職業ルアービルダーならば誰しも【出来れば作りたくないルアー】ってありますよね。
制作に手間が掛かり過ぎる、コストに見合わない、カラースキームが複雑過ぎるなどその理由は様々ですが、海外のビルダーにもそんな ”鬼門” が。
今日紹介するPC3はまさにそんなルアーです。
PC3とは
レッドウッドにこだわったクランクベイト
PC3はキャッチングコンセプト(正式名称はCatching Concepts/キャッチングコンセプ”ツ”と複数形だが、流通の利便性を考慮して日本国内では単数形にした)のラインナップ中、最大のプロファイルを誇るフラットサイドクランクです。
カリフォルニアレッドウッド素材が売りのキャッチングコンセプトは、元ツリークライマー(高所で枝を剪定する職人)が制作するクランクベイト。
レッドウッドの目利きに長けたビルダーが制作するルアーとして米国のハンドメイドクランクベイトフリークスの間で高い評価を得ています。
カリフォルニアレッドウッドは希少素材

画像引用:www.britannica.com
カリフォルニアレッドウッドは日本ではセコイアとして知られており、高さ100m、ビル30階相当にも成長する巨木です。
Coastal Redwoodという別名もあることから分かる通り、オレゴン州からからカリフォルニア北部の沿岸地域に叢生し、樹皮はもちろん素材自体も赤茶けた色をしているのが名前の由来。
アルカリ性で耐朽性が高く、乾燥しても狂いが出にくいのでウッドデッキのフローリングなど外装材として人気がありますが、1900年代初頭に無計画な伐採が進んだこともあって今は米国政府の厳しい管理保護下に置かれています。
ゆえに現在市場で流通しているレッドウッドは計画伐採によるものと言えるでしょう。
近年は西海岸で多発している山火事被害もあってその希少性が高まってきています。
作りたくない理由は歩留まりの悪さ
そんなPC3をキャッチングコンセプトが作りたくない理由はズバリ、歩留まりの悪さ。
歩留まりとは製造原料に対する完成品率の事ですが、PC3は極薄ボディフラットサイドでバランスがシビアなため、製造の過程でハネられる数が多いというビルダー泣かせのモデルなのです。
製造過程でハネたものは当然商品にはならず破棄処分となりますが、キャッチングコンセプトにとっては精魂込めて作ったルアーが売り物にならないだけでなく、希少素材を無駄にしているという事にもなるため、冒頭の【出来れば作りたくないルアー】になってしまっているというワケです。
PC3のサイズ・重量
弩級の存在感
PC3のサイズは全長75ミリ、自重19g。
比較的小粒なモデルが中心のハンドメイドフラットサイドの中ではなかなかのサイズ感に仕上がっています。

ディープダイビングモデルのXDC3とPC3
バリエーションとしては同サイズのボディを採用したダイビングモデルもラインナップしています。
キャッチングコンセプトのサイズ構成
サイズについて触れたのでついでにサイズ構成について説明しておきましょう。
キャッチングコンセプトは幾多のモデルが存在するが、基本的なラインは次の4つのサイズになっています。

上からサイズ3、2、1、.5(ポイントファイブ)。
この4サイズに当てはまらない変則サイズもありますが、これらのボディと組み合わせるリップの形状/サイズ/素材/角度により各モデルが構成されています。
標準的なフラットサイドは1もしくは2サイズですが、サイズの違いによるアクション特性の違いもあって、どのサイズを選ぶかはフィールドの状況やアングラーの好みによって大きく変わる所。
PC3の仕様
強いフラッタリングを生む極薄ボディ
PC3の特徴はなんと言ってもこの極薄ボディ。
ボディ幅と体高の比率が0.33しかありません。
一般的なフラットサイドクランクの比率が0.5前後であることを考えると、なかなか気合が入ったモデルであることが分かります。
ボディ上辺のラインがウェッジシェイプになっているところも極薄イメージを強調していますね。
シャローモデルなのにロングビル
そしてシャロークランクなのに長いリップを装備しているのもPC3の特徴の一つ。
これは潜らせる為の大きさではなく、抵抗の大きなフラットサイドボディをヒラヒラと強く動かすためのものですが(アクションについては後述)、普通のフラットサイドクランクとは明らかに違うサイズには違和感すら抱いてしまいます。
ラインアイは真鍮フラットワイヤーを手曲げ
サイズだけでなくリグにもこだわっているのがキャッチングコンセプト。
ラインアイは全て真鍮フラットワイヤーを自ら手曲げしています。
ラインアイだけでなくフロントフックハンガーはステンレスのウェイテッドハンガー、リアのフックハンガーはヒートンとリグのこだわりにも一家言あるのがキャッチングコンセプト流。
それぞれのメリット/デメリットも説明してくれたけど、ご飯食べながらだったのでほとんど忘れちゃいました。
今度ちゃんと聞いときますw
フラットサイドらしからぬ強いバタバタアクション
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アクションは想像通りのバタバタヒラヒラアクションそのもの。
水を強く撹拌するフラッタリングがPC3の最大の武器です。
しかしそのボディサイズゆえ、アクションのキレという点ではイマイチかもしれません。
薄いフラットボディならではの水抵抗がアクションの立ち上がりを阻むので、アングラーによって好き嫌いがはっきり分かれるのは間違いのない事実。
特にフラットサイドクランク特有のタイトでピリピリとした泳ぎを期待するアングラーだと壮大な肩透かしを食らうことになります。
反面、水面〜サブサーフェスでトップウォーター的に遊びたい、もしくはウェイクベイトとして投入したいアングラーにはその浮力もあってどハマリするでしょう。
製作者のハーマン自身もこの点はよく理解していて、デメリットこそあるがこの動きは小さなフラットサイドでは出せないビッグサイズの特権だと明言しています。
”これじゃないと出せない動き” であるからこそ、職人のプライドで歩留まりが低くても制作するんでしょうね。
ちなみに昔撮影した水中動画を見つけたので置いておきます。オカズにどうぞw
微細フレークを散りばめた十八番カラー
画像のカラーはシトラスシャッド。
ブルー/グリーンバックに微妙なシルバーを吹いてアクセントにし、ベースカラーの特性を殺さない程度に微細フレークを散らすキャッチングコンセプトの十八番カラーでもあります。
キャッチングコンセプトは米国ハンドメイドクランクの中では群を抜いてカラーリングが素晴らしいのが特徴ですが、バス以前にニンゲンがヤラれるという弊害も😂
ちなみに先述の通りカリフォルニアレッドウッドはアルカリ性のため塗料との相性がシビアな素材でもあります。
キャッチングコンセプト創業当初は塗装劣化に苦しめられたようですが、それでもこの素材に拘ったのはツリークライマーとして素材の良さを知り尽くしていたからなんでしょうね。
製造モデルによって違うフック
フックは前後ともショートシャンクラウンドベンドの#2サイズのマスタッドを採用していますが、同じPC3でもボディの厚みがあるモデルには違うフックを採用するなど、モデルによって装備するフックが違うのも特徴。

ボディ厚のあるPC3にはトリプルグリップを装備
この辺のフックの使い分けについてもあれこれ聞きましたが内容をほとんど覚えていません😅
だってハーマンはクランクベイトに対して超ストイックなので、一個質問すると100ぐらい返ってくるなど、質問したのを後悔するぐらいタイヘンになるんですもん。
年号表記に隠されたヒミツ
ボディ右側にはハーマンのサインと製造された年号が。(この場合はHerman 13)
ハーマンは全てのクランクをスイムテストした上でパスしたものだけに自らサインをする事にこだわっており、これは初期のラパラやバグリーに影響されたと。
キャッチングコンセプトは製造年によって微妙にセッティングが違うので、年号が入っているのは非常に有り難いですね。
しかし色々話を聞いてみると、この年号にはもっと深い役割があるそう。
というのもキャッチングコンセプトは基本的に同じ原木から切り出されたブランクだけでひとつのモデルを制作し、可能な限り製品の均一化を図っているとのこと。
木材は年輪の入り方や部位によって密度は変わるが、自身が管理できる範囲でそれを選択している、と。
レッドウッドが希少素材なのは先述の通りですが、選択できるだけの量を安定入手できるのは元ツリークライマーのコネクションがあるからで、それゆえに彼はクランクベイトに合った木を原木の状態で購入出来ます。
そして彼は全て自身で原木をカットし、何年かの乾燥を経てブランクに加工しています。

原木からカット、乾燥、成形したキャッチングコンセプトのブランクだがこれはB品としてハネられたもの。 一見問題なさそうに見えるが、ブランクとしては使えないらしい。
つまり焼肉屋でいうところの牛の一頭買いをレッドウッドでやっているというワケ。
その結果、同じ原木から取った素材でも部位や乾燥年数が違うストックがいくつも出来るので、ネームに入れた年号は後に制作する際、比較の目印になるんだ、と。
この話を聞いた時は軽い衝撃を覚えました。
え?そこまでやるの?とw
でもそれがハーマン・オズワルドという男なのですw

キャッチングコンセプトの全ての工程を自身の手でこなすハーマンの近影。 真っ昼間だったにも関わらずこのサイズのスポッツがクランクで延々と釣れ続けた。
どこで入手できる?
そんなPC3ですが、残念ながらほとんど流通していません。
散々煽っておきながらそれはないぜ😡と言われそうですが、歩留まりが悪く作りたがらない上に、先述の通り一般的なフラットサイドのピリピリ泳ぎではないのでガチのフラットサイドクランカーにはイマイチ人気がなく、流通するほど製造されないのです、
実際流通に乗ったのは、おそらく過去にN.I.B.トレーディングで扱った200個+αが総数に近いんじゃないかと。
販売した当時は米国でも流通していなかったので、メリケンの狂ったクランカー達がN.I.B.の国内販売に群がった事もありました。
米国の倍近い値段なんだからそっちで買いなよと諭しても、鼻息フンガー😤で頼むから売ってくれの一点張り。
まあ逆のことを何度もやってるだけにそのキモチも分からんでもないんですけどね。
そんなクランクベイトなので入手はなかなか難しいかと。
のんだくれ自身も2個しか所有していないので、当時入手できた人はなかなかラッキーかと。
とはいえ、今進めてるキャッチングコンセプトとのプロジェクトにこのPC3を織り込むことが出来たらなぁと期待もしてるので、欲しい人はそうなることを祈っててくださいw
おわりに
釣りに限らず趣味は自己満足の世界です。
しかしその中でも入手しづらい希少ルアーは究極レベルの自己満足ではないかと。
だってコレクションするだけならまだしも、それを投げちゃうんですよ。
苦労して手に入れたルアーをわざわざカバーの回りに投げてロストの危険性に晒すなんて、歪んだ価値観以外のナニモノでもありませんw
でもそれでキャッチした一匹の満足感はどんなルアーにも勝り、自身の妄想を昇華できます。
今後もそんな狂った人であり続けたいなぁと思ふのんだくれなのでしたぁ(わんこ風)