ラパラファンの間で語り継がれる “アイルランドショック” 。
それはラパラの生産拠点が本国フィンランドからアイルランドへ移転した事により、ラパラの純血性やクオリティが失われるんじゃないかと危惧したファンの間に走った衝撃の事です。
高い失業率に喘いでいたアイルランドで新たな雇用を生み出すことによって得られる減税メリットを享受し、且つ生産コストを低く抑えるという、国際ビジネスではよく見られるスキームでしたが、”ラパラ=フィンランド” という図式を刷り込まれていたファンの間にネガティブな印象を与えてしまいました。
当時のファンの中にはラパラは終わったとまで言う者もいてなかなかの拒絶反応でしたが、そんな声をよそにちゃんとラパラは名品をリリースしてくれていたのです。
それが今日のゲスト、ダウンディープラトリンファットラップ。
ラパラがディープレンジに挑んだ意欲作です。
このダウンディープラトリンファットラップ (以下DRFR)はラパラのクランクベイトの中で、もっとも過小評価されているクランクベイトでしょう。
当時は ”ラパラのプラ製クランク” に対する先入観の影響もありましたが、ラパラ側も蛍光色のリップを搭載するなどちょっと頑張り過ぎた結果、見た目で敬遠されてしまったケースが多く、いまだにそのイメージのままで捉えているアングラーが多いのです。
その後、ラパラが大ヒット作となる DT (Dives To) シリーズを出したことでさらに陽が当たらなくなるという悲劇が。
しかしのんだくれは声を大にして言いたい。
このDRFRを避けて通ることは大いなる機会損失だ!と。
DRFRはボディ長70ミリ、18.5g の、当時としてはビッグサイズにカテゴライズされるダイビングクランクです。
ディープクランクが好物ののんだくれはこのDRFRが発表されると同時にゲット。
元々バルサ製ファットラップの実力にノックアウトされていた下地もあって一投目からフォーリンラブしてしまったのでした。
DRFRの最大の特徴は大きなスクープカップを持つロングリーチリップです。
DD22を始めとした米国製ディープクランクとは一線を画すデザインは、北米市場に殴り込みをかけるラパラの気合が満ちているようにも見えますね。

そんなリップが生み出すアクションはヤル気に満ちた大きめのウォブリング。
ラパラのダイビングクランクといえば、シャッドラップに代表されるようなタイトバイブレーションを想像しがちですが、このDRFRはそんな先入観をいい意味で裏切ってくれます。
しかしDRFRのスゴいところは、そんな強めのウォブリングアクションにも関わらず驚くほど巻き抵抗が少ないこと。
のんだくれのダイビングクランクの基準がDD22だったということもありますが、当時このリトリーブ抵抗の少なさは衝撃的でした。
でものんだくれが惚れたポイントは巻き抵抗の軽さではありません。
実はこのクランク、リトリーブを止めた時の浮上速度がめちゃくちゃ早いんです。
ハンドルを止めると、プラスチック製のクランクとは思えないスピードで水面を目指します。
感覚値ですが、おそらく45cm/秒ぐらいは出てるんじゃないかと。 人間だったら間違いなく減圧症になる浮上速度です。
ルアーがこれだけの速度で浮上してくれると、ディープで巻いて止めてを繰り返す演出がめちゃくちゃやり易いんです。
ボトムに当たったら一瞬ポーズを入れて浮かせたら、またボトムタップしてポーズ… を繰り返すだけで急潜行急浮上してくれるので、普通のディープクランクよりもじっくり、しかしテンポ良くタップを刻めるんです。
ヘビーフットボールジグのボトムホッピングに近い動きがクランクで、しかもリトリーブを止めるだけで出来るってスゴいと思いません?
でもボディ自体にそれほど浮力があるわけでもないのに何故そんな急浮上が?と思ったら、その秘密は浮上時の姿勢にありました。
このDRFRは浮上時にリップに水圧を受けてほぼ垂直の頭下げ姿勢になるので、ボディが受ける水抵抗が少なくなってその分浮上速度がアップするんです。
そして一般的なクランクよりもスリムなこのボディラインは、水流を遮ることなく浮上スピードアップに加勢します。
浮き上がるその姿はもうUボートの急速浮上そのもの。
浮かせるたびにウォルフガング•ペーターゼンのあのテーマ曲が聞こえてきそうです。
しかも内部にはカラカラと高音で鳴り響くラトル入りですからね、使っててこれほど楽しいクランクはありません。
と、ここまで読んで今度使ってみようかなと思った方も居ますよね
でもちょっとだけご注意を。
実はこのDRFRにはサイズが二つあって、先程までのパフォーマンスを期待通りに演じてくれるのは大きい方のDRFR7だけなんです。
小さい方のDRFR5が悪いというわけではないんですが、浮上速度、ラトル音の点だけで比較するとDRFR5の方は全くの別物というぐらいに大人しく、先の使い方に限るとちょっとストレスを感じてしまいます。
ラパラがボトムタップを細かく刻むためだけにDRFR7をデザインしたとは思えないので、先述のパフォーマンスはルアーの神様がDRFR7だけにもたらした偶然というギフトだと解釈した方がいいのかもしれません。
でもこのシャッドプリントはギフトなんかじゃありません。
このカラーパターンはシャッドラップの頃からの大人気定番カラー。
グレーバックからパールホワイトベリーへのグラデーションの中に、不自然にならない程度にチャートリュースを潜ませるカラーリングは今でいうセクシーシャッドのペイントスキームですね。
機動戦士ヴァンダムでブレイクする25年以上も前からシレッとセクシーシャッドパターンを実現していたとはラパラ恐るべし。
でものんだくれはこのシャッドカラーよりも、ソリッドのシルバークロームに真紅のリップを装備したエロいやつがフェイバリットでした。
それはウォールアイ用に塗られた、あまりラパラらしくないカラーでしたが、良いサイズのバスを連れてきてくれたので好んで投げてました。
そのカラーは日本では究極に不人気だったため店頭ではあまり見る事ができず、のんだくれも十分なスペアを確保することもできないままストック切れに😭
もしあなたが手元にソリッドシルバークローム/赤リップのDRFRを持ってたら、それは間違いなくお宝カラーなので大事に使ってあげてください。
フックは前後ともブロンズのラウンドベンド#2を装備。
ブラスカラーのスプリットリングがアイリッシュ魂を表現してますね。
アイルランド訛りのおっさんたちがパブでジョッキ片手にWhiskey In The Jar を大合唱する様子が見える… ワケねーか。
DRFRの最強のパフォーマンスはこのリップのネームモールドにも現れています。
浮き彫りになったDOWN DEEP の文字が誇らしげ。
ちなみにダウンディープという名前は It’s Goin'(Gettin’) Down Deep There (あのディープスポットに到達するぜ的な意)の一部を切り取ったもの。
シンプルだけど性能をスバリ表す、こういうネーミングセンスがあるブランドはいつの時代も強いですよね。
過去にはこのアイルランドの文字が忌み嫌われていた時代もありましたが、時は流れ、アイルランド物を探す人もいる時代に。
そうやって考えると人間の嗜好と思考ってホントにテキトーなもんだなと。
良くも悪くもリップにインパクトがあるので好き嫌いがはっきりと分かれるクランクではありますが、実際に使ってみればその良さが分かるはず。
最近は中古屋でも見かけないなど絶滅危惧種になりつつある存在ですが、この威力を知らないまま最新のクランクに現を抜かすのは愚の骨頂なので、是非とも入手してUボートごっこを楽しんでいただきたいなと。