買ったけど使いどころが分からないので一度も投げたこともないルアーって誰でもありますよね。
セールワゴンの中で身を寄せ合って震えているのが不憫で助けてあげたのはいいけれど、レスキューした本人が持て余してしまうというヤツです。
今日のゲスト、へドンのモスボスはそんなルアーの最右翼でしょう。
そういうルアーは何かのキッカケがない限り一軍ボックスに昇格することはありませんが、今日のオハナシがそのキッカケになればイイなと願いつつお届けします。
このモスボスは1981年にへドンカタログに登場しました。
今見ればどうということのない普通のウィードレススプーンですが、実はこのモスボスはへドンのルアーメーカーとしてのプライドを賭けた自信作だったのです。
実は1940年代以降、ウィードレススプーンの市場はジョンソンのシルバーミノースプーンによってほぼ掌握されており、誰も立ち向かえる者がいませんでした。

当時のジョンソン業者向けリストの一部。ウィードレスタイプだけで3シリーズ、計14ものモデルを展開するほどの人気商品だった。出典:STEM Dealer’s Catalog for 1956
ウィードレススプーンはシックカバーを効率よく攻めることが出来るのはもちろん、ビッグバスにも効くとして各社が参入する激戦カテゴリーでしたが、中でも金属加工を得意としていたジョンソン社(当時の名称は Lewis Johnson & Co.)が一歩抜きん出ていました。
そのタイミングにポークリンドの大ブームがやってきた事で、ポークと抜群の相性を持つシルバーミノーは一人勝ち状態に。
さらにジョンソンは自社でもポークの製造を始めたことでフォロワーを寄せ付けない無双状態に突入し、その状況が70年代まで続きます。
そんなシルバーミノーの牙城を崩すべく我らがへドンが立ち上がった、というワケなんです。
へドンにしてみたら、好き勝手にやられてルアーメーカーとしての面目丸潰れといった感じだったんでしょうね。
この時のへドンの本気度はなかなかのもので、それは当時のプロモーションで ”かつての定番 (Old Favorite)を現代に甦らせた” という説明文を頻繁に使っていることからも伺うことができます。
Old Favorite というワードは、字面通りに読めばシルバーミノーの功績を讃えているように見えるのですが、実はこれには ”シルバーミノーはもう古い” という揶揄が含まれているのですw
こういうイヤらしい言葉使いに、へドンの我々がナンバーワンだ!というプライドと、ライバルを蹴落とそうとする狡猾さが現れていますね。
そしてモスボスをいきなり3つのサイズバリエーション展開で販売するというガチな気合いも見せているのです。
モスボス サイズバリエーション
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モスボス X0510(上)とX0515
さらにこのモスボスをリリースしたタイミングが絶妙です。
70年代はソフトべイトの主役がポークからソフトプラスチックへ移行した時期でもあり、ポークリンドありきのプロモーションをしていたシルバーミノーのセールスに翳りが出始めた頃でもありました。
へドンはこの勝機を逃さずに一気に畳みかけ、強気プロモーションの後押しもあって、モスボスは大ヒット&ロングセラー商品となります。
81年からずっとカタログ落ちせずに掲載され続けているのがその証拠。
その実績はGGればいくらでも出てくるので各自でどうぞ。
しかしどうみても見栄えしないウィードレススプーンが、なぜこんなにも釣れるのでしょうか。
実はこのモスボスは、ウィードレススプーンの皮を被ったポッパーであり、ラバージグであり、バズベイトなので、どんなシチュエーションでも釣れちゃうのです!
…という話をすると、大抵の人はふーん…と頷きながらスルーするんですけどねw
まずポッパーとしての役割はこの先端のラウンドシェイプが受け持っています。
プラスチックボディゆえの軽さと厚みが、メタル製スプーンにはない深いカーブを生み出しているので、ゆっくり巻くだけでしっかりと水面をキープ。
その状態で小刻みにトゥイッチすると、ポッパーの様にシュパシュパとスプラッシュをあげてくれるんです。
これはリリーパッドなどのフローティングベジテーションのエッジをワンキャストで一気にトレースするときに使える手で、カバーの上はズル引きして、切れ目まできたらポッパー的にチャチャッと流してまたカバーに乗せるといった具合に、凸凹のエッジラインをメリハリをつけて一気にチェックできるのです。
ポッパー的な演出は比重の高いメタルスプーンでは難しいので、これはプラスチックボディのモスボスならではのアクションと言えるでしょう。
このポッパーのようなモスボスの挙動を、アジサシがクチバシで水面をすくってエサを捉える様子に例えて サーフェススキマー Surface Skimmer と表現していることから、オープンウォーターでの水面使いが苦手だったシルバーミノーの弱点を突いていることがわかります。

出典:https://www.pinterest.jp/jump15/birds/
ちょっと趣旨から逸れてしまいますが、他のルアーもモスボスと同様にキャッチコピーがあったのでまとめてみました。
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このキャッチコピーによるとラッキー13は潜らせるもの、ザラスプークは飛沫で誘うもの、というのが基本のコンセプトになっているのがわかります。
その使い方じゃなくても十分釣れるけど、基本概念を知っておくともっと釣れるかもしれませんね。
参考まで。
さてさてそんなモスボスですが、シルバーミノー追撃の手をまだまだ緩めていません。
フックをボディのエッジから出すのではなく、ボディに開けた穴から出す事でフックの高さを抑えてフッキング率の向上を図っています。
実はこれもシルバーミノーの弱点を突いた作戦なんです。
シルバーミノーとポークのセットアップで釣ったことがあるアングラーなら分かると思いますが、シルバーミノーはバイトはめちゃくちゃあるのに悲劇的にフックアップしません。
これはフックとボディの構造的な問題なのですが、丸呑みされない限り、かなりの確率でスッポ抜けるのです😭
そこでモスボスではウィードガードを無しにしてフックポイントの高さを抑え、スカートバイトでもフッキングに持ち込めるよう設計されています。
とはいえシングルフッカーのウィードレススプーンですからミスバイトは多いんですけどね😅
そしてこのラバースカートもモスボスの重要な構成要素。
フラットラバーを採用することでヒラヒラとアピールするだけでなく、モスボスの沈下速度をさらに遅くしてくれるのです。
これはウィードのポケットなどでゆっくりとフォールさせてスローシンキングのラバージグとしても使えることを意味しており、シルバーミノーだけでなくフロッグ(当時はビルプラマーやガルシアが主流でしたが)ですら真似できない演出が可能になっています。
ただフラットラバーだけに劣化が早く、使っているうちにこのように割れたり切れたりするのがツラいところ。
ネジ止めで強く押さえられているのでこのままでも使えないことはありませんが、スカートの本数が減るイコール沈下速度が早くなるということなので、こまめに交換しておくことが重要。
ちなみにシリコンラバーでも効果はさほど変わりませんが、見た目がアレになっちゃうのでw、気分的にもフラットラバーをオススメします😂
フックはこの通りネジで止められているだけなのでドライバーさえあれば簡単に外すことができますが、モスボスの規格に合うスペアフックは出回っていないので、交換は諦めた方がいいでしょう。
モスボスマニアの中には汎用フックでも装着できるようにワイヤーでコネクターを自作する猛者もいますが、フックの設置角度に疑問が残るのでのんだくれはやっていません。
フックが死んだらボディも一緒という一蓮托生の精神で使ってあげるのが正しいモスボス道なのです。
そういえばモスボスのフックはバーブがデカいので、潰しておくだけでフッキング率を上げることができます。
フックポイントをきっちりホーニングしておくのは言うまでもありませんね。
そしてモスボスの最大のキモはこのスナップです。
一見どってことのないスナップですが、これが有るのと無いのとでは大違い!
実はこのスナップ、ボディ側の穴と擦れることにより、キュッキュッキュッ!っと高音のスクラッチサウンドを発するのです。
先述の連続ポッパーアクションの時に発する音なのですが、その音質はまるでバズベイトのスクイークサウンドをコマ切れにしたかのような独特なもの。
そしてその音はこのスナップでないと出せないのです。
面白いのは、このサウンドはバズベイトのように使えば使うほど音が大きくなること。
受け側のプラスチックが摩耗することでスナップワイヤーとの接触面が大きくなるのがその理由。
実はモスボスには、投げれば投げるほど音が大きくなるという、育てる楽しみもあったのですw
正直なところ、そのスクラッチ音にどれだけ魚を寄せる効果があるかは分かりませんが、ルアーを操るアングラーにとっては間違いなくモチベーションになるので、このスナップは絶対無くしてはダメ。
なのでのんだくれは全てのスナップの受け口をペンチで潰して外れないようにしています。
こうすれば外そうと思っても外れないし、魚とのファイト中に変な方向に力が掛かってスナップが開くこともなくなります。
ネームはこの通りフルネームで入っていますが、珍しく Original Heddon Lures とまで入れているところにご注目。
実はモスボスよりも少しだけ早くレーベルがプラスチック素材のウィードレスベイト、モスマスター Moss-Master をリリースしているのです。
厳密に言うとモスマスターはスプーンではありませんが、へドンとしてはプラスチック製のウィードレススプーンは我々が元祖だ!とアピールしておきたかったんでしょうね… って、これはいつもの妄想ですけどw
誕生から既に40年が経ち、当時カタログを賑わせた盟友達が次々と消えていく中でもしっかりと生き残っている名ルアーであることに間違いはないのですが、いかんせんコレを扱っているショップが少な過ぎ😭
確かに話題性もないオールドスクールな外見ゆえ、売れ残るのは目に見えてるので置いてるショップが少ないのも分からないでもない。
でもこういう商品を置いて軽く勧めるだけで、”この店はちょっと他とは違うぞ” と思わせることが出来るんだったら、キーワード広告に出稿して金をドブに捨てるよりは100万倍マシだと思ったりもするわけですよ。
これから盛夏に向かってカバー撃ちの機会も多くなるので、一般ユーザーはもちろん、ショップの仕入れ担当もこういったへドンクラシックスに立ち返ってみてはいかが?
ストック画像の中にこんなのを見つけたのでオマケで載っけときます。
10年ぐらい前のRod and Reel誌に掲載されたのんだくれですw
確かこれは雄蛇ヶ池での実釣取材だったと思いますが、キャッチ出来なかったもののモスボスのカバーフォールで良いバイトをもらいました。
なので、皆さんもモスボスをゲットしたら是非ともくわえてヨダレまみれにしてくださいw