かつては貴重な情報源だった”釣具屋の親父”
のんだくれがハナタレのクソガキだった頃は、今よりもずっと釣具屋の親父が威厳を放っていました。(決して”タックルショップ”などではなく、あくまでも釣具屋←ココ重要)
かつてルアーフィッシングの情報が今のように簡単に入手できなかった時代、釣具屋からもたらされる情報は数少ないライブ情報だったので、いい意味でのプリーチャー Preacher (牧師・説法を説く人)としての役目を果たしていたのが威厳の理由のひとつでしょう。
中には説法が暴走するあまり、客が欲しい物とは違うものを半ば強制的に買わせるwというトンでもない店主もいましたが、それはそれで客側も楽しんでいたように思います。
インターネットによる情報の氾濫や量販店の勢力拡大、そして世代交代により現在ではそういった役目を持つ親父は少なくなりましたが、今でも現役で説法を説いてくれる貴重な釣具屋が存在しています。
それは神奈川県藤沢市に拠点を置く老舗、フジ釣具。
そのフジ釣具のオリジナルブランド、ウッディランドのパラドックスが今日のゲストです。
神奈川の老舗フジ釣具がリリースした逸品
このパラドックスとの出会いは、ロッドアンドリール誌でした。
ページに大きく横たわる流麗なフォルムに一瞬でハートを射抜かれてしまい、すぐにフジ釣具に向かってアクセルを踏んだのを覚えています。
入店してから店を出るまでには説法のシャワーを浴びることが予想されたので、それなりの覚悟をもって😁
パラドックスのサイズとポジショニング
ご覧の通りパラドックスはミノーとダーターとポッパーをミックスした、カテゴライズするのが難しいルアー。
全長115mm、自重3/8ozのウッドボディに色んな要素をこれでもかと詰め込んでいるので、見方によっては中途半端に感じるかもしれません。
一般的なトップウォータープラグとしてはミノーに寄りすぎてるし、ミノーとして見てもキレのあるダートとかはあまり得意じゃなさそう。
しかしこのバラドックスは、何かをやらかしてくれそうな事だけは伝わってくるんですよね。
力不足に見えるカップだが実はスゴいんです
最も目を引くのはやはりこの下顎を大きく突き出したマウスとそれに続く曲線のラインですね。
もしへドンのキングバサーに女性版?があったら、こんな感じになってたんじゃないかと荒唐無稽な妄想が始まってしまいそうです。
一般的にダーターと呼ばれるルアーと比較するとカップ面積が圧倒的に小さいので、ダーターとしての機能を疑ってしまいますが、実はパラドックスはこのカップの形状とサイズがミソなんです。
そのカップの役割を最大化するのがこのくびれのある流麗なボディライン。
最初は見た目だけでこのデザインにしたのかと思ってましたが、実際に水に浮かせてみたところ、そのパフォーマンスにアゴ落ちそうになりました。
なぜならこのコイツは細部に至るまで、徹底的に考え抜かれたルアーだったんです。
徹底的に計算されたパラドックスのバランス
そのパフォーマンスの凄さが分かるのがこの浮き姿勢。
ややケツ下げでラインアイに喫水線が来る斜め浮きになっているのが分かります。
一見どうということのない姿勢ですが、これ実はすげー事なんです。
上のカップ写真と見比べてもらうと分かるんですが、この浮き姿勢だとカップのほとんどは水中になるので、水面より上に出ている部分はほんの僅かしかありません。
でもこの水面から僅かに出ただけのカップがヤバいのです。
静止状態からロッドを軽くチョンとやるだけで、小さな小さなポチュッ!というサウンドとともにユラッとダイブするんですが、その音と挙動がめちゃくちゃ生っぽいのです。
その様子はポッパーでもなく、ミノーでもなく、かといってダーターでもない、なんとも表現し難いもの。
あえて文字にするならば、痙攣するように潜るも力尽きてまた浮き上がってくる瀕死のベイトフィッシュそのもの。
近年、水面でピクピクさせて誘うシェイキングミノー系のトップウォーターがトレンドになってますが、明らかにそれとは違う動きと音なのです。
そこで気づきました。
このくびれのあるボディラインは、この音と動きを出すために生み出されたものだったんだ!と。
つまりボディ中央部だけを太くするくびれラインによって、中央部に浮力を持たせる反面、ヘッドの浮力を抑えることでギリギリのカップ喫水ラインを実現しているんです。
さらにテールも細く絞ることによって、ダイブ時に大きくテールを振り、かつ浮上時の姿勢が自然と頭上げになるなど、より魚っぽく演出できる設定になっているのです。
当初、のんだくれはフジ親父の説法を少々面倒に思ってましたが、実際に水際でこの動きを確認して、彼の論理が非常に的を射たものであったと実感。
やっぱり人の話はちゃんと聞かなきゃダメだなーと反省した次第でゴザイマス😅
ウッディランドならではの美しいフィニッシュ
非常に美しいフォイルワークもウッディランドルアーの特徴です。
やや大きめのスケールパターンがイイ感じですね。
このブランドには他にもミノーやダブルスイッシャーなどいくつものモデルがラインナップしていますが、どのモデルもフォイルとフォイルに乗せるカラーリングが素晴らしいので気になった方は探してみてください。
しかしこのルアーは一体どこで作ってたんでしょうか。
フジ釣具はバグリーのシャイナーをオリジナルをリリースするなど、バグリーと懇意にしていたようですが、このパラドックスもバグリー関連での制作なんでしょうか。
あれだけ長い間話をしてくれたのに、その辺りの肝心なところを聞いていないという間抜けっぷりに情けなくなります😭
プロップを装備したシングルスイッシャー版も
フックは前後ともヒートン直付けを採用。
スプリットリングを介さないのは、ローリングからの姿勢回復のスピードアップを目指したんじゃないかと勝手に想像してますが😁
ちなみにパラドックスにはリアにプロップを装着したスイッシャーモデルも存在します。
が、しかし!
スイッシャーモデルはプロップの抵抗でパラドックスが本来持っているアクションレスポンスや浮き姿勢を殺してしまい、あまりイイところが見られないのでおすすめはしません。
ネームプリントがないのが最大の欠点
しかしそんなシビれるルアーなんですが、ネームプリントがないという決定的なミスを犯しています。
ウッディランドのルアーはこのパラドックスに限らず、どのモデルにもネームが入ってないのでもったいないですよね。
特にこれは “パラドックス” という意味深な名前をつけられているだけに残念無念。
パラドックスの持つ “逆説的” という意味を、このルアーのどの要素に冠したかったのかがヒジョーに気になります。
まとめ
あらゆる情報が簡単に手に入ってしまう令和の今、昔ながらの釣具屋の親父の居場所は消滅しつつありますが、そんな時代だからこそ名前の声を発信し続けてくれる存在は貴重ですよね。
フジ釣具は藤沢というロケーションゆえ神奈川以外のアングラーにはなかなか遠い存在ですが、令和だからこそこういう存在と接しておくべきなんじゃないかとのんだくれは思ったりしてるワケでございます。