キワモノに見えて実は”超”正統派!高性能なウッド製ペンシルベイト ブラッドショットラプター Bloodshot Raptor / バレーヒル Valley Hill

トップウォーターバレーヒル Valley Hillペンシルベイト

バスバブルゆえに背負わされた宿命

1990年代半ばから2000年初めにかけてのバスフィッシングバブルと言われるブームでは、今では考えられないくらいたくさんのタックルが発表されていました。

とにかく出せば何でも売れるという状況でもあり、各社が競って商品を出していた時期でもあります。

それは当時のバスフィッシング雑誌に掲載された、全体の半分以上を締めた広告量からも読み取ることができます。

雑誌社は広告が収入源なのに、あまりの広告出稿依頼の多さに断る事も珍しくなかった、という当時の雑誌編集者の証言からもその異常さが分かりますね。

その時期のバスフィッシング市場は言葉は悪いのですが、糞も味噌も… と言う状況であり、毎月のように連射される新製品はまさに玉石混交と言う表現がぴったりでした。

当然そういった中で自然淘汰されていくものも数知れずありましたが、中にはとてつもない実力を持っていながらも、荒波に揉まれて消え去ってしまったものも数多く存在しました。

このブラッドショットラプターもそんな時代に生まれてしまったがために、正当な評価をされずに消え去っていった不遇のルアーの1つなのです。

ブラッドショットラプターとは

ブラッドショットラプターは1990年代後半にバレーヒルブランドから発売されたトップウォータープラグです。

蛇のイラストを前面に押し出したインパクトテンコ盛りの箱に入れられて店頭に並んでいたので覚えている方もいらっしゃるでしょう。

このブラッドショットシリーズには、ポッパーカップを持ったモルグと言う兄弟も同時発売されました。

動きはあの名作にソックリ!外見で判断すると泣きを見る隠れた逸品 ブラッドショットモルグ Bloodshot Morgue / バレーヒル Valley Hill
好き嫌いがはっきり分かれてしまう外見であるが故に大損をしているルアーってありますよね。 実力があるのにその見た目でスルーされちゃう系です。 このブラッドショットモルグなんてその典型。 バスフィッシングブーム華やかな...

バレーヒルは兵庫県西宮に拠点を置く釣具卸問屋、谷山商事が展開運営する、ValleyHill、つまり谷の山という直訳ネームが印象的なフィッシングブランド。

そんなバレーヒルブランドから発売されたこのブラッドショットラプターは、パッケージの説明に Designed by M.A.B. Hide Iwasaki と記されています。

実はヒデ・イワサキ氏は業界では有名なルアーデザイナーで、何を隠そう(別に隠してないけど笑)、日本人デザイナーとして現在もあのライブターゲットで活躍し、ICASTでの各種受賞にも貢献しているすごい人なのです。

のんだくれは過去に一度だけ電話でだけお話ししたことがありますが、とても腰が低くて柔らかな物腰が印象的なジェントルマンでした。

そんな彼がデザインしたブラッドショットですからハズしてるワケがなーい! ということで色々と掘り下げていきましょう!

コスト度外視?な作り込み

まず目を引くのが独自のペイントワークとボディーシェイプです。

ウロコ塗装の凹凸を際立たせるように何度もコートを重ねることにより、爬虫類の鱗特有のひんやりとした冷たさと艶やかな凹凸を見事なまでに表現しています。

反対にボディーの腹側はクラック塗装を採用することで本来の蛇とはまた一味違った雰囲気を作り出すことに成功しています

リアルな蛇腹を再現するのではなく、ルアーの塗装法としては古典的とも言えるクラック塗装を効果的に使うあたり独自のセンスを感じます。

これは検証のしようがありませんが、このボディーの凹凸が生み出す抵抗は、ルアーの水絡みや挙動にも大きく影響しているのではないかと思います。

そしてこのルアーのアイデンティティーとも言えるのがこの大きな爬虫類3Dアイです。

それまでのいわゆる魚の目をリアルに表現した3Dアイとは全く違う爬虫類系の目が、従来にはなかった圧倒的な存在感を醸し出し、これで釣ってみたい!という欲望を激しく掻き立ててくれます。

この手の塗装手法は好き嫌いがはっきりと分かれるので一概に良い悪いは言えませんが、当時のんだくれはコレにヤラレまくりました笑

実際に手にすると、塗装だけでも通常のルアーの何倍もの手間がかかっているのがよーく分かる仕上がりになっています。

革新と伝統の絶妙なブレンド具合

リグパーツはフロントが古典的なL字リグ、リアはカップも併用したヒートンとなっています。

それぞれのパーツには、フックの可動域を最大限に保ちながらもボディには一切干渉させない絶妙なセッティングが施されていて、ウッドプラグの宿命とも言えるフックサークルの傷からの浸水を未然に防いでくれています。

斬新な塗装にクラシカルな要素を組み合わせるという変則技がこのルアーの特徴のひとつですが、このリグに行き着くまでかなりの試作とテストを重ねたであろう苦労がこういった部分にも見え隠れしていますね。

このブラッドショットラプターは確か定価が4,000円ぐらいと決して安いと言える価格ではありませんでしたが、後に述べる操作性も含めて、このクオリティだったらむしろ破格の値段だったのではないでしょうか。

アクの強い外見とは正反対の素直なアクション

肝心のアクションは、典型的なロングスライドのスケーティングアクション。

波間に身を隠し、獲物を狙うパイソンのようにご主人様からの指令を待ちます。

ロッド操作に対する挙動は非常に素直で、初心者でも簡単に軽快なジグザグスイミングアクションを出すことができます。

それだけではありません。

移動距離の少ないテーブルターンも難なくこなしてくれる千両役者でもあるのです。

特にクイックな首振りでは、ポムッ!という甘いポップ音と同時に大きなバブルを生み出してくれるので、トップウォータープラッガーが重視する「動かして楽しい」と言うファクターも十分に満たしてくれています。

ピンスポットでネチネチと動かす事もできますし、オリジナルザラスプークのように水面を泳ぐ蛇のようなウネウネ軌跡を楽しみながらの早いテンポのリトリーブも余裕でこなしてくれます。

その点で、このブラッドショットラプターはプラスチックの軽快さとウッドの水絡みの絶妙なブレンドで仕上がったルアーと言えるでしょう。

リグとの相性抜群のマスタッドロングシャンク

フックは前後ともシャンクが長めのマスタッドを採用しています。

以前ショートシャンクのラウンドベンドフックに交換したことがありますが、バスの乗りはともかくボディとフックが干渉し、時にはボディに刺さって動きを殺してしまう事もあったので、フックを交換する際には同じ形状・サイズのものが必須です。

ダブルフックにするとスケーティングの足も伸ばすことができるのでお好みでどうぞ。

しかーし!究極にダメなポイントも!

一見良いところずくめなブラッドショットラプターですが、究極にダメダメなところが1つだけあります。

それはボディーのどこにもネームプリントがないことです。

シリーズ名はおろかブランドロゴすらありません。

これはいただけません。のんだくれ的にはマイナス50点です。

ルアーの存在自体が強烈なアイデンティティーを放っているので、あえてネームを入れなかったのではないかと推察しますが、これだけ強烈なインパクトを持ったルアーだからこそネームプリントは入れて欲しかったですね。

当時のバレーヒルはルアーごとに個別のステッカーを作っていたりして、プロモーションに力を入れるブランドだっただけに、画竜点晴を欠くではありませんがネームが抜けているのは残念すぎます。

特に箱の説明書きは全て英文で、 “ The new generation coming from the Far East (極東から次世代のルアーがやってきた)“ とあり、谷山商事はこのブランドを武器にあわよくば米国マーケット進出も狙っていたと思われるフシもあることから、のんだくれの個人的趣味は置いといてもネームがないのはどうなのか、と。

このブラッドショットラプターではありませんが、SNSの発達普及とともに米国のジャパニーズヴィンテージルアーコレクターからこのルアーの詳細を教えてくれとアイデンティファイを求められるケースが増えており、そういった点でもネームが欲しかったなー。

ラプターに似た性格のルアーは?

ところでこのブラッドショットラプター、ズイールのテラーll やテラー35と非常に似た性格を持っています。

どれもほぼ水平浮き設定でスケーティングも首振りもそつなくこなしてくれるルアーですが、それぞれを細かく性格分析するとこんな感じでしょうか。

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ちなみに比較対象に選んだのは、完成度が高いと言われている テラーll 2001年モデル(中段)と テラー35 1996年モデル(下段)、いずれも5/8oz。

タックルセッティングによっても大きく変わってきますが、ざっくり言うと、テラーllとテラー35の中間的な性格を持っていると言えますね。

最高のパフォーマンスのためのセッティング

そんなブラッドショットラプターですが、おいしいアクションを出そうと思うとタックルセッティングにもちょっとだけ気をつけた方が良い点があります。

ロッドはあまりレギュラーテーパーではない、どちらかと言うとややファーストテーパーのロッドが向いています。

そして適応ウェイトが1/2ozぐらいまでのちょっと柔らか目の方が伸びやかなスケーティングが出しやすいと思います。(ルアーウェイトは実測19.2g)

ベストアクションを引き出そうと思うとラインはナイロン12ポンドがジャストライトですが、スケーティング時にラインを拾いやすくなるので、気になる人はタングル防止にからまん棒やチューブなどを入れておくといいかも。

ただしルアー自体は20ポンドでも問題なく動かせます。

ライン直結よりもスナップを使った方が断然動きは良くなるので、ライン直結派の方はループノットか、あらかじめラインアイにスプリットリングを入れておくと良いでしょう。

とまあこんな具合でラプター愛をグダグダと述べてみましたがいかがだったでしょうか。

店頭から姿を消して久しいルアーなので、積極的に探しに行かないとなかなか出会う機会はありませんが、バスフィッシングバブルの時でなければ世に出る事はなかったであろう貴重な存在であるのと同時に、ニシネルアーワークスの西根さんと同じように海外で活躍するルアーデザイナーの経歴の一部を成す貴重な作品でもありますので、その資料的価値も含めぜひ入手して実戦配備してあげてください。

 

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