突如としてスクエアビル戦線に現れた謎の伏兵
今、アメリカではスクエアビル戦争なるものが巻き起こっています。(注:2011年記事投稿時)
言うまでもなく、スクエアビルとは四角いエッジラインのリップを持ったシャローランニングクランクベイトの事ですが、コレがまたエラい騒ぎになってるんです。
そんな中でもダークホース的な存在なのがこのH2O(エイチツーオー)エクスプレスブランドのCRMクランクベイトです。
H2Oエクスプレスとは?
H2Oエクスプレスをご存じない方のために説明が必要ですね。
H2Oエクスプレスは、米国南部を中心に130以上の店舗を持つアウトドアチェーンストア、アカデミースポーツ+アウトドアーズが展開するプライベードブランド。
アカデミースポーツは日本でいうところの総合アウトドア用品ストアなんですが(規模が圧倒的に違いますが)、そこが自社でルアーを企画/販売しているという図式です。
量販店がオリジナルのブランド名で商品を販売する手法は、アメリカに限った話ではなくここ日本でも見られますが、アメリカにおけるそれらの商品に共通する特徴は、バスプロショップスのXPSシリーズがそうであるように、「あれ?以前どこかでお会いしませんでした?」的な外見である事がほとんどです。
このH2Oエクスプレスシリーズもご多分に漏れず、そんなパチ風味たっぷりに仕上がっているのですが、その中でこのCRMクランクベイトだけが突出して評価されているのです。
中国工場と武器商人も加担したスクエアビル戦争
ここで一旦話をスクエアビル戦争に戻しましょう。
そもそもスクエアビルを持つショートリップクランクのシェア争いは、バグリーのBシリーズなどに代表される通り、かなり昔から繰り広げられてきた、聖戦とも言える誇り高き戦いでした。
しかしそのマーケットに、あの機動戦士ヴァンダムがストライクキングとタッグを組んでKVDスクエアビルサイレントクランクで殴り込みをかけたことで、まるでガソリンに火をつけたかのように一気にヒートアップします。
さらに追い討ちをかけるがごとく、KVDスクエアビルクランクがクラシックを制した事で、各メーカーとも一歩も譲らない戦国時代に突入しました。
時を同じくしてちょうどこの時期に中国のルアー生産工場が、米国大手メーカーからの大量注文にも対応できる強大な生産能力と価格競争力を持ち始めたことが、その戦禍をより大きなものにしてゆきます。
つまり注文が減る閑散期に生産ラインを休ませたくない工場が「スクエアビルクランクを安い金額で作ってあげるよ」と、小さなルアーブランドにも熾烈な売り込み合戦を始めたのです。
さらに工場とルアーブランドの間に入って利鞘を稼ぐ中間業者(通称ミドルマン)もそれに便乗し、戦時における武器商人のごとくスクエアビルプロジェクトをセールスしまくりました。
その結果、今までソフトベイトしか出してなかったルアーブランドまでスクエアビルクランクを売り始めるなど、もうなんでもあり状態であちこちからスクエアビルが連射されるようになったのです。
量販店系プライベートブランドの常識を超えた?
そんな中で、RC風味満載のこのCRMが各地で話題になり始めます …と、ここまでならよくある話ですが、このCRMは単なるスクエアビルクランクではありませんでした。
アカデミースポーツの店舗がある南東部を中心に、3.99ドルという価格(2011年当時)にも関わらず、とてつもないパフォーマンスを見せつけてくれるクランクベイトとして高い評価を得始めたのです。
そしてアクションも含めたこのCRMのクオリティは、初心者向けのタックルを敬遠するエクストリームフィッシャーまで巻き込む、ハリケーンカトリーナクラスの目玉クランクに成長していくのです。
KVDとRCの隙間を狙った絶妙なアプローチ
まずはボディ長70ミリという絶妙なサイズ設定。
これ、あのKVDサイレントの2.5を意識してるんですね。
その理由にコイツにはCRSという60ミリボディの弟もいるんですが、そいつもKVDの1.5と同サイズに設定するなど、徹底的にKVDをマークしています。
しかしKVDクランクだけではなく、ラッキークラフトのRCクランクも意識しているのが、ちゃっかりしているというか後発メーカーならではの凄いところ。
KVDの潜行深度が3-6フィート、同サイズのRCクランク2.5DDの潜行震度が8-12フィートに設定されているのに対し、このCRMの深度設定は、その間を狙った5-8フィート。
さらにノンラトルのKVDに対してゴトゴトラトルまで仕込み、トドメにナチュラルプリントカラーまでラインナップするという徹底ぶり。
KVDやRCに物足りなさを感じたらアタシのトコに来てねという、営業熱心なクラブのおねーちゃん的なしたたかさにクラクラしますね。
本家にも劣らぬそのパフォーマンス
楕円のラッキーリングまでリスペクト(笑)したスクエア形状リップは、アメリカンルアーらしいワイドでアピール力満点のウォブリングアクションを披露してくれます。
本家RCよりもやや大きな動きに味付けされてるそのアクションは泳いでる最中でもフロントフックが一切ブレない本気仕様。
それは狙って作られたものなのか、はたまた偶然そうなったのかは分かりませんが、クランカーならば思わずオオッ!と見入ってしまう動きです。
もちろんスクエアビルの特徴でもある障害物回避性能も申し分なく、ガッチリと補強されたリップはボトムにガシガシ当ててもビクともしないので、必要以上にリップラップのストレッチを巻きたくなる衝動に駆られます。
障害物回避能力をウリにしているクランクでありながらも、意外にもリップラップなどを巻くとリップが簡単に欠けてしまうスクエアビルが散見されるので、この価格ながらリップの強度を疎かにしていない点は高ポイントですね。
絶妙な浮力設定もセールスポイントの一つ
そしてこのクランクは、キックバックの強さも絶妙なのです。
同じプライベートブランド出身であるキャベラ Cabela’s のスクエアビル、ポークチョップほどではありませんが、クランクの基本でもある「何かに当たったら止める」の際、ボディと平行に近い角度で突き出した大きなリップと強い浮力のおかげでクイックなキックバックを見せてくれるので、レイダウンなどを乗り越える時にも巻きのリズムを狂わされることなく気持ちよく巻けるのです。
その浮力は、ミディアムダイバーなのにロッドを高く保持すればウェイクベイトとしても使えてしまうほどの強さ。
これらは元ネタでもあるRCクランクの持つオリジナルデザインが秀逸だからこそのパフォーマンスとも言えますが、、RCクランクより10ドル以上安いのに、それでいて本家に負けないぐらい釣れるとなれば話題になるのも頷けますよね。
なんたってあのWired2Fishが、【ここ数年間で最もよく出来たクランクベイト】と紹介してたくらいなんですからその実力はお墨付きです。
余談ですが、キャベラのポークチョップはピンポン球というにふさわしい強大な浮力を備えたクランクで、かつてザウルスが販売したアンクルスミスのような「ポッコン!」と水面に跳ね上がるほどのとてつもないキックバックを見せてくれます。
このルアーについては後日また詳しくレビューしますが、巻いて浮かせての繰り返しに目が無いトップウォータークランカーにとっては夢のようなクランクなので良かったら是非探してみてください。

狙って作ったとは思えない飛行姿勢
テールにゆくに従って微妙に扁平になるボディシェイプとリップの整流効果なのか、重心移動搭載ではないにも関わらずジャベリン対戦車ミサイルの如くポイントに向かってまっすぐ飛んで行きます。
まあさすがに飛行姿勢の事まで考えているとは思えないので、この辺も偶然の産物というか、RCのおかげでしょうけどね😁
でもカラーリングはやっぱり価格相応
スケールパターンが彫り込まれたボディに着せられたカラーリングのクオリティは価格相応なのでお世辞にも素晴らしいとは言えませんが、この辺のクランクベイトを使い込むアングラーはクランクの色調は重視するが、塗りのクオリティについては割と無頓着なのでまあオッケーでしょう笑
ちなみにこのカラー名はカパーグリーンサンフィッシュ。 ゴールドではなくカパーとするあたりがニクいですね。
このH2Oエクスプレスシリーズにはラメ入り塗装、ノーマンでいうところのゲルコートカラーもラインナップしていますが、そっちは塗装皮膜が厚いのか、若干弱めの浮力設定になっているので、状況によって使い分ける楽しみも。
もちろんその浮力設定も狙ってそうしたわけではなく、あくまでも偶然の産物ですが笑
フックはVMCの本気仕様
フックは最近のシャロークランクベイトのトレンドでもあるちょっとオーバーサイズドのものを採用。
前後とも同じサイズのものが装備されています。
これまたトレンドのVMCを採用しているあたり、デカいオサカナを釣ってやろうという気合いが満ち満ちですね。
ラパラ傘下のVMCブランドフックを採用して実売小売価格が3.99ドルなんて、一体元値はいくらなんだ???とつい考えてしまいますが、ぶっちゃけこれらの工場出荷価格は1ドルもしません。
おそらく高くても一個あたり60〜75セント(日本円で70円前後)といったところでしょう。
えー!そんなに安いの?と驚く方も多いと思いますが、そもそも彼らが工場に発注する単位はハンパじゃないですからね。1ロットが何十万個単位なんですからそりゃ単価も下がります。
それを40ftのコンテナに積み込めるだけ積み込んで、中間業者もなしに独自のロジスティック網で店頭へダイレクト配送されるんですから3.99ドルも納得です。
ちょっと話は逸れますが、ルアーに限らずこういう実際のコストのことを話すと「あんなの元値はゴミみたいなもんだからボッタクリだ」と言い放つ、いわゆる原価厨が必ず出てきますが、そういう人は、この世の中は全てボッタクリという名の適正価格によって、経済、ひいては自身の生活も成り立っているんだと言う事をちゃんと理解した方が良いですね。
技術や経験値も入ってない原価をボッタクリと言うのなら、ソフトベイトやラインなんてアホらしくて使えなくなりますよホント。
…てな具合に、下ネタばっかりじゃなくてたまにはマトモな事も言っとかないとね笑
ネームプリントのテキトーさったらもう(T_T)
肝心のネームプリントは、H2Oエクスプレスのロゴだけがハラに入ったシンプル仕様。
価格が価格なのでこんなもんなんでしょうけど、のんだくれ的にはやっぱりフルネームが欲しかったですね。
ちなみにこのアカデミーH2Oエクスプレスのルアーの名前はCRMやTWSなど、ほぼ全てが記号化されてます。
もうお分かりですね。
そうです、クランクベイトのCRにサイズ表記のM、トップウォーターのTWにサイズ表記のSって事です。
しかしいくら安いルアーだからってネーミングの手ェ抜くんじゃねーよ。
あ、安いからこそ手間を省いているのか。
CRMの才能を引き出すタックルセッティング
そんなCRMを使う際のタックルセッティングはやはりアメリカンスタイルで堪能したいですね。
最低でも7.5フィートのクランキンロッドにフロロ16lbとハイギアリールの組み合わせがオススメです。
この際、グラス素材ではなくあえてグラファイトのファースト寄りで、ウィードトップ巻きで時折り掛かってくる藻をスパスパ切っていけるもの。
のんだくれのベストチョイスは、8フィートで適応ルアーウェイトが1ozまでのフェニックスロッドリコン2 PHX-C804。(もう生産してませんが泣)
中短距離を手数で勝負するマシンガンスタイルでない限り、このサイズ、スペックのクランクベイトは飛距離が重要なので、ロングロッドは大きなアドバンテージをもたらしてくれます。
さらにディープクランクほど巻き抵抗は重くないものの、それでも長時間巻き続けるにはバットエンドをしっかりと脇に据えて巻けるダブルハンドルならではのメリットは外せませんからね。
海を超えて取り寄せるだけの価値アリなクランク
70年代のアルファベットクランク戦争、90年代初めのフラットサイドクランク戦争、90年代終盤のウェイクベイト戦争が勃発し、それらは未だに各地で小規模な衝突を繰り返し、火種が燻っておりますが、今回のスクエアビル戦争もしばらく続く事になるでしょう。
そして幾多の淘汰が進み、最後には名品と呼ばれるような、後世に語り継がれるスクエアビルも出てくるんでしょうね。
RC風味という時点で、このアカデミーH2Oクランクベイトが定番になれるかどうかははビミョーなトコですが、州税を払っても5ドル以下で入手できるこのパフォーマンスはチェックする価値アリですぞ。
2020年9月追記:
その後このCRMクランクは、そのパフォーマンスからH2Oシリーズの中でも大人気のモデルとなりましたが、数年前に謎のモデルチェンジがあり、今はクランクMという名前で販売されています。
他のCRSなどのモデルはそのまま変わってないのに、なぜかCRMだけがモデルチェンジされ、しかも残念なことにモールドが変わってしまいました。
まだ新型のクランクMを入手していないのでレビューはできませんが、米国在住の友人に送ってもらう事になってるので、現物が届き次第レビューしたいと思います。
*2022年08月追記:その後CRMはオリジナルモールドで復活しました。