ルアーの歴史を紐解いていくと、革新的な新製品やカテゴリーが生まれる前には必ずイントロとなる製品や出来事があります。
今日紹介するシュガーシャッドはバイブレーション/リップレスクランクの世界に大きな変革をもたらしたとして知られる80年代の至宝です。
シュガーシャッドとは
シュガーシャッドは1980年代中盤(1985年?)に登場したリップレスクランク。
当時、既にルアーデザインにおけるレジェンド的存在となっていたジャックデイビス氏の手によって生み出され、フロリダの小さなルアーメーカー、エドムーアルアーズ Ed Moore Lures によって販売されました。
当初は南東部エリアだけのデリバリーでしたが、1987年メガバックストーナメントのウィニングベイトとなった事で一躍脚光を浴び、その後ルーハージェンセンに移籍して全米で大ブレイクを果たしたという経緯があります。
エドムーアからルーハーに移籍した理由は不明ですが、おそらく当時のエドムーアの規模では日本を含む全世界からのオーダーを管理対応しきれないのと、エドムーア側にも高く売却できるうちに売りたいという思惑があったんじゃないかと勝手に想像していますが。
ちなみにエドムーア時代にはシュガーシャッドのフォルムをそのまま採用した、シュガースピンというジグスピナーもラインナップしていました。
シュガーシャッドのサイズ
シュガーシャッドには3つのサイズバリエーションがあります。
メガバックスの勝利ルアーとなったオリジナルサイズは3インチの1/2oz。
画像の次男坊は2.5インチの1/4ozで、これ以外に1/8ozの弟がいます。
日本で紹介された時(確かタックルボックス誌の紹介が一番早かったような記憶が)は1/2ozのみでしたが、実は本国では既に三兄弟のラインナップは揃っていたのです。
シュガーシャッドの特徴
シュガーシャッドの特徴は平らになっていないこのヘッド形状です。
今でこそラウンド形状のヘッドは珍しくありませんが、当時のリップレスクランクはラトルトラップに代表されるようにフラットヘッドがバイブレーションを生み出すと信じられていたこともあり、エッジのないラウンドシェイプに誰もが驚きました。
水流がもたらす運動の研究が進んだ今ではフラットなヘッドじゃないと… という人は誰もいませんが、当時は ”こんなので本当にちゃんと泳ぐの?” と思ったものです。
バイブレーションを増幅させる”ヒレ”
しかしシュガーシャッドのバイブレーションはボディ形状だけで生み出されているのではありませんでした。
その秘密はこのヒレ。
そこはかとなくマンズのテイストが感じられますが、上下に設置されたこのヒレが最強のパフォーマンスを生み出しているのです。
ここではヒレの効果については説明しませんが、これがあるのとないのとでは大違い。
ボディが生み出した振動をこのヒレが増幅することでアクションの立ち上がりが早くなり、キレのある、サンピング Thumping と呼ばれる強くバタつくバイブレーションを生み出しているのです。
名品と呼ばれているリップレスクランクの多くにヒレが付いていることからもその効果は理解できますよね。
最強のマルチラトルシステム
そしてそのバイブレーションによって胎内のラトルが激しく暴れるという算段なのですが、ここでもシュガーシャッドはエポックメイキングな要素を盛り込んできました。
設計者のジャックはハイフリクエンシー、つまり高周波を発するプラスチック素材にこだわったのです。
今でいうところのボーンに近い素材なのですが、乾いた高音を発するブチレート樹脂を採用する事でラトルトラップやスポットなど並いるライバルたちを引き離そうと画策したのです。
その結果は大当たり。
シュガーシャッドは全米はもちろん日本でも大ブレイクとなりました。
国内外を問わず当時シュガーシャッドでいい思いをしたアングラーは数知れず。
もちろんのんだくれもそのうちの一人です。
いつだったかレイクトホで雇ったフィッシングガイドのボックスにこのシュガーシャッドが山ほど入っていたのを見て、テンション爆上がりなんてこともありました。
しかし最強パフォーマンスには代償も
そんな最強のリップレスクランクですが、実は重大な欠陥も抱えていました。
その欠陥とはボディの強度。
ブチレート樹脂は高周波サウンドを生み出すには最適の素材なんですが、衝撃には弱いのです。
ミスキャストで橋脚などにぶつけようものなら、花火のようにラトルボールがパッと飛び散るなんてこともありました😭
後に素材を改良したのか90年代のモデルでは割れることは無くなりましたが、当初はボディの割れによる浸水を心配しながら使わなければならなかったのです。
しかしこのシュガーシャッドはそんな欠点すら気にならなくなるほど破壊的に釣れたのです。
強度を犠牲にして釣果を最優先したルアーとしてはDゾーンスピナーベイトが有名ですが、その何年も前にシュガーシャッドはその考えを実現していたと思うと、なんかアツくなりますね。
ちなみに近年バンディットルアーズがブチレート樹脂を復刻させてラキット Rack-It というクランクベイトに採用しています。
CA Prop 65対応なので当時と全く同じ素材ではありませんが、なかなかの高周波サウンドなので気になる方はトライしてみてください。
シュガーシャッドの使い方
シュガーシャッドはボトムで立つ最初のリップレスクランクとも言われています。
元々ボトムで立つようには設計されていないので100%ではありませんが、沈下姿勢によってボトムで立つことが多く根がかりしにくいのと、ヒレの効果でアクションが瞬時に立ち上がるのでリフト&フォールがやりやすいルアーとしても知られていました。
よって画像のようにダブルフックに交換すると無敵になったりもします。
のんだくれがダブルフック仕様を使い始めたのは90年代に入ってからなんですが、これを当初から知っていたらあんなにロストしなかったのに…と悔やまれてなりませんw
リップレスクランクのお家芸でもあるハイスピードリトリーブでもバランスを崩すことなく泳ぎ切ってくれるのでもはや死角なしといったところでしょうか😁
ボディの凹凸もシークレット?
そしてシュガーシャッドはボディに無数のイボイボがあるのも特徴です。
ラケットシャッドのボディ表面にあるアレと同じですね。
ラケットシャッドやシュガーシャッドの釣れっぷりを鑑みると、コレにも見た目以上の効果があるんじゃないかと思ってます。

オタ共を喜ばせるネタも標準装備
そしてシュガーシャッドは我々ルアオタも喜ばせる要素も装備してくれています。
それがこのケツの穴。
おそらくペイントスティックホールだと思われますが、こういうのをみると思わずニンマリしてしまいますね。
ニンマリといえばシュガーシャッドというネーミングにもニンマリ要素が隠されているのを知ってました?
シュガーは直訳すればそのまま砂糖となりますが、実は米語スラングでは ”欲望を満たしてくれる者” のことを指します。
例えばシュガーガールといえば今でいうパパ活女子の意味になり、なんらかの代償として金品を得ることを意味します。その施しをする側の男はシュガーダディと称されます。
つまりこのシュガーシャッドという名前には、これを使えばバスが釣れる=マネーベイトという意味合いが含まれているのです。
シュガーシャッドのパッケージに釣ったバスにキスする男のイラストが描かれているのはそのため。
甘いシャッドだからキスしているわけではないのです。
こういう具合に隠された意味がなんの解説もなくサラッと流されているところに、英語ならではの粋なセンスを感じますよね。
これでボディにネームプリントが入ってたら100点だったんですけどね😁
おわりに
既に生産が終わっているルアーなので、シュガーシャッドを手に入れるには中古市場で探すしかありませんが、タマ数が多いルアーなのでその気になればそれほど苦労しなくても見つかると思います。
しかも今のアングラーにはウケないのか見事に売れ残ってるのでめっちゃ安く出てることも。
なので、見つけたら是非ともゲットして実戦投入して欲しいのです。
なぜなら当時のブチレート樹脂を使ったリップレスクランクはほぼこのシュガーシャッドのみだから。
そして現在のリップレスクランクの礎を築いたと言っても過言ではないシュガーシャッドは高周波ラトルリップレスクランクの元祖とも言える存在なので、今使っても十分釣れるどころか、もしかしたら最新のリップレスクランクを打ち負かすかもしれないのです。
そんなルアーが中古屋のハンガーの奥で売れずに眠ってるかと思うと、なんかワクワクしてきません?