メインストリームではないけれど、コアな層から熱い支持を得ているルアーってありますよね。
映画で言うところの バイプレイヤー的な存在で、ここぞと言うところでしっかり存在感を示してくれる頼もしい奴のことです。
そんなルアーの1つがこのクランクジャック。
バスフィッシングブーム真っ只中に戦場に放たれた歩兵向け兵器です。
クランクジャックとは
クランクジャックは1990年代後半に大和がリリースしたクランクベイト。
エントリー層を狙った価格を武器に、シャッドやリップレスクランクと共にリリースされました。
しかし当時はメガバス、ラッキークラフト、エバーグリーンが熾烈な戦いを繰り広げるバスフィッシング戦国時代の真っ只中。
その価格ゆえ初心者向けのイメージが先行してしまい、ある程度心得のあるアングラーからは敬遠されてしまった感は否めませんでした。
かくいうのんだくれも敬遠してたうちの一人。
当時なんとなく買ってはいたものの、実戦投入することもなく放置していました。
しかしとあるアングラーからクランクジャックの秘めたる実力を教授され一気に開眼、以降ここぞというところで坊主を回避してくれるお助けクランクとなったのでした。
クランクジャックのサイズ・重さ
クランクジャックのサイズはボディ長55ミリ、実重量9.2gでダイワの定番クランク、ピーナッツとほぼ同寸にまとめられていますがそのコンセプトはピーナッツとは全く別のもの。
しかしサイズも価格帯もピーナッツに似ているため、同じダイワのクランク同士でバッティングしてしまい、ピーナッツに競り負けてしまったのはちょっと残念ですね。

クランクジャックとピーナッツⅡ。同じ価格帯で似たようなスペックならば実績のある方を選ぶのはニンゲンの性。
ちなみにこのシャローモデルにはサスペンドタイプもラインナップしていました。
しかし個人的にシャローモデルのサスペンドという設定上、使い所がイマイチ思い浮かばず、ほとんど使わなかった覚えが。
90年代後半はサスペンドであることが商品として大きなアドバンテージだった時代でもあるので、もしかしてノリで作っちゃった?などと思ってみたり。
またクランクジャックにはダイビングモデルとなるDRタイプもリリースされました。
DRもSRに巻けじと地味な存在ですが、フックセッティングをちょっと変えるだけで化けるルアーなのでいずれまた紹介する予定です。
クランクジャックの仕様
デルタ形状リップ
クランクジャックのキモはこのデルタ形状リップ。
リップ付け根を細く絞ることによって水キレが良くなり、キビキビとしたアクションになります。
正面から見るとスクエアビル系のピーナッツとは明らかに違いますね。
アクションについては後述しますが、これだけでも両者の違いは明確です。
固定ウェイト方式を採用
ウェイトは固定重心方式を採用。
フロントフックの前後にメインウェイトを据え、背中側のチャンバーには3つの遊動ラトルを封入する事で低重心を実現し、姿勢回復性能アップに一役買っています。
当時トレンドだった重心移動方式を採用しなかったのはコスト的理由もあるでしょうが、障害物回避後の姿勢回復に重きを置くあたり、エントリーモデルだからと手を抜かないダイワの本気度が見え隠れしてて思わずニンマリしてしまいます。
元ジャッカルの加藤さんがダイワに在籍していた頃、エントリーモデルのB.H.シリーズにも全力投球していたと聞きましたが、そのDNAはこのシリーズにも流れてるんでしょうね。
ちなみにラトルサウンドはボディを震わせる中高音のジキジキ系。
このサイズのクランクとしては最大級の音量で、ボディによってアンプリファイ(増幅)することでヘタなボーン素材クランクを蹴散らすサウンドに調律されています。
リアフックを前寄りに設置
そしてリアフックがテールエンドではなくやや前寄りに設置されている点も忘れちゃいけません。
リトリーブ時、障害物にリップが当たってヒラリと身を躱す際にフックを連動させることで根掛かりしにくくする、今やクランクベイトでは常識とも言える手法ですが、25年以上前のエントリーモデルに採用したのは画期的でした。
ピーナッツが【根掛かりするけどその時はフック伸ばして回収してね】というスタンスだったのに対し、クランクジャックは先述の姿勢回復性能も含め可能な限り根掛かりを回避してポイントを潰さないよう配慮しているのが良くわかります。
アクションは典型的なウォブリング
気になるアクションは典型的なウォブリングアクション。
ほとんどロールせずに小気味よく、かつ規則正しく頭を振って1mほど潜ります。
ラインセッティングにもよりますが、1秒で約15cmほど浮き上がるスピードは何かに当たったら少し浮かせてというシャロークランクの基本をテンポ良く行えるのでオカッパリのランガンにピッタリ。
サスペンドモデルとの泳ぎの違いはほとんどありませんが、よーく見比べてみるとサスペンドの方がややピッチが遅いかなというぐらい。
ただかなり注意深く観察しないと分からないレベルなので、気にする事はないかと。
とはいえ、その僅かな違いが大きな結果の差となって表れるのがバスフィッシングの恐ろしいところでもあり面白いところなので気になる人は突き詰めてみては?
のんだくれはお気楽極楽スタイルなのでやりませんけどw
ちなみにピーナッツとの泳ぎの違いは、”規則正しさ” の有無。
ざっくり言うと、クランクジャックは規則正しく400bpmのリズムでウォブリングを刻むのに対し、ピーナッツは同じリズムでありながらそこに良い意味で不安定なローリングという変調が加わります。
これはどちらが優れているとかのハナシではなく、障害物回避に重きを置いているかどうかの違いなのでお好みでどうぞ。
もしかしてあの名作の再現を目指した?
実はこのクランクジャックを支持するアングラーの間でまことしやかに語られている事があります。
それはクランクジャックが、旧ストームのファッツオー1/4ozを目指して開発されたんじゃないかということ。
40代以上のGGYアングラーには馴染みのある旧ストームのファッツオーはデビュー当時ダイワがディストリビューターをしていたこともあり、価格はともかく、比較的入手しやすい舶来ルアーのひとつでした。

86年のダイワルアーカタログより
中でも1/4ozサイズの釣れっぷりは凄まじく、小バスながらも何度か乱獲モードを味わわせてくれたガチモンのクランクベイトでした。
のちに雑誌インタビューでメガバスの伊東氏がグリフォンはファッツオーにインスパイアされた云々と語っているのを読んで深く納得した事がありますが、ファッツオーはまさにそんなクランク。
それゆえダイワもファッツオーを目指してクランクジャックを開発したんじゃないかと。
事実両者はよく似た特性を持っていて、リップラップやグラベル系ボトムでの実力はお墨付きだし、ダイワ開発陣がファッツオーの実力を知らない訳がないですから。
とはいえこれはオタク共の想像の域を出ないハナシだし、そもそも令和の今となっては確認のしようもありません。
でもいちストームファンとしてはそうあって欲しいなぁと思ったり思わなかったりw
ちなみにファッツオーは改良されてショートワートに改名しましたが、1/4ozサイズの性能はそのまま維持されてます。
洗練されたデザインと強い浮力のキレキレ泳ぎで人気を博した旧ストームのファッツオー。
しかし高浮力を支える薄いボディ素材が仇となり熱膨張による変形という持病が。
そこで改良版となるショートワートを出したがオリジナルの良さは消えて1/4oz以外はもっさり泳ぎに。
改良ってホントムズいね。 pic.twitter.com/h3m1vebRQD— ルアー千一夜☆公式 (@lure1001) August 6, 2023
渋いカラーチョイス
価格を抑える為もあって、カラーバリエーションは基本を抑えたベーシックなカラー5色ほどの展開。
ホワイト/ブラックバックのシャッド系やエビをイメージさせるゴースト系なんかもありました。
そういえばカエル🐸っぽいチャート/ライムバックなんかもありましたね。
そのどれもが汎用性が高く渋いカラーチョイスでした。
中でもこのキンクロ系のカラー(カラーコード分かんない)にはよく助けられました… というかSRはこの色でしか釣ったことありません。
クリアからマッディまで水質を問わずこの色ばっかり投げてたので遂にこれがラスワンに😭
そういえばヘキサゴン形状のスケールパターンは往年のストームのスケールパターンに見えなくもありませんね。
あと3Dドームアイを採用してピーナッツとの差別化を計るあたり、いかにもバスフィッシングブームって感じがしますね。
障害物回避を意識したフックセッティング
フックはフロントが#6、リアが#8の変速セッティング。
リアを小さくしているあたりに根掛かり回避への執念が見え隠れしてますね。
ルアー同様ネームも地味
ネームは旧ダイワの太陽ロゴと一緒に腹にスタンプされてます。
可愛い筆記体調のフォントが特徴。
サスペンドモデルはネーム末尾にSPと入っているのですぐ見分けられますが、使っているうちにボヤけて消えてしまう儚い命です。
入手は意外とムズい
そんなクランクジャックの入手は既に生産が終了していることもあって中古市場がメイン。
一時期は200円ぐらいでキイロに溢れかえってましたが、近年その実力が広まったせいかあまり見かけなくなりました。
運良く見つけても結構な金額だったりして、格安で入手するのは意外と難しいルアーのひとつになっちゃいました。
とはいえメルカリやヤフオクではそれなりの数が出てるのでタイミング次第では安く入手できる可能性も。
しかし25年以上前とはいえ、これが実売500円そこそこで買えたなんでシアワセな時代でしたね。
おわりに
主役を務める実力は十分にあるのにあえて第一線から引いたポジションで仕事をするルアーはツリビトのココロを鷲掴みにします。
でもそういう脇役的な存在は、なにか大きなキッカケや要因がないとなかなかクローズアップされないという悲しい運命も背負っています。
ルアーの場合、その要因は『生産終了』であることが多く、もう手に入らないかもという心理が余計にキモチを高ぶらせます。
これって映画史に名を残した名バイプレーヤーのほとんどが亡くなってから評価されてる状況になんだか似てますよね。
逝去とか生産終了とかのネガティブな要因なんかなくても物事の本質を見抜ける眼力を持ちたいもんです(自戒)