海外のルアーブランドの新製品を見ていると、あまりのショボさに “なんで今さらこんなもんを…” とアゴが落ちそうになることがあります。
時には、”あーこのブランドも終わったな😭” と 合掌したくなることも。
でもその裏には深ーい理由が隠されていることもあるんです。
というわけで今日のゲストは、考えられないほどのショボさで旧来のレーベルファンを絶望の淵に追いやったクランクRです。
クランク-Rは2000年代(確か2005年)にリリースされたレーベルの “戦略商品” です。
こんなショボいルアーが戦略商品???💢 という声が聞こえてきそうですが、意外にもこれはレーベルの営業展開上、必要とされて生まれてきたルアーなんです。
クランク-Rはボディ長55ミリ、自重10gの標準的なダイビングクランクベイトです。
レーベルの代表作、ディープウィRとほぼ同じスペックを持つクランクですが、ディープウィRとの決定的な違いはルアーの製造工程にあります。
ディープウィRが二分割パーツを貼り合わせたボディにリップを装着した3ピース構造なのに対し、このクランク-Rは上下2つに分かれたパーツを、”積み上げる” 方式の2ピース構造。
徹底的に製造工程の合理化を追求したルアーがクランク-Rなのです。
そのため、各部の構造が一般的なクランクベイトとは違ってきます。
百聞は一見にしかず。 もうこの画像が全てを語ってますよね。
すでに出来上がっているリグとウェイトが固定された下のパーツに遊動ラトルとなるボールを放り込んで上のパーツを合わせたら、あとはソニックウェルドで張り合わせるだけというシンプル構造。
しかしこの程度の上下構造だったら、レーベルは過去にもブラックスターやトップRで実現していますので注目するほどのものではありません。

実はこのルアーの最大のポイントは塗装方法にあるんです。
一見どってことのない、ショボめのファイヤータイガーカラーですが、ちょっと気になるところがありますよね?
そう、ボディに大きな亀裂が入っているんです。
普通のルアーだったら、どこかにぶつけて割れちゃったのかと想像しますが、クランク-Rではこの割れがかなりの確率で発生します。
なぜなら、このクラックはボディの割れではなく塗装の割れだから。
実はクランク-Rは従来のエアブラシによる塗装ではなく、色のついた樹脂でコートすることで塗装工程も合理化しているんです
それが顕著にわかるのがこの画像。
ぶ厚いプラスチック樹脂でカバーされているのが分かります。
一般的にルアーの塗装は下地作りも含めると 最低でも3回から4回、塗料を吹き付けると言う手間が発生しますがこのクランクRは下地は着色したプラスチック温泉にディップするだけ。
そしてその上に各種パターンを “スタンプ” するだけで着色工程が終わるよう効率化が図られているのです。
そしてそれがクランクRの塗装がショボくなっている最大の理由。
カラーなどのクオリティに拘らないアングラーにはこれで十分というワケです。
しかしこの製法には決定的な弱点があります。
それは先の画像のように塗装が割れてしまうこと。
ボディブランクのプラ樹脂と塗膜となるプラ樹脂の熱変化による伸縮率が違う事が割れの原因なんですが、ぶつけたりしなくとも高確率で割れてきます。
レーベルほどのブランドがこの事象を確認していないことはないと思うんですが、それでも販売に踏み切ったのには理由があったからなんです。
生産効率の追求はフックのリギングにも及んでいます。
それはスプリットリングを入れる手間を省くためにオープンシャンクフックを採用していること。

クランク-RのフックはVMCではありませんが、分かりやすい画像があったので拝借。
オープンシャンクフックとは、シャンクが1本だけロウ付けされておらず、ダブルフックのようにリング無しでリグれるもので、メタルバイブなどに使われることが多いフックです。
最初期のザラパピーに使われていたこともありますね

リングを入れる手間は皆さんご存知の通りかなり面倒なので、その工程が無くなるだけでも相当な効率化ができるというワケです。
ただこのオープンシャンクフックは簡単にリグれる反面、力のかかり方によって簡単にシャンクが開いてしまい、それがバレに繋がるという諸刃の剣でもあります。
塗装の脆さといい、フックの虚弱性といい、国産メーカーであれば絶対にやらないですよね😂
でもあえてこの手法を採用したのは、このクランク-Rが先に述べた通り “戦略商品” だから。
一体何に対しての戦略なのかというと、ウォルマートなどの大型量販店にアプローチする際に、目玉商品として売り込めるから。
ウォルマートはご存知の通り、ありとあらゆる生活用品を大量に仕入れて大量に販売する典型的な米国スタイルの量販店ですが、そこには初心者レベルのアングラーもたくさん来店します。
そういう人達に価格面でアピールするという役目を担っているのです。
それを裏付けるかのようにこのクランク-Rは店頭では3ドル以下で販売されていますし、セールになると1.99ドル以下で投げ売りされていることも珍しくありません。
つまり1.99ドル以下でも利益が出せる商品を追求した結果、コスト削減の落とし所として、徹底した生産効率化とクオリティの妥協になった、というワケです。
1.99ドルの中にプラドコと販売店の利益や中間マージンが入っていることを考えると、工場出荷価格は一体いくら… いや、これは言うまい😅
もちろんこれだけで儲かるはずはないので、これと合わせて他の商品を売り込んだり、インセンティブのバックマージンがあったりとその後へ繋げる努力が要りますが、そこまで持っていくキッカケとしては非常に重要な商品なワケです。
だから旧来のレーベルファンがクランク-Rのクオリティに対して嘆こうが絶望しようが、プラドコ的には知ったこっちゃないのです😂
これはかつてプラドコのレップ(=Representative。社外の営業代行員的な存在。米国では一般的な営業手法)を勤めていた人物が教えてくれたオハナシですが、こういう話を聞くと、ルアー界の巨人プラドコですら日々努力しているんだなぁと感心させられますね。
ちなみに、ビギナーレベルの人にもアピールできるようにカラー数だけは頑張ってます。
なんとデビューからいきなり15色でカラーチャートを展開するというキックスタートぶり。
合理化するところはしっかり合理化して、必要なところにはコストを投入するアメリカらしい手法ですよね。
そんな裏話を知ってネームを見るとちょっと感慨深いものが… あるかい!😂
ここも効率化の影響なのか名前はロゴではなく普通のフォントになってますね。
ちなみに我々日本人は表記通りにクランクアールと呼んでいますが、米国の口語表現だと “クランカー” (語尾は舌を巻いて発音するアレ)になります。
これはポップRも同様で、ポップアールではなく “ポッパー” 、南部アクセントだと “パパー” に。
Rをつけるのは元々はアルファベット戦争から始まったしきたりとはいえ、最後にアールが付くだけで覚えやすい名前になることが分かります。
ウィ R なんて、発音だけ聞いたら “We Are” ですからね。 秦拓馬プロかよ!と、突っ込みのひとつも入れたくなります😂
あ、書き忘れてましたが、このルアーはラインアイのヒートンが最初から固定されており、アイチューンの必要がないのもウリの一つ。
がしかし!アイチューンしなきゃまともに泳がないものもあるのが現実です。
しかもヒートンが固定されているので、トゥルーチューンするとなるとかなり難儀を強いられるという特典付き。
まあこの辺りのクオリティも妥協していると割り切った方がいいでしょうね。
でもアクションはディープウィR譲りなので全くモウマンタイです。
クランク-Rではまだ釣ったことないのでエラそうなことは言えませんが、細かいところに拘らなければ普通に釣れちゃうでしょう。
いや、遊動ラトルはボーン素材でもないのに甲高いカラカラ音を発してくれるので、ディープウィRよりも釣れる状況があるんじゃないかと。
でもさすがに最近は店頭でも見なくなりましたね。
令和になった今、わざわざこれを探して買う人はいないと思いますが、ディープウィRのハイトーンラトル版が欲しい人にはハマると思いますので、気になった方はトライしてみては?