アングラーとルアーの関係にも、人間の恋愛と似たドラマがある。
出会いは最悪、見た目も気に入らない――そんな第一印象でも、些細なことをキッカケに深い愛着へと変わっていくこともしばしば。
そしてそんな過程を経たルアーほど溺愛の度合いも深かったりするもんです。
今日紹介するヘドンのウッドヴァンプもそんなややこしい関係性から信頼のパートナーへと変貌を遂げたうちのひとつ。
ウッドヴァンプはヘドンの創業者ジェームスヘドンの息子、ウィル・へドンWill Heddonによって1909年に設計され、何回かの仕様変更を経て1921年のカタログでデビューしたヘドン最古参クラスのルアー。
*文献によってはウィル・ヘドンではなく、「ビル・へドン」と表記されていることもあるが、ビルはウィルのニックネームなので同一人物。
”ヴァンパイアミノー”と表記されていることから分かる通り、ミノープラグとしてのキャラクターを持って登場したことが分かりますね。
ウッドヴァンプはデビューと同時に大ヒットとなり、これがのちのラッキー13の原型になったのは有名な話。
さらに第二次世界大戦後の空前のレクリエーションブームに乗ってさらなるヒットを記録し、ラパラが北米に上陸するまで、ミノープロファイルのルアーと言えばヴァンプという時代が続くことに。
まあこの辺の歴史的経緯はのんだくれよりもスーパー詳しいヘドンマニアが世界中にいるのでそちらを検索してもらったほうが確実ですけどね。
出典:トレーダーズ監修 Heddon Plastic Collectibles
そんなヴァンプが日本で正式デビューしたのは1982年。
スミスが復刻させてSmith’s Wood Collectionシリーズとして国内に流通させました。
当時通ってた釣具屋のショーケースに鎮座している様子を今でもはっきり覚えています。
がしかし!
ウッドヴァンプに対するのんだくれの第一印象は「デカっ!」「ボロっ!」と最悪のものでした。
80年代の初めといえばプラスチック成形技術が目覚ましい躍進を遂げ、市場には(当時としては)キレイなインジェクションプラグが溢れかえっていた時代です。
そんな時代ですから、木目がそのまま浮き出た無骨なデザイン、そして当時としては規格外のサイズゆえ「一体こんなデカいので何釣るの?」「コレクション用でしょ?」と疑念しか思い浮かばなかったのは当然の成り行きでした。
だって当時はブラックが釣れる池を探して片道1時間半チャリンコを漕いでとかが普通の世界ですよ。
しかも30cmのブラックを釣ろうもんなら釣具屋に魚拓が貼り出されてた時代に、このボリューム感はなかなかのネガティブ要素でした。
ラパラF11ですらデカいと言われてたぐらいですからね、ウッドのフルサイズプラグなんてもう遊星からの物体X以外のナニモノでもない訳ですよ。
ゆえに最初はネガティブな印象しかなかったんですが、のちにこの印象が大きくひっくり返ることに。 まあそれはまた後ほど。
ちなみにこのスミスウッドコレクションのウッドヴァンプは米国では発売されなかったと言われていますが、後に一部のカラーだけバスプロショップスのエクスクルーシブ(専売)モデルとして販売されています。
そんなウッドヴァンプのサイズは全長115ミリ、ウェイトは約17g。
ウッド素材なのでタマによってウェイトは微妙に違います。
このサイズに落ち着くまでの初期モデルはこれよりも一回り小さかったようですが、その辺のモデルともなるとガチコレクターの間ではカンタンに10,000ドル超えとなる超希少モデルなので、ビンボーアングラーのんだくれに買えるはずもなく試したことはもちろん、お目にかかったこともありません。
だってこの辺ともなるとebayオークションではなく、サザビーズ案件ですからねw
ヴァンプは後に樹脂インジェクションによりスプーク化され、2フッカーモデルもリリースされるなどしましたが、ウッドバンプは一貫してこのサイズで3フッカーのスタイルを貫いています。
ウッドバンプの大成功により類似のパイク顔ルアーが世の中に氾濫したこともあり、ヘドンとしてはオリジナルのプライドを誇示したい思惑もあるんでしょうね。
ヴァンプといえば何と言ってもこのパイク顔でしょう。
日本では猿顔と表現されることもありますが、本国ではパイク顔一本。
日本でだけ猿顔と言われているのは、おそらく日光東照宮の三猿の造形に引っ張られた結果じゃないかと勝手に想像しておりまする。
ただでさえパイクが身近に生息していない日本で、さらに小学生の頃からの教科書による刷り込みがあったらそりゃ猿の顔を連想する方が自然ってもんですからね。
建立400年以上経った今も、ルアーアングラーのマインドを支配し続けるとは恐るべし徳川家。
3フッカーのスタイルを貫いているのもウッドヴァンプの特徴の一つ。
トップウォーターでよくあるかろうじてフック一本という状況でもファイト中に他のフックが刺さって保険になってくれることも。
同じ猿顔のリバーラントが多彩なボディ/フック構成を展開しているのに対しウッドヴァンプは頑なに3フッカーを貫いてるトコロがナイスですね。
そしてウッドヴァンプのパフォーマンスの要と言っても過言ではないこの金属リップも忘れちゃいけません。
一見クラシックな、悪くいえば古臭い古典リップですが、単に潜らせるだけでなくフロント部に重心を配する重要なコンポーネントです。
三点をネジで留めるという基本スタイルを今でも踏襲しているあたりにヘドンのプライドを感じますね。
一時期プラスチックの一体化リップを採用していた事もありますが、その後また元の金属リップに戻したという経緯がこのリップの重要さを物語っています。
つまりこれがあってのウッドヴァンプというワケ。
リップレスのノーリップヴァンプなる派生モデルもありますが、それに触れるとエンドレスになるのでそれはまた別の機会に。
そんなウッドヴァンプの泳ぎは基本的に水面直下のユラユラウォブルロール。
派手なウォブリングをするわけでもなく、強烈なヴォルテックスを生み出すわけでもないので、ただ巻くだけであれば、何の変哲もない面白みのないルアーで終わってしまうであろうシンプルな泳ぎです。
しかしオリジナルザラスプーク同様、世代を経てこのルアーが今も愛されている理由は演出の幅がハンパないこと。
潜らせてトゥイッチはもちろんのこと、大きなチャガー音でモンスターの注意を引き付けるのもお手のもの。
そして何よりも手首のスナップを効かせた操作で、移動距離の少ない首振りとスロープノーズや210サーフェスも真っ青の派手なスプラッシュを飛ばすことも出来るのです。
この首振りアクションは金属リップがカウンターウェイトの役割を果たしてくれるのでスロープノーズの首を振らせるよりもずっとカンタン。
むしろ機敏な首振りのために金属リップを採用しているんじゃないかと思わせるフシすらある。
しかもそのスプラッシュのタイプが全く違うのです。
エリマキ系プラグやペンシルベイトで良く見られるバブルを作りながらのスプラッシュではなく、飛沫を飛ばすことだけに集中しているかのような放射角の大きなスプラッシュ。
北口榛花がパリオリンピックで見せた65m超えのやり投げを彷彿とさせるスプラッシュは、操るアングラーを思わずニヤリとさせてくれます。
このスプラッシュはあの猿顔の形状が作り出しているのは疑う余地のない事実であり、これがあるからこそクリークチャブのパイキー系とは一線を隠しているんだなとニンマリしてしまいます。
尚ウッドヴァンプは製造時期により猿顔の形状も違うため、スプラッシュの飛び方もモデルによって大きく違ってくるのが面白いトコロ。
むかーし朝までやってた飲み屋に入り浸ってた頃、仕事上がりで飲みに来る風俗嬢と仲良くなっていろいろ話してた際に、オトコの精液発射の様子は十人十色で一人として同じものはないと言っててほぇ~となったことがありますが、まさにそれ系と言ってもいいでしょう。 え?チガウ?
ちなみに一番派手なスプラッシュを飛ばすのは猿顔の面積が大きなスミスの復刻モデルで、ツラが小さくなるにつれてその効果も小さくなります。
とはいえウッドヴァンプはスプラッシュありきのルアーではないし、ぶっちゃけ飛沫の放出角度がどうあれ、釣果への影響はほとんどないと思うのでお好きなものを投げればよろし。
そしてウッドヴァンプを語るうえで外せないのはやはりウッドならではの強い浮力。
ただ単に巻いて止めるだけなのに、モデルによって浮き方の違いが出るなど、使えば使うほど奥の深さを感じさせてくれる仕掛けがタマリマセン。
ラインテンションを掛ければキックバック、ラインを張って浮かせれば左右にユラユラと揺れるシミーアクションを見せてくれるなど、ストップ&ゴーにはサカナを誘うとてつもないパワーがあるんだと再認識させてくれるのは間違いありません。
ちなみにプラスチックのヴァンプスプークはウッドほどの強い浮力がない代わりにより大きなウォブリングで水をかき回すのが得意。
スプークボディなのかウッドボディなのかどっちが釣れるかで不毛な論争が始まる可能性大なので、アルコールの入った状態でその話題に触れるのはキケン極まりないという事だけ言っておきます。
さてさて、第一印象がサイアクだったウッドヴァンプをパートナーとして意識するキッカケとなったのは80年代の終わりに釣具屋で会ったとあるアングラーの釣果写真でした。
彼が持ってきたアルバム(写真の現像に出すとオマケで紙の簡易アルバムが貰えたでしょ、アレねw)には全てウッドヴァンプによる釣果写真がぎっしり入っていたのです。
釣果はほぼ全てがウッドヴァンプによるもので、基本は水面使いから始めて反応がなければジャークや早巻きでレンジを下げていくというのが彼のスタイル。
しかもそれらの全てがオカッパリからの釣果で、オサカナは全て規格外のモンスタークラス。
55upでないと写真は撮らずに即リリースするんですと。
そんな話を聞いちゃった日にゃもう黙ってられません。
感化されることなら誰にも負けないのんだくれは名古屋中の釣具屋を駆け回ってウッドバンプを買い漁り、その威力に溺れることに。
どんなに毛嫌いしていたルアーでも、一匹釣っちゃったらもう溺愛対象ですからね😁
当時は今のように希少なルアーが高値取引されることが一切なく、釣具屋のおっちゃんに聞くと倉庫から出してくれるなど古いルアーでも案外カンタンに見つかる麗しの時代でもあったので、遠慮なくその恩恵に浸らせてもらったというわけ。
今は釣具屋での情報よりもネットの方が先行しているので、便利ではあるんだけれど、ゴミのような情報というか、血の通った情報がほとんどないのが現状。
それを思うと、ネットのない時代は不便だったけどその不便を楽しむ余裕がありましたね。
ちなみにのんだくれは一旦惚れ込んだルアーは海外遠征にも連れて行くので、ボックスに鎮座するウッドバンプを見たフロリダのガイドが目を丸くしてたなんてこともw
出典:2006年オフトカタログより抜粋。この復刻モデルはスミスのウッドクラシックスのブランクを使っているとのことだが真偽は不明。
そんなウッドヴァンプのカラーはクラシックなものがメイン。
ヘドンの金看板を背負ったルアーでもあるので、往年の名カラーが目白押しです。
ただし経年劣化によるクラックが出やすいプラグでもあるので、ウッドプラグを「育てる」感覚が理解できないアングラーは使わないほうが無難かも。
瞬間接着剤などで補修しながら使うという手もあってかつてはのんだくれも補修派でしたが、あちこちぶつけて歯型でボロボロになったウッドプラグはどんな名店の酒の肴でも勝てない深い味わいがあるので、そのまま使うのがのんだくれスタイル。
クラックから浸水してウッドが吸水しきってからが勝負だ!と根拠もないネタでドヤれるのもクラシックウッドプラグ使いの愉しみなのです。
フックはヘドンのお約束マスタッドの#2サイズの三連装。
この手のプラグはバーブレスにしておくのがオトナの流儀でもあります。
ウッドヴァンプは製造時期によってリグにも変遷があるのでこれに触れるとまたエンドレスになるため敢えて触れませんが、このサーフェイスリグはヘドンが一貫して金属パーツを発注していたフレッチャーハードウェアカンパニー Fletcher Hardware Company の頃から変わってないので、こういうところで伝統を感じるのもまた一興。
ちなみにヴァンプの定番チューンとしてテールにブレードをぶら下げるチューニング方法がありますが、個人的にウッドヴァンプはブレードなどを付加したりせず、そのまま使うのがのんだくれスタイル。
泳ぎの大きなヴァンプスプークや宿敵アブ ハイローにはブレード付けたりしてますけどね。
ネームは腹に金文字ステンシルの伝統スタイル。
復刻モデルには ORIGINAL と入っているのですぐに判別可能。
これまた製造時期によってネームも色んなバリエーションがあるのでネームオタとしては嬉しいやら大変やらでなかなか忙しいモデルでもあります。
ちなみにヴァンプの名前は一般的に吸血鬼を意味するヴァンパイア Vampire から来てて、人ならぬサカナを魅了するルアーという意味なのは皆さん御存知の通り。
しかし以前名前の由来を調べていた中で「人の血を吸う=水面を吸い込むように進む」という意味でヴァンパイアと名付けたというのを読んだことがあるので、ぶっちゃけどっちが正しいのかはワカリマセン。
でもこういうのは、正解がどれなのか曖昧なまま妄想ネタとしてとっておくのがオトナとしての嗜みでもあるので深く追求するのはナンセンス。
それぞれの判断基準でニヤニヤできればそれでイイのです。
そんなウッドヴァンプですが既に生産は終了しているので入手となると中古市場で探すしかありません。
そしてウッドモデルはコアな水面ファンが多いこともあり、相場も常に高値推移。
とはいえ名だたるヘドンのオールドルアーに比べれば比較的安価なので清水の舞台から飛び降りなくても入手は可能です。
それよりも、ルアーの構造やウェイトバランスの基礎が学べる教材という意味では絶対に押さえておきたいルアーのひとつ。
最近は見なくなったけど金属リップのクランクベイトなんて…. あ、これ以上は各自でよろ。
25年以上前、とある会社の支店長だった時、ある女性スタッフが涙ながらに訴えてきた事があった。
同じ部署の男性社員とは生理的に合わないし、近くにいると思うと仕事中だろうが体調が悪くなるのでどちらかを異動させてくださいという訴えだった。
責任者としてどうしたもんかと思案していた矢先、その二人が仲良く並んで地下鉄ホームにいたのを目撃。
??? 一体どうなってる?と混乱したが、その女性スタッフに聞いたところ、残業で自分の仕事を手伝ってくれたのがキッカケで付き合うようになった、と。
その話を聞いてのんだくれは大江戸線のホームぐらいアゴが落ちたが、二人はラブラブのままゴールイン。
本人曰く、最初の印象がサイアクだったからその反動で超シアワセなんですとw
そう考えると、どんなに毛嫌いしているルアーでもひょんな事から欠かせないパートナーになるのは人間関係同様、至極自然な事なんじゃないかと思ったり。
ゆえに使わず嫌いのルアーに正面から向き合ってみると、今まで知らなかった扉が開くかもよ〜😁