ルアーはオサカナが相手だけに流行のファッションや世相などとは全く無縁のように思えますが、世の中の流れにうまく乗って大ヒットを飛ばした商品も存在します。
今日のゲスト、クランクベイトコーポレーションのフィンガリングもそのひとつ。
70年代後半の米国はYMOやクラフトワークなどのエレクトリックポップ/テクノなどが未来的だともてはやされていた時期でもあり、このフィンガリングはスペースエイジ/未来志向イメージとリンクさせることでバスルアー界にセンセーションを巻き起こしたのです。
70年代の終わり頃から80年代にかけてバスフィッシングを齧ったことがあるおっさんアングラーなら、このクランクベイトを知らない人はいないでしょう。
それまでのバスルアーにはなかったリアルなベイトフィッシュの造形と最新のプリント技術によって生み出されたこの ”小魚” はアメリカ国内はもちろんのこと、遠く離れた極東の島国のアングラーもシビれさせました。
当時小学生だったのんだくれもチンコを大きくしてたうちのひとり。
釣具屋のショーケースの奥に静かに横たわる小魚を見てハァハァしてたのをはっきり覚えています。
フィンガリングはベイトフィッシュの形を硬質発砲素材でリアルに再現した、今で言うところのナチュラルプロファイル系のルアー。
フィンガリングとは稚魚のこと。
当時、日本には画像の75ミリサイズだけが輸入されていましたが、本国では ジ・イヤリング The Yearling*(年魚)と銘打った120ミリサイズも販売されていました。 *いずれもルーハー移籍後はハイキャッチ Hi-Catch に改名

Fingerling に Yearling なんて、どんだけ直球勝負やねんw
さてさて。
そんなリアル造形で大ブレイクを果たしたフィンガリングですが、インパクトの強いルアーに必ず訪れるジンクスに苦しめられることになります。
そのジンクスとは、初見のイメージがあまりにも強過ぎたために他の商品を出してもインパクトに欠けてしまい、後が続かなくなってしまうというアレ。
ラッスンゴレライ的なヤツといえば分かってもらえるでしょうか。
クランクベイトコーポレーションでは同じ超リアル路線としてナマズの稚魚を模したブルキャットやソフトテールを持つハイブリッドクランク、スーパーダグなどをリリースしたのですが、どうしてもフィンガリングを超えることができませんでした。
そこでリリースされたのがこのシンキングモデル、コントロールデプスだったのです。
しかし、単にウェイトを増量してシンキングにしただけでは芸がありません。
そこでクランクベイト社では沈下スピードを抑えたスローシンキングにすることで潜行深度をコントロールできる、コントロールデプスというセッティングを施しました。
オリジナルモデルであるフローティングはハイキャッチ、スローシンキングモデルをコントロールデプスという二本立てのラインナップにすることで販売拡大を目指したのです。
しかし、コントロールデプスという名前が浸透していないことからもお分かりのように、この施策は空振りに終わってしまいます。
その詳細は後述しますが、スタートダッシュが派手過ぎるとあとが続かなくなるのはどの世界でも変わらないんだなと😭
そんな悲しい終焉を迎えてしまったフィンガリングですが、ルアーとしての機能を改めて見てみると、非常によく出来たクランクベイトであったことが分かります。
ボディ断面をデルタ形状にした低重心や、水の攪拌力高める為にボディを極力薄くするなど、魚のリアルさを追求しながらもルアーとしての機能を追求した形跡がそこかしこに見られるのです。
そして極め付けはなんといってもこのナチュラルプリントでしょう。
今となってはどうと言う事のない点描ですが、当時は革命的でしたね。
実はこのフィンガリングよりも前にレイジーアイク社が発砲素材とナチュラルプリントを組み合わせたナチュラルアイクというルアーを発表していたのですが、ナチュラルアイクはボディ形状がリアル寄りではなかったので、インパクトでは後発のフィンガリングに持って行かれてしまったのです。

レイジーアイク社のナチュラルアイク
製造方法や構造的にもナチュラルアイクとフィンガリングは酷似していますが、じつは両者はスピードロラップで有名なトム・スィワードが設計した作品です。

全部トム・スィワードが設計したと思って各部を見てみると、背中のラインの処理などが非常によく似ていることが分かります。
同じくトムが設計したホットリップエクスプレスにも同様のバックラインが採用されていることから、彼はこのシェイプに絶大なる自信を持っていたことが伺えます。
しかし唯一無二の個性的なボディラインであるがゆえにパチの権化、狡猾コーモランの毒牙にかかってしまったのですがw

でも造形だけじゃないんです。
このフィンガリングはアクションもなかなかイカしてるのです。
こいつの泳ぎをひと言で表すと、フロントのフックハンガーを支点としたキレのある大きなウォブリングのバタ付き系アクション。
形状がシャッドっぽいのでタイトなピリピリ系の動きを想像しがちですが、いい意味で予想を裏切ってくれます。
この形状で派手に暴れるルアーは最近見かけないので、一人だけおいしい思いが出来るかも?というツリビト特有のイヤらしい欲望がムクムクと頭をもたげてきますw
当時のアメリカンルアーは強めのアクションが中心だったので、まあ王道といえば王道なんですけどね。
キレのあるウォブリングは、1.5ミリという当時としては最強に薄いリップによって作り出されています。
強度不足を補うために裏側にはしっかりとしたブレイス(支持構造)が入っているのが確認できます。
エイトリングではなくヒートンなところもヲタ的には萌えポイントですよね。
ベリー部には埋め込み式のウェイトが設置されています。
先述のレイジーアイクも全く同じ手法でウェイトを設置しているので、この手法は当時の硬質発泡ルアーとしてはスタンダードな製法だったんでしょうね。
ちなみにこの時期の硬質発砲素材は密度の均一性という点においてはかなりアバウトで、ムラが出やすいのが特徴でした。
よって、フィンガリングもレイジーアイクも個体によって浮力に差があるのが普通という、今のルアーでは考えられないクオリティでした。
しかしそんなデメリットを差し引いてもインジェクション成形よりも成形自由度があり、かつプラスチックよりも浮力が担保できる硬質発砲素材は魅力的な素材でした。
特にこのフィンガリングにはクローズドセル方式と呼ばれる、フォーム素材でありながらもボディの表面を甲羅のように硬く成形する最新技術が採用されており、当時のカタログでもそれをスペースエイジ素材だ!とアピールしていました。
硬質発砲素材をスペースエイジ素材にしてしまうのは少々無理がありますが、70年代の終わりはまだ冷戦の最中で米ソ宇宙開発競争が注目されていた頃でもあったので、クランクベイト社はそれに便乗したいキモチもあったんでしょうね。
そんな時代を先取りしたいキモチは、リップのロゴに当時流行していた ”Data 70” というサイエンスフォントを採用して素材の先進性をアピールしているところからも伺えます。
当時の日本ではこのフォントをインベーダー文字とか呼んでましたね。
スペースインベーダーロゴのフォントとは全然違うのにw
このフォントは当時、先進性を表す象徴的なものとして知られ、ブラックサバスのアルバムカバーにも採用されていたりと広く使われているので、興味がある方は調べてみてください。
実はこのData 70フォントを採用したクランクベイト社のブランドロゴは、パッケージやカタログなどで使われる事はなくリップにだけ採用されているという非常に珍しいロゴマーク。
しかもこのロゴはフィンガリングとブルキャットの2つだけに採用されているというなかなかレアな存在でした。

フィンガリングとブルキャット
そんな具合にこのフィンガリングにかけるクランクベイト社のヤル気はそこかしこから伝わってくるんですが、実は肝心なことが抜けてるんです。
それはフィンガリングにはフローティングのHi-Catch, シンキングのControl Depth を区別する表記がルアーのどこにもないこと。
一度パッケージから出してしまうと、どれがどのモデルなのかさっぱり分からん状態になってしまうのです。
いくらなんでも詰めが過ぎるでしょw
当時のカタログによるとフックは前後ともVMCの#9650ブロンズが標準。
現行の#9650フックとはデザインが若干変わっています。…って、もう40年以上前だから変わってない方がおかしいんですけどね
しかし初期のフィンガリングには確かクローポイントのフックがぶら下がってた記憶が。
この辺はまだ検証の余地がありますね。
そういえばコントロールデプスがその後どうなったのかまだお話ししてませんでしたね。
実はコントロールデプスはすぐに改名されてしまうという憂き目に遭うのです。
改名した正確な理由は分かりませんが、友人の米ヲタの推察によると、名前が分かりにくかったのでは?とのこと。
確かにコントロールデプスという名前だけではスローシンキングだとは分かりにくいですよね。
それを考慮したのか、次の名前はコントロールドディセント Controlled Descent (制御された沈下)に。
しかし”フィンガリング コントロールディセント”という、ルアーとしては致命的に意味不明な名前になったのが裏目に出たのかさらなるセールスの不振を招いてしまったようで、その後頭文字を取って “CD” に再び改名されました。
もうこの辺になると、ラパラのカウントダウンに寄せときゃシンキングだって分かってくれるだろ!的な投げやり感すら感じますw
この頃になるとセールス的にもかなりしんどい状況に陥っていたようで、明滅効果を強調したカラーリングを施したフリップフロップ Flip-Flop シリーズを出すもセールスの底上げにはならず、その結果ルーハージェンセンに身売りするという状況になってしまいました。
その後、2000年の初め頃までルーハーの傘の下で生き長らえることが出来た事実を思うと、あの時期にルーハーに買収されたのは正解だったのかもしれません。
米ルアー界のサルベージ船と呼ばれたルーハージェンセンに買収されたことで最後は静かにフェードアウトというお決まりの結末になってしまいましたが。
フィンガリングも今となってはコレクターズアイテムになってしまったので実戦投入の機会が与えられることはありませんが、スピードトラップへの布石になったという意味ではクランクベイトの歴史に名を残したモノでもあるので、気になって人は探してみては?