えが中心価格帯になろうとしてる昨今、1,000円以下で買えるのも大きなアドバンテージ。
なにか面白いルアーはないかと釣具屋に入ったものの、目ぼしいものが見つからず手ぶらで店を出るのも気が引けると言った時にもサクッと連れ帰る事ができるのも嬉しいポイント。
しかも時々破格の投げ売りもしてくれてますからもう言う事はありません。
おわりに
オリジナルSRはおそらく国産クランクとしては最多流通量の持ち主でしょう。
実績数は流通量に比例するルアーフィッシングにおいてこれはとてつもない金字塔。
しかしそんなモンスターに果敢に挑み、そして互角の戦いを見せているこのSSRは、個人的にはオリジナルを超えたと思っています。
これからの季節、水温下降と共に攻めるレンジを落としていくアングラーが多い中、誰も投げていないスーパーシャローを高速で巻き倒して独り勝ちするなんて超カッケーと思いません?
このSSRはそんな釣り方が出来る数少ないルアーなのです。