ヒット作が出ると必ずと言っていいほど登場する ”類似商品”。
二匹目のドジョウを狙ったワナビーズのことです。
それらのほとんどがインパクトも実力もオリジナルを越えられないのはみなさん御存知の通り。
そして二番手ゆえに理解されないまま消えてゆきます。
しかし中にはあえてオリジナルと戦わずに違う土俵を選んでその存在感を示すものも。
今日紹介するシャッドラックもそんなセカンドプレイヤーの一つです。
シャッドラックとは
シャッドラックは今は亡きホッパーストッパーが1984年にリリースしたクランクベイト。
80年代の初めにシャッドラップラパラの米国上陸がキッカケで巻き起こったシャッドクランクブームの真っ只中に登場した、いわばブーマーのひとつです。
既に米市場ではレーベルのシャッド、コットンコーデルのC.C.シャッドが熾烈なシェア争いを繰り広げていたので、ホッパーストッパーはやや遅れながらもシャッド戦争に参戦した形でした。
この頃のホッパーストッパーはワームブランドの老舗フリップテールを傘下に収めるなど、勢いがありましたね。
サイズ・重さ
シャッドラックのサイズはボディ73ミリ、3/8oz (実測12.5g)。
当時破竹の勢いので全米各地を荒らし回っていたシャッドラップラパラに正面から真っ向勝負する本気のサイズ設定。
これはシャッドラップには軽量で飛距離が伸びないという弱点があるため、同じサイズでありながらしっかりとウィークポイントを突いてくるヤンキー魂が込められています。(シャッドラップは10.5g)
更にシャッドラックは60ミリのジュニアサイズまでラインナップして全面戦争の構え。
北欧の皮被りフニャチン野郎に好き勝手やられてたまるか!的な意気込みが伝わってきます。
シャッドラックの特徴
高浮力を生むファットボディ
シャッドラックの特徴は、シャッドプラグにはおよそ似つかわしくないファットなボディ。
一見野暮ったく見えますが、比重の高いプラスチックボディでシャッドラップが持つバルサの浮力に対抗するために容積アップした結果がこのファット形状です。
内部にはメインウェイト以外に遊動式ラトルも封入されているので、ラトルが激しく暴れるための助走距離が必要だったのもあるかもしれません。
そしてエラを強調したシェイプには、お前らのフニャフニャには負けないぜ!という強いメッセージも隠されています。しらんけど。
他社との違いを打ち出す一体型リップ
リップはボディと一体成型タイプを採用。
米国内ライバルであるレーベルやコットンコーデルは後付けの差し込み式リップを採用しており、まっすぐ泳がない個体が存在していたため、ホッパーストッパーは箱出しでRuns Straight、つまりチューン不要をアドバンテージとしていました。

そのため、ラインアイとなるエイトリングはリップに深く埋め込まれており、ビッグフィッシュの強い引きでもビクともしない仕様に。
ゆえにシャッドラックにはスナップが標準装備となっています。(ジュニアサイズはスプリットリング)
ただ、箱出しの状態でまっすぐ泳がないアメリカンルアーあるあるが当然のようにあるルアーなので、チューニングには普通のルアー以上の苦労が強いられるのは言うまでもなくw
サイレントvsノイズメーカー
気になるラトル音はカラカラとコトコトの中間サウンド。
ボディのファット化によりラトルが暴れるスペースがしっかり確保できているので、80年代樹脂ルアー特有のやや籠ったサウンドながらもシャッドプラグらしくない大きな鼓動を聞かせてくれます。
おそらくこのラトルサウンドこそがホッパーストッパーが実現したかった要素だったのではないかと。
御存知の通りシャッドラップはバルサ材のノンラトル、サイレント仕様。
同じサイレントの土俵で戦っても先行者には勝てないので、ホッパーストッパーは強いラトルサウンドを発するシャッドとして存在感を示したかったはず。
奇しくも80年代前半はラトルトラップのジャラジャララトルが一斉を風靡していた時期であり、ホッパーストッパーが拠点を置いていた米国南部(テキサス州シャーマン)はステイン〜マディウォーターが多いエリアでもあるので、ラトル音にこだわるのはマーケティングアプローチとしては正攻法ですから。
泳ぎは ”ウィグワグ” アクション
徹底的にシャッドラップを意識した泳ぎ
アクションはキビキビとしたローリング主体の泳ぎ。
強い浮力もあって、80年代のクランクベイトにありがちな泳ぎだしのもっさり感もなく、シャッドラップの泳ぎをより強くした感じ。
パッケージの裏には ”わずかにロールをともなうウィグワグ Wig-Wag アクション” と明記されていますが、ウィグワグの定義はともかく、明滅効果も期待できるピリピリ系ローリングアクションとなっています。
この泳ぎを見る限り、開発者はシャッドラップの泳ぎを相当研究したんだろうなと。
ピリピリ泳ぎを損ねないようにアクションの強さと潜行深度を最大化する事の大変さは、一度でもハンドメイドクランクを作ったことがあるアングラーなら分かるはず。
それゆえトゥイッチでのレスポンス性能も高く、現在のシャッドと互角に渡り合える機敏性も備えています。
ターゲットはバスだけではない
潜行深度はカタログ値の8-10ftと大きく違うこともなく、オカッパリでも使いやすい設定。
更にシャッドラックはウォールアイ狙いのトローリングでも使えるように単体で最大15ftまで潜るように設計されています。
この辺はシャッドラップだけでなくウォーリーダイバーあたりもライバル視している感じが伝わってきますね。
このようにシャッドラックは、見た目は地味だけれど全方向に向けて考え抜かれたルアーなのです。

カラーは定番色揃い
カラーはやはり鉄板のテネシーシャッドカラー。
80年代らしい深い色味に愛嬌のある目の表情とのコントラストがシビれますね。
これ以外にパーチやソリッドクローム、クローフィッシュカラーなどクランクの定番色もラインナップしていましたが、ホッパーストッパーはクリア系カラーがあまり得意ではないのかバリエーションが少なかった印象が。
もしかしたらカラー数の少なさが衰退の一因だったのかもしれません。
フック
フックはフロントが#4、リアが#6と、この時期のルアーにしては珍しくサイズが変えてあり、アクション特性にこだわった形跡が見られます。
しかしトゥイッチを多用するとフロントフックがラインを拾いやすいので、実釣派はショートシャンクに変えた方がベター。
しかし本来このルアーはリトリーブメインでの使用を前提としているので、フックを変えること自体にあまり意味はないかも。
アメリカ人のプライドを背負ったネーミング
残念ながら他のホッパーストッパーのルアー同様、このルアーにもネームスタンプはありません。
もしかしてネームが入ってたらヘドンに吸収合併されるのとは違う未来があったのかも… と思ってしまいますが。
ところでこのルアーの名前 ”シャッドラック Shadrak” は、シャッドラップ Shadrap に被せにいっているのは誰が見ても分かると思いますが、もうひとつ別の意味が含まれているのをご存知でしょうか。
実はこのルアーの名前には、アメ車 ”キャデラック Cadillac” を連想させる韻が踏まれているのです。
日本ではローマ字読みの影響でシャッドラックと表記されることが多いのですが、ネイティブの発音では”シャデラック” となり、よりキャデラックに近い音になります。
”??? それにどんな意味が?”と思うのは無理もありません。
我々ジャポネにはピンと来ませんが、アメリカ人にとってのキャデラックは、1950〜60年代の好景気を支えた ”アメリカ経済の勝者” であり、未だに”成功者が乗るクルマ” のイメージ。
つまりキャデラックというワードは単なるクルマの名称の域を越えた、成功の象徴になっているのです。
メリケン連中との話の中で良く”キャデラックドリーム” という言葉を耳にしますが、これは ”いつか成功してキャデラックに乗ってやるぜ!” という意味の慣用句。
かつて日本にも”いつかはクラウン” という名コピーがありましたが、それの米国流最上級バージョンが ”キャデラック” であり、日本人が思っている以上にパワフルでメッセージ性のあるワードなのです。
ミサイルの直撃にも耐える大統領専用車、通称ビーストのベース車両がキャデラックである事からもその言葉に込められたプライドの高さと強さが分かりますよね。
そんな最強のワードがこのシャッドラックの名前には込められているのです。
もちろんそこにはシャッドラップだけでなく、コーデルやレーベルを抑えて勝者になるという意味も。
米人はこの手のワードプレイが大好きなんですが、時折その中から開発者たちの決意や意思が見えたりするのでタマりませんね。
余談ですが、90年代にバグリーがリリースしたプラスチック製リップレスクランク ”シャッドアラック Shad-A-Lac” もネイティブの発音では ”シャデラック” となります。
バグリーシャデラックが成功とは程遠い結果で終わってしまったのは皮肉でしかありませんが😭
入手はなかなかムズいかも
そんなシャッドラックは30年以上前に生産が終了しているため、入手は中古市場のみ。
しかしキイロを始めとした中古屋ではほぼ見かけることはないので、ネットで探すかオールド系中古ショップを探すのが一番手っ取り早いでしょう。
ネームプリントがない事から身元不明シャッドとして捨て値で出ていることも多いので、日々のマメなエグリ活動で思わぬ収穫が得られる事も。
まあこの辺は日頃の行いを改めて徳を積んでおくしかないようです😁
おわりに
現在ではネットの発展により、似たような商品が出るとパチモンだと一斉に糾弾する風潮がありますが、ルアーははるか昔からコピーされて進化してきたという側面が有るのも事実。
どのメーカーも先駆者になろうと必死になっている中でコピー商品を肯定するつもりはありませんが、個人的には模倣が存在しないルアー業界ほどつまらんものはないと思っています。
なぜならルアー業界はもちろん、ルアーという文化自体が発展しないから。
だってもし仮に模倣の概念が微塵も無かったら、このシャッドラックのようにナイスなルアーは登場してないんですよ?
そういう意味においては、どっかの女性議員じゃないけど、ルアー開発においては二番手がおいしいのかもw